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新作『山名屋浦里』が歌舞伎化され話題を呼んだ
笑福亭鶴瓶。今年は何を『夢の三競演』で聞かせて
くれるのか期待が高まる中、その心中を聞いた

毎年恒例の落語会『夢の三競演』の季節がやってきた。桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶というまさに“夢のビッグ3”による落語会は毎回、お三方の1年の集大成とも言えるべき渾身の高座で楽しませてくれる。ぴあ関西版WEBでは2011年より毎年、お三方にインタビューを実施。今年は鶴瓶師匠のインタビューからお届けする。2016年は鶴瓶師匠の落語『山名屋浦里』が歌舞伎化されるというビッグイベントもあり、いつも以上に話題に事欠かない師匠。本作へ込めた思いはもとより、落語界全体についての話を伺った。

――今年は何といっても、タモリさんから乞われて鶴瓶さんが落語に仕立てた『山名屋浦里』が、中村勘九郎さん、中村七之助さんらによって8月に歌舞伎となりました。千穐楽では、終演後にタモリさんと舞台に登場されたとか。

最初は断ってたんやけど、歌舞伎座の4階までスタンディングオベーションになったからね。でも、タモリさんが「70歳になって、こんなことになるとは思わなかった。ありがとう」て言わはったんですよ。こんなうれしいことはないね。

――一タモリさんから託された江戸の吉原であった実話が、落語に、そして歌舞伎にまで派生したという。

落語って、例えば『山名屋浦里』なら相手の頭の中に浦里が見えたり、花魁道中が見えることが大事。歌舞伎役者の頭の中に、あの道中が浮かんで「絶対に芝居になる。やりたい」って。こんな噺家冥利に尽きることないよね。ただ、そういう話は流れることが多いのよ。『山名屋―』は2015年1月に大阪の田辺寄席で初演して、2016年の8月には歌舞伎になって。そのスピードも素晴らしかったね。ほんとに熱が盛り上がって、『今後これを続けたい。中村座でもやる』と。

――事前に、出演される歌舞伎役者の皆さんの前で、この噺を一席演じられたとか?

どんな話か全員が分かっておく方がいいと思って。で、向こうは稽古をつけてもらうつもりやったから、歌舞伎役者が40人ぐらい、浴衣着てキチッと座ってるわけよ。いっこも笑わんとね(笑)。そんな雰囲気でしたん初めてやけど、それが面白かった。独演会でやる時や、小さな小屋でやる時と同じようにやったら、やっぱり気持ちが通じて。だから、脚本よりも元の僕の台本に近づいてきて、僕が自分で演出した落語の中に歌舞伎役者が入ってきた感じやね。僕一人の歌舞伎が向こうは見えたから。「(歌舞伎の劇中に)この言葉も使てんねんな」と。それは稽古した時に自分の中に出てきた言葉。こっちは逆に不思議やったよ。僕の頭の中に描いてることが、立体で3Dで出てるという。その最高峰が七之助よ。あの花魁はすごい。あれがうまかったから成立したのよね。

――ご子息の駿河太郎さんの好演も話題になりました。

一番最初の舞台はダメ出ししたんやけど、歌舞伎座で歌舞伎役者と、あの溶け込み方はすごいなと思うね。心中はワァーとなってたやろけど、勘九郎のために、勘九郎が言ってくれたから恥かかさんとこっていう思いがあったんやろね。そこは僕の血やね。この人に恥をかかさないでという。『夢の三競演』がそうでしょ。文珍兄さん、南光兄さんと一緒にやるからいうて、僕一人「大丈夫かいな?」と思われるとこからスタートしてるわけやから。早く追いつきたい。追いつくのは無理でも、この2人とのバランスを保つようになりたいという思いがあるからね。

tsurube-4133_t1.jpg――その『夢の三競演』ですが、演目について今の時点ではどのようにお考えですか?

ほんまは『妾馬』か、『お見立て』をやろうと思ってたんよ。ずっと稽古してたんやけど、『山名屋浦里』がこんなことになってしもたから、落語会でも『山名屋―』をずっとやってて。『妾馬』も『お見立て』も、ギリギリまで全部覚えたんやけど、ちょっとやめましょうと。そんなん全部やってたら、頭おかしなるわ(笑)。今年は大阪・東京ともトリやから、歌舞伎になった『山名屋浦里』を見て欲しいというのはあります。最後の浦里のセリフも随分と足しましたからね。

――『山名屋浦里』は、日々進化と深化を遂げています。

浦里が酒井宗十郎の元へなぜ行ったんだという。最後のセリフで、お客さんに全て分かるようになったというか。完成型とは言わないけど、もう一度聞いてもらっても「去年と同じもんしやがって」とは思わないようにできる自信はあります。でも、あそこまでセリフを足すというのは大変なこと。バランスが悪なるもん。前の『山名屋―』はその時点で完璧にできてるのに、そこに新たに付け加えて違和感がないようにしないといけないから。建て増した家じゃなく、昔から建ってた家にしないと舞台にはかけられないでしょ。

――『山名屋―』が歌舞伎になって、逆に落語に還元されたものはありますか?

