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破門3回…それでもなお、まい進する落語道とは?
東京・イイノホールで師匠、笑福亭鶴瓶との自身初の
親子会開催を機に笑福亭べ瓶にインタビュー!

出自は上方だが、現在は拠点を東京に移し、落語界の荒波に揉まれに揉まれ中の笑福亭べ瓶が、2015年12月13日(日)に東京・イイノホールで師匠・笑福亭鶴瓶と初の親子会を開く。近年では落語コンテストの決勝でもおなじみとなり、2015年は1月に「第52回 なにわ芸術祭」新人奨励賞を受賞し、6月に「第一回 上方落語若手噺家グランプリ」準優勝となるなど、めきめきと頭角を現している。2002年の入門から13年、この間に破門になること3回。七転び八起きの落語道とは一体…? 初の親子会を前にして、その心境を聞いた。

――親子会を開くのは、べ瓶さんが一門で6人目とか。キッカケは何だったんですか?

僕から『やらして下さい』とは言えないですからね。そんな芸歴もないし、実力もないし。けど、親子会は弟子の一つの目標。そしたら今年の初夏、一緒にタクシーに乗ってる時に師匠から『やったってもええで』と。で、『それでしたら、東京でやってもらえたら』とお願いしたんです。実は、親子会を東京でやらしてもらうのは僕が初めてで、そういう意味でも嬉しいですね。『上方落語若手噺家グランプリ』の決勝の前で、こんなん言うていただいたんやから頑張らなアカンなと刺激にもなりました。

――どうして鶴瓶師匠が親子会を提案してくださったと思われますか?

言ってもらった瞬間は、ようやく認めてくれたと思ったんですよね。けど2、3日経つと、師匠の優しさやなと。兄弟子もぎょうさんやってるし、僕も芸歴が15年ぐらいになってきたので、東京でいうとそろそろ真打じゃないですか。だから、その前に『ちょっとやったろか』っていうようなとこやと思います。けど、言っていただけるっていうのは、どんな理由であれ有難い。素直に受け取って、がんばろうと思います。

――親子会に臨むにあたって、不安や緊張は?

それが、ないんですよ。今まで師匠の独演会の前座とか、一門会の出番とかもいただいたりしてるんですけど、メッチャやりやすいんですよ、うちの師匠のお客さんって。今回も、師匠のファンの方がたくさん来てくれはるやろうし。そん中には、僕の会にもよく来てくれはる方も1、2割はいてはると思うので、悪い空気になるはずがないと。

――ただ、親子会は師匠の独演会の前座や一門会の出番とは意味合いが全然違います。

師匠にぶつかり稽古してもらうというか、十両の力士が白鵬に稽古してもらう感じですよね。当たると、たぶん師匠の本当の強さが分かると思うんですよ。今回は、ぶつかる機会を与えていただいたのかなという気はしてます。もしかしたら、これを経験してみて師匠とやる会は緊張するのかも知れませんね。今は分からんままやってる感じですから。

――当日の演目は何を考えておられますか?

僕、鶴瓶、僕、中入り、鶴瓶っていうプログラムで、中トリの一席はほぼ決めてます。8年以上前からやってるネタなんですが、噺の内容で腑に落ちないことがずっとあって。そこが今年に入って、やっと『こうしたらいいんだ』っていうのが自分の中でわかってオチを変えたんですよ。すると、すごくやりやすくなって。今、一番気持ちを上手くコントロールしてできるかなと思ってるので、師匠に聞いていただきたいなと。もう一席は、その場のモチベーションというか、自分の気持ちに合ったネタをやらないとアカンかなと。

――ちなみに現在の持ちネタの数は?

35本ぐらい。覚えられないんですよ(笑)。いやっ、覚えられるんですよ。でも、自分の中で納得しないと次のネタに行けないんです。話す技術は大事なんですけど、それ以上に生きて来た人生の濃さとか、覚悟とか生き様が舞台に出ると思ってるんですね。だから、自分がふわふわした状態では上がりたくないんです。30代になってから、そういうことをすごく意識するようになって。噺を覚えるのも、もちろん所作とかは大事なんですけど、ここはどういう気持ちなのか、これを聞いた嫁さんはどういう顔するのかとか…。今、東京に住んでるので、東京の落語家っていうのは数を覚えていくわけですよ。寄席があって毎日のように出番があるから、少しでもネタ数を増やさないと『また、あのネタやってる』と思われるからね。その人達と勝負するには、一つ一つのネタにちゃんと気持ちを入れてやらないと勝てない。持ちネタは少ないですけど、そのネタを全部喜んでいただけるようなクオリティーにしたいなとは思ってますね。100本中20本勝負できるっていうより、35本あって35本とも勝負できるっていう方がカッコイイと思うので、目指してるのはそこ。だから、なかなかネタが増えないんですよね…っていう言い訳もしつつ(笑)。

――「鶴瓶噺」のように、日常雑記を長めに語られるマクラが、べ瓶さんの特色にもなってきました。親子会では、本家の鶴瓶師匠を前にマクラはどうされますか?

