A級MissingLinkの『或いは魂の止まり木』再演で
“植物的”な土橋作品を“ハードボイルド”の竹内が演出!
大阪を拠点に精力的な活動を続けているA級MissingLinkが、2014年に第58回岸田國士戯曲賞にノミネートされ、第21回OMS戯曲賞大賞を受賞した土橋淳志の『或いは魂の止まり木』を上演する。演出は、読売演劇大賞優秀演出家賞をはじめ、数々の演劇賞を受賞してきた実力派・竹内銃一郎だ。
2012年の「現代演劇レトロスペクティヴ」にて、竹内銃一郎初期の名作『悲惨な戦争』(2012年)を上演したA級MissingLink。その後、竹内が書き下ろした新作『Moon guitar』(2014年)を上演するなど、創作活動を通して交流を深め、今回は竹内を演出に迎えて作品を創作する。
物語の軸となるのは17年前、とある事件をきっかけに父親が失踪した倉田家。2014年の創作当時は、「東日本大震災後に家族劇を描いたら、どのようになるのか検証したくて作った」と土橋。それから約3年を経て、「この作品の中で強い父親は描かれていないんですけど、今後も強い父親が復活することはないだろうという思いは変わらない」と話す。
再演の狙いでもある竹内の演出については、「僕がやっているときよりも役者の魅力が引き出されている気がします。改めて“いい役者だな”と思ったりとか(笑)」。その演出の印象を尋ねると、「ハードボイルド」と答えた。「『Moon guitar』もハードボイルドだったんです。ハードボイルドって何だろうと調べてみたのですが、一般的には“簡潔で、スピーディーで、感情や感傷に流されないとされているものがハードボイルド”とされていて。そこに僕は、禁欲的であると加えました。欲をかいていては、ハードボイルドでは様にならないと思って。竹内さんが『Moon guitar』を書いてくださったとき、なぜこの作品をA級に書き下ろしてくださったのかと考えたんです。そのとき、個人的に欲を捨てろと言われているのかなと(笑)。劇作家として何か新しいものを作りたい、時事的なネタを取り入れた作品を作りたいとか、その方がウケるやろうとか、そういう欲を控えろというふうに竹内さんは作品を通しておっしゃっているのかなと僕は思っています」と話す。
そんなハードボイルドな演出だからこそ、役者が魅力的に見えると土橋。「竹内さんがよく“俳優は、男でも女でも色っぽ方がいい”とおっしゃるんです。欲を捨てることによって色気みたいなものが出てきているんじゃないかと思って感動します。そういうアプローチがあるのかと」。
そう語る土橋の横で「自分ではよく分からないけど」と笑う竹内。土橋の印象について聞いた。「今、読んでいる本が前田英樹さんの『小津安二郎の喜び』というものなのですが、その本の中で小津は植物的だと書かれてあるんです。こんな簡単には書いてないのだけど。土橋くんも植物的ですよね。草食男子とかそういうことではなく。前田英樹さんが言うところによれば動物的というのは闘争したり、支配したりと、そういうもの。土橋くんはそうじゃないから」。
“植物的”な土橋が書いた本作には、はっきりとした対立の構造は見えない。登場人物たちは、大きな事件が起こっても肯定して、受容していく。そんな作品をどう見せるのか、改めて竹内に聞いた。「何か対立が起こると観客は“おお!”っと思うもしれないけど、そういうことがない。それをいかに輪郭をくっきりと描いて提出するかというのが僕の仕事と思います」。
A級MissingLinkの『或いは魂の止まり木』は、7月15日(金)~18日(月・祝)まで伊丹・アイホールで上演。チケットは問い合わせ先まで。
(2016年7月14日更新)
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