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「演劇を観たことがない人にも、騙されたと思って
観てほしい」ヨーロッパ企画の新作『遊星ブンボーグの
接近』について客演の川岡大次郎と、
劇団メンバー・永野宗典、本多力にインタビュー

主宰・上田誠をはじめ、メンバーそれぞれが映像、舞台、イベントなど多岐にわたる活躍を見せる京都の人気劇団・ヨーロッパ企画。彼らが集結する年に一度の本公演『遊星ブンボーグの接近』の大阪公演が10月10日(土)~15日(木)、グランフロント大阪北館4階・ナレッジシアターにて上演される。近年は、移動しながら物語を展開する移動コメディ、課題をクリアしながらゲートをひたすらくぐり抜けていくゲートコメディなど、企画性を重視した空間の中で、ユルい会話を繰り広げてる彼らが、今回は、文房具コメディに挑戦する。客演には、ヨーロッパ企画の舞台を原作にした映画『サマータイムマシン・ブルース』(2005年公開)に出演した川岡大次郎が登場。同映画で共演して以来親しい関係が続くというヨーロッパ企画メンバーの永野宗典、本多力と共に、今作について語ってもらった。

――川岡さんは、永野さん、本多さんと10年ぶりの共演ですね。

川岡「共演は10年ぶりですが、今までもちょこちょこ会ってるんです」

本多「ヨーロッパ企画の『ショートショートムービーフェスティバル』という短編映画のイベントで、監督として大ちゃんに短編を撮ってもらったりして。ヨーロッパハウスにも泊まってもらいました」

川岡「全然仕事関係なく、撮影で京都に来たときにヨーロッパハウスに行くと、メンバーが集まってくれて食事したこともありました」

永野「上田君のお父さん、お母さんがすごく気に入ってて(笑)。“大ちゃんみたいにならなあかん!”ってお母さんに言われました。“社交的で明るくて、声も大きいし、気持ちええ子やわ~!”って(笑)」

川岡「僕もめちゃくちゃ好きなんですよ。絵に描いたような良いご夫婦で。あと、ムロツヨシ君の舞台に本多君、永野君が出ているのを観に行ったりとか」

永野「パンフレットで対談もしましたし、公演は必ず観に来ていただいているんです」

川岡「そういう感じで、交流は10年間ずっとあったんです」

永野「けど、ちゃんと共演するのは10年ぶりですし、一緒に舞台をやれるっていうのはやっぱり嬉しいですね。プライベートの付き合いの方が多いので」

――川岡さんはヨーロッパ企画の舞台に出たいと思っていたんですか?

川岡「僕は『サマータイムマシン・ブルース』に出させてもらってから、ヨーロッパ企画の舞台を観始めたんです。でも、自分が出たいという発想はなかったですね。僕は映像から役者を始めましたし、もちろん素晴らしい舞台なんですけど、“自分がもしそこに立ったら”という想像はしたことがなかったですね。今回出演するにあたっては、僕が入ることによって、彼らの世界観を壊さないようにしたいです。いい意味では壊したいんですけど、“ちょっと噛み合ってないな”って思われないようにという、そんな怖さはあります」

――今までの客演の方々にはいないタイプですよね。

川岡「それ、僕も客観的に思うんですよ」

永野「いなかった。こんなに声が野太い役者はいなかったです(笑)」

川岡「10年前はそうじゃなかった?」

永野「いや、変わってないんだろうけど、深みが出てきた気がします」

川岡「確かに10年前のときは完全に映像役者で、舞台に立ったことがなかったんです。でも“サマータイム”をきっかけに、これは舞台を踏まなきゃいけないなと思って、この10年、舞台にも立ってきました。それで声質も変わったのかもしれないですね」

