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ヨーロッパ企画の真骨頂!
群像劇で見せる“ド”コメディの
新作『ビルのゲーツ』が
ABCホールで間もなく!

京都を拠点に活動するヨーロッパ企画の新作『ビルのゲーツ』が間もなく開幕! ‘11年の移動コメディ『ロベルトの操縦』より、企画性を重視した作品に挑戦している彼ら。第2弾の漂流コメディ『月とスイートスポット』、第3弾の迷路コメディ『建てましにつぐ建てましポルカ』に続き、今回は、“ゲートコメディ”と銘打ち、巨大なオフィスビルを舞台にした群像会話劇を上演する。公演を前に、脚本・演出の上田誠、劇団員の諏訪雅、石田剛太、本多力に話を聞いた。

――長い間温めてきたタイトルとのことですが、いつ思いついて、なぜ今のタイミングで出そうと思われたのですか?
上田「4年前くらいですかね。『ロベルトの操縦』のときに、確か候補で『ロベルトの操縦』 か『ビルのゲーツ』かどっちかって言ってました」

――でもそのときではなかった。
上田「いざというときには、ここ一番で出そうとは思ってたんです。でもあまり長くおいておくと、言葉の印象が変わっていくかもしれないと思いまして」
 
――サラリーマンという設定も、劇団員の方々が30代になって、今だから出来るような設定なのかなと思ったんですけど。
上田「それはありますね。演劇人って、スーツを着てまっとうに働いている社会人を演じるのは、結構こっちのハードルが高いというか。そういう方々に見られたときにドキドキするような感じがあって。工場の話だったら、工場でバイトしたりすることもあるから、なんとなくやれたりとかするんですけど。会社で働いたことってないから。テレビドラマでは会社ものは多いですけど、演劇で会社ものって少ないんじゃないですかね」
 
――確かにそうですね。みなさんはサラリーマンの役はやられたことあるんですか?
石田「役ではあったかな…」
諏訪「お芝居ではないかな」
上田「映像だとそれっぽくなるんですけどね。確かに、30代になって、ヨーロッパ企画も会社で9期目くらいになって、社員というほどではないですけど、会社をやってきている感じもあるから、ちょっとずつそこら辺の匂いがわかってくるというか。仕事する相手先の方も多いですし。昔よりはできるようになってきたんじゃないかな」
石田「接する機会が多くなったというのはあると思います。テレビ局の方と一緒にやることも多いですし」
上田「それで、例えばMBSさんの正面受付で待ち合わせをして、パスをもらって。とは言え、それでは通れないので、横の特別ゲートを通っていると、その隣で社員の方が颯爽と通っていくっていう(笑)。会社によっていろんなゲートがあるんですけど、ゲートを通って、帰りがけにパスを返して、ということに関しては馴染みがあるんですよ(笑)。いざオフィスの心臓部で働く劇がやれるかというと、なかなか難しいんですけど、会社に入るくらいはできるっていう」
 
――あ~!そこから今回の設定なんですね(笑)。
石田「本多君はNHKの入館証カードを持ってるんですよ」
本多「声の仕事をやらせてもらっているので(笑)」
石田「でも他の人は1日限定のパスで。みんなは手続きとかあって、本多君だけ先に入ってて (笑)。何かカッコつけてるなみたいな」
上田「そういうのがありますね。そこなら演じられるというか。大きな会社の話を演劇で描くときに、例えばゲートなら、“ゲーテッドコミュニティ”という言葉もあって、システマティックなことを批判的に、警鐘を鳴らす態度で劇をやるというふうに思われがちなんですけど、せっかくなら面白がりたくて。パスをかざす瞬間というのはみんな気持ちが盛り上がっていると思うので、僕らとしては肯定的に、そっち側の話にしようという気持ちですね。だから“このビルすげぇな~!”っていう言葉が飛び交う劇になります (笑)」
 
――ゲートを次々と開けていくというのをお聞きして、RPGのゲームのようなイメージが浮かんだんですけど、そういう要素もあるんですか?
上田「かなりゲームっぽいですね」
諏訪「そうですね~」
上田「本当に、ゲームみたいな話かもしれないですね。キャッチコピーもね、“カードをかざしてゲートを開けろ”っていうゲームの煽り文句みたいにしていますし。ゲームとお芝居は結構親和性があると思っていて、ゲームってずっと引きで見るものだから、そういう意味では舞台と近い部分がありますよね。でもゲームってどんどん画面が変わっていって、新しい展開があるけど、お芝居ではなかなかそれはやりづらい。だからあまりゲーム的な展開をお芝居でやろうとすると結構難しかったりするんですけど、今回はゲートを開ければ新しいステージが出てくる話で。そういう意味で新しいし、面白いですね」
 
