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2016年はトータルプロデュースイベントも好評を博した
桂文珍。1年の集大成ともいえる『夢の三競演』では
“今だからこそ面白いネタ”を考えているとか!?

毎年恒例の落語会『夢の三競演』の季節がやってきた。桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶というまさに“夢のビッグ3”による落語会は毎回、お三方の1年の集大成とも言えるべき渾身の高座で楽しませてくれる。ぴあ関西版WEBでは2011年より毎年、お三方にインタビューを実施。第二弾は桂文珍師匠のインタビューをお届け。2016年を振り返ってもらうと、真っ先に「体力の衰えを感じた」と語った文珍師匠だが、そんなことを微塵も感じさせない舌鋒の鋭さはご健在。『夢の三競演』についてはもちろん、上方落語界の未来についてのご意見も伺った。

――まずは、今年一番、印象に残っている出来事からお話しください。

山形の鶴岡あたりに出羽三山いうのがあってね。その中の羽黒山というのが、ものすごいんですわ。何がすごい言うて、石段が2446段あるねん。その階段を上がらんと、お参りでけへん。修験場ですわ。それを上ったんや。

――プライベートのご旅行ですか?

そんな仕事、断るよ(笑)。嫁はんと家族旅行でな。途中に国宝の五重塔があって、それだけ見て帰ろうと思とったんや。そしたら、嫁はんが『上るで』。普通の旅人の格好やし、しんどいし、『やめとこうや』言うたら、下りてきた人が『すぐそこですわ』と。そしたら、嫁はんが『ほらみてみいや』。ほで歩き始めたんやけど、階段がものすごいえらいねん。周りは杉木立ちで、前見ても後ろ見ても石段しかない。踏み外したら、一気に下までゴロゴロ転げて落ちて死ぬがな。けど、嫁はんは元気やからドンドン上っていって、曲がり角で見えんようになって取り残されたんや。あいつ、俺より長生きしよるで、チキショー!思てね(笑)。けど、やめると何言われるか分からんし。7月や。べっちゃべっちゃに汗かいてね。途中、嫁はんと茶店で団子食うて、お茶飲んで、また上って。もう死ぬわと思たら、上に山のように人がおってね。俺より年上がいてる。すごい元気な人ばっかりやなと思って聞いたら、バスで来てるねん。バスで来てるん?! そこまで行くルートがあるわ、観光バスは来てるわ。知らんから。朦朧として、どれが本殿か本堂かも分らんねん。ヘロヘロや。
 
――まるで落語のようなオチがあったんですね。
 
いかに体力が落ちてるかを痛感したわけや。その時に『ああ、やっぱり元気でおらなアカンな』と思ったんと、杉木立と石段だけでしょ。嫌になってきて。つまり、体力が落ちてふらふらになるぐらい、自分が情報とモノとに振り回されて生きてきたんだなと。
 
――では、何か運動でも始められますか?
 
そんなことするかいな! 生きてるのに精一杯(笑)。またトシを重ねるほど、友達減るねんね。そうなると自分の足や手に『疲れたな』とか話しするようになるんやんか。自分の体と対峙するというか、体を管理するということが大きなテーマになっていくのよ。
 
――拝見する限りでは、随分とお若いですよ。
 
だから、トシいくと“若い”っていうのは褒め言葉にならへんねん。永六輔さんに『先生、お元気そうで』て言うたら『嫌味にしか思えない』と。つまり、若いっていうことは可能性が沢山あるっていうことでもあるんでしょうけど、同時に未成熟であったり、軽率であるとか。来し方行く末を考えると、若いっていうのは褒め言葉ではないというふうにしみじみ思うようになりましたね。年相応でええわ。敵はガンと血液の病気、あとは事故やね。それさえクリアすれば長生きできますわ。落語会の取材やあれへん(笑)。そやけど、健康で達者やないと芸もでけへんのでね。『三競演』の3人は、長生きしそうやな。『誰か死んだらやめよな』言うてんのに、死にそうにないで。どうしたもんやろ(笑)。
 
――いきなりのボヤキ節ですね(笑)。そうおっしゃりつつも、4月23日からの約2週間、東京の神保町花月で、文珍さんのトータルプロデュースイベント『桂文珍的ココロ~神保町大阪文化祭』が開催されました。
 
あれは僕の原案を芝居に仕立てたというか。吉本の若手を使って、古典の『壺算』『らくだ』、僕が作った『セレモニーホール~旅立ち』という落語をお芝居仕立てにして、やってもうたんや。そしたら、若い子がキチッと笑いとりよるねん。ものすごい刺激になったわ。中川家はもちろんのこと、なだぎ君やNON STYLEの石田君とか、達者やなぁ。上手いなぁ、こういうの噺家に欲しいなと思うぐらい。ものすごい勉強になったわ。
 
――そこから見えた新たな落語観はありますか?
 
僕は伝統的な世界にいるから、こうでなければいけないと思い込んでることがあるんですけど、『いやっ、これをこうした方がより次の世代に渡せるんじゃないか』というようなことを感じましたね。伝統というバトンを上手く渡すというのがボルトに勝てる秘訣かなと(笑)。僕も彼らに負けんように頑張らないかんなと思てね。アイデアをね。ボケでボケをかますような。ほんで、お客さんの方が笑いで突っ込んでくれるみたいな。そういうところまで『三競演』のお客さんは育っていただいてる気がしますね。お客さんが楽しんではるもん。『今年は、どんな色が出るんやろう』と。意識の高い人が『三競演』には来てくれてはる。若い人もいらっしゃるし、ご高齢の方もいらっしゃるし。他の会とちょっと違う。お客さんが育ってくれてはるし、また私らも育てていただいてるわ。
 

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――その『三競演』ですが、今年の演目はどのようにお考えですか?
 
