ホーム > インタビュー&レポート > 三者三様の高座が魅力の『夢の三競演』 “最も本気度の高い男”笑福亭鶴瓶が語る 落語と落語家のはなし
――鶴瓶さんにとって、2015年で一番特筆すべき出来事からお聞かせください。
笑福亭鶴瓶(以下・鶴瓶)「タモリさんが2013年に『ブラタモリ』という番組で、東京の吉原に行って聞いてきた話があってね。『それええやん』って言うと『落語にしてくれ』と。武士も出てくるし、花魁も出てくるから、東京の噺家にやってもらったらどやろと言うたら、『あんたにしてほしい』。そこで、落語作家のくまざわあかねさんと小佐田定雄さんを呼んでタモリさんに会わせたんです。で、去年の暮れにあかねさんが『山名屋浦里』いう噺に仕上げてくれて。色んなところでドンドンやり出したら、完全に形ができてきたんですよ。初めはエライ難しいなと思たけど、段々好きになってきてね」
――留守居役の田舎侍と、吉原三千人のトップになった浦里花魁の物語ですね。
鶴瓶「この侍が留守居役の寄合の座敷へ浦里に来てほしいと、山名屋の主人に頼みに行く。マクラで歴史や背景もちゃんとしゃべりますが、なぜ花魁がこんな田舎侍のとこへ行こうと思ったかっていう。花魁っていうのは、客が行っても1回目、2回目はモノも言わない。ようやく裏返して3回目になってしゃべり出すという。ツンデレというんか。それと人に情を見せないんです。実は、『情を見せずは花魁の美』っていう言葉を見つけてね。人前で道中してたって、情は見せない。しかし、この侍が初めて見た花魁道中で、浦里が禿(※かむろ・遊女に使える童女)がこけたことに気を遣ってる姿を見るんですよ。キレイだけじゃない。人前で堂々と情を見せるって素晴らしいなと。侍がなぜ浦里を好きになったのかということを、トツトツと山名屋の主人に説明しているのを花魁が立ち聞きして。浦里は12歳の時から大門の中にずっといてるじゃないですか。頭もいいし、トップですよね。しかし、そういうふうに見てもらったことがない。私のことを必死に思ってくれてるというのが分かって…。その中の台詞に僕が言葉を付け加えたんです。それを付け加えないと、なんでそんなとこへ行くねんってなりますからね」
――噺に説得力が増しました。
鶴瓶「もう一つは、田舎から出てきた侍が、留守居役の仲間にいじめ倒されるんですよ。自分とこの藩がバカにされてると、悔しくてね。その場面もすごく入れましたんで、メリハリがついたと思います。それと、侍と花魁の間に友情が芽生える瞬間もラストに作ったんですね。一緒なんですよ。いじめられてる田舎侍と、大門の中にいる花魁とは。同志みたいなね。花魁も三千人のトップにいたって、体を売ってなんぼやと。今この時点では、吉原からは出れないという」
――では、今回の『夢の三競演』の演目は「山名屋浦里」に決定ですか?
鶴瓶「今のところ、この噺をしようかなと思てるけども、まだ分からないですね。東京の噺で『粗忽長屋』もええかなと思て。昭和62年にやったんですが、もうやめとこと思てたんです。それを、15~16分のネタが、も一つあったらええなと思って最近掘り起こしたんですね。根本的に、登場人物が本当に粗忽なんですよ。あれを難しい噺やと思たらアカンのです。そんな奴おるでしょ。悪い人じゃないねんけど、何言うてるんや分かれへん、話がかみ合わん人(笑)。『大丈夫?』て聞いたら『大丈夫』て答えるんですけど、大丈夫じゃなかったりすることが多いという。その例が(桂)春之輔兄さん(笑)。(天満天神)繁昌亭で『粗忽長屋』をやった時に、『春之輔です』と言うたら客席が爆笑しましたもん。噺家って、そんな人多いんですよ。落語に出てくる人物か、落語家かの、どっちかですよ。落語世界の住人は悪い奴はいないんですけど、別にそないエエこともない(笑)。うちの弟子でもそうなんです。稽古つけてくれ言うて『師匠忙しいから、テープいただけないでしょうか?』。『何すんの?』て聞いたら『泥棒のやつで』。『泥棒の何?』『泥棒に入ったら、そこの家の女の人も泥棒や言うて、引っ越しするんです』。『なんちゅうタイトル?』『だから、泥棒に入るでしょ…』。タイトルが全然出てけえへんねん(笑)。これも落語に出てくる人物ですよ。落語家じゃないですよ。サンプルが周りにいてるから、ものすごいやりやすい。『粗忽長屋』を何か難しそうにやるからイカンのであって、根本が分かってりゃ、メチャメチャおもろい話ですよ」
――鶴瓶さんご自身は、落語家さんですか?落語世界の住人ですか?