――今回は、稽古前半から構成は結構固まっていたんですよね。
諏訪「固まってますね。初めてくらいじゃないかな」
石田「地盤がしっかりしてるなって思うくらいの固まり具合で」
上田「今までに劇を作ってきた蓄積があるから、何らかの形で完成にはこぎつけられるんですけど、元々やろうとしていたことが、今回はすごく実現できたなとか、今回はあまりやれなかったなとか、やってみなきゃうまくいくかどうかわからないところはあるんですよ。着想から完成形がズレてしまったな、っていう公演もある中で、今回はその実現度が高いというか。構想が早い段階でイメージ通りに具現化しつつあるなと思います」
 
――稽古しながら新しい発見も多いのですか?
石田「結構いろんなものがたくさん出てきている印象がありますね。本当にいろんなことを試しているから、この中のどれをやるんだろうなって思います(笑)」
上田「いつもだと、どうしようかすごく考えて、稽古が停滞するときもあるんですけど、今回は逆にどこまでも続くし、どれをやっても盛り上がるような状態で、稽古時間内で試しきれるかなって思いますね」
諏訪「いつもは稽古と稽古の合間の休憩時間が長くて、上田がその間に考えるんですけど、今回はほとんど休憩なしで。結構疲れますね。ちゃんと稽古やってる感じがする(笑)」
本多「一つひとつのエチュードも長いですよね、割と」
諏訪「長いね。疲れるという設定のエチュードで、リアルに疲れるよね」
 
――ある一つの会社のグループという設定ですが、その中でもキャラクター付けみたいなのはされているんですか?
上田「今回は群像劇なので、引きで見たときに、その一つのチーム自体がキャラクターという感じがあって。僕が作る時はその“一つ”の感じが大事で。今は群像で動きながら、こういう局面ではこの人が光るんだなとか、こういう局面ではこの人が発言するんだなとかが段々見えてきました。例えば、階段を延々と上っていくシーンをエチュードでやっていたら、諏訪さんが疲れてくる。それで、みんなが“お前早くしろよ”っていうような状況が生まれる。そこでいかに同じチーム内で差を分けていけば良いかがわかるんですよ。群像劇を作る時は、そういうところを大事にしていますね」
 
――今回客演さんが4人入ることで新しい雰囲気がプラスされると思うのですが、それぞれの魅力を教えていただけますか?
上田「岡嶋さんは、元々、京都の劇団衛星にいらっしゃって、その頃に劇団ごと可愛がってもらったような感じで。諏訪さんの1つ2つ上くらいですかね」
諏訪「年齢でいうとそれくらいだね」
上田「当時は憧れの役者さんだった方で、諏訪さんはバイトも一緒にしていたこともあります」
本多「僕はまだ憧れている部分がありますね。稽古場に岡嶋さんがいたら喋りかけたいなって思うんです(笑)」
石田「舞台上で華がありますよね。普段は割と静かにされているんですけど、舞台上に立った瞬間めちゃくちゃ光るというか。稽古が始まった瞬間、岡嶋さんの空気になるような、そういう雰囲気がある方だなと思いますね」
上田「独特の存在感があるので、今回は、石田たちとかとの群像の感じとは違うところにいてもらおうかなと思っています」
石田「エチュードで一緒のチームにいるときも、頼りないリーダーをキャラクターで演じたりするんですけど、すごく見ちゃう」
上田「登場されたら絶対空気が変わるから、今回は岡嶋さんにどういうところで登場してもらうかというのは、劇を動かす大きな燃料になるような感じがしています」
 
――へ~!楽しみですね。加藤啓さんはいかがですか?
上田「啓さんは、ヨーロッパ企画にすごく溶け込んでくださる客演さんで。ヨーロッパ企画の群像に混ざるのがお好きなのか、すごく楽しんでくださっている感じがありますね」
諏訪「『月とスイートスポット』は群像劇じゃなかったから、今回は群像に入ってもらってね。楽しんでもらえそうだよね」
上田「客演さんって異物感が出て当たり前なんですけど、それが啓さんの場合は見事にそこの溶け合いが良い」
石田「どんなところにいっても柔軟に溶け込む雰囲気の方ですよね」
 
