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2013年の初演で大きな話題を呼んだミュージカル
『100万回生きたねこ』が成河×深田恭子のW主演で
再演決定! イスラエルの演出家ふたりに
“じっくり漬け込まれている”という
主演の成河にインタビュー!

イスラエルの演出家ユニット、インバル・ピントとアブシャロム・ポラックによる演出・振付・美術で2013年に上演された佐野洋子原作のミュージカル『100万回生きたねこ』が、2015年に成河×深田恭子のW主演で再演決定。糸井幸之介(FUKAIPRODUCE羽衣)、戌井昭人(鉄割アルバトロスケット)、中屋敷法仁(柿喰う客)による戯曲を野田秀樹の監修により1本化した脚本はそのままに、2015年版も野田監修の下に改定。そして、高度な身体能力を持つ成河と、舞台初出演の深田恭子というフレッシュなコンビで8月の東京公演を皮切りに幕を開けた。「まさか自分が出るとは」と、思いもよらなかった本公演の主演を掴んだ成河にインタビューを行ったのはまだ稽古中のこと。当時の心境と照らし合わせて、間もなく迎える大阪公演を楽しんでほしい。

--ミュージカル『100万回生きたねこ』の初演をご覧になって「見たことのない衝撃で、怖くて近づけなかった」とおっしゃっていましたね。

銀粉蝶さんと藤木孝さんとご一緒したことがあって、おふたりの歌が好きなんです。初演では「おふたりの歌が聴けるんだ」と、何の前情報もなく観に行って、正直びっくりしました。あえて言うとミュージカルではなかったです。かといってダンスでもなく、お芝居でもない。ミュージカルとダンスとお芝居がどちらに傾くこともなく、すごく自然に溶け合っていて、物語がすーっと入って来たんですね。そういうバランス感覚で立ち上がってくる作品を観たことがなかったので、特殊な作品を観たと思ってすごく興奮しました。
 
--怖くて近づけなかったというのは?
 
技術的にもものすごくレベルの高いことをしていましたし、とてもじゃないけど、これはやるよりも観ていたいなと思ったんです(笑)。というより、初演を観た頃は出演するなんていうお話は全くなかったので、純粋に楽しみました。それから「やってみてはどうか」と言われて、オーディションを受けて。オーディションはすごく時間をかけて、丁寧にしていただきました。インバル・ピントさんとアブシャロム・ポラックさんは、コンテンポラリーダンスの方ですが、舞台でそれを前面に押し出すということではなく、この『100万回生きたねこ』のお話を伝えたいために、コンテンポラリーダンスというやり方を取られているので、全編特殊な体使いなんです。その特殊な体使いは技術的に非常に難易度が高くて、森山未來さんの体ならではの表現で、彼あって成立したんだなと思った世界でした。僕は舞台ばかりやってきて、多少、体が利くと言われていますが、別次元でした。なので、これは無理だろうと思いながら、オーディションの日々を過ごしていました。ただ、インバル・ピントさんとアブシャロム・ポラックさんがすごくオープンで、フリーで--海外演出家ならではなんですが、オーディションでも雑談を交えながら「あなたのこといっぱい聞かせてよ」と、会話をすごく大事にしてくれて。マンツーマンのオーディションで、時間も決めず、気づいたら2時間みたいな。一人で2時間ですよ。それをずっと続けて、都合4回くらいやっていただいて。ものすごく濃い時間を過ごさせてもらいました。それが楽しかったです。インバル・ピントさんはものすごく自由な体の持ち主で、この方の体を見たときに「これは自分にはできない」って一発で思いました(笑)。ただ、いろんな課題を投げかけて、一緒に遊ぼうよという雰囲気のある方たちなので、オーディションだけでもすごくためになるし、面白いなと思って楽しく過ごしました。
 
--時間も決めずオーディションを行うことは、珍しいのですか?
 
一人で2時間というのは少なくとも初めてでした。僕一人のために2時間かけてくれて、ありがたかったです。それから「じゃあ、あなたでやります」と言っていただいたのですが、ぞっとしましたね(笑)。最初から僕にダンスの素地がないことも、そういう特殊な動き方をしたことがないことも見抜いてくださった上で、キャラクターとして採ってくださって。稽古まで半年くらい猶予があったので、半年の間におふたりのコンテンポラリー・ダンスを学びました。
 
--「ぞっとした」というのは?
 
