インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「戦いじゃなく、みんなでいい作用が働く会」 上方の冬の風物詩『夢の三競演』が今年も開催! 一年の集大成となる舞台に向けて、笑福亭鶴瓶にインタビュー!

「戦いじゃなく、みんなでいい作用が働く会」
上方の冬の風物詩『夢の三競演』が今年も開催!
一年の集大成となる舞台に向けて、笑福亭鶴瓶にインタビュー!

上方の冬の風物詩ともいえる落語会『夢の三競演』が今年も開催! 桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語の人気スターが共に繰り広げる、年に一度の三人会だ。ぴあ関西版WEBでは、2011年より毎年、開催に向けてお三方にインタビューを実施。今年はインスタデビューで新たな楽しみも見つけた鶴瓶師匠。映画にテレビにと超多忙な中でも、年間100席以上の高座をこなし、芸を磨き続ける鶴瓶師匠に、今年の演目のことや『三競演』への想いを聞いた。

――まずは、例によって今年1年を振り返っていただきましょう。2017年で一番印象に残っておられる出来事は何でしょうか? 
 
「あるドラマを収録してて、10回ぐらいNGを出したんですよ。NGなんか出したことないのに。言葉の言い回しがよく似た長台詞のシーンがず~っと続いてて、最初は言えてたんよ。でもひとつひっかかったら、すごく気になって、ちょっと間違うのよね。なんや分からんようになって“ちょっと待って”と。ものすごくたくさんの人がおるところやったから、みんなに迷惑かけるし。食堂のシーンやったんで“箸袋に書くわ”言うてね。覚えてんねんよ、ほんまは。でもその箇所にきたらおかしくなるから箸袋に書いて前に置いてやったら、OKが出るかと思たら“目線が下すぎる”って(笑)。それでズタズタになって。落語会も詰まってて。落語の稽古もしながらやから、頭に入る許容量がないねんやろな。悔しかったわぁ。次の日も収録があってんけど、リベンジで一言一句間違わずに、一発OKで早いこと終わってもうたわ。あれは悔しい出来事やったなぁ」
 
――では、逆に楽しかった出来事は?
 
「ムロツヨシがね、“写真を出していいですか?”と言うから、“これ、何やのん?”って聞いたら“インスタグラムです”。で、ボンと乗せたらすぐに“いいね”が出てきて、アッという間に200とか300になるねん。“こんなんすぐ出てくるの?”と。“今、この時点で見てるんですわ”って言うから、俺もこんなんしたいなぁと思て。そやけどパスワードも分からんし、どうやってええのかまったく分からない。で翌日、友達とカウンターの店に飲みに行って“実は、こんなことがあってなぁ”ってしゃべってたら、隣の席の人が“お手伝いしましょうか?”って。“何ですのん?”て言うたら、インスタグラムをやってはる関連会社の社長さんやってん。ほんで“やってえや”と。そこで撮ったら、バァッーと“いいね”が上がってきて、翌朝にフォロワーが2万人ぐらいになっててね。約10日間で7万5千人になったんよ。面白いなぁ。毎日載せてるねんけど、若い人と繋がれる楽しさがあるね。ただ、そう思てる時点でトシいってんねんけど(笑)」
 
――インスタを見れば、鶴瓶さんの交友関係も明らかになると。
 
「『A-Studio』なんかやってると、ゲストの同級生とかとも仲良くなって、その人と連絡とったり。そういう繋がりが増えると、番組やねんけど結果的に番組じゃない付き合いになってしまうでしょ。それが、たまたま落語とかに還元されてるんやろね」
 

3kyouen-tsurube2.jpg

――そんなこんなも栄養にして、超多忙な中、落語の高座も年間100席以上をこなしておられます。今年、ネタ下ろしされた演目はありますか?
 
「『妾馬(めかうま)』ですね。今年1月にハワイで仕込んできて、西宮で一発目やって、そこからかなりやってるね。40分ぐらいあったんやけど、だいぶ削って今は27分ぐらいかな。『三競演』の大阪公演は、『妾馬』しようかなと」
 
――『妾馬』(別題『八五郎出世』)は東京ネタですが、鶴瓶さんの噺は大阪が舞台ですね。
 
「そうそう。何も言わないけども大阪が舞台です。場所は別に特定せんと、そこの城の殿さまに見初められた娘ということにしたんやけどね」
 
――東京の設定のまま…というつもりはなかったんですか?
 
「全然ない。絶対に大阪弁で、大阪にあのネタを持ってきたいと思ったからね。東京では最後は都々逸を唄ったりして終わるけど、僕はでけへんから、ちゃんと言葉でと。オチをいろいろ考えてたんやけど、(立川)志の輔さんのオチが一番良かったんやね。で、電話して“それ使わせて”って言うたら、“あれ僕じゃないんですよ。(落語作家の)小佐田定雄さんです”。僕はオチを変えようと思てたんやけど、やっぱりこのオチがスパッと決まるから。で、小佐田さんに電話して“5万円で売って”言うて(笑)」
 
――そもそも『妾馬』をやろうと思ったキッカケは?
 
