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鴻上尚史の処女作であり代表作の『朝日のような夕日
をつれて』がまもなく大阪で開幕! そのスピード感、
パワーに圧倒されること間違いなしの、前代未聞の
衝撃を体感して! --鴻上尚史インタビュー

今から33年前の1981年、鴻上尚史主宰の劇団、第三舞台の旗揚げ公演として演じられた『朝日のような夕日をつれて』。不条理演劇の代表ともいえるサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を下敷きに、おもちゃ会社の「立花トーイ」が最先端のおもちゃをめぐって奮闘する姿を、スピーディーかつハイテンションに描いた衝撃作で、初演以来、第三舞台の節目節目に演じられてきた。
今回の2014年版は7回目の再演となる。2012年に解散した第三舞台だが、元第三舞台からは初演から出演している大高洋夫と、1983年の再演で初出演した小須田康人が参加。そして新たに参加する3人――藤井隆、伊礼彼方、玉置玲央という異色の顔合わせが実現した。この時代、この座組みで、今しか描けないものが仕上がったという。大阪公演を前に、作・演出の鴻上尚史に話を聞いた。

――今回、上演するきっかけとなったのが、紀伊國屋ホール50周年の記念公演ということで、1985年に第三舞台が同ホールに初進出した際にも上演されました。そういう経緯もあって、『朝日のような夕日をつれて』(以下『朝日~』)をお選びになったんですか?

鴻上尚史(以下、鴻上):そうですね。紀伊國屋ホールが50周年で、紀伊國屋ホールになじみの深いものといえば『朝日~』ということと、もう一つは第三舞台を終わらせたときに、お客さんの中には「(最後の公演は)『朝日~』じゃないんですか」って言ってくれる人もいて。(『朝日~』は)女優が出ない作品なので、それをやっては女優に怒られてしまうので、『深呼吸する惑星』を上演したのですが、『深呼吸する惑星』を上演しているときに、「『朝日~』をするかね」という話を大高と小須田にしたんです。

――大高さんと小須田さんはどういった反応でしたか?

鴻上:大高はその時にすぐにやりたいと乗ってきました。小須田は『朝日~』がお客さんの期待と要求度が高いことを知っているので、「本当にやりますか?」という慎重な反応でしたが、最終的には「まあ、やりますか」と。

――『朝日~』は鴻上さんが22歳のときに書かれた作品で、処女作でもあります。書いた当時、どのようにお考えでしたか?

鴻上:劇団旗揚げの作品なので、22年間生きてきた全部…まあ、とにかくあらゆるものをぶち込んでやろうというか。芝居をしたくて仕方なかったし、初めての作品という意味でもやりたくて仕方なかったしっていう、そういう思いにあふれていましたね。

――芝居をしたくて仕方なかったというお気持ちと、作品のベースである『ゴドーを待ちながら』は、どのようにリンクしていくのですか?

鴻上:当時、“ゴドー待ち”がはやってたんですよ。『ゴドーを待ちながら』を代表とする、不条理演劇というわけのわからないものがはやっていたんですね。“ゴドー待ち”は、ゴドーが最後まで来ない話なんだけど、“僕がやるんだったらゴドーは来るよね”というふうに思ったんですね。それを旗揚げにしようと。

――以降、6回再演されていて、劇団としても節目節目のタイミングで上演されています。

鴻上:ラッキーだったと言うか、狙ったわけじゃなくて。片方は『ゴドーを待ちながら』の世界なんだけど、もう片方は、おもちゃ会社の話で。ルービックキューブで一山当てて次を探すっていう設定だったんですけど、1985年にファミコンが出てきて、要はコンピューターの進歩と、おもちゃの開発がガッツリ一緒になったんですよね。それによって、再演ごとに改訂する際、現在の進歩をビビッドに取り入れられる設定になったんです。それは、書いたときに狙ったわけではないんだけど。まあ、そもそもおもちゃは時代の鏡というか、時代を表すものなんですけどね。(おもちゃ会社という)時代の変化に一番敏感に対応する業界を選んだことが毎回、再演できる理由だったんですよね。これが製造業、運送業だったりしたら、そこまでビビッドには内容は変わらなかったと思うんだけど、コンピューターも出てきて変わり続けている。だから2014年版も、今のおもちゃ業界を描いています。偶然取り上げたものが、“現在”が描きやすい業界だということです。

――コンピューターの出現は、時代の中ですごく大きい。ルービックキューブとファミコンでは全然違いますね。

鴻上:違いますよね。旗揚げのとき、“この業界はこれから劇的に変わっていくだろうから”と選んだわけでも、何でもないですけど。あと「ゴドーが来る」というのも、その時代、その時代でいろんなことを登場させられるんです。どの時代も人は“待っている”ということだけは、はっきりしているので、33年前と現在とでは当然、待っているものは違うんだけど、でも待っているという行為はまったく一緒なので、それも再演ができる理由です。

