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「3人で同じ景色を楽しみたい」
上方の冬の風物詩『夢の三競演』が今年も開催!
攻めの姿勢で挑戦し続ける桂文珍の落語への想いとは!?

上方の冬の風物詩ともいえる落語会『夢の三競演』が今年も開催! 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語の人気スターが共に繰り広げる、年に一度の三人会だ。ぴあ関西版WEBでは、2011年より毎年、開催に向けてお三方にインタビューを実施。文珍師匠に、この一年を振り返ってもらいながら、これからの自身の挑戦、『三競演』への想いなどを語ってもらった。

――今年もあと2ヵ月を残すばかりとなりましたが、どんな1年でしたか?
 
「今年の『三競演』の時は69歳になってるねんけど。やっぱり親の面倒をみたりすると、健康のことは感じますよね。介護は大変よぉ。そんなネタを、こないだからまたやりかけてるねんけど…。父親が“入れ歯が取れへん。ノリつけすぎたんや”とか、いろいろと言うてて。で、パッと見たら前に置いてある。“ここに置いてるやろ!!”って言うのは簡単なんやけど、“歩いていったんかなぁ”とか言うと、“おぉ!”っていうリアクションが返ってくるのを楽しむという。介護の現場とかにいる人が、笑えるシステムを作る方がオモロイんちゃうかなと。ちょっとしたことなんですけど、ついイラッとなるからね。そういうとこにも笑いは必要で、大事なテーマやと思いますよ。これからは超高齢化ですからね。だから、最後に誰に介護をしてもらうかも大事なことやね。鶴瓶ちゃんかな(笑)。南光さんに流動食を作ってもうろて、おむつは鶴瓶ちゃんに替えてほしい。しょーもないこと言いながらね。それが理想やわ」
 
――笑いのニーズは、まだまだ幅広くあるという。
 
「こないだ、渋谷で『CBGKシブゲキ!!』いう会に出たんです。(三遊亭)円丈さんの実験落語の会。円丈さん、ものすごい実験してはったわ。落語を忘れてはるねん。小さい見台に自分のノートというか本を置いておいて、それを読みながら落語をしはる。忘れるから。“ええっと、どこだった?”とか言うて笑いを取っていく。“いよいよ、お待ちかね最後のページ”とか。舞台袖からフッと見たら、オチだけ赤い色で書いてある。これは笑ろた。認知症になってもできる、っていうことを実験的にやってはる。もちろん、キャリアがあるから笑いが取れんねやけど、これは新しい発明したなぁと。『三競演』では、誰がそれをやるかな?(笑)」
 

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――演者自身も高齢化に対応すべく、攻めの姿勢が必要なんですね。
 
「僕は今、口パク(くちぱく)落語の研究をしてて。自分のCDを流して口パクで落語をするという。でも、これが合わない(笑)。落語ができなくなった時に、“病院から出てきました”と言って客を呼ぶ。これが、30人ほどしかお客さんが入ってへんのに1000人ほどの笑い声があって。“おかしいなぁ”と言うてると、お客さんが段々気付いていくという。そのうち、どっかで実験しますわ」
 
――見てみたいような、見るのが怖いような…。
 
「お客さんも高齢化が進んでいくから、同じネタやっても分からないみたいよ。僕がビックリしたのは、先輩が講演で同じことを言いはるねん。“それ、さっきしゃべってたやん”と。けど、お客さんは同じように笑ってる。もうさっきのことを忘れてるねん。つまりネタがいらないということや。テッパンのネタが3つあればそれでいい(笑)」
 
――高齢化社会も捨てたもんじゃないと。
 
「古典落語って、安心なのは話の筋を知ってるから。新作落語をしたら、お客さんはやっぱり緊張しはるもん。(自分だけ)笑うのが遅れたらどうしょうとか、それ知らないわとか。そやけど古典の場合は、定席通りに流れていく楽しさがある。筋を知ってても笑えるし、知らんかっても笑えるのが、古典落語のエエとこですわな。昔の『水戸黄門』も同じ。見たら安心するし、『鬼平犯科帳』はどれ見ても新鮮やねん。前に見たストーリーを忘れてるから。『必殺仕置人』なんか何本見てるか覚えていない。中高年はおもしろいで。“これ見たよなぁ”言うたら、嫁はんが“誰と?”て(笑)。年齢と共に楽しみ方が変わっていくのがいいなぁと思ってね」 
 
――そんな思いの中で、今年ネタ下ろしされた演目は? 
 
「『猫の忠信』を1500人の客が入ってる落語会でいきなりネタ下ろしをしまして。周りが“ムチャしますな。普通、小さいとこでかけますやろ”と(笑)。早くやらんと忘れる、今やと思てやってんけど…(結果は)アカンかったわ(笑)。でも、鉱脈はあるわな。この噺は何かミステリアスで、ようできてるネタやからね。ただ、今はやってないネタを探すのが大変やねん。これまでにいっぱいやってきてるから」
 
――他に、今ハマっている演目はありますか?
 
「『らくだが来た!』というネタがあるねんけどね」
 
――古典落語の『らくだ』に出てくる、ヤタケタな人物“らくだ”のことですか?
 
