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ホーム > インタビュー&レポート > 「今はウケるウケへんやなしに、こっちをしよう、 あっちをしようとかって色々悩みますね」 落語界の人気スターが年に一度、開催する『夢の三競演』 恒例の“お三方インタビュー”、第1弾は笑福亭鶴瓶が登場!

「今はウケるウケへんやなしに、こっちをしよう、
あっちをしようとかって色々悩みますね」
落語界の人気スターが年に一度、開催する『夢の三競演』
恒例の“お三方インタビュー”、第1弾は笑福亭鶴瓶が登場!

桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という一門も異なれば、入門年も年齢も違う上方落語の“ビッグ3”が一堂に会し、その年の集大成的高座で魅せる大阪の冬の風物詩『夢の三競演』。ぴあ関西版WEBでも恒例となったお三方インタビューでは、師匠それぞれの2013年を振り返ってもらいつつ、間もなく迎えんとする『夢の三競演』に向けての心境を探ることに。インタビュー第一弾に登場する笑福亭鶴瓶の胸のうちには一体どんな思いが去来しているのか? 『夢の三競演』のスタートと時を同じくして、新たな落語家人生を歩み始めたこの10年についても語ってもらった。

――今年も『夢の三競演』の季節がやってきました。しかも、今回で第10回を迎えます。10周年と聞いて、どんな思いが巡りますか?

笑福亭鶴瓶(以下・鶴瓶)「今は、落語家としてハッキリ認知していただいてるなという思いがありますね。この人が落語をするのは当たり前やっていう。前は、『よう落語しよったな』みたいな感じでしたけど。だって、第1回は何が何やら分からんと『らくだ』をやったわけですからね。お兄さんたちが会見で、「鶴瓶が、今度『らくだ』やるから」と。あの時は、やり切ったっていうこともなく、ただただやったという感じで。そういう時代を振り返るとすごく懐かしくて、何も思わずできた昔の方がいいんかなと思ったりね」

――昔のように無心になれたら…という思いもおありになる。

鶴瓶「『死神』を仕上げた時に、とにかくやりたいと思ったから、(桂)文之助の神戸の会に飛び入りで出たんですよ。ようやったなと思いますよ、そういう無心なことがね。『死神』なんかやられると、文之助の会やのに俺の会みたいになってしまう。別に僕が上手いとかじゃなく、目立つし、悪いじゃないですか。逆に今は、飛び入りしないですもん。迷惑かけるなぁと思うから。昔は無心やったから、『行かして』って言うて簡単に行ってたんですよね。 (立川)談春の会でも飛び入りで『お直し』やりましたからね。ネタ下ろしですよ。談春のお客さんの前で『お直し』やるんですもん。それぐらいの勢いがあったんですよ、自分の中で。でも、段々そういうこともしたら悪いなと思うようになってきたからね」

――この10年は、鶴瓶さんが落語に本格的に取り組んでこられた歳月でもあります。

鶴瓶「やってもやっても追いつかないんですよね。ネタ数も増えてきてるし、ずっーとやっていかないと不安なんですよ。先日、久しぶりに『宮戸川』をやったんですが、形にするまでにどんどん変えてますからね。それも、いっぺん稽古しないと絶対できないし。1本のネタって、一体どこで仕上がるのかなと思うぐらい悩みます。でも、難しいなぁとは思うんですけど、それだけ悩めるのは嬉しいと思いますね」

――ある意味、噺家として嬉しい悩みですね。

鶴瓶「この10年の中で、いっぺんバシッと決まった時があるんですよ。『三競演』ではないんですけど、よその舞台に上がってて、今日はいけたなっていうのがあったんです。それを毎回出したいから。最初の頃は、そんなこと思ったこともなかったんですよ。10年目の悩みってそういうことでしょうね。これしかないねんからと言ってた時代と違って、今はウケるウケへんやなしに、こっちをしよう、あっちをしようとかって色々悩みますね」

――ここ10年で、落語の定席・天満天神繁昌亭の開場をはじめ、落語界を取り巻く状況も随分変化を遂げました。上方落語協会の副会長として、思うことはありますか?