――では、初参加の金丸さんはいかがですか?
上田「世代的には後輩なんですけど、変わったやつだな~というか。台風の目みたいな(笑)」
諏訪「度胸がすごい。僕が25歳で、周りが30代の劇団に入ることになったら、きっと恐縮して何もできないはずなのに、全然物怖じしなくて。何なら中心になるくらいの度胸があって、すごいと思いましたね」
上田「稽古でもまだ全然馴染んでないような頃から、引っかきまわしてくれて。僕らにはない爆発を期待していたので、来てもらって良かったな~という感じですね」
 
――じゃあ皆さんが、金丸さんに対して未知数だったんですね。
諏訪「僕は顔も知りませんでした」
上田「やんちゃな感じですね」
本多「軽い感じするよね、動きも軽くて」
諏訪「猿みたいですよね」
石田「イケイケの若者みたいな」
上田「その印象でお呼びしているし、役の上でもそういう感じになればいいな~と思ってエチュードをしたら、まさにそうなってくれたので、狙い通りですね」
 
――ヨーロッパ企画では馴染み深くなった、吉川さんはいかがですか?
上田「吉川さんも啓さんと同じで、客演さんだけど肌が合うので、違和感がないですね。おふたりは何度もご一緒しているからなのかもしれないですけど」
石田「あと発想の面白さがありますね」
上田「面白いんですよね~」
石田「ひと言ひと言が面白いですね」
上田「不思議ちゃんではなくて、普通に面白いので。エチュードでも面白いことをちゃんと言ってくれるので、頼りになりますね(笑)。もちろんお芝居も達者ですし」
 
――メンバー間では、結構石田さんきっかけで物事が動くことが多いとか。
石田「みんなでぞろぞろといるときに、思い付きで言ったことが拾われて、そこからみんなそのことがエチュードで流行るみたいな(笑)」
上田「石田がよく喋るんですよ」
本多「いつにも増してよく喋ってるもんね」
上田「それは良い方で、すごくよく喋ってくれるから」
本多「休憩中もよく喋るし、ずっと喋ってる」
諏訪「エチュードでというか、全体的に喋る(笑)。普段の会話からずーっと喋ってくれるから楽なんですよね」
上田「一人なのににぎやか (笑)」
 
――ムードメーカーみたいな(笑)。
本多「石田君がいないとすごく静かだと思う」
上田「誰が言ってもいいセリフってあるんですよ。例えばビルに入ってきて、“わ~、すげぇなこのビル”とか“立派なゲートだな”っていうセリフのような、誰が言ってもいいセリフはとりあえず石田君に言ってもらうようにしてます(笑)」
 
――言いそうですね、率先して。
上田「石田君がいなくなったらまた全然雰囲気が変わるでしょうね。軸がなくなるというか」
 
――いつも、酒井さんが他の方とは違う立ち位置を担っているイメージがあるんですけど、今回はいかがですか?
上田「今回はゲートを開けていくごとにいろんな問題がふりかかってきたりする話なんですけど、酒井君はそういう問題を解くことがすごく得意で、全部解いちゃうんです。だから、酒井君はちょっと外しています(笑)」
石田「控えのエースみたいな感じかもしれないね」
上田「石田君だけでもすごく喋るっていうことで言うと、過去3回の公演では、メンバーそれぞれが少人数で舞台に立って成り立たせる、みたいな劇をしてきたんですよ。そういうことをしてきた人たちが、今回6~7人舞台にいると、良くも悪くもトゥーマッチで。本当はもっと少ない人数でも成り立つのに、たくさん人がいる贅沢さがあって。それをどう贅沢じゃないようにするかですね」
諏訪「もったいなさがあるよね」
上田「かつてはそんなことなかったんですけどね。例えば、ずっと続くなこの階段っていうシーンで、それを10人でやるぞろぞろ感を出したいんですけど、セリフでいうと最低2人いたらできちゃうシーンなんですよね。それを10人でやるときに、やっぱ10人でやる方が面白いな!ってなるためにはどうすればいいかが課題ですね。人が余ってるように見られたくないし」
 