永野「何で舞台やりたいって思ったの?」

川岡「『サマータイムマシン・ブルース』は、いろんな人が出演していたんですけど、その中でも、永野君、本多君と、ムロ君の3人が僕からしたら新鮮だったんです。当時の僕にとって、小劇場出身の役者さんと出会うのは初めてでしたし、作品的にも人物形成をいかに緻密に作ってきたかというよりも、瞬間の人間関係や、相手のお芝居をちゃんと見て演じる観察力が大切で。映像だけやってきていた僕にとっては、あの現場で初めて、チームとして作る空気感というか、大学のSF研究会の空気感を作るっていうことをやって。そのときに、小劇場出身の役者さんたちは、こんなスキルがあるんだ!って思ったんです。育った畑が違うとこんなにも違うんだっていう刺激がすごくあったので、これからの役者人生を考えて、“サマータイム”以降は、舞台にも積極的に出るようにしたんです」

――上田さんが、川岡さんはラテンの熱をもたらしてくれるって仰っていましたけど、永野さんと本多さんが川岡さんに期待されていることはありますか?

永野「ヨーロッパ企画の劇の空間を埋めているのは、草食系のび太君的なキャラの人たちなんですよ。その中に、僕らが持ち合わせていないギラつきとか、最後列からでもちゃんと見えるくらいの容姿を持っている人が入るので…(笑)」

川岡「目と耳が大きいですからね」

永野「その顔立ちとか、華やかさはすごく見応えがあるんじゃないかなっていう気がしますね。あと、10年前は『サマータイムマシン・ブルース』で、コメディに苦労しているのを見ていたので、“10年経ってどうなのかしら?”って、腕組んで見たいですね(笑)」

川岡「でも僕、大阪の笑いの殿堂・なんばグランド花月の舞台に立ったんですよ! 間寛平さんと一緒に舞台に立ちました。しかも1ヵ月間、『吉本百年物語』で」

永野本多「すごい!」

川岡「もう僕、超えてますよ(笑)」

永野「喜劇人やん!」

川岡「関西の笑いといえばNGKですから!」

本多「僕も15分だけ、ヨーロッパ企画の短編でNGKに立ったことあります。永野さんは出てなかったですけど…」

川岡「さっき上から目線で言ってたけど、こっち殿堂踏んでますよ」

永野「失礼いたしました…。すごいですね、寛平さんと…。大ちゃんはすでに遠いところにいました!」

川岡「いやいやいや、冗談ですよ(笑)。こないだヨーロッパ企画の土佐君と映像の現場で共演して、空き時間にいろいろ話していたんですよ。そしたら、やっぱりヨーロッパ企画のメンバーは、ひとつのシーンを面白くするっていうのにすごく長けていて、会話から何かしら笑いを生み出して締めたりとか、そういう技術が長けているなって感じて。僕はどちらかというとそういうのがまったくないタイプなので、さすがだなと思うんです」

永野「でも今回、結構初期の段階でなじみましたよね」

川岡「本当?10年間ヨーロッパ企画を観てきたかいがありましたね(笑)」

本多「ヨーロッパ企画のメンバーは割と控えめなところがありますけど、本当に大ちゃんは熱量がすごくて、グイグイ前に出ていきますよね。どこでもすぐになじんじゃうタイプ(笑)。でもそれが嫌味に感じるどころか、すごく素敵やと思います。今までの客演の方はヨーロッパ企画のメンバーと似たタイプが多かったので、新鮮ですね。大ちゃんが出演していた『オレンジ』という舞台を観させてもらったときも、舞台上で発するエネルギーがすごくて、心に響くものがありました」

永野「俳優として、ひとりでやってきたからね。その底力みたいなものがあるんだと思う。僕らはチームでやってきたから、きっとその違いですよね」

本多「“やばい!”って思っても、誰かが助けてくれるからね」

永野「そうそうそう。僕らはメンバーがいるからワイワイできるけど、大ちゃんは自分でリズムを作って、自分の時間を作るっていうのがあるんですよ、きっと」

川岡「それは確かにそうやね」

永野「それは絶対、舞台上で強いだろうなって思います」

川岡「ないものねだりなんですよね。僕は劇団とかに所属したことがなくて、本当に毎回初めましての人とモノづくりをやってきたんですけど、ヨーロッパ企画のメンバーは学生時代からずっと、呼吸が分かる仲間たちとやってきているっていう財産がある。それが僕はすごくうらやましいですね」

