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実はテーブルの下で足を蹴り合っている!?
桂文珍曰く「ただの仲良しではない」
『夢の三競演』の真髄に迫る!

桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という上方落語界の人気スターが一堂に会し、年に1度の三人会を繰り広げる『夢の三競演』。鶴瓶が本格的に落語を始めるきっかけともなったこの会も10回を超え、いまや上方の冬の風物詩ともなっている。ぴあ関西版WEBでは2011年より毎年、開催を前にお三方にインタビュー。その年の演目についてはもちろんのこと、気になっていることや落語への思いをたっぷりとご紹介、こちらも恒例の記事となっている。2015年版では、まずは『夢の三競演』のリーダーともいえる桂文珍に話を聞いた。

――今年は、第25回を迎えた『彦八まつり』の実行委員長をされました。

桂文珍(以下・文珍)「あんなゆるいの初めて見た(笑)。私、ちょっと真面目に生きすぎたかなと思て反省したわ。ゆるい奴ばっかり。けど、ゆるいからエエねんな。(桂)春之輔、(笑福亭)福笑、(月亭)八方、文珍が、弟弟子や自分の弟子を連れて『アタック25』をやったんやけど、ものすごい盛り上がってね。クイズバトルやのに、みながボケ合い。アドリブでボケてんのに、あとで冷静に見たらようでけてんねん。福笑さんは『春之輔、アホ』ばっかり言うて。最後の最後に春之輔さんが逆転して優勝したんや。ほで、『アホいうもんが、アホや』いうのがオチやねん。ムチャクチャおもしろかったわ。また、それを認めてるお客さんがすごい」

――「彦八まつり」は、落語家さんと直接触れ合える年に一度のお祭りですからね。

文珍「(桂)きん枝君なんか、お客さんにサインしてくれとか、写真撮ってとか言われても腹も立てんと、一生懸命イカ焼きを焼いて。弟子の(桂)楽珍は、大相撲が雨で中止になったら、誰かにもろたホンマもんの赤の締め込みを締めてステージで土俵入りしたからね。ものすごい一生懸命やって。その努力をなんで落語にせんかと(笑)。けど、一番ゆるいのは(桂)文枝会長やった。ウクレレ持ってハワイアンバンドをやってんけど、後ろのメンバーが全部アマチュア。リハーサルの音合わせを事務所で聞いてた文枝兄貴が『あれっ?オープニングの曲やで。オープニングの曲を今からやってどうすんねん。素人はこれやからかなわんわ』。ほで、本番になったら、お客さんが『さっきの曲と一緒や』。で、最後の最後に『さっきの方が良かったなぁ』。6ステージもやってんで。ビックリしたわ。ほで、その翌日に文枝兄貴が『声でにくいわ』。思わず『素人!』って言うときました(笑)」

――文珍さんが考えられる、ゆるさの良さとは?

文珍「ゆるいっていうのは、ある意味の豊さなんやろね。効率ばっかり言うてたら確かに疲れるわなぁ。成熟といえば成熟。今日明日困るっていう話やないねんから、貧しい者も富める者も、みな笑てるみたいな。大事なこっちゃね。つまり、笑顔が好きな噺家連中が、一生懸命みなさんに笑顔になってもらいたいと思てやってる。笑顔が笑顔を呼んでいるというか。幸せの価値観は人によって違うやろけど、なんかそういう空気がええなぁと思て」

――ある種、演芸の原点ですね。

文珍「そういうことなんやろね。人間の持ってる愚かしさとか、危うさとかいうのが、みな共感の笑いを呼ぶというか。『そういうことあるよな』とか、『わしもそやねん』とか。こっちは演じながら、そのゆるさを忘れるとこやったけど、体で感じさせていただきました。勉強になりましたわ。このゆるさは財産やなと」
 
――また、今年は東京では恒例のリクエスト落語会を、関西で初めて開催されました。東西の違いは意識されましたか?

文珍「レディー・ガガのパロディーで、加賀温泉の女将や観光課のお姉ちゃんが“レディー・カガ”というて頑張ってはるねん。北陸新幹線ができて東京からお客さんが来るようになった。すると、面白いのは関西のお客さんは部屋へご案内すると『暑いなぁ』とか『冷えすぎや。温度変えて』とか言うんですって。関東からのお客さんは言わない。ほで、ご意見箱を開けてみたら『温度のことを聞いてほしかった』と。奥ゆかしい。その時は辛抱してはるねん。それをくみ取らなイカンということを初めて学びました、と書いてあって。非常に東西の分かりやすい例やと思てね。大阪の客は、店行って『まずいな』ってはっきり言う。東京の人は言わない代わりに2度と来ない。『まずいな』と言うてる方には、まだ愛情があんねん。2度と来なくなるのは、時間が経ってから分かることやからね。両方ともエエとこがあったり、悪いとこがあったりするねんけど、そういう意味では関西のお客さんは『金払ろた以上のもんを笑わしてくれ』と。目いっぱい、おまけが好きやね。ちょっと得した感じを喜びはんねん。それが関西人のエエとこでありぃの、本質を見失いそうになる危うさでありぃの。関西は実を取るのがお好きな方が多いですからね、そういうリクエストに応えないけません。ゆるいとこも好きやし、関西は面白いね」


F81_9432_t.jpg――そんな関西で生まれた『夢の三競演』ですが、今年の演目はもうお決まりですか?