分かれへんねん。全体のバランスやから。
 
――では、今、ハマっておられるネタとかありますか?
 
今年は、『へっつい幽霊』に『定年の夜』をネタ下ろししたんやけど、今凝ってるのは『くっしゃみ講釈』やね。『くっしゃみ講釈』は四十何年振りにやったんやけど、ウケたわ。嬉しかった。20代の後半にやった時は、途中の講釈のとこを誤魔化したことで深く自分で傷ついて、こら向いてないなと思ってやめとったんや。そやけど、こないだやってみたら、ようできた話やなと。ほで、もういっぺんお稽古し直して、やってみたら面白かった。楽しいわぁ。なるほど、こうすればええねやみたいな。
 
――トシを重ねて気付かれた、『くっしゃみ講釈』の面白さとは?
 
今までの落語のやりようと違うというか。ボケとツッコミやなしに、ボケとボケみたいな。男が女の子にフラれたからいうて、講釈師に仕返しに来るでしょ。それが何のために来てるかが分からんようになってしまう。ボロクソに言うのかなと思うたら講釈師の方を心配してるという。優しさというか、アホやねんけど底抜けにええ奴やなぁみたいな。
 
――文珍さんオリジナルの主人公像ですね。
 
人類愛に満ち満ちた。自分の主体が何やったかわからんというのが、やってて面白いなぁと思って。それは、実は枝雀さんも早くから気付いてて。例えば閻魔さんが怖い顔して出るところを、ものすごくニコッと笑って出るという。あの人の解釈はなかなか面白いとこがありましたね。僕の『くっしゃみ-』のオチは普通やねんけど、登場人物をちょっとおかしく演出した方が、お客さんの笑いが大きいねん。そんな時代なんかなぁと思うてね。
 
――『夢の三競演』も13年目を迎えます。毎年、恐縮ですが、この落語会の魅力をアピールしていただくとしたら…。
 
年に1度の本気の祭りですから。よそでは、こんな濃いのはないしね。かなわんねん。みんな本気になりよるから、流しなさい、流しなさいと(笑)。ただ、非常に刺激にはなりますね。そういう攻め方もあるんや、みたいな。1年間、それぞれが頑張って勉強したんやなぁっていう感じがするのが面白いかな、と思いますね。
 
――さて、今年は1月に三代目桂春団治師匠が亡くなられました。四天王亡き後の上方落語界の将来が気にかかります。
 
僕は噺家の人数が少ない時期に入門してましからね。先輩に甘えてればやっていけた時代が済んで、今度は若い人を引っ張り上げないといけない立場に追いやられますからね。若い人には序破急いうて、最初はモノマネみたいなとこから始まって、そこを破って自分のものを作るっていうところまで頑張ってほしいなぁ。ずっーとなぞってる人が多いからね。オリジナルの面白いのを生み出してほしい。息のエエ、呼吸のエエのが、ちょいちょい東京は出てきてるねん。大阪も頑張ってやらんと。
 
――もちろん個々の精進は不可欠ですが、落語界全体の仕掛けも必要なのでは?
 
『笑点』のメンバーなんか見てると、上手くメディアミックスしながら、落語の大衆性を広げているのはすごいね。そういう意味では、関西に落語家をアピールできる番組がないのはよろしくない。僕らはそれでお世話になって、顔も覚えていただいたり、力もつけさせていただいたり、研鑽を積ませていただいた感じがしますからね。最初から大掛かりにせんでええのよ。番組の中のワンコーナーで若手が大喜利みたいなのを分かりやすく、今の時代にアジャストするものを作って。それが当たれば、拡大していけばいいというようなね。面白いものをネットで配信できるようにするっていうのは、今後の在り様やと思いますけど、それには既存のマスメディアさんとジョイントしながらやらないかん。また、それに対応できる力をこっちもつけささないかんし。コンテンツさえしっかりしておれば、いくらでも楽しみが広がると思うんでね。だって、『笑点』なんて別にそんなに工夫してないよ。キャラクターだけで。それは関西の方が得意やと思うんですけどね。
 



(2016年11月 4日更新)


Check
桂文珍
かつらぶんちん●1948年、兵庫県出身。1969年、五代目桂文枝に入門。“生涯、全国ツアー”を宣言し、現代にフィットさせた古典&新作で、落語の面白さを伝える。ただいま『桂文珍独演会 JAPAN TOUR 一期一笑』も日本全国で開催中。好評のリクエスト落語会『桂文珍兵庫大独演会〈~ネタのオートクチュール~〉』を12月2日(金)・3日(土)に兵庫県立芸術文化センター(中ホール)で開催する。

夢の三競演2016
~三枚看板・大看板・金看板~

11月6日(日)10:00~一般発売

Pコード:454-499
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9540(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。

▼12月26日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6500円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局
[TEL]06-6371-0004

チケット情報はこちら

『夢の三競演』演目一覧

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』