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「“噺を止めるな!”という感じで頑張りたい」
桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶による『夢の三競演』が今年も!
今年で70歳を迎える桂文珍の落語への想いとは?

上方の冬の風物詩ともいえる落語会『夢の三競演』が今年も開催! 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語の人気スターが共に繰り広げる、年に一度の三人会だ。ぴあ関西版WEBでは、2011年より毎年、開催に向けてお三方にインタビューを実施。文珍師匠に、この一年を振り返ってもらいながら、70歳を迎えることへの思い、『三競演』への想いなどを語ってもらいました。

――今年も残すところ3ヵ月足らずとなりましたが、今夏は文珍師匠のために落語作家の小佐田定雄さんが脚色された落語『星野屋』が、歌舞伎として上演されました。
 
「拝見したんですが、よくできてました。「おぉ、なるほど」と。お芝居だからこそ良くなる、落語だからこそ良くなるという、それぞれの良さがハッキリ見えて面白かったですよ。自分のネタが芝居になったり、コントになったりすると、何か自分の子どもが独り歩きしたみたいな感じでね。歌舞伎では母娘で川に飛び込む練習をする場面があるんですけど、『ポ~ン』言うて。映画の『カメラを止めるな!』の護身術のギャグがそのまま入れてあった。僕も、あれから『星野屋』では『ポ~ン』言うてました。逆輸入です(笑)」
 
――『ポ~ン』が入れられていた。早いですねぇ。
 
「映画『カメラを止めるな!』も見たんですけど、これは落語やなと。落語を映像でやると『カメラを止めるな!』になるんですよ。仕込みがあって、バラシがあって、大団円で終わるっていう。あのぐるんと回すやり方は落語的やなぁと思いまして、その話を(春風亭)昇太君としたら、彼がうまいこと言ってて、『あれは映画ですけど演劇的な手法もあって、ぐるっと“円”を描いてるんです。でも、落語は小さな“円”が描けます』と。小さく“円”を描けるというのが落語の面白みで、演劇になると全体のことがありますから大きく描かないといけない。そういうことを彼と話をして、なるほど、そうやな、という実感があって、2人で盛り上がりましたね。だから、小さい“円”を楽しむか、大きい「円」を楽しむか、の違い。“点”を楽しむっていうのが、野性爆弾のくっきーやね。あれは出落ちやから、仕込みも何もあれへん。CMとかSNSにはピッタリやわ。短く勝負するからね」
 

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――そして、12月10日には70歳を迎えられます。
 
「トシいくというのは、劣化する部分と面白くなる部分が、出たり入ったりするのよ。それが面白いかな。やっぱり持続力は劣化しますわ。それと、すぐ眠たくなるんです。昔ね、楽屋で(中田)ダイマル師匠が、よう寝てはった。若い頃は、「何で楽屋で寝るかなぁ」と。今、私がそれです。楽屋で20分ほど、うとうとすると楽なんです。年齢ですね」
 
――逆に、面白くなってきた部分は何ですか?
 
「自分はどういう女性に魅力を感じるかが、頭の中のデータを見て分かってきた。冷静に振り返ると、同じようなタイプばっかりやなぁと。ほんで、母親に行きつく。困ったもんやなぁ。つまり、発情期を過ぎたんやね。男として上がりつつある。鶴瓶ちゃんは上がってないな(笑)。南光さんも上がってるようで上がってない(笑)。俺はちょっと年上やから、上がりつつちゅうか、もう上がったというか。やっと冷静になってきました(笑)」
 
――あの~、女性以外に冷静になられたことは(笑)?
 
「落語に、ちょっと冷静になりましたね。いろんな落語があっていいんですけど、お金を出して笑おうと思って来ていただいてるんやから、やっぱり面白いものがええなぁと。ギャグ先行型というか。新しいギャグを見つけたりした時は、すごくいいタイプの女性を見つけたみたいな楽しさがありますね。新しいネタをやる時は、新しい恋人ができたような気がするんですよ。ときめきがあるんですね。ときめきがある時は、やっぱり面白いです。楽しみながらできるし。だから、年齢と共に劣化する部分と、面白くなる部分を行ったり来たり」
 
――落語家として、70歳という年齢はどんな感覚なんでしょうか?
 
「長い間、何か仕事でやってる感があってね。お客さんのお気持ちに沿わないかん、どうしたらええんやろ、とかずっと思てましたけど、落語をやっと楽しみながらできるようになりました。セリフが抜けても構わないんです、楽しかったら。お客さんにそれが伝わればエエし、お客さんと楽しさを共有したいという。段々、そういう気持ちに変わってきましたね。頑張らないといかん、みたいなのが抜けたような。ごく自然に、そうなっていくんじゃないですかね。あまりつくらないというかね。お客さんに届いたか、届いてないかですわ」
 
――そんな文珍師匠が思われる、落語の魅力とは?
 