実はそこを迷ってるんです。1席目のマクラを長くしゃべって短いネタをやるのか、前座として15分ぐらいネタだけしてポンと下りた方がいいのか。そこは出番の5分ぐらい前まで迷ってると思います。ただ、『きらきらアフロ』の前説を約2年やらしてもらってて。前説もいうたらマクラじゃないですか。それを師匠も見てくれてると思うんで。自慢じゃないんですけど、芸のことでは怒られたことないんですよ。普段の生活は、死ぬほど怒られますけど(笑)。だから、僕がやろうとしてる方向は間違ってないのかなとは思ってます。だから、例えば師匠が『マクラを振らんとやった方がいい』と思っていた。にも関わらず、僕がマクラをふってメチャメチャうけたとする。けど、師匠はその方がいいんです。結局、どんな会であっても対“お客さん”ですから。もちろん師匠に喜んでもらうというのはあるんですけど、一番はお客さん。お金払って、その時間を買ってくれてるんですからね。

――では、今回の親子会への意気込みを聞かせて下さい。

心の中では沸々としたものはもちろんあるんですけど、究極はどこまで普段通りにできるかですね。変に力が入ると、変なことになるんで。そこですね。

――弟子にとって師匠との親子会は一つの目標と言われましたが、今に到るまでに何と3回も破門になったそうですね。

破門になった時期は、全部20代。どっか世間をなめてましたしね。変な自信があったというか。『20代やから許してくれるやろ』みたいなのがあって。それが30代になると、シャレで済まなくなってくる。3回の破門で普通の仕事もしたので、世間って甘くないっていうのが身に染みて分かりましたし、戻ってきてからというのは変わりましたね。ずっと覚悟をしてる姿を見せ続けないとダメですし、1回でもブレちゃうと一気にリセットされる。例えば少ない会だとお客さんが10人とか20人とか。けど、そこで手ぇ抜いたりしてると、その20人は次は絶対来てくれないし、全力でやったかて次来てくれる人が何人いてるかっていう話ですよ。だから、まずは落語を好きな人に『こいつ、おもろいな』と思ってもらわないと、若い子や落語を聞いてない人に喜んでもらう、なんてことはありえないんですよ。3回目の破門を経て、お客さんが5人だろうが1000人だろうが、TVだろうがラジオだろうが、全部同じ気持ちでやろう、絶対手を抜かんとこと思うようになりました。だって、落語が面白いから、この人の芝居も行こう、この人のTVも見ようってなると思うんですよ。うちの師匠は特例なんでね。突然変異というか、ホワイトタイガーみたいなもん。弟子になったら、最初は自分もホワイトタイガーでいけると勘違いするんですよ。けど、ある日気づくんですね、『俺は普通の虎や』と。じゃ、どういう努力をしないといけないかっていうのは、そこで見えてくるんですね。それに気づいたのが30代。

――3回の破門は、べ瓶さんの転機であり、原点なんですね。

東西800人の落語家の中で、3回も破門になってるのはたぶん僕だけなので。それを糧にしないと意味ないですからね。うちの師匠には、3回破門になっても戻してもらったという恩がある。何よりも代えがたい恩ですよね。死ぬ時に3回破門になって良かったと思いたいんですよ。そういう気持ちで生きていきたいので、他の噺家さんが経験できないことをできたっていうのは、結果的には凄い財産なのかなとは思いますね。

――実際それを糧として、ここ1、2年は数々の賞レースで結果を残しておられます。

ただ、『なにわ芸術祭』が新人奨励賞で俗にいう2位。『上方落語若手噺家グランプリ』も準優勝。『NHK新人落語大賞』も2年連続で決勝に残らしてもらったんですけど、全部優勝できてないんですよ。でも優勝してしもたら、また調子に乗ると思うんです(笑)。俺、いけてるんちゃうかと、4回目(の破門)に繋がるわけですわ。目に見えない何かに『ここまでは認めたるけど、こっからはまだ全然アカンねんで』って言われてるような気がして。

――優勝に今一歩届かないのは、何故だと自己分析されますか?

僕にはまだ優勝する品格がないんです。けど、こんな人生歩んでる以上、ここ1、2年で直せないからね(笑)。でも、笑いという世界の嬉しいのは、別に正解がないということ。感覚というか、その場のムードで生きている僕みたいな人間からすると、答えがないのが救いですね。

――最後に、目指す落語家像を教えて下さい。

理想はうちの師匠なんですが、目標が高すぎて…。オリンピックでいうと、十種競技のチャンピオンになりたいんです。世間って、どうしても一芸に秀でた人の方が目立つんですよね。でも、僕は十種競技のチャンピオンが人類で一番すごいんちゃうかなと思てるんですよ。もちろん落語がメインなんですけど、お芝居であったり、テレビやラジオの仕事であったり、色んなことをコツコツやって、最終的に『あいつはトータルでやりよんな』と言われるような落語家になりたいなって。だから、まず落語という競技で上位の選手になっとかないと。でないと、次の競技に進めないですからね。
 
取材・文/松尾美矢子



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(2015年12月 9日更新)


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笑福亭べ瓶
しょうふくていべべ●1982年年10月16日生まれ、兵庫県西宮市出身。2002年5月1日に笑福亭鶴瓶に入門。趣味は映画鑑賞(恋愛もの以外)、スポーツ観戦。平成27年なにわ芸術祭新人奨励賞、第一回上方落語若手噺家グランプリ準優勝。

笑福亭鶴瓶・べ瓶親子会

発売中

Pコード:448-216

▼12月13日(日) 13:30
イイノホール
指定-3500円
[出演]笑福亭鶴瓶/笑福亭べ瓶
※未就学児童は入場不可。
[問]アイランドプロモーション
[TEL]06-6136-8430

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