舞台俳優・森田剛が挑む新作『夜中に犬に起こった奇妙な事件』は
ウエストエンドに感動の渦を巻き起こした物語
4/24(木)~4/29(火・祝)シアターBRAVA!での上演を前に
東京公演の観劇レポートが到着!
俳優、森田剛が新たな魅力を開花させた舞台『夜中に犬に起こった奇妙な事件』が、東京・世田谷パブリックシアターで絶賛上演中だ。アスペルガー症候群(自閉症の一種)の少年の豊かな感受性と成長を描いたロンドン発の話題作が、日本オリジナル版として上演される。数学に飛び抜けた才能を持つ天体好きな15歳の少年、幸人は殺害された隣家の犬の犯人探しを行っていた。しかし、自分宛の手紙を見つけた日から事態が一変。命の危険を感じる事態に巻き込まれていく……。スリルとサスペンスとユーモアが渾然一体となった幸人の一世一代の冒険劇が今始まる!
リビング、近所の街並み、改札、新幹線の車内まで。昔懐かしい木造校舎を舞台に、主人公が旅するすべての世界が教室の中だけで展開する。俳優たちは常に舞台上に居続け、出番以外は美術スタッフさながらに机や椅子、時には体を使ってシーンの骨格を形作る。流れるようなチームワークとスピーディーな場面転換はまるでダンスを見るよう。観客の想像力をプラスして初めて完成する演劇の醍醐味を、十二分に味わえる演出だ。
人との接触が苦手で誤解を生みやすい幸人に、父親は「面倒なことに関わるな!」と念を押すが、幸人にしてみれば「面倒なことになるとは知らなかった」。誰に対しても自らの正義に真っ正直な幸人に対し、周囲の大人たちはあの手この手で接触を試みる。そこには、人が人と通じ合うことの楽しさと難しさが混在する。「言わなくても分かるはず」という主張は、自分にとって都合のいい解釈でしかないのだと気づかされたり。しかし、同じく言わずに後手に回ったことで中盤、トンデモない事態を巻き起こす父親を責める気にもなれず……。誰の視点で読み解くかでも、物語の印象は違って見えるだろう。
そんな一見不自由に思える幸人の世界だが一方で、常人には真似できない領域にまで知識の幅を広げる。何万光年も彼方の宇宙へと思いを馳せたり。舞台上で再現される彼の頭の中は、とても明るくロマンチックだ。演じる森田も膨大なセリフ量をものともせず、のびのびと役を楽しんでいるよう。持ち前の思慮深い眼差しから天才肌の役が良く似合うがとりわけ本作では、外向きのパワーが鮮烈だ。脇を固める両親役の高岡早紀、入江雅人、担任教員役の小島聖も確かな演技が光ったが、中でも近所の老婦人役を演じた木野花が抜群。絶妙な間ととぼけた演技で幾度となく観客の笑いを誘った。
やがて明かされることの顛末には心底驚かされるけど、それぞれが憎めないのも作者が持つ人間愛の表れか。その名の通り“幸せな人のあり方”を観るような、気づきに満ちたステージ。最後に見せる幸人の満ち足りた笑顔がたまらなく、忘れがたい。
取材・文:石橋法子
(2014年4月21日更新)
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