「やっぱり落語は、言葉で表現している面白さ。それをイメージする楽しさというか、VRを使わなくて頭でVR体験する面白みというか。そういう能力があることを、皆さんに早く気付いてほしい。見えるものは過去のものなんですよ。見えないものに未来がある。見えるものは誰かが作ってるんですよ。で、見えないものを楽しむ。ゼロからモノを作る。落語は、そういうイメージする能力を喚起するというか、鼓舞するっていうか、そういう芸やと思います。自分の頭の中で可視化する。今までなかったやん、っていうものをイメージする面白さがありますね」
 
――ただ、落語を聴いたことがないという方も多くおられます。
 
「とりあえず、落語を“食べず嫌い”“聴かず嫌い”という人に、いかに楽しんでもらうかっていうことが、これからの我々の大きなテーマなんですよね。今までは全国で独演会をすると、昼間にいらっしゃるお客さんはだいたいが年上の方が多かったんですけど、最近は同級生が増えてきまして、あれ?っと(笑)。そうでなくて、敷居を低くして、バリアフリーにして、もっと若い方にも本当に気楽に楽しめように作ってありますからね」
 
――そんな思いの中で、最近手掛けておられるネタを教えて下さい。
 
「最近、『持参金』をやってます。それこそ、小さい“円”が描けるなぁって。でも、オチは今のままでは普通なんで、いろいろ考えてます。また新しい解釈というか、主人公の男を優しい男にしようかなと。あの噺は、女の人の意見があんまり出ないじゃないですか。それが今の時代として良いのか、少しバランスを欠いてるんじゃないかと。ちょっと女の人の気持ちが出るように、少しフォローの言葉を入れようかなと思てるんですけどね」
 
――他に、『夢の三競演』で演じようと思われるネタの候補はありますか?
 
「実は、三競演では『地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)』をやってないんです。コンパクトにした、おいしいとこ取りの『地獄』をやろうかなと思たりね。基本は旅ネタやから、トリでもトップでも、どっちでもいけるから」
 
――ご自身が思われる『地獄八景亡者戯』の魅力は何でしょうか?
 
「やっぱりギャグ優先というか、面白み優先になってるところかな。嘘をつき放題やんか。地獄なんて見たことないし、行ったことないんやから。だから、簡単に言うとデタラメなネタなんです。そやけど、そのデタラメさが面白いという。漫画みたいな面白さというか」
 
――今年は、ギャグとして入れ込めるような時事ネタが多かったですしね。
 
「でも、あんまり入れ過ぎて訳が分からんようになってもいかんしね。欲張ったらあかんネタやね。つまり、ギャグの構成が似てるから、焼肉食べて、ステーキ食べて、ハンバーグ食べて、ビーフシチュー食べて…ちょっと箸休めちょうだいな、みたいな感じになってしまうじゃないですか。バランス、バランス!」
 
――『夢の三競演』も、大阪公演は今年で15回目を迎えます。14年の間に変わったこと、変わらないことは?
 
「鶴瓶ちゃんはうまくなったね。南光さんは、よりうまくなったね。…どう?うまいこと言うたかな?…これがいかんねん。これさえ言わなければ、俺もええ人やねんけど(笑)」
 
――三競演に臨むお気持ちも変わられた?
 
「やっぱり最初の頃は『頑張って3人でやろうな』みたいな気持ちが全面に出ましてね。「濃いわ!」みたいな。今は3人とも少しずつ脂が抜けつつあって。鶴瓶ちゃんは、そうでもないかも分からんね(笑)。彼のにこやかな部分と、役者でやってる時の怖い顔というのが、このごろ両方認められつつあるじゃないですか。幅が出始めてるなぁと思ってね。3人で誰が先にキレて怒るかの競争してるから、あいつがキレたら俺は大人になろうとか、久しぶりにキレてやろうかとか。何か補い合うというか、阿吽のチームプレーができるところが、互いに認め合ってるということでしょうね」
 
――三競演は、個々はもちろん、このお三方ならではの面白みがあると…。
 
「他では味わえない、それぞれの落語のテイストというか、演じ方というか。個性が各々キツイですからね。僕が一番個性がなくて困ってるんですけど(笑)、3人の色合いが違うところが面白いなと思って。こんな凝縮した面白い会は珍しいでっせ。三つ巴の楽しさを味わってください。我々も少ない予算で、“噺を止めるな!”という感じで、頑張りたいと思います」

取材・文/松尾美矢子
撮影/大西二士男



(2018年10月15日更新)


Check
桂文珍
かつらぶんちん●1948年生まれ、兵庫県出身。1969年、五代目桂文枝に入門。時代に呼応した唯一無二の落語を引っ提げ、精力的に全国各地で独演会を開催。2010年紫綬褒章を受章。

夢の三競演2018
~三枚看板・大看板・金看板~

10月14日(日)一般発売 Pコード:489-133
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話■0570(02)9520(10:00~18:00)、通常電話■0570(02)9999にて予約受付。

▼12月17日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6500円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶/桂華紋(開口一番)
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局■06-6371-0004

チケット情報はこちら

<夢の三競演 演目一覧>

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』

2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』

2017年
笑福亭鶴瓶『妾馬』
桂文珍『へっつい幽霊』
桂南光『蔵丁稚』