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「埋れた“芝居噺”を復活させていきたい」
落語家生活25周年を迎えた記念落語会に向けて
林家染雀が意気込みを語る!

林家染丸一門で、今年落語家生活25周年を迎える林家染雀が記念の落語会を4月、7月、10月(予定)と3回連続で天満天神繁昌亭で公演する。意気込みを聞いた。
 
--なぜ落語家に?そして染丸師匠を選んだワケは?
 
もともと落語に興味があったわけではないんです。家から遠い高校に通っていたんですが、その登下校で本を読んだりするじゃないですか、いろんな本を読んでるうちに、たまたま『米朝全集』という、桂米朝師匠の落語を再録した速記本を読んだんです。これが面白かったんですよ。それからですね興味を持ち始めたのは。で、実際の落語を見たくなり、当時、ラジオの公開録音で落語を収録する番組がたくさんありまして、頻繁に観覧募集をしてたんです。それに応募して、当選したら見に行くと言うのをしてどんどん落語にハマるようになりました。そのうちに島之内寄席という落語会があってそれを見に行った時に、うちの師匠である当時染二が『蛸芝居』という芝居噺をしはったんですよ。本では読んでストーリーは知ってたんですけど実際ナマで演じてはるのを見て、古い表現ですけどビビビッてきたんですよ。あ、これはこの人の弟子になるために自分は生まれて来たんやって(笑)それからずっと師匠の追っ掛けやってました。
 
そやけどすぐには弟子入りをせんと、大学へ。これは同級生に弟子になりたいんやって相談したら「受験勉強から逃げてる」って言われて、それが悔しくて絶対に大学だけは行くぞって。でも結局二浪しましたけど(笑)
 
実は、予備校時代も落語会には内緒で通っていてノートにその時の出番表ややらはった噺などを書いて記録したりしてね。勉強せえって話ですけど、まぁ落語の方の勉強はしっかりしてました(笑)とはいえ19歳で年間100回ほど落語会に足を運んでたんですけど、その時見聞したことは、今となっては血肉になってますね。
 
大学に入って、いわゆる落研には入部しなかったんです。開催しはる落語会は好きであちこちの大学の落語会は見に行ったりしてたんですけど、変なクセがつくのが嫌で。その代わり、落語を知る上でその噺の元となっていたりする歌舞伎や文楽、狂言、日本の音楽、ミュージカルも知っておいた方がいいなぁと。いわゆる外堀を固める感じです。ちょうど祖母が歌舞伎とか好きやったんですけど、結構な年齢やったから行かれへんのでその代わりに僕が見て来てどんなんやったか聞かせると言うことで、チケット代をもろて行ってました。それも今となって血肉となってますしモノの見方の幅が広がりましたね。 
 
それで4回生になって卒業論文にお囃子のことをテーマにしようと、それまでうちの師匠がいろんなお囃子やらの研究をしてはるのを見聞きしてましたんで、お話を伺いに行ったんです。色々と教えていただいて帰り際に「卒業したらどないするのん?」て聞かれたんです。その時、本当は弟子にして下さいって言いたかったんですけど、なぜか言えなくて・・・。で、卒業が決まってトリイホールと言うところで師匠の一門会が4月1日にあったんですけど、そこへ弟子にしていただきたいとお願いに行ったんです。会が終わってから「ちょっと話聞いたげるわ」と飲みに連れて行っていただいていろいろ話をした後、「明日もっかいおいで」って言われ師匠の家に行かせてもらい、その翌日4月3日から師匠につかせていただいたんです。
 
師匠のところへ行ったのはやはり波長があったからやと思います。類は友を呼ぶと言いますけれど、師匠も言うてはりましたが自分のどこか似てる部分、共有できるとこがあるからうちに来るんやって。例えば自分の考えが煮詰まった時とか師匠に相談するんじゃなくて、雑談をしてるうちに答えが見つかったり、方向性が定まったりすることがほとんどやったんですね。そういうのはやはり師匠と波長が合うからこそ出てくるもんなんやと思います。
 
桂あやめさんと姉様キングス(通称姉キン)というジェンダーフリー&ボーダレスな芸者ユニットも組んでおられますが、そちらの活動も長いですよね。
 
あやめ姉さんに声をかけていただいて最初はズラシスターズという名前でしたが事情あって改名して姉様キングスに。芸者のこしらえして三味線とバラライカで昔のお座敷芸を今風のネタを織り込んでやらせていただいてるんですけど、もうそれも18年経ちます。なんで姉キンをやってるかと言うと、歌舞伎で“兼ねる役者”という言葉がありまして、女形と男形、両方を演じる人を言うんですけど、どちらも得意やったらいろんな表現ができますよね。自分も落語をやるにあたってそう言う意味で“兼ねる役者”になりたいなと思ってます。それに芝居噺をやるんであれば、女形ができないとアカンので、女形の技術を習得する上で姉キンはいろんな意味で(笑)ほんまに勉強になってますね。
 
--今回の25周年落語会については?
 