鶴瓶「文珍兄さんや南光兄さんは落語に出てくる人物じゃない。完全な落語家ですよ。俺がギリギリ落語に出てくる人物か、どうかですよね(笑)。あまりにもキッチリしてると『粗忽長屋』はできないですよ。だから、落語を理解した、落語に出てくる人物かも分かりませんね」
――監督兼プレーヤーみたいな…。
鶴瓶「そうそう、プレーイングマネージャー。落語に出てくる人物でありながら、お客さんがどこで笑うかも分かるわけですよ。例えば今日もね、家帰るのに鍵がどこいったか全然分からんのよね。ハリ治療に行ったら、たまたまズボンをさかさまに履いてしもて。ポケットに家の鍵を入れてたんですよ。で、タクシーの中で分からんように履き替えたんですが、タクシーを下りようと思たら鍵がない。えらいこっちゃ。家の手前で停めてもろて、『すいません。鍵が…』。ほんだら、運転手さんが『ここにあるかも分かりません』てガッーとシートを上げてくれはってね。でも、ないなぁと。絶対ポケットに入れたんやけどなと思てね。ほな、運転手さんすごいよ。『いっぺん、カバンの中身を全部出しはったらどうですか』と。バッーとひっくりかえしたら出てきてん(笑)。これって、完全に落語に出て来る人物でしょ。でも、僕はこれをしゃべれるんです。春之輔兄さんは、しゃべれないんですよ。だから僕は、やっぱりプレーイングマネージャーです」
――他に、『三競演』の演目で候補はありますか?
鶴瓶「例えば、『打飼盗人』とか。元々やってたんですけど、中に出てくる『ヘテなぁ』っていう台詞が非常に難しいんですよ。昔は『申しかねますが』て換えてたんやけど、やっぱり『ヘテなぁ』にした方が合うなぁと思うし。失礼ですけど、あれは二代目(桂)春団治がメチャメチャ上手いんですよ。二代目は、普段言うてはったと思いますよ。ほんとに、日常で口についてる『ヘテなぁ』でないと。僕ら、『ヘテなぁ』て言えへんからね。『ヘテなぁ』の説明をしてから入った方がいいかも分かりませんね。だから、死語になった大阪弁を集めてマクラでふっといたら、『ヘテなぁ』は生きてくんのとちゃうかなと思いますね」
――冒頭から落語の話を熱く語っていただきましたが、8本のレギュラー番組を抱えながら…というのが驚きです。また今年はドラマ『レッドクロス』や、来秋公開予定の映画『後妻業』などにも出演、CMにもたくさん登場されています。落語とマスコミの仕事とのバランスをとるのも難しいのでは?
鶴瓶「変な話、看板ができだすとお客さんは期待するじゃないですか。ネタ下ろしが大変なんですよ。ちょっと飛び入りしたって期待されるわけでしょ。この人、何するんねやろと。すると、下手うてないわけですよ。ネタ下ろしやからいうて、全然ダメなネタ下ろしはできないんですよね。ある程度、自分がやって良かった、聞いて良かったと思てもらえるぐらいにならないといかんから、それが大変ですよね。有難い話、CMもいっぱいやってるでしょ。で、テレビの仕事もするでしょ。その間も、やっぱり毎日稽古しとかなアカンし。絶えずやっとかなイカンのですよ。怠けようと思ったら、あっという間に2日ぐらい経ちますもん」
――その原動力は何ですか?