――この2014年版は、大高さん、小須田さんという初演、再演のメンバーに加えて、初参加の藤井隆さん、伊礼彼方さん、玉置礼央さんという組み合わせです。

鴻上:藤井さんは、10年くらい前かな、テレビ局で一緒になった時に“そのうちきっと舞台をやってくださいね”という話をしていたんですけど、気がついたら藤井さんは、三谷幸喜さんや野田秀樹氏、井上ひさし先生の作品に出演する舞台人になってて。“なんだぁ!”と思って。“じゃあ、やってくださいよ”って頼んだんです。期待通り、演技もできるし、笑いもちゃんとできる人だと。伊礼は、僕とやるのこれで3本目なんですが、毎回確実に階段を上っているというか、すごく進化していると思います。あと、玉置くんは、“東京の小劇場界で元気なヤツは誰だ?”って聞いたら、柿喰う客にいる玉置だと教えてもらって。実に小劇場的な体と声の遊び心を持っていて。それぞれいい意味で、異種格闘技がうまくはまっている感じがしますね。(東京公演の)幕が開いて1週間、2週間が経ってくると、チームワークもできてきて、それぞれに自分が得意な分野をやってくれているという感じです。

――『朝日~』はスピード感やハイテンション、そういうところもお客様が楽しみにされていますよね。大高さん、小須田さんは、今、『朝日~』を演じられることを、どのように捉えていらっしゃいますか?

鴻上:50代の大高と小須田に21歳当時の動きやジャンプ力を求めるのは無茶であって。でも身体の遊びの代わりに、50代の遊び心でやってくれたらいいなと思って。今回、演じる人間が20代、30代、40代、50代と分かれたんですよ。なので、それぞれの年齢に合わせたエネルギーと遊び心を出してもらえたらいいかなと。

――どこまでお伺いしてよいものかわからないのですが、今作での“おもちゃ”は、どのように時代を反映されているのでしょうか?

鴻上:それはなかなか、現代の最先端のおもちゃとしか言いようがないんだよね(笑)。今、この時期に鴻上が何を選ぶんだろうと楽しみに来てもらったらいいですね。

――時代はかなり映し出されている?

鴻上:うん、かなり最先端だと思いますね。

――前回17年前に再演されて以来ですが、17年という月日を改めて、どのように受け止められますか?

鴻上:一番大きいのは、スマートフォンをみんなが持つようになったことでしょうね。いわゆるネットワークに接続されたコンピューターを日常的に持つようになったということは、実はものすごく大きいことだと思います。

――今回、17年ぶりに『朝日~』を上演されることが、今後の鴻上さんにどう影響すると思われますか?

鴻上:22歳のときに書いた作品ですが、骨格は同じ。おもちゃ会社と“ゴドー待ち”の世界で。設定は現在に変えているんだけど、まったく変えていない部分もあるんですよ。22歳で書いた当時の台詞も何割か残っているんです。この作品をやるときはいつも、22歳の、とにかく旗揚げしたくて、芝居したくて、表現したくて、ものを作りたくてたまらなかった自分と再会するんです。で、自分の原点というか、何のために自分は芝居を始めたのかということにいつも向き合うところがあって。今回は17年ぶりに22歳の自分に向き合って、それは新鮮だったし、“やっぱり自分はやりたいことをしたいと思って芝居を作ったんだな”という確認ができたことが、とても大きいものだと感じましたね。

――17年前に向き合われたときは30代でした。50代となった今との違いは?

鴻上:30代のときは自分に残された時間がまだまだあると思ってたと思うんだけど、50代で向き合うと、自分はあと何本作れて、どれくらいの時間を遊べるんだろうということをすごく意識します。あんまり時間が残っていないんだぞっていう意識の中で何をするかということをすごく思いますね。

――今回、初めて『朝日~』を観る方はもちろん、初めて演劇をご覧になる方もいらっしゃると思います。

鴻上:東京にもそういう人はたくさんいて、感想を見ていると「わけが分からなかったけど面白かった」とか、「世の中にこんなものがあることを初めて知った」とか、“何だこれは? でも面白い”と。これまで観たことがない種類の作品というか、経験したことがない種類の経験なんだろうと思いますね。東京で幕が開いて、幸いなことにお客さんが喜んでくれて。昔の『朝日~』を観てくれている人も含めて、“今の『朝日~』になっているし、『朝日~』の速度とエネルギーと衝撃を失っていない”というふうに言ってくれるので、ましてや初めて観た人は“なんじゃこれ! こんな経験、生まれて初めて”みたいな、そんなことになるような気がしますね。

――初めて参加する藤井さん、伊礼さん、玉置さんは、このスピード感ある作品に向かわれた際、どういう感じでしたか?