鶴瓶「繁昌亭は月に1回出ますけど、やっぱりお客さんが少ない時もあるわけですよ。で、今日は飛び入りやからとツイッターで知らせたりして、ざっといっぱいになるような形にするんですね。それが果たしていいのかなぁと思たりもするんですけど、やっぱり、それぞれが責任を持ってひとりでもお客さんを入れる意識を持つべきやと思うんですよ。俺ら必死になりますからね。行ったら行ったで、この会に来て良かったと思われるぐらいの気持ちでやろうと思うから、次がまた入る。その意識がなさすぎるというか、マンネリ化してるというか。1回の舞台にかけるっていうのがすごく大事で、トリはトリ、カブリ(中入り直後の出番)はカブリで、ちゃんと責任もってやらないと絶対にダメなんですよ」

――では、『夢の三競演』はご自身にとってどんな存在の会でしょうか?

鶴瓶「南光兄さんがおって、文珍兄さんがおって。あの人らは絶対に活き活きしてますからね。落語に関してはいつも遠いとこにいてはるから、いかに近づくかということを思いながらずっとやってます。また、あのふたりと違うことができたら、という意識を持ってやってますね。僕の強いところというのか、例えば『怪盗グルーのミニオン危機一発』っていうアニメの主役の声優をやったり、ドラマ『半沢直樹』に出演したり。そういうところの幅の広さが必要なんですよね。いろんな人と絡んでることを、お客さんが喜んで見に来てくれる」

――最近は、『半沢直樹』で話題になったネジを持って高座に上がられることも。

鶴瓶「それが落語に伴ってなかったら何もならないんやけど。落語に伴うと、『あの話聞きたいわ』とか、『あのネジ見たいわ』とかになるんですよね。僕は役者じゃないですから、あのネジも平気でもらえるんです。噺家やから持って歩くんです。ネタに使えるわけですよ。そういう派手なことをするのも大事なんですけど、それによって落語との距離が近づくっていうのが一番大事なんですね」

――落語に興味がなくても、『半沢直樹』の“あの”ネジという話題で入っていける。

鶴瓶「今これを使わないと、いつ使うのってことでしょ。1年後やったら、何のネジか分からんようになる(笑)。そこが一番大事で、落語界は落語界、マスコミはマスコミじゃないんですよね。今、一線で出てる人間が落語をやってることの大事さっていうのがすごくあるわけですよ。ただ、マクラではえらい笑ろてるけど、その後は何の関心も持たれない落語になってしまうとダメやし。そこのバランスをどうとるかですね」

――今年は『夢の三競演』10周年ということで、演目は“当日のお楽しみ”という趣向も検討中とか。そんな中で、何を出そうとお考えですか?

鶴瓶「去年は『鴻池の犬』をやったんですけど、あれは方々でやってきたネタで。その前の年は『癇癪』。自分で言うのもおかしいけど、今『癇癪』は自信あります。『立ち切れ線香』も、昔に思ってたものとまた違うんですよ。昔は、男女の間に思い出がないのに、何で死んでしまうのやろうと。しかし、男女ってそんなもんで、理由なんかないわけですよ。若いからね。携帯もない時代ですから、会いとうて会いとうてたまらんのに、なぜ会われへんねやろ。そしたら、やっぱり焦がれ死にしてしまうことがあるんですよ。それが理解できないままにやってたんですね。でも、今は理解できますから、やりやすい。素直に入っていけますね。だから、『立ち切れ』をやってもいいと思いますしね」

――ご自分の中で一番旬のネタをやりたいと。

鶴瓶「特に、この会に出す演目は非常に難しいし、悩みますね。やってないのが『青木先生』と『お直し』。両方ともやり込んでるから、今回がちょうどいいかなとか思ったりするんですよ。『一人酒盛り』もやってないしね。お客さんが一番いい感じで聞けるというか、タイミングの問題ですよね。今ここやなと思ってやれるのが一番いいんですけど、時間が経つとまた離れてしまうし。今は『お直し』にだいぶ傾いてますけど、上がる前に『今日はこれや』っていう、その時の新鮮な気持ちでいきたいなと思うんですね」