永野「ただ、初めての飲み会でも、“大ちゃんそんなにボール持たんでいいよ~”って(笑)。ずっと独走しちゃうので」

川岡「ラグビーやってたから…(笑)」

永野「ボールを渡してくれないんですよ!」

本多「割とみんなサッカーに例えてパス回しするけど」

川岡「ラグビーで抜いていってた(笑)。ちょっと無言があったら嫌なんですよ!だから最初は極力、僕が盛り上げて質問していこうって思っちゃうんですよね。で、それぞれが話しだしたら、聞く方にまわるんです。最初はグッと盛り上げないとね(笑)」

永野「だから、すごく大ちゃんカラーが表れる劇になるかもしれないですね」

川岡「いやいや、そんなことないですよ。僕はどんなところでも言ってるんですけど、『サマータイムマシン・ブルース』の映画版の脚本をもらったときに、“これめっちゃ面白いやん!”って思ったんですよ。で、上田君と実際に接してても面白いし、作家さんの天才ってこういう人なんやろうなって。すごく好きだったんですけど、一緒に仕事をしたいと思ったところでできるわけではないので、今回10年ぶりに上田君の作品に関われるのがすごく嬉しいんです。上田君に対しては本当に信頼しているので、僕はやるべきことをやって上田君に身を任せるだけで、素晴らしい舞台になるんじゃないかなって思うんです。上田世界に常にいる人たちが、うらやましいな~と思います」

本多「そっか。僕らは逆に当たり前になってたけど…」

川岡「ヨーロッパ企画の短編映像とかでも、すごく面白いんです。それに、永野君と本多君の、最近のクリエイター活動も面白いな~と思います。それぞれが個々の活動で活躍できるって、ヨーロッパ企画の武器ですよね。本当に素晴らしいと思います」

――ちなみに今回は文房具コメディということで、みなさんの好きな文房具エピソードはありますか?

永野「僕は文房具が好きだった人。好きな筆箱を買って、好きな文房具を入れて、誰かに見てほしいな~って思ってたような」

川岡「僕も一緒で文房具が好きだった人なんですけど、スマホが登場してから手帳すら持たなくなって。メモもスケジュールも、スマホで済ませちゃうんです。この5年くらいでどんどん文房具から離れていってるなって思います」

本多「僕も昔、変形する筆箱を買ったりしてた。でも確かに、スマホになってからはあまり使わなくなりましたよね。この前、筆箱を失くしたんですけど、今フリクション1本だけで事足りてます」

永野「寂しいなと思いますよね。昔は結構、文房具屋に通ってたのに」

川岡「文房具屋に行くのって、楽しかったよね。でも僕も“好きだった人”なので…。稽古のときに一度、それぞれのペンケースを見せ合ったんですよ。中にはいっぱい入っているんですけど、結局、赤・青・黒のボールペンとシャーペンが1セットになったあの1本しか使ってないっていうのが判明しました(笑)」

永野「フリクション持ってるのに、消せることを知らなかったもんね(笑)」

川岡「そうなんです。フリクションが入ってたんですけど、“フリクション”っていう言葉すら知らなくて。消せるボールペンやったんですね、あれ(笑)。かつては、学生時代に漫画を描いたりしてたから、ノートは好きでしたね。特に、新しくする瞬間。最初はめちゃくちゃきれいに書くタイプで、最後らへんはどうでもよくなるっていう性格が出るんですけど(笑)。でも人生と一緒で、新しいページを開く瞬間がね、たまらないです」

永野「けど、雑になってくるんですよね(笑)」

本多「僕は一筆箋とか、ポストカードも好きで買ってた時期がありますね。今はめっきり買わなくなりましたけど…」

――スマホで何でもできますし、大人になるにつれて、縁遠くなるのかもしれないですね。そんな文房具を題材にした今回の作品の雰囲気はいかがですか?