「新橋演舞場で (柳家)さん喬師匠が『八五郎出世』をやりはったんですよ。ええやんかぁ、さん喬師匠のって。でも、これの舞台を大阪にするちゅうのもなぁ、とずっと考えてたんやけど、うちの弟子の(笑福亭)瓶二が先にさん喬師匠に習いに行きよったんよ。こいつ、何すんねんと(笑)。じゃ、弟子がやるんやったらやめようと。そこで、さん喬師匠に“弟子がありがとうございました。僕もやりたかったんですけど”と電話入れたら、“やってよ”って言いはったんよ。で、弟子がやってるしと思いながらも、いっぺんやってみようかと。さん喬師匠は“変えて、変えて”とおっしゃってね。結局、うちの弟子が習いに行ったから、僕は習わなかったことが功を奏したという。習ったら変えられないやん」
 
――この噺で、一番惹かれた点は?
 
「『鶴瓶の家族に乾杯』をやってるから、江戸時代の家族の情みたいな落語をしたかったんですよ。僕は最後に妹が泣いてるという設定にして、兄貴の八五郎が妹を見つけて…。“そばめの母は城に上がれない”なんていう決まりはないのよ。“里心がつくから”というのを前で振ってるねんけど、そんなんも僕が作ってんけどね。“それをしてもうたら、他に何にもしてもらわんでええから”いう台詞が好きやし」
 
――兄の八五郎はアホやけど、愛しい人ですよね。
 
「そうそう、本質は突いてるのよね。うちの兄貴に似てるねん。モデルにはしてないけど、アホの長男はこんな感じかなと思て(笑)。人間は、ええ人なんよ。うちの母親が延命措置をしてた時に、お医者さんが“ずっーと脳死状態が続きます。そちらで判断してください”と。そしたら、兄貴がお母ちゃんの耳元で“お母ちゃん、もうええな”言うて。でも、すごい愛情やもんね。10年ぐらいずっと面倒みとったんかなぁ。うちの嫁はんも“あんたとこの兄さん、すごいわ”って。ほんまに、うちの兄貴は八五郎みたいやね」
 
――さて、『夢の三競演』は今年で14年目を迎えます。この13年間で、変わったことを教えて下さい。
 
「2013年かな。僕がトリの出番の回で、『青木先生』か『お直し』か、どうしようと悩んでて。その時、廊下ですれ違った南光兄さんが“鶴瓶ちゃん『お直し』!”って言って去っていきはったんです。それで『お直し』をやって喜んでもらったというのは、すごいうれしかったね。それも南光兄さんが僕に、『お直し』は絶対に合うって言うてくれはったんで。お兄さんに指名してもらって、それでしっくりいきだしたというか」
 
――逆に、13年間変わらないことは何でしょうか?
 
「ふたりとも頑張ってはるし、僕も落語もやるけど、ドラマをやったり、アフレコでミニオンやったり、いろんな違う世界のことをやってるでしょ。それを、お兄さんらが見ててくれてるっていうのは、すごくうれしいですよね。それは14年前から変わってない」
 
――文珍さんは、3人合わせて300歳まで『三競演』をやりたいとおっしゃってました。もし、しゃべれなくなった時のことを考えて、現在“口パク落語”を研究中とか。それに応えて、南光さんも洒落で“米朝アンドロイド”のように3人のアンドロイドを作って、出ていきたい時だけ高座に上がると。鶴瓶さんは、何か提案がありますか?
 
「ないない(笑)。文珍兄さんが一番年上やからね。僕は、今は稽古すれば絶対台詞は出てくるけど。でも、トシを重ねたら、ちょっと忘れた部分も味じゃないかなと思うね」
 
――また、文珍さんは『三競演』で他のおふたりが必死過ぎると、嘆いておられました(笑)。
 
「だから、十何年やってもお客さんが絶えないのよ。チケット取れないからね。始めた時は、みんなに“チケット代が高い”って言われてたんやもん。でも、やっぱりグレードを上げて、高いけどいいものにしたいってみんなが思てるから、今となっては全然高くないでしょ。それは、こっちの熱が十何年続いてるからであって、“もうええねん”みたいなことにはならないと思う。『三競演』は文珍兄さんが、“お前も入れ”って言わはったんで参加させてもらったんやけどね。“『らくだ』せぇ”とか言われて必死やったから、その時は分かれへんかったけど、このメンバーはすごいよ。そこに入れもらったというのが、うれしいっていうか、ありがたいと思うね」
 
――では、最後に『夢の三競演』の魅力をアピールして下さい。
 
「今年1年、みんながいろんなところで落語会をやってきて、自分らの中には年末のここが集大成みたいな気持ちがあると思うんですよね。そこがいいんですよ。外に出ていっていろんなものを自分の中に持ちながら、あそこに臨むという。そんな会になりましたよ。お兄さん方も“俺は、あれしよう”とか、“あいつは、あれしよるかな”とか、意識してはると思いますよ。戦いじゃなく、みんなでいい作用が働く会なんですよ。今回の大阪公演のトップは(笑福亭)鉄瓶か。うちの弟子が出るから、なおさら僕も頑張らないとね」

取材・文:松尾美矢子
撮影:大西二士男



(2017年10月23日更新)


Check
笑福亭鶴瓶
しょうふくていつるべ●1951年、大阪府出身。1972年、六代目笑福亭松鶴に入門。8本を超えるレギュラー番組を抱え、テレビで見ない日はないほど。2017年は吹き替えを務めた映画『怪盗グルーのミニオン大脱走』(グルー役)が公開。2018年3月10日公開予定の映画『北の桜守』に出演している。

夢の三競演2017
~三枚看板・大看板・金看板~

Pコード:481-049
▼12月28日(木) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6500円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶/笑福亭鉄瓶(「開口一番」)
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局■06-6371-0004

チケット情報はこちら

『夢の三競演』演目一覧

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』

2016年
桂文珍『くっしゃみ講釈』
桂南光『壷算』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』