――今回の出番はトリです。

鶴瓶「去年は、『帯久』『鴻池の犬』『子は鎹』と3人ともに人情噺でした。これでいいんですよ。これができる会なんて、そんなにないわけです。あのふたりは、頭でド~ンと笑わしても入っていける。緩急できるわけですよね。マクラで崩れないっていうか。だから、僕がトリで『青木先生』をやってもいいような会なんですよ。トリとか関係ないですから。みんなトリですよね。出番は関係なく、一つ一つの場面を見せるというか」

――では、ご自身にとって『夢の三競演』の魅力、楽しみとは?

鶴瓶「あのふたりに見てもらえるっていうのが楽しみですね。前回、『鴻池の犬』をやって下りて来た時に、『(藤山)寛美先生やなぁ。松竹新喜劇やわ』と言われて。的確じゃないですか。ベンチャラも言わないし、本当のことを言うてくれるからね。お互いに刺激があるでしょ。刺激がなくなったらやらないと思うんですよね。みんなそれぞれでいいんですから。僕は今も刺激がありますから、やらしていただいて嬉しいなと思てます」

――落語を聞いたことはないいけど、『夢の三競演』なら行ってみたいという方も多いはず。最後に、落語初心者に向けてメッセージをお願いします。

鶴瓶「自分が理解できないことをするのは嫌なので、僕は初めて聞く人にも理解できるようなやり方をしてるっていうのか。そういう意味では、初めて見るのは僕の落語がいいかなと思いますね。落語入門は、僕を見ていただいたらいいなと。今では、そう言えるようになりました。昔は、そんなんよう言わんかったけどね(笑)」


(取材・文/松尾美矢子 撮影/大西二士男)




(2013年11月13日更新)


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笑福亭鶴瓶
しょうふくていつるべ●1951年生まれ、大阪市出身。1972年、六代目笑福亭松鶴に入門。落語に真摯に取り組む一方、多数のレギュラー番組を抱える。ドラマ『半沢直樹』(TBS)に出演したほか、アニメ『怪盗グルーのミニオン危機一発』での吹き替えも。

夢の三競演2013
~三枚看板・大看板・金看板~

11月16日(土)10:00~一般発売
Pコード:432-669
※発売初日はチケットぴあ店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9560(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。

▼12月24日(火)18:30

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

全席指定-6300円

[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶

※未就学児童は入場不可。

[問]夢の三競演公演事務局
[TEL]06-6371-0004

11月16日(土)10:00~一般発売
チケット情報はこちら

『夢の三競演』演目一覧

※登場順
2004年
桂文珍『七度狐』
桂南光『はてなの茶碗』
笑福亭鶴瓶『らくだ』

2005年
笑福亭鶴瓶『愛宕山』
桂文珍『包丁間男』
桂南光『質屋蔵』

2006年
桂南光『素人浄瑠璃』
笑福亭鶴瓶『たち切れ線香』
桂文珍『二番煎じ』

2007年
桂文珍『不動坊』
桂南光『花筏』
笑福亭鶴瓶『死神』

2008年
笑福亭鶴瓶『なんで紅白でられへんねん! オールウェイズお母ちゃんの笑顔』
桂文珍『胴乱の幸助』
桂南光『高津の富』

2009年
桂南光『千両みかん』
笑福亭鶴瓶『宮戸川
~お花・半七馴れ初め~』
桂文珍『そこつ長屋』

2010年
桂文珍『あこがれの養老院』
桂南光『小言幸兵衛』
笑福亭鶴瓶『錦木検校』

2011年
笑福亭鶴瓶『癇癪』
桂文珍『池田の猪買い』
桂南光『佐野山』

2012年
桂南光『子は鎹』
笑福亭鶴瓶『鴻池の犬』
桂文珍『帯久』