鶴瓶「ん~ん。(桂)文枝のお兄さんがいて、この3人がいて…。でも、何人かしかいないわけですよ、大阪は。全国にアピールできる連中っていうのが非常に少ないわけですよね。大阪でものすごい知られてたって、東京へ来たらチケットが即完するかいうたら、しないじゃないですか。東京の噺家は大阪に行ったら即完しますよ。世間一般の人が名前を知らんでも、 (立川)志の輔にしても、(立川)談春にしても、(柳家)喬太郎にしても、強烈に客が入るわけですよね。大阪にも刺激を持つメンバーが何人かいないと。ただテレビに出てるから客が入るなんて、ありえないわけですよ。お客さんは、その人のエネルギーを舞台で見て、次も行きたいって思いますからね。だから、やるからには絶えず手を抜いたらダメなんですよ」
――常に、鶴瓶さんの核には落語があるという。
鶴瓶「談春が書いた『赤めだか』っていうエッセーが、ドラマになりましてね。(ビート)たけし兄さんが立川談志、嵐の二宮が立川談春の役で。『赤めだか』がいいって聞いてたんですけど読む時間がなくて、飛行機の中で読んで号泣したんですよ。それで『これエエわ。絶対、映画かドラマにしたらエエんちゃうか』って、一言うてしまったことがドラマになって。別に俺が決めたわけじゃないねんけど、『ええんちゃう』って言うてたのが決まったもんやから、あまりに変なことも言えないんですよね(笑)。でも、落語家をクローズアップしてもらえるようなことが一番大事で、落語というものがいかにクローズアップされるかという思いが常にありますね。まぁ、若手がもっと出て来たらいいんですけど。逆に言うと、(月亭)方正や、(桂)三度が落語家になってくれて良かったと思うしね。あいつら、本気でやりますから。それに対して、他の落語家が刺激を受けないとね」
――超多忙な中でも、年間100席を超える高座を務められています。
鶴瓶「とにかく100席は超えるねんけど、文珍兄さんなんか年間600席ぐらいやりますからね。文枝のお兄さんもそうですし、志の輔さんでも600~700でしょ。僕ら、ようやく100超えるという。高座に上がるまでに何しようかと、ずっと練って練って上がりますからね。だから、それがエネルギーでしょうね」
――すごい熱量を感じますが、『三競演』もお三方の情熱がぶつかり合う熱い落語会です。しかし、文珍さんは最初は“お祭り”にしたかったのに、段々みなさんの本気具合が増してきたと(笑)。
鶴瓶「それが嬉しいですよね。元々、『お前、せえへんか』て言うたんは文珍兄さんやからね。11年前ですから、『文珍・南光二人会』でいいんですよ。『俺、いやや』言うたんやけど、第1回は『「らくだ」せぇ』と。初めは、遊びぐらいの気持ちで言うてはったんやと思うけど、今のようになってきて。だから、逆に良かったんですけどね」
――南光さんも、一番、本気度の高いのは鶴瓶さんだとおっしゃってました。
鶴瓶「そうしないと、勝ち負けじゃなくバランスとれないですよ。あのふたりは、やっぱり飛び抜けてますよ。もちろん文珍兄さんなんか、みんな分かってるやろけど、南光兄さんは東京へ出えへんからね。本気で東京に向けてやったら、あっと言う間に日本一になりますよ」
――今年もホットな落語会になりそうです。最後に三競演の魅力をお聞かせください。
鶴瓶「出番順に関係なく、文珍のステージ、南光のステージ、鶴瓶のステージであって。それも、それぞれのステージが戦いじゃなくて、3つの良さを見ていただけるって、いいんじゃないかなぁ。高座に何分という制限もないし、40分やってもいいわけで。そこは、ぜひ楽しんでもらいたいなと。大阪にこういうのが生まれたっていうのを、ほんとにありがたいなと思いますね」
(2015年11月 9日更新)
Pコード:446-295
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9510(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。販売期間中は1人4枚まで。
※販売期間中は1人4枚まで。
▼12月25日(金) 18:30
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
全席指定-6500円
[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶
※未就学児童は入場不可。
[問]夢の三競演公演事務局
[TEL]06-6371-0004
2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』
2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』
2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』
2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』
2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』
2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』
2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』
2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』
2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』
2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』
2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』