このミュージカル『100万回生きたねこ』は、ダンス作品の中にミュージカルとお芝居を取り入れているという感覚なので、“ダンスはできないけど、ちょっと味付け程度にやる”という表現方法じゃないんですよね。ダンスができる土台があって当たり前。それで歌ったり、お芝居をするという世界です。彼らが要求するダンスのレベルはものすごく高くて、踊れることが当たり前というところがスタート地点でした。しかも、その上で“踊ってます感”を出さないという……ぞっとするでしょう?(笑) 僕、踊ったことないんですよ! 踊ったことない人間に初日にそこまで言うわけですよ、インバル・ピントさんが(笑)。芸術家としての自由さと残酷さの両方持っている方で、さらっと言うんです。刺激的な毎日ですね。
 
--半年間で、ご自身が変わっていく様を体感しましたか?
 
何でしょうね? 自分がこの半年で何ができるようになって、どう変わったかと、冷静になって振り返ってみることはできますが、あんまり思わないようにしているんです。果てしないものだと思うし、まだまだ…。自分が漬物だと思っているんです、最近(笑)。きゅうりでも大根でも何でもいいんですけど、漬け込まれているところだから、出しちゃもったいないじゃないですか。多分、大阪の千秋楽までずっと漬け込まれた状態だと思います。
 
--では、原作をお読みになっての感想をお聞かせください。
 
すごいなと思うのは、最後の1行ですよね。「それからもう生まれ変わることはなかった」という最後の1行。死んでるわけじゃないですか、でもハッピーエンドなんですよね。それを子どもが読むってすごいことだなぁって、大人になって改めて思いました。生と死や“意義のある一生って何だろう”と考えざるを得ない作品です。

--成河さんはとらねこを演じられます。

とらねこはものすごく普遍的な存在ですよね。誰しも思い当たるのではないかなと思います。みんな自分が好きで、自分が大事で、自分が一番なんですけど、“それだけじゃ生きていけないよね”ということにどこかでぶち当たるという思想がすごく反映された役なので、演じる上ではそういうところを取っ掛かりにしています。
 
--とらねこは、無欲であり、貪欲でもあると思うんです。
 
“人は大事なものが出てきたとき、初めて欲が生まれる”と聞いたことがあります。そういうことなのかなと思いますね。自分はどこへだって行けるし、何者にだってなれるという、ある意味若者の特権的な自由があって。もちろんそれも素敵な状態ですが、“大事なものができたとき、本当に生まれてくる欲があるんだよ、人生には”ということを教えてもらえるような気がしますね。それも少ない言葉でポツポツと…。
 
--先ほど“今回は漬け込まれようと思っています”とおっしゃいましたが、普段、お芝居に対して満足を得るとか、やりきった、十分だと思われますか?
 
やりきった、十分だはないですが、満足は得ていると思います。お芝居でしか満足を得られない人間になっちゃったなって最近、よく思います。でも、やりきった、完成したと思ったことは一度もないです。公演は毎日違いますし、初日から千秋楽まで成長していくもので。千秋楽という一つの目標はありますが、その過程が大事なのかなと思います。もちろん、“今日は少し納得するものができたかもしれない”と思うことはありますが、たくさんの先輩方、演出家の方から教わったことですけど、例えば“台本と向き合うときに、常に疑いの目を持っていた方がいい”と。自分ができたと思ったときに、見落としはないか? 自分が勝手に決め付けていたことはないか? ともう一度、戻るわけです。それで、“納得した。じゃあ、次。次の疑問点を探していこう”と、そういう繰り返しなんだと思うんです。そういうことをいろんな方から教えていただいたので、そういう癖はついています。新しいものを、新しいものをと常に探して、掘り続けないと倒れて止まってしまうというか、生き物じゃなくなる瞬間がいつでも訪れるので。
 
--この『100万回生きたねこ』は掘っても掘ってもという感覚に近いように思います。
 
掘っても掘っても…想像つかないですよ、全く。ただ、これも本当に珍しいことと思いますが、美術、衣裳、絵など、舞台上にあるものの統一感がものすごいんですよ。インバル・ピントという一人の人間の脳がそこにあるという感じです。俳優やパフォーマーも、必然的にその脳の一部になっていくわけです。それは、インバルさんと佐野洋子さんの脳をリンクさせて現れる脳なのだと思いますが、世界観の統一感が半端じゃなくて。これは舞台芸術のものすごい高みにあるんだと思うんです。だから、自分ができたかどうかじゃないんです。その中で自分がどういられるかというのは、自分ではそんなに分からないことですし、おふたりや僕の面倒をずっと見てくださったスタッフを信じるしかないです。しかないというより、完全に信じている状態ですね(笑)。この作品での僕は、それでいいんじゃないかなと思っています。
 