――今回は企画性コメディ第4弾で、『ロベルトの操縦』は砂漠の乾いた感じ、『月とスイートスポット』はウェット、『建てましにつぐ建てましポルカ』は東欧のポップな雰囲気がありましたが、今回はどんなイメージですか?
上田「ひと言で言うと“スタイリッシュ”ですね。世界観としてはまさにアメリカです。スイートスポットはウェットな横浜辺りのヤクザの匂いだし、ポルカは東欧の匂いだし、今回は完全にアメリカの匂いをさせたいですね。“シリコンバレー、西海岸、IT”の匂いでいきたいなと思っています。とは言え、それをヨーロッパ企画がやると決してスマートにはならない。“スタイリッシュ”なことをしたいやつらですね(笑)」
 
――大きな舞台の中で、小さなことをやるという部分は変わらず、ですね。では最後に意気込みをお願いします。
石田「スタイリッシュに本人たちがやっている様がとても滑稽に見えるような、そういうコメディになると思いますので、楽しみにしてください!」
上田「今回はついに突き抜けたというか。タイトルからして全力のコメディで。『ビルのゲーツ』というタイトルを付けた時点で今回は突き抜けよう!と思って、ゲートを開けまくっていく劇にしました。本当に見たことのない、これをついにやったんだ!という舞台になると思います(笑)」
諏訪「“あ~、これやっちゃうんだ”っていう感じだね(笑)。ありなのかな~みたいなことが起こる」
上田「そうなんです、これをやるんだな~っていうような。これがブレイクスルーになれば良いですね。これ、やっていいんですよ!って」
諏訪「本当にね。このジャンルが増えたら良いなって思いますね(笑)」
上田「堂々とできるようにね」
諏訪「僕は、エチュードでホットドッグを食べるか食べないかで30~40分やって、面白かったなって思ってたら、次の日も同じようなエチュードがあって(笑)。これはホットドッグを食べるか食べないかのシーンがあるんじゃないかというのが予想で、それがすごく楽しみですね。あのシーンができたら嬉しいです」
上田「たまたま稽古場でやったことだけど、それをいざ本番用に整えてピザに変えてとかじゃ面白くないですもんね」
諏訪「そうだね(笑)。ホットドッグっていうのが面白かったのかもしれない。どのような形で舞台に上がるのかわからないですけど、すごく楽しみです」
 
――食べるか食べないかでみんなで言い合うって(笑)。
諏訪「変なんですよ。食べればいいじゃないって思いますよね(笑)。それで盛り上がれるって面白いですよね」
 
――そこがヨーロッパ企画らしさですね(笑)。では、本多さんお願いします。
本多「エチュードの時にみんなで走るシーンがあって、それがすごく面白くて。ひとりで走ってもそんなに面白くなかったかもしれないですけど、おっさんが全員で走るっていう、群像ならではの面白味があるな、と。自分も走りたかったなと思ったんで、そういうシーンが随所にあったらいいな(笑)」
諏訪「名シーンね」
上田「大きなことを描こうとするのも大事なんですけど、最近本当に小さいことにスポットを当てて、それについて喋ることの方が、話が豊かになるということが結構あって。前回もフルーツのことをすごく言ってたりね。あまり大きな社会のことを描こうとすると、どうしても漠然としちゃうんですけど、エチュードでホットドッグの場面が30分以上も続いたっていうことは、それだけやる価値があるというか(笑)。細かい面白味を丁寧にやっていきたいですね。今、決意を新たにしました!」
 
取材・文:黒石悦子
 



(2014年8月18日更新)


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写真左から、石田剛太、本多力、上田誠、諏訪雅。

ヨーロッパ企画「ビルのゲーツ」

発売中

Pコード:438-075

「ビルのゲーツ」
▼9月10日(水)19:00
▼9月11日(木)14:00★/19:00
▼9月12日(金)19:00
▼9月13日(土)13:00/18:00★
▼9月14日(日)13:00
▼9月15日(月・祝)13:00/18:00★
▼9月16日(火)19:00

★…出演者による「おまけトークショー」あり。

ABCホール

前売-4500円(指定)

[作][演出]上田誠

[出演]石田剛太/酒井善史/角田貴志/諏訪雅/土佐和成/中川晴樹/永野宗典/西村直子/本多力/岡嶋秀昭/加藤啓/金丸慎太郎/吉川莉早

※学生シートは取り扱いなし。未就学児童は入場不可。
※9/15(月)はビデオ撮影のため、客席にカメラが入ります。

[問]サウンドクリエーター
[TEL]06-6357-4400

http://www.europe-kikaku.com/

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