七之助を見たら、花魁はこうやなと思えるようになったというか。前は、花魁を中谷美紀さんとしてやってる時期があったのよ。彼女が高座を見にきてくれたし、『JIN―仁』の花魁役やったから。ただ、歌舞伎では最後の場面は七之助が里言葉でしゃべって、すごい良かったんやけど、僕が里言葉でしゃべったって、あの顔やないねんからね(笑)。

――ほかに、『三競演』の演目で候補はありますか?

『死神』もええかなと。『山名屋―』をやったから、『死神』もメチャクチャ変わったんですよ。僕の“死神”は女性なんですけど、その女の人の心情がね。僕は、無意識の中に運命があるっていう思いがあるのよね。無意識ほど、すごいものはないと。『家族に乾杯』(NHK)でも無意識で行ったことが運命じゃないかなと思うから、そこを踏まえて『死神』ももういっぺん作り直したんですよ。

――鶴瓶さんの落語は演者としてだけでなく、プロデューサーや作者としての才能も強く感じます。

口幅ったいけど、芝居をよくやってるでしょ。ドラマに出たり映画に出たり。その時は、監督の言うことしか聞かないからね。落語は、僕の言うことを自分でプロデュースできるから、自分が監督であり、脚本家であり、全てができるわけですよ。

――最近は、情のからんだドラマチックな噺を演劇的手法で魅せる高座が印象に残ります。これからは、笑福亭のお家芸もやっていただきたいのですが、笑いの多い話は「鶴瓶噺」、あるいは「私落語」で昇華されているのではないかと。

それは、僕は落語やろうとは思ってなくて、鶴瓶噺で全国を回ろうと思ってたから。自分で言うのもおかしいけど、鶴瓶噺はテンポがあって2時間ずっと笑わしたまま。あれが一つの大きな落語なんですよ。『私落語』も、今回は『青春グラフィティー松岡』っていうのをリニューアルしたしね。鶴瓶噺から派生したものが落語になる。で、その当時一緒にいてた奴が、現実に生きているのよ。落語しはる人は色々あるけど、こういう形で落語として返すというのは、あんまりないから。笑福亭の滑稽噺は、お兄さん方とか弟弟子がやるからね。だから、自分ができる範囲はこれかなと。

――噺家“笑福亭鶴瓶”の色が確立されてきたように思いますが…。

そんなん全然思わない。ただ、『山名屋―』が歌舞伎にまで派生したり、『24時間テレビ』で林家たい平が走ったりしたのも、落語界全体に良い感じやと思うよ。落語家がいつもスポットライトを浴びてるっていうことがね。小さい範囲でまとめるよりは、大きく落語界全体が生き返ったらええかなと思うね。

――さて、今年は三代目桂春団治師匠が亡くなり、戦後の上方落語界を牽引された四天王すべてがこの世を去られました。これからの落語界について思われることはありますか?

こんなこというたら何やけど、上方落語協会、落語協会、芸術協会、(五代目)円楽一門会、立川流なんかの有志が、みな一緒になったらええのよ。落語家としての一つの協会としてやったらいいと思うけどね。東も西もなしに。そっちの方がええと僕は思うね。

――今の若手噺家に助言があるとしたら?

本人それぞれやけど、ただ繁昌亭とかでやってることだけに満足しない方がいいと思う。うちの弟子のこというのも何やけど、(笑福亭)銀瓶や(笑福亭)鉄瓶、(笑福亭)べ瓶なんか逆に東京へ来て会やってるからね。(桂)三四郎もそう。そういう連中が後には力を持ってくるんじゃないかなと。

――活躍の場は東京も大阪もないと。『三競演』の東京公演も今年で3回目を迎えます。東阪で笑いがボーダレスになってきていますが、ご自身で違いは感じられますか?

昔はそんなん思わなかったけど、大阪は笑おうというというか、楽しもうという空気が出来上がってる。ただ、両方とも1回公演やから非常に難しいねん。僕の落語会でも1日目って、みんな緊張するのよ。出てる人間もそうやけど、お客さんもね。いやっ、『三競演』は1回公演でええのよ、1回で(笑)。

――では、最後に『夢の三競演』の魅力をアピールしてください。

文珍兄さん、南光兄さんっていうのは本当に大阪が作った素晴らしい噺家ですから、一緒にコラボできるいうのはうれしいし、その中に入って、ようここまでやってこれたと思うわ。こういうハードルの高い人たちの中に入ってるっていうのは、幸せやなぁ。お兄さんたちも、僕が違う空気を持ってくるから、面白いと感じてもらえると思うしね。

 

取材・文/松尾美矢子
撮影/大西二士男




(2016年10月14日更新)


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笑福亭鶴瓶
しょうふくていつるべ●1951年、大阪府出身。1972年、六代目笑福亭松鶴に入門。8本を超えるレギュラー番組を抱えテレビで見ない日はないほど。2016年は映画『後妻業』も公開され、話題を呼んだ。

夢の三競演2016
~三枚看板・大看板・金看板~

11月6日(日)10:00~一般発売

Pコード:454-499
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9540(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。

▼12月26日(月) 18:30
梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
全席指定-6500円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局
[TEL]06-6371-0004

チケット情報はこちら

『夢の三競演』演目一覧

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』

2015年
桂南光『抜け雀』
笑福亭鶴瓶『山名屋浦里』
桂文珍『セレモニーホール「旅立ち」』