「タイトルがオモロイでしょ。けど中身ができてないねん(笑)。どうしょうかなと。(落語に出てくる)“らくだ”は噺の最初から死んでる。それまでのエピソードをみんながしゃべってるだけ。“らくだ”が生きてる時の話を作ったらオモロイんちゃうかなと思って。そしたら『らくだ』いう噺の前半が膨らんでくるやん。こいつ、どんな奴やろって。“(この人が)その後の○○○(有名人)”とかっていうのは、パターンとしてあるでしょ。そしたら、前のパターンもありやなと。“らくだ”という男が出来上がるまで、みたいなね。興味あるでしょ。『らくだ』の上・中・下」
 
――『らくだ』の前篇を作るという。どこからそんな発想が出てきたんですか?
 
「(頭の中に)下りてきたね、らくだが(笑)。フィクションやから、なんぼでも遊べるやんか。この前も、明智光秀が足利義昭を京都に戻したかったていう資料が出てきたいうて。いらんことするで(笑)。歴史学者があんなことを発見すると、小説家は書き直さないかんやん。フィクションが作りにくくなる。小説家は分からないところを、どう形にするかということでしょ。“らくだ”も分からへんわけですよ。そこを、何かしたいなと。『地獄八景亡者戯』が面白いのは、誰も知らんから面白いんですよ。“らくだ”の生い立ちも知りたいやんか。あんな暴れん坊になったのには、きっと小さい時に何かあったんやでぇ、という風に作っていけば広がっていくなと。そんな重くはならんと思いますけどね」
 
――さて、『夢の三競演』も14年目を迎えます。この13年の間、変わらないこと、変わったことがあれば教えてください。
 
「噺に対する3人の思いは変わらんでしょうね。こういう落語をやりたいという。変わったことねぇ…あとのお二人が上手になりはりましたわ(笑)。一緒にやってて良かったなと、すごく思うようになりましたな。けど、キツイねん。手を抜け、ちゅうねん。本気でやってどうすんねん(笑)。二人ともそう。かなわんわ。まだまだ素人やね(笑)。だから、あと10年ほどしたら、ものすごくエエ会になると思うわ。つまりアクセル踏みっぱなしにしなくても、サラッとできるようになるのとちがうかな」
 
――あとのお二人はフルスロットル状態ですか。 
 
「鶴瓶ちゃんが必死のパッチなんは、すごく分かるねん。後輩やし、番組をいっぱいやってはるから、そんなんで(落語が)でけへんと思われたら嫌やから余計にムキになるやろ。けど、南光さんが、あないにムキになってやるかと。今となっては後悔してる…。もっと気楽な人と一緒にやれば良かった(笑)!」
 
――今後の『三競演』に望むことはありますか?
 
「落語を知らない人って、まだ山のようにいてると思う。それを鶴瓶ちゃんらは、ポピュラリティーがあるから(世間に)広めてくれてる。もうちょっと落語を楽しんでいる方が得やと思いますね。だから『三競演』にも、今まで来たことない人に来てほしいね。常連さんはありがたいんですよ。でも、そこから広がらんようになってまうのが一番困る。半分は常連さん、半分は新しい人っていう風にしていかないとね。難しいねん。『常連、お断り』って出したら、すごい評判になるやろね。そんなこと言うて、誰も来ないようになったらどうしょう。そやけど、それが商いのオモロイとこで、新しいとこを果敢に攻めていかなアカン。また、ほっといたら(来ている)お客さんも半分は弱っていくわ。そのためには、こっちが健康でおらなイカン。お客さんとの闘いや(笑)。それだけ人気のコンテンツというか。ありがたいことですな」
 
――最後に、『夢の三競演』の魅力とは? 
 
「僕は、もうちょっとふわっーとなりたい。『穏やかに健やかに遠くへ高く』というのが、僕の最近の願いですわ。健康でないといかんし、精神的にバランスを崩してるようでもいかんし。遠くを見つめていたいというか。『三競演』の3人も同じような高見を感じてるはずですわ。それがええんちゃうかな。同じ景色を楽しみたいというか。それが『三競演』のすごいとこやと思いますね。そのためには、3人とも元気でおらなアカンね。でも、長生きするでぇ。“あの3人、足して300歳でっせ。まだやってんで。もうええのになぁ”って小さい声で言われたら最高やね」

取材・文:松尾美矢子
撮影:大西二士男



(2017年11月 2日更新)


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桂文珍
かつらぶんちん●1948年生まれ、兵庫県出身。1969年、五代目桂文枝に入門。時代に呼応した唯一無二の落語を引っ提げ、精力的に全国各地で独演会を開催。今年5月~8月、大阪国際がんセンター内で行われた笑いの舞台『わろてまえ劇場』では、最終公演のトリを務めた。

夢の三競演2017
~三枚看板・大看板・金看板~

Pコード:481-049
▼12月28日(木) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6500円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶/笑福亭鉄瓶(「開口一番」)
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局■06-6371-0004

チケット情報はこちら

夢の三競演 演目一覧

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』

2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』