--脳という例えは、ものすごく分かりやすいですね。インバル・ピントさんのダンスの映像を見たとき、ダンサーの方の意識とは違うところで体が動いている感じがしました。
 
役者が見えないということですかね。これはダンスに限らず、本当に優れたお芝居でも言われることですけど、役者が見えてこないのはとてもいいことだと思います。物語が伝わりますからね。
 
--だからといって人形というわけでもないですしね。
 
そうなんですよね。お客さんは、この舞台で飛び出す絵本をめくっているような感覚になれると思います。
 
--ワクワクしますね。
 
見たくなるでしょ? ダンスも振付もこだわり方がすごくて、1センチに満たない指先の動きとか、ものすごくこだわって。舞台上の細部まで神経が通っているので、そういうころをぜひ見てほしいと思います。オペラグラスで見るときも、手先とか見てほしいですね。
 
--さりげなく見える動きも、すべて計算されていて。
 
もう、すべて計算されています。ミリ単位で計算されているので。表情を見ていたらもったいないですよ(笑)。
 
--この舞台は、成河さんのこれからのキャリアにとってすごく大事なポイントになりそうですね。
 
ちゃんと漬け込まれたら。途中で出しちゃったらダメですけどね、浅漬けにもなってない(笑)。
 
--大阪の千秋楽まで、いかに漬け込まれるか楽しみですね。
 
僕に限らず、みんなしっとりしていると思います(笑)。
 
--この作品に限らず、いつも役に対してどのようなアプローチをされているんですか?
 
台本読む。“え~”っと思って、“分かる、分かる!”って感じじゃないですか(笑)。役作りっていう言葉はいろんな人がいろんな使い方をするので分かんないんですけど、僕は役作りをしないです。
 
--しないという意識をされるんですか?
 
そうですね。役作りをしないようにしています。なぜかというと、稽古があるので。舞台に関しては最低でも1ヶ月、稽古して、変化して、変化して。自分では考えたこともなかったような解釈や自分になっていったりして、“自分にはこんな面があって、こんなものが使えるんだ”という発見も稽古場であると思うので。だからこそ、稽古期間を長く取れることにも価値があると思っています。
 
--舞台はみんなで作っていくもの。
 
そうですね。もっと言えばお客様でも作品は変わりますから。でも、変わることは決して悪いことじゃないと思うんです。そうやってきちんと開いているからこそ、舞台は面白いのかなと思います。
 



(2015年9月30日更新)


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成河プロフィール
そんは●1981年生まれ、東京都出身。大学時代より演劇を始める。北区つかこうへい劇団等を経て、2004年にロバート・アラン・アッカーマン演出『エンジェルス・イン・アメリカ』のエンジェル役に抜擢される。以降、ジョン・ケアード、サイモン・マクバーニー、野田秀樹、栗山民也、鄭義信など、国内外の著名演出家の舞台、話題の作品に次々と出演し、舞台を中心に活躍。2008年、文化庁芸術祭演劇部門新人賞受賞、また2011年には、第18回読売演劇大賞優秀男優賞受賞。近年の主な舞台出演作に『春琴』、『ぼ

ミュージカル「100万回生きたねこ」

▼10月2日(金)19:00 ・3日(土)17:00
全席指定-11500円
U-25(25歳以下)-5500円(当日指定、要身分証)

★10/2(金)公演終了後、トークショーあり([出]成河/深田恭子[司]江戸川萬時)。

▼10月3日(土) 13:00
全席指定-11500円

▼10月4日(日) 12:00
全席指定-11500円

シアターBRAVA!

[原作]佐野洋子「100万回いきたねこ」(講談社刊)

[脚本]糸井幸之介/戌井昭人/中屋敷法仁

[演出][振付] [美術]インバル・ピント、アブシャロム・ポラック

[音楽]ロケット・マツ、阿部海太郎

[歌詞]友部正人

[音楽監督]阿部海太郎

[出演]成河/深田恭子/近藤芳正/田口浩正/石井正則/銀粉蝶/藤木孝/江戸川萬時/加賀谷一肇/鈴木竜/川合ロン/皆川まゆむ/清家悠圭/鈴木美奈子/山口真美/西山友貴

[バンド]トウヤマタケオ/中村大史/権頭真由/BUN Imai

※未就学児童は入場不可。

[問]シアターBRAVA!
[TEL]06-6946-2260

シアターBRAVA!
http://theaterbrava.com/

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