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ホーム > インタビュー&レポート > 「“本物”のつか芝居を観てほしい」 つかこうへいの真髄を知る 劇団☆新感線のこぐれ修演出で 『広島に原爆を落とす日』を上演!

「“本物”のつか芝居を観てほしい」
つかこうへいの真髄を知る
劇団☆新感線のこぐれ修演出で
『広島に原爆を落とす日』を上演!

劇団☆新感線のこぐれ修がプロデュースするカンパニー・こぐれ塾が、つかこうへいの『広島に原爆を落とす日』で初の大阪公演を行う。公演に向けて、演出のこぐれと主役のディープ山崎を務める田谷野亮、ヒロイン重宗夏枝役の永池南津子、ビアンカ役の安座間裕子に話を聞いた。

1979年、大阪芸術大学の学生であったこぐれと新感線の演出家・いのうえひでのりが、本作の初演を観て衝撃を受けたことをきっかけに劇団を旗揚げしたという、こぐれにとって思い入れの深い作品。「『広島~』はいつかやりたいと思っていたんですが、重宗夏枝を演じられる人間と、風間杜夫にしかできないと言われたディープ山崎を演じられる役者が見つからないとできない作品。誰でもできるものじゃないんです。それが、永池南津子と田谷野亮のふたりに出会い“これならできる!”と確信しました」と、上演の経緯を語る。そして2016年1月、東京芸術劇場で7ステージを行い、連日満席、1600人を動員した。

東京公演は、1998年にいのうえひでのり演出、稲垣吾郎主演で上演した際の2時間15分の台本を使ったが、今回の大阪公演は「『広島~』の原型をやりたい」と、つかこうへい初演版の1時間45分の台本で上演する。「どうしても本物のつかこうへいを見せたいという思いがあるんです。僕はリアルタイムで観たので、どのカンパニーで上演されているのを観ても“何か違うな”と思ってしまう。極論で言えば僕しかできないと思っています。つかさんのお芝居は役者の肉体で魅せる芝居。ノーセットで小道具もないんです。そうすることで、つかさんの言葉をお客さんがちゃんと受け取ってイメージを膨らませることができる。この舞台で、つかこうへいの原点をしっかりと観ていただきたいですね。東京公演とはまた異なるテイストになると思います」。

作品のタイトルは衝撃的だが、テーマは“愛”。第二次世界大戦を背景に、究極の愛が描かれている。「作品のタイトルがなぜ“落とす”なのか。つかさんが言うには、“落とす”というのは、人間がある意思を持って落とすことになるんだ、と。明らかに人が人を殺めるという意図があって“落とす”んだと。たまたま落ちたとか、落とされたではなく、確実に落とす。これはつかさんならではの痛烈な戦争批判だと思いますし、もし人を愛するということがなくなると、平気で原爆のボタン押しちゃうんだよ、ということも訴えている。戦争批判と共に、“愛すること”を描いているんです。戦争が犯した悲惨さというのはこういうことなんだと、演劇で伝えたいですね。僕が観たときに受けたエネルギーを近鉄アート館でぶつけたい。かつてつかさんの芝居を観た人が観ても全然負けないもの、むしろ超えていると思っていただけるくらいの芝居を作りたいと思います」。

本作の主人公ディープ山崎は、2万語を喋る役と言われるほどにエネルギーを要する役どころ。かつてはアメフト選手として活躍し、日本一を経験したという田谷野でも、東京公演の稽古中に酸欠状態になるほどだった。「1時間45分の芝居の中で、1時間35分は喋っているような役。そんな役に挑戦できることはすごく嬉しいのですが、実際やってみると想像を超えるしんどさでした。最後の“誇りを持って広島に原爆を投下する”というセリフを延々と喋るシーンが一番の見せ場で、お客さんに考える暇を与えないくらいのエネルギーとスピードで圧倒して、置き去りにしないといけない。“風間杜夫にしかできない”と言われたこの役を、同じ初演版でできるのはとてもワクワクしています。自分にしかできないと思われるくらいの熱量で演じて、“なんかすごい芝居を観た”“すごい役者がいたな”と思っていただけるものにしたい」と、意気込む。

また、こぐれに「目を見た瞬間に『広島~』ができると思った。圧倒的に他とは違うものを持っている」と言わしめた夏枝役の永池は、「大変な役ではありますが、すごく魅力的な作品だし、魅力的な役なので、やっているうちに楽しくなってきました。今、世界中でテロが起きている中で、日本の特攻隊と呼ばれる人たちの心理と彼らの心理の違いとか共通点を考えるきっかけになったりもして。原爆を落とす命令を私が山崎にする。その命令を受け入れた山崎が、自分の意思で原爆を落とす。でもそれが究極の愛で…。すごく重いことですけど、考えられる機会を与えていただいて、とてもありがたいなと思いながら演じています。今回は初演版ということで、新たな気持ちで読み返して稽古をして、大阪の舞台に立ちたい」と語る。

そして今回の大阪公演が初舞台となる安座間は、ソロモン諸島の原住民ビアンカ役。日本人の恋人にひどい仕打ちを受けながら、一途に思う女を演じる。「飲みの席でこぐれさんと出会って声をかけていただいたのですが(笑)、台本を読んでやらないという選択肢が見えなかったですね。東京公演に出ていないので、出来上がっているところに入る緊張感はありますが、周りの人たちに支えていただきながら、新しいビアンカがしっかりなじめるように稽古しています。ビアンカはまっすぐで純粋な子なので、日本兵と関わっていくところでどれだけの思いを伝えられるかが大切だなと思っています。私は沖縄出身で、戦争の名残がある環境で育ってきたので、戦争によって失われた命とか愛とか、考えるところが多くあります。『広島~』を観て、こういう戦争の伝え方があるのだということを感じていただけたらと思います」。

「まだ名もない若手俳優たちですが、どこのカンパニーにもできない“本物”を見てください!」と、こぐれが一片の迷いもなく、自信を持ってお届けする『広島に原爆を落とす日』。つかこうへいの真髄を受け継ぐ彼らの舞台を、お見逃しなく!

 

取材・文:黒石悦子





(2016年4月28日更新)


Check
(写真左より)田谷野亮、永池南津子、安座間裕子、こぐれ修

こぐれ塾公演「広島に原爆を落とす日」

発売中

Pコード:450-399

▼5月21日(土)14:00/18:00

▼5月22日(日)13:00

近鉄アート館

全席指定-4500円

[作]つかこうへい

[出演][演出]こぐれ修

[出演]田谷野亮/永池南津子/小谷けい/加藤亮佑/大西輝卓/中川拓也/岡田涼/林田葵/ちゃんてじょん/安座間裕子

※未就学児童は入場不可。

[お問合せ先]2016hiroshima@gmail.com