大阪ならではの人情味あふれる舞台
『泣いたらアカンで通天閣』稽古場レポート!
坂井希久子の小説を原作に、わかぎゑふが脚本・演出を手がける舞台『泣いたらアカンで通天閣』が2月1日(木)、大阪松竹座で開幕する。
舞台は昔の風情が今なお残り、大阪の中でも “ディープ”といわれる下町・新世界。ラーメン屋「三好屋」の店主ゲンコは、亡き妻から店を引き継いだが、かつて評判だった味は跡形もなく、今では大赤字が続いている。そんな状況にも関わらず、サボってばかりのゲンコに、しっかり者の一人娘センコは呆れるばかり。そんなある日、東京に出たセンコの幼馴染が帰ってきた…。家族のような町の人たちを巻き込みながら、心温まる人情物語をお届けする。
物語の中心となるゲンコとセンコを演じるのは、赤井英和と三倉茉奈。脇を固めるのも浪速のベテラン女優・紅壱子や、落語家・笑福亭松喬、松竹新喜劇の曽我廼家八十吉など、個性溢れるキャストがそろう。本作にかける思いを、センコ役の三倉に聞くとともに、稽古場を取材した。(※コメントは製作発表時のもの)
三倉が双子の妹と共に“マナカナちゃん”と親しまれるようになったNHK連続テレビ小説『ふたりっ子』も、新世界が舞台だった。それから約22年の時が経ち、再びコテコテの町に戻ってきた。「大阪弁を使うお仕事をさせていただくことはちょこちょこあるんですけど、コテコテ度合いで言うと、『ふたりっ子』以来かもしれないです(笑)。大阪人ならではのおせっかいな人たちが、赤の他人のために、必死になんとかしようとするけど、それがケンカにつながったりして。泥臭いけど、根っこにあるのは大阪ならではの“情”。ディープな大阪の魅力が詰まった作品です」(三倉)。
稽古場も演出家のわかぎや赤井を中心としながら、アットホームな空気が流れる。赤井と桜花昇ぼる演じる、ゲンコとその妻・芙由子の二人のロマンチックになるはず(!?)のシーンでは、「あんたらほんま色気ないな~!(笑)」と、ツッコミを入れるわかぎ。そこからはロマンチックに見えるように、「こうやって寄りそうねん」と、自らの動きで見せながら、セリフのトーンや身体の向きを細かく修正していく。
ゲンコが赤子のセンコをあやし、芙由子が後ろからその姿を見つめるシーンでは、「男が子どもをあやすココが惚れポイントやねん」と、背中の一部を指して言うわかぎに赤井が「へぇ」と返事をし、笑いが起きる一幕も。
ガラの悪い男たちに囲まれてもひるむことなく、立ち向かうゲンコ。ぐうたらでアカンたれでも、真っ直ぐで情が深くて男らしい。ゲンコはそんな赤井の持ち味が存分に発揮される人物だ。台本を読んだ時点で泣いたという三倉も「お父ちゃんがズルいんですよね~。本当にアカンたれなんですけど、そのキャラクターゆえの行動に心が動かされるんです。赤井さんは普段からツッコミどころ満載なんですけど(笑)、愛嬌があって憎めない人。ハマり役だと思います」と語る。一方、自身の役については、「センコは私と同じくらいの年齢で、仕事をしつつ、恋愛もしつつ、でもうまくいかないこともあって…。同世代の女性に共感していただける部分も多いと思います」。
わかぎが「人情劇として、特に二幕は一場ずつ泣けるように徹しました」というように、ゲンコが暴れるにぎやかな場面もあれば、センコが一人で抱える悩みや、センコの出生の秘密にハラハラさせられたり、親子の愛や大阪人の優しさにほろっとする場面も。その緩急のバランスが絶妙で、観る側は笑ったり涙を流したり、忙しくなるはず。「舞台を観るぞ、物語を感じるぞ、と身構えずに観られる舞台。セリフがすごくイキイキしていて、リアルな大阪人の会話が楽しめると思います。自分の隣の家で起きていることのような身近さがあるので、気軽に観に来ていただきたいです」(三倉)
どうしようもないお父ちゃんと、しっかり者の一人娘、そして世話焼きな近所の人たち。大阪の下町ならではの温かさがたっぷりつまった舞台に期待したい。
(2018年1月25日更新)
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