真風涼帆がふたつの人格を行き来する
嵐のような熱演で魅せる!
伸び盛りの星組男役スター・真風涼帆(まかぜ・すずほ)が主演するミュージカル『日のあたる方へ -私という名の他者-』の公開舞台稽古が、10月6日、大阪の梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで行われた。
この作品は、ロバート・ルイス・スティーヴンソンの小説「ジキル博士とハイド氏の奇妙な事件」をもとに、木村信司が脚本・演出したオリジナル・ミュージカル。原作では善と悪を象徴する二つの人格が主題となっているが、本作では人格の裏側に潜む極悪人ハイド氏を、精神科医・ジキルの哀しい過去のトラウマから生まれた人物・イデーとして描き、ひとつの復讐譚のように「悪」に必然性をもたせる。そしてヒロイン・マリアの精神疾患を治療するためジキルが自ら治療薬の被験者となるなど、宝塚ならではのロマン溢れる脚色で、見応えのあるラブ・ストーリーになっている。
幕開き、精神科医のジキル(真風)がマリアの公開実験を行っている。マリアは意味深な言葉を歌に託しながら心ここにあらず。そんなマリアを哀しく見つめるジキル。現在の治療ではマリアを治せないこと、自ら見出した新薬がマリアを救えると確信しながら、最後の一歩を踏み出せずにいた。実はジキルにとってマリアはただひとりの愛する女性。そんな二人には封印された過去があった…。ミステリー仕立ての物語は、過去の体験=トラウマを明らかにできるという新薬の効き目によって、思いがけない方向へと進んでいく。
ジキルとイデー、同じ人物でありながら二役とも言える難しい二面性を巧みに演じ分けた真風涼帆は、ドラマシティ初主演。スーツの上に白衣を重ねる着こなしが175㎝の長身に映え、どこまでもスマートで格好いい。やはり大きな見せ場は、自室にこもったジキルが意を決して新薬を服用し、徐々に別人格のイデーが現れるシーンだろう。誠実で紳士的なジキルが、無防備な子どものようになり、肩を揺らし息づかい激しく、憎しみをたたえたような目となる熱演を、赤や青の照明、音楽でも効果的に盛り上げ、一幕のクライマックスへともっていく。後半もゾクゾクするような悪のエネルギーを爆発させ、真風のさらなる飛躍を目の当たりにした思いだ。ひとりの心の中、身体の中で激しい葛藤が巻き起こる嵐のような役作りは、舞台に上がってからもどんどん進化するのではないか。根底にマリアや家族への“愛”があるから、いっそう切なく迫ってくる。
ヒロインのマリアを演じるのは、今年『南太平洋』で専科の轟悠(とどろき・ゆう)を相手に堂々とヒロインを演じた若手娘役・妃海 風(ひなみ・ふう)。前半はほぼ歌のみで精神の揺らぎを表現し、後半では逆にジキルを包みこむような母性も見せて、感動的なラストシーンへと導く。他にも、明るく社交的な経済学者・ブルーノ役の天寿光希(てんじゅ・みつき)、ジキルを真摯に擁護する精神科医・ジョアン役の十碧(とあ)れいやが、ジキルの友人としてしっかりフォロー。さまざまな登場人物が物語の本筋に巧く絡んでくるので、最後まで謎解きの面白さがある。
舞台が現代のブラジルというのも意表を突いている。セットは青い階段と白い格子が印象的なシンプルなもので、照明などでカラーや立体感に変化をもたせ深遠な精神世界を見せる。そしてシリアスに偏りそうになる物語をラテンのナンバーがときに明るく彩り、フィナーレはまさにラテン一色。エネルギッシュなダンスが繰り広げられ、全員が自由に踊りながら幕が下りるという若さみなぎるエンディングで盛り上がった。
本公演は10月7日(月)~15日(火)まで梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演中。10月25日(金)~30日(水)まで、東京の日本青年館大ホールでも上演される。
取材・文:小野寺亜紀
撮影:岸隆子
(C)宝塚歌劇団
(2013年10月11日更新)
Check