月亭遊方兄さんから「お前はちょっとサボりすぎや、お前は頑張ったらできると思うねん、25年迎えるんやったらちゃんとして次を目指さなアカン」と言っていただきまして、それで自分自身もサボってたなと反省して発奮したわけです。どうせやったら3回天満天神繁昌亭でやらせてもらってひとつ、一貫性のあるテーマを持ってやろうと決めまして、うちの師匠である染丸も得意とする“芝居噺”のいろいろをやらせていただこうと。
 
4月26日の1回目はネタおろしとなる『愛宕山』と『淀五郎』なんですけど、うちの師匠が僕が入門した年に染丸を襲名して初めての独演会を文楽劇場でやらはった時にネタおろししたのが『愛宕山』なんです。
 
噺としては金持ちの旦那が芸者や太鼓持ち連れて愛宕山に登ると言う内容なんですけど、ハメもの(三味線や太鼓などの音楽)も賑やかでええなぁと。朝ドラの『ちりとてちん』の中でも愛宕山のかわらけ投げの場面が引用されてましたけど、その旦那と太鼓持ちとのやりとりは僕も好きで、今回やらせていただくことがほんま楽しみです。
 
『淀五郎』は芝居噺的で歌舞伎の芸談みたいで、何度かやらせてもらってる自分も大好きな噺です。歌舞伎役者の下っ端で名代の下の淀五郎にある日、役者の欠員が出たことで白羽の矢が立って『忠臣蔵』での判官の切腹の場の大きな役を与えられるんですけどぜんぜんうまく演じることができない。それでも舞台は毎日ある、ほんまに切腹しようとまで追い込まれた時に淀五郎はどうなるかっていうもので人情ものでもあります。この噺に自分なりのセリフを入れまして、自分自身にも喝を入れるようなもんにしてます。
 
7月22日の2回目は『中村仲蔵』と『昆布巻芝居』。『中村仲蔵』も『淀五郎』と同じ歌舞伎の芸談みたいな内容で実際におった役者を描いたもんです。名代になったものの安物の役しか回ってこない仲蔵にまた安物の役が振り分けられて、この役を一流のもんにしたると努力する話で成功物語として楽しんでいただけたらと思ってます。
 
『昆布巻芝居』は師匠が復活させはったんですがあまり他では演じられなかったのをお願いして僕がやらせていただくことになりました。小さい頃にお腹を壊して以来、食べ物を見ると匂いを嗅いで大丈夫か確かめているうちにめっぽう鼻が利くようになった男の噺で、町内で作ってる食べ物もすぐわかるようになり、いちいち相伴に当たるんで疎ましがられるようになるんです。そんなある時、いつものように鼻を利かせて昆布巻をたいてる家を発見。その鍋の蓋を開けさせるための攻防戦が繰り広げられるんですが、これが『宮本武蔵』の鍋蓋芝居となり、ここが見せ場になります。鍋の蓋を開けさせるためだけに延々10分ほど芝居するんですが(笑)
 
10月に予定してる3回目は天王寺の一心寺や安居神社を舞台にした『天神山』ともう一つは落語系図の中でいまでは滅んでしもた芝居噺があるのでそれを復活させようかなと、今図書館行ったり、文献調べたりしてます。そして1回目のゲストである桂あやめさん、笑福亭笑喬さん、2回目のゲストの月亭遊方さん、桂文三さんを迎えて三曲漫才という大昔、漫才さんが営業で回った時にやってた三味線、鼓、胡弓といった楽器を使った大喜利をやりたいなと思ってます。
 
--どの回も粋な感じがしますね。しかもどれも見てみたい噺ばかりです。
 
ありがとうございます。自分自身、よく器用と言うてくれはる人がいはるんですけど、器用と思われてるのは自分ができる範囲での器用さであって、フリートークなどなど苦手なことはいっぱいありまして、できる範囲は知れているうちの師匠が言うてはったんですけど“松、曲にして竹、直なり”。松というのは曲がってて松、竹はまっすぐで竹。竹がいいなぁあの松のフォルム、あんな風にグニャって曲がってていいなぁと思っても竹は曲がられへん。その逆もしかり。結局、お前はお前なんやと。そう言う意味では自分自身が今できることといえば“芝居噺”を頑張ってみなさんに見ていただ期待ですし、もっともっと埋れた“芝居噺”を復活させていきたいと思っています。
 
取材・文/仲谷暢之(アラスカ社)



(2017年4月20日更新)


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林家染雀
はやしやそめじゃく●1967年8月8日大阪府生まれ。1992年、4代目林家染丸に入門。音曲話や芝居噺を得意とする。3代目桂あやめとともに音曲漫才コンビ“姉様キングス”としても活躍している。

〈染雀晴舞台 ~25周年記念 その1~〉

▼4月26日(水) 18:30
天満天神繁昌亭
全席指定-2500円
[出演]林家染雀/桂あやめ/笑福亭生喬/姉様キングス
※未就学児童は入場不可。
[問]天満天神繁昌亭[TEL]06-6352-4874

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〈染雀晴舞台 ~25周年記念 その2~〉

▼7月22日(土) 18:30
天満天神繁昌亭
全席指定-2500円
[出演]林家染雀
[ゲスト]月亭遊方/桂文三
[問]天満天神繁昌亭[TEL]06-6352-4874

天満天神繁昌亭
http://www.hanjotei.jp/