永野「最初は、文房具コメディってどうするんだろうと思っていたんですよ。でも、文房具を改めて見ることってなかなかないので、面白いんです。扱ったら、ずっとおもちゃみたいに扱えるというか。大きな装置の中で、10人くらいがワイワイやっていると、止まらないです(笑)」

川岡「確かに、面白いですね(笑)」

永野「文房具にまつわる世界の話の上に、さらにもう一層ありますからね。そのシステムも面白くて、会話をするだけですごく盛り上がる構造になっているんですよ」

川岡「“遊星ブンボーグ”を観光するような、そういうノリが楽しい。みんなで旅行に行ったら楽しいじゃないですか。たぶんそういう感覚なんです」

永野「前回の『ビルのゲーツ』が、戦うビジネスマンみたいな雰囲気だったので。今回は呑気にやれるというか、悠長なスタンスでやれる芝居。コメディになりやすいですよね」

本多「可愛らしい感じになるんじゃないかなと思います」

――では最後に、今回の作品で期待してほしいことを含めて一言ずつお願いします。

永野「文房具って、実は誰もが触れてきたものなので、何かしらノスタルジーがあると思います。“文房具コメディ?”って、まだピンときていない方も、単純に楽しめる題材だと思いますので、ぜひ観に来てほしいですね」

本多「文房具に関する知識が増えるかもしれないですね。観た後に、豆知識を喋れるというか、翌日の話題になるような。学生時代のあの感じを思い出す、そういうノスタルジーもあるんじゃないかなと思います」

川岡「今までの公演を観に来ていただいているファンの方はもちろんですけど、僕は、ヨーロッパ企画の舞台を観たことがない方にも来てほしいなと思っているんです。演劇を観たことがないという人がまだまだ多いんですよね。そういう人たちの導入として、まずヨーロッパ企画の舞台を観たら、劇場で演劇を観ることがこんなに面白いんだっていう価値観を持ってもらえると思うので、文房具好きでも嫌いでも、演劇を観たことがない人に、ぜひ来てほしいです」

本多「演劇は割とハードルが高いもんね。事前にチケット買わないといけないし」

川岡「映画は1日に何回もやっているけど、演劇は多くて2回ですしね。僕の周りでも行ったことがない人は多いんですよ。ヨーロッパ企画で観劇デビューしてもらったら、きっと好きになると思うので、興味がないと思っている人や、チケットを買ったことがないという人も、騙されたと思って観てほしいです」

 

取材・文:黒石悦子




(2015年10月 7日更新)


Check
写真左より、永野宗典、川岡大次郎、本多力。

ヨーロッパ企画
「遊星ブンボーグの接近」

発売中

Pコード:445-416

▼10月10日(土)13:00/18:00
▼10月11日(日)13:00
▼10月12日(月・祝)13:00/18:00
▼10月13日(火)19:00
▼10月14日(水)19:00
▼10月15日(木)14:00

グランフロント大阪 北館4F ナレッジシアター

前売-4500円(指定)

[作][演出]上田誠

[音楽]HARCO

[出演]石田剛太/酒井善史/角田貴志/諏訪雅/土佐和成/中川晴樹/永野宗典/西村直子/本多力/岡嶋秀昭/中西ちさと/吉川莉早/川岡大次郎

★10/10(土)・12日(月・祝)18:00公演は、出演者による「おまけトークショー」あり。

[問]サウンドクリエーター
[TEL]06-6357-4400

※学生シートは取り扱いなし。未就学児童は入場不可。10/12(月)はビデオ撮影のため、客席にカメラが入ります。

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