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ホーム > インタビュー&レポート > 「この会に聞きに来るお客さんは、ええ意味で、 笑いに対して貪欲で業の深いものすごいスケベな客」 落語界の人気スターが年に一度、開催する『夢の三競演』 恒例の“お三方インタビュー”、トリを飾るのは桂文珍!

「この会に聞きに来るお客さんは、ええ意味で、
笑いに対して貪欲で業の深いものすごいスケベな客」
落語界の人気スターが年に一度、開催する『夢の三競演』
恒例の“お三方インタビュー”、トリを飾るのは桂文珍!

桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という一門も異なれば、入門年も年齢も違う上方落語の“ビッグ3”が一堂に会し、その年の集大成的高座で魅せる大阪の冬の風物詩『夢の三競演』。ぴあ関西版WEBでも恒例となったお三方インタビューでは、師匠それぞれの2013年を振り返ってもらいつつ、間もなく迎えんとする『夢の三競演』に向けての心境を探ることに。そして今年のインタビュー第3弾、トリを飾るのは桂文珍。日本全国に笑いを届けている“伝道師”文珍が日々、何を見て何を思っているのか? 湧き出る泉のごとく、あふれ出す様々な感情を赤裸々に語った!

――まずは、2013年を振り返っていただきましょう。
 
桂文珍(以下・文珍)「個人的には、後半から景気と一緒で尻上がりになってきたかな。でも、この頃は小便が漏れたりするんですよ。で、東電に合うような紙おむつないかなと。放射能だけとれるようなおむつがあればね。それがでけへんから、みんな喉仏にひっかかったまま1年を過ごしたというような。東北方面でたくさん仕事してるんですけど、こないだも福島県に行ったら会館の横で除染をやっとる。土を削って新しい土を乗せてるんやけど、それ効果あるんかなぁと。削ったやつは、どこへ持っていくねんみたいな。それでお金がものすごい落ちる。みんな、税金やで。今年は参院選があったんやで。選挙終わったら、はよ国会開かんかい! 腹立つなあ。で、夜の仙台なんか、刹那的に生きてるやつで飲み屋街がものすごく流行ってるのよ。でも、メディアは全然書けへんやん。メディアもインターネットができて、刺激的なことばっかりを求めてる。落ち着いて考えてないやろと言いたい。ネットも含めて、何か忘れさそうとしてるんではないか…そういう気持ちになりますね。むかつきを感じます」
 
――かなりお腹立ちのようですね。
 
文珍「トシいって丸うなったらいかんと思てるんですよ。それだけのことですわ。敵を見つけな、死ぬらしいで(笑)。腹立つことがぎょうさん見つかって嬉しいんですわ。色んなことを見つけては、喧嘩売って歩かなあかん」
 
――さて、今年も精力的に全国で落語会を開いてこられた文珍さんですが、夏には三遊亭圓朝作の『牡丹灯籠』の五夜連続読み語り、という新たな試みにも挑戦されました。
 
文珍「エンターテインメントとして明治を感じてみたかったのね。それと、文字という記録があるおかげで再生できるというか。明治の空気がちょっと出るかなと思ってやってみたら、やっぱり出ましたな。20何日間かけてやりはるのを5日間でやらないかんという厳しい条件で、あんな疲れたことはなかったけど、やってみたら”ほほう”と。三遊亭圓朝は、戯作者になりたかったんだろうなと思いますね。色んな落語家がその時代あたりから出てくるんですけど、そこへタイムスリップするような楽しさでした。怪談といいながら、実は因縁話でかたき討ちの話なんですが、やってみるとその狙いがよう分かってオモロイなと」
 
――落語に還元されたことはありますか? 
 
文珍「『牡丹灯籠』をやったおかげで、照れもなくどんな話でもできるようになりましたわ。例えば『立ち切れ線香』。あんな格好の悪い話はようせんわと思っとったのに、あれ以降平気でスッとできるようになってね。うちの親父(五代目桂文枝)もやってたけど、はようから泣きはりますねん。これは僕のニンにないなと。そやけど、文の家かしくさんのを聞いたら、ものすごくあっさりしてる。橘ノ圓都師匠も、ものすごいあっさり。あっ、こんなんもありなんや、これでええわと。また、構成がようできてるねん。80日で手紙が途切れて、21日目に会いに行くという。ちょうど3×7で三七日(みなぬか)。物語としては、あんな純な人は今どきなかなかいない。あんな女、おるわけないもん。絶対おれへん。純すぎるというかな。いないからこそ、エンターテインメントとして良いのかなと思います」
 
――『牡丹灯籠』から、開眼するものがあったと。
 
文珍「つまり、演じるという楽しさが分かったんかな。鶴瓶さんの落語なんか、ずっと演じてるやんか。それもお好み次第、あれは彼の世界やからええのよ。そんなんが平気でできるいうのは大事なこっちゃなぁと。カレーライスでも、学食のカレーがいいという人もおれば、お母ちゃんが作ったシャバシャバのでないと嫌やとか、色んな好みがあるでしょ。落語も一緒で、色々なお好みがあるんやなぁと改めて思いましたね」
 
――“色々な好み”といえば、三者三様の落語が楽しめるのが『夢の三競演』。今年で10周年を迎えます。
 
文珍「有難いことですね。もう10年も経ったんかと。この会は三人三様に世界観があって、各々の色が出てますやん。みんな“大和のつるし柿”になってもうて。へた(下手)なりに固まったいうねんけどね。下手かどうか知らんけど、お好みなりに固まったというか」
 
――毎年、どんな思いで迎えられているのでしょうか? 
 