文珍「『寝床』。(桂)枝雀さんがやってはったんで遠慮してたんですけど、今年ネタ下ろしをしましてね。どうしてこのネタが、みなさんに共鳴していただけるのかなぁって考えると、いつの時代もパワーハラスメントがあるという。それがキーワード。商家の旦那と使用人っていう立場が、パワーハラスメントっていう言葉に替ってるだけで。みんなエエ人ばっかりなんですけど、誰かがどっかで辛抱してて。辛抱するだけやなしに、何か悪いこともしててみたいな。そこが、あの話の面白いとこであり、生き残ってきた理由なんやなぁと。じゃ、自分で作る時に、こういう作品が残せるか?って問われてるような気もしますしね」

――『寝床』を演じられる際に、気を遣われることとは?

文珍「やっぱり使用人の困りですね。ほで、最終的には旦那が可愛いんですよ。あれが、やってて実に楽しいですよね。あの旦那は可愛いないとね。それと、長屋の連中が集まってきた場面を膨らますと、最後まで息切れするし、聞く方ももたれてくる。だから、パタパタと言ってるんですけど、その方がいいかなと思ってね」

――昨年は、初の『三競演』東京公演を実現させ、大成功に収めました。

文珍「面白かったのは、毎日放送の柏木宏之アナウンサーが大阪弁で場内アナウンスをしてくれはって。すると、アンケートに『柏木さんの声で嬉しかった』というのがあったんですよ。べチャッとしたしゃべりを聞いて何が嬉しいねんて思うけど、そういうもんなんやろなと。昔、キー坊(上田正樹)がサウストゥサウスを再結成して、忌野清志郎君のRCサクセションと日比谷の野音でジョイントライブをやったことがあるんです。その時に、僕がMCを頼まれたんですよ。『そんなん、ようしませんわ』言うたら、プロデューサーが『いいんです。キー坊が歌いやすい空気を作ったってください』と。何を求められてるのかなと思うやん。で、出ていって『文珍です』言うたら、大阪の客がいっぱいきてるねん。それが『うぉ~!』。『ほな、ぼちぼちいこか』とか言うたら、また『うぉ~』て盛り上がるねん。その役を柏木さんにやっていただいたという」

――柏木アナウンサーが、大阪の匂いを作ってくれたと。

文珍「関東にいてはるけど関西の空気を楽しみたいという人と、恋人に関西人を選んでしまったり、亭主が関西出身で引っ張ってこられた人とか。『怖いもの見たさに行ってみようか』って行ったら『面白かった』っていうことでしょ。それでエエと思うわ。ほんで、よくよく見たら、関西の方が歴史が古いのが分かって『あいたっ!』って思うんじゃないの。だから、情報化時代とはいうものの、肌触りで感じてない人が多いのよね。スマホでは情報をゲットしてるんですけど、空気をつかんでないから会場に行って初めて三人会の空気がわかるという。で、空気を作らないかんと思て、オープニングの口上で『こっからは、大阪弁だけしか使こたらいかんっていうルールにしまひょいな』と、普段使こたことない言葉を無理やり使うゲームにして。あれは結構ウケたね」

――そんな『三競演』も、今年で第12回を迎えます。お三方の雰囲気というのも変わってきましたか?

文珍「実は、並みの仲良し、傷のなめ合いの3人ではないんですよ。テーブルの下で足の蹴り合いしてるような(笑)。火花、火花、又吉君もビックリ!」

――我々が見えないところで、火花が散っているという。

文珍「ふたりとも、本気で来よんねん(笑)。南光さんなんか、ものすごいオモロイよ。真面目に来るからね。木刀ちゃうで、真剣でくる。鶴瓶ちゃんなんか、鉄砲撃ってくるからな。わやや。力をプールしてきよんねん。嫌な奴やで。でも、それを許し合えるというか。へぇー!そんな技、身につけたんや、とかね。それも確認できるし」

――おふたりの攻撃を、文珍さんも受け流すことなく…(笑)。

文珍「私もムキになって(笑)。アホですわ。彼らを迎え討たないとあかんからね。僕は空中戦かな。スクランブルかけたんねん。あいつら、無人偵察機使いよるからな(笑)。そういう良きライバルであり、刺激であり。やっぱり面白いね、あのふたりは。だから、そこを聞いていただき、楽しんでください。しかし、えらいこと始めたわぁ。こない熱い会になると思えへんかったんよ、最初は。たまに会うて、わぁ~とお祭りみたいにしよと思てたのに、本気になってきやがって。まぁ、そういう私が一番本気やったりして(笑)」
 
(取材・文/松尾美矢子 撮影/大西二士男)



(2015年10月26日更新)


Check
桂文珍
かつらぶんちん●1948 年、兵庫県出身。1969年、五代目桂文枝に入門。“生涯、全国ツアー”を宣言し、現代にフィットさせた古典&新作で、落語の面白さを伝える。今年は東京では恒例のリクエスト落語会を関西でも開催。

夢の三競演2015
~三枚看板・大看板・金看板~

11月21日(土)10:00~一般発売

Pコード:446-295
※発売初日は店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9510(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。販売期間中は1人4枚まで。
※販売期間中は1人4枚まで。

▼12月25日(金) 18:30

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

全席指定-6500円

[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶

※未就学児童は入場不可。

[問]夢の三競演公演事務局
[TEL]06-6371-0004

チケット情報はこちら

2011年~2014年
インタビュー一覧

【2014年】
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『夢の三競演』演目一覧

※登場順

2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』

2013年
桂文珍『けんげしゃ茶屋』
桂南光『火焔太鼓』
笑福亭鶴瓶『お直し』

2014年
笑福亭鶴瓶『青木先生』
桂文珍『御血脈』
桂南光『五貫裁き』