鴻上:稽古場でもみんな、ひーひー言ってましたね(笑)。頭の中ではどういうふうにしゃべって、どういうふうに動けばいいかわかるんだけど、それを獲得するまでは修行のように辛く、でもできるようになったらむちゃくちゃ楽しいっていう。ものすごいスピード、ものすごいエネルギーなので、アドリブとかやっている時間もなく、もう求められる速度とスピードとエネルギーに頭と口と体と気持ちが追いつくかどうかの稽古を毎日、やりました。追いついたらすごく楽しくなるんだけど、追いついてないと、追いつくまではすごくもどかしかったみたいですね。

――大高さん、小須田さんたちは、そんな若手の皆さんをどういうふうに見られていましたか?

鴻上:大高も小須田も体に20代の感覚が残っていて。でもそれは20代にしかできないことで、それをやろうとするとダメなので。俺が言ったのは、“20代は体で遊んだけど、50代は気持ちで遊んだらそれでいいんだ”と。気持ち、つまり精神的な余裕で遊んでもらえると、観ている側としては楽しいわけで。20代と同じジャンプ力やキレなんかを目指すこと自体、間違ってるんだから。でも、20代にはなかった気持ちの余裕とか、遊び心とか、そういうものが伝わってくるとすごく楽しいはずなので、それを目指してもらいたいと。ふたりはふたりで一生懸命、やっていましたね。

――演じられる方の年齢を含めても、作品の見どころがたくさんありますね。

鴻上:ずっと観てくれているお客さんが、大高と小須田が2014年版をどうやっているのか興味があるだろうし、初めて観る人は“ああ、藤井さんってこんな面があるんだ”というような楽しみ方もあると思います。『朝日~』は、楽しむ切り口が山ほどある芝居なので、いろいろな見方があるんじゃないですかね。それこそ最先端のおもちゃで言うと、プログラマーの方が「よくここまで芝居にしてますね」と帰り際におっしゃって、それはもう、しめしめでしたね(笑)。

――では最後に、大阪のお客様に一言、お願いします!

鴻上:これは同窓会をするつもりはなくて、2014年の『朝日~』を作ろうとしていて。東京で幕が開けて、自分で言うのもナンなんだけど、お客さんの反応を観ているとすごく成功しているように感じて。「今の『朝日~』になっている」とよく言ってくださるので、昔、『朝日~』を見て感動した人はぜひまた、会いにきてもらいたい。これも自分で言うのもナンですが、『朝日~』はある種、歴史的な作品なので、それが今、この時期に、このキャストで観られる、衝撃的な体験になることは間違いありません!




(2014年8月27日更新)


Check
「朝日のような夕日をつれて2014」より。以下同。
   
   
撮影:田中亜紀

KOKAMI@network vol.13
「朝日のような夕日をつれて2014」

発売中

Pコード:437-049

▼8月29日(金)19:00

▼8月30日(土)13:00/18:00

▼8月31日(日)13:00

森ノ宮ピロティホール

全席指定-8500円

U-25チケット-4300円(来場時25歳以下限定・整理番号付)

[作・演出]鴻上尚史

[出演]大高洋夫/小須田康人/藤井隆/伊礼彼方/玉置玲央

※未就学児童は入場不可。

※U-25チケット:25才以下のお客さまを対象としたチケットです。当日劇場受付にて開演30分前から整理番号順で指定席券とお引換えいたします。引換時に年齢明記の顔写真つき身分証提示が必要です。お一人様1枚までご購入いただけます。

[問]キョードーインフォメーション
[TEL]06-7732-8888

「朝日のような夕日をつれて2014」
http://www.thirdstage.com/knet/asahi2014/

チケット情報はこちら


●プロフィール

鴻上尚史

こうかみしょうじ●作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。1981年に劇団「第三舞台」を結成。『朝日のような夕日をつれて』『ハッシャ・バイ』『天使は瞳を閉じて』『トランス』など、多くの作品を手がける。2001年に劇団の10年間封印を宣言し、2011年11月から2012年1月に『深呼吸する惑星』で解散公演を行う。現在は、プロデュースユニット「KOKAMI@network」と、2008年に若手の俳優と旗揚げした「虚構の劇団」を中心に活動。紀伊國屋演劇賞、ゴールデンアロー賞演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞など受賞。2011年には、ロンドン・リバーサイドスタジオにて、イギリス人キャストでの「Halcyon Days」を上演した。その他、エッセイスト、ラジオ・パーソナリティ、映画監督、小説家など、幅広く活動中。