文珍「こんな早く来ちゃったの。3カ月前にやったかと思ってたのに、もう1年経ってるの…みたいな。楽しみです。やけど、苦痛やね。だって、変なお客さんですよ。自分の独演会やったら文珍色、南光さんやったら南光色、鶴瓶さんなら鶴瓶色のお客さんが来はるやんか。それはある意味、楽なんよ。お好みのところを突っ込んでいって、極めたらええだけやん。それが、客席を見て色を変えていかなあかん」
 
――3人それぞれのファンではなく、『三競演』ファンが来られるという。
 
文珍「つまり『三色あられを食わして』いうて来はるねん。いっぺんにほおばりたい人やんか。かなんわ。ほんで『そんなんもありやんな』『それもオモロイなあ』って、にやにや笑てはるねん。3回楽しんではる。ええ意味で、笑いに対して貪欲で業の深いものすごいスケベな客。だって誰も手を抜けへんから、お客さんはオモロイわな」
 
――では、今年の出し物は何をお考えでしょうか?
 
文珍「『けんげしゃ茶屋』にしょうかなぁ」
 
――文珍さんの『けんげしゃ茶屋』に登場する旦那は、いやらしいけど品があります。
 
文珍「理想としては、そういう風に遊びたいねんけどね。この噺は、何をしてもオモロないようになった旦那が、自分で遊びを見つけた楽しさというか。この旦那は忌言葉を言うて、周りが嫌がってるのを見ながら飲むのが楽しい。トシを重ねるというのは、与えられる遊びを待ってるようではあきませんねや。自分で遊びを見つけな、オモロないんですわ。つまり、仕掛けてる側が自分より年下やから、年寄りは『もうやったやん』とか、『俺には合わんわ』とか思うてしまうわけ。僕も若い時は大型バイクにも乗ってみたけど、今は立ちごけするしな。音楽聴いても、ベニー・グッドマンで安心する俺は何やろ、とか。そうなってくると、自分で楽しみを見つけないかんのですわ。年齢を重ねる難しさというかね。でも、どこかで凛としていないといけない」
 
――ご自身にとっての人生の課題でもある。
 
文珍「こないだも、奈良岡朋子さんに会うて色々話をしたんですけどね。今は、民藝のトップになってはって、83歳やねんけどものすごいシャンとしてはる。仕事への姿勢とかをお伺いしてると、女性としても役者さんとしても非常にしっかりしてはってカッコいいんですよ。カッコよく年齢を重ねたい。だから、どうしたらいいのかなと思ってね」
 
――文珍さんが思う、理想のトシの重ね方とは?
 
文珍「『この人、まだ何かしそうな感じがするな』っていう。例えば、鶴瓶さんが80歳になった時に、枯れた爺ちゃんやけど『何かするで、このおっさん』みたいな、『危ないわ』という。例えば、病院に行ったら僕は看護師さんにしゃべるだけ、南光さんは手を握る、鶴瓶が胎ます(笑)。つまり、そういう三人三様の面白みがトシいっても滲み出るような。そんな風になれたら面白いなぁと思てるんですよ。何か違う、ある種のオーラみたいなんがないとダメですよね。何か違うわという存在感というか、異物感っていうかね」
 
――トシを重ねたお三方を見てみたいですね。
 
文珍「頑固やからなぁ、この3人は。特に鶴瓶さんが熱い。ほで一生懸命やねん。そうは見えんけど、あいつが一番気が短くて、一番スケベで、一番乱暴で、トンデモナイ奴ですよ。そやけど若いから、いいなあと思うてね。やっぱりええ友達ですわ。この会は、誰かが死んだら辞めようと思てるんですよ。補充して誰かでやるのは悪いやんか、亡くなった人に。…なんで(亡くなる人を)他の2人にしてるんやろ。この俺の神経がいかんわな(笑)」
 
――他のお2人にもお聞きしたのですが、最後に落語初心者にメッセージをお願いします。
 
文珍「月亭八光や月亭方正から入るとか。つまり、『あっ、知ってるわ』みたいな要素から入ってくるのもええんちゃうかな。『えっー、落語しはんの?』みたいなね。僕の若い時もそうやったんとちゃいますか。落語の入口としてのショーウインドーは作らないかん。で、その中へ誘うと奥がずっーとあるんですよと。京都の町家みたいに間口は狭いけど、奥はまだまだあるという。それを楽しむ人たちが、三競演に来てはるんでしょうな」
 
 
(取材・文/松尾美矢子 撮影/大西二士男)



(2013年11月15日更新)


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桂文珍
かつらぶんちん●1948年生まれ、兵庫県出身。1969年、五代目桂文枝に入門。時代に呼応した唯一無二の落語を引っ提げ、精力的に全国各地で独演会を開催。今夏は三遊亭圓朝作『牡丹燈籠』の五夜連続読み語りにも挑み、新境地を開拓した。

夢の三競演2013
~三枚看板・大看板・金看板~

11月16日(土)10:00~一般発売
Pコード:432-669
※発売初日はチケットぴあ店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9560(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。

▼12月24日(火)18:30

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

全席指定-6300円

[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶

※未就学児童は入場不可。

[問]夢の三競演公演事務局
[TEL]06-6371-0004

11月16日(土)10:00~一般発売
チケット情報はこちら

『夢の三競演』演目一覧

※登場順
2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』