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ホーム > インタビュー&レポート > 片岡愛之助、大奮闘!  江戸時代の上方で命を燃やした若者たちの 美しくも儚い青春群像劇『新・油地獄 大坂純情伝』 上方舞『楳茂都 三人連獅子』を上演中! 大阪松竹座「十月花形歌舞伎」[昼の部]をレポート!

片岡愛之助、大奮闘! 
江戸時代の上方で命を燃やした若者たちの
美しくも儚い青春群像劇『新・油地獄 大坂純情伝』
上方舞『楳茂都 三人連獅子』を上演中!
大阪松竹座「十月花形歌舞伎」[昼の部]をレポート!

テレビドラマ『半沢直樹』でオネエキャラの国税庁職員、黒崎駿一役を“怪演”し、幅広い層にその存在を知らしめた片岡愛之助。現在は座頭を勤める「十月花形歌舞伎」で大阪松竹座に出演中だ。

「十月花形歌舞伎」では、昼の部が近松門左衛門の『女殺油地獄』に想を得た新作歌舞伎『新・油地獄 大坂純情伝』と、父と母、そして子の獅子が舞う歌舞伎舞踊『楳茂都 三人連獅子』を、夜の部では、通しで上演することの少ない古典の名作『通し狂言 夏祭浪花鑑』を上演している。

『新・油地獄 大坂純情伝』の初演は2003年、シアター・ドラマシティにて愛之助を座頭に組まれた若手役者による一座「平成若衆歌舞伎」の第2回公演で上演された作品で、10年の時を経てついに大阪松竹座に登場した。『ウェストサイドストーリー』を彷彿とさせる、ミュージカルの要素をふんだんに取り入れた演出は、同じく歌舞伎役者で愛之助の父、片岡秀太郎が数十年来温めてきたアイデアで、その大胆な切り口は当時も反響を呼んだ。

不良グループの天神組と雁金組の対立、天神組の頭である与兵衛と遊女小菊の恋愛模様、そして与兵衛の家庭環境などを織り交ぜながら、与兵衛が人妻殺しへと暴走してゆく様を描いた本作。天神組と雁金組のケンカシーンは群舞と音楽で華やかに、時にコミカルに、まさに“和製ミュージカル”といった様相だ。また、流行語を随所に取り入れたセリフで物語と現実とを軽やかに行き来し、観客を作品世界へと巧妙に惹きこんでゆく。伝統芸能、古典…というと、なじみのない方には「難しそう」と思われがちだが、軽妙なセリフの掛け合いも多く、歌舞伎ビギナーはもちろん、原作を知らずとも十二分に楽しめる。

その一方で物語は、恵まれない生い立ちや貧困、家と家の格差など、どうにもならない現実に苛立ち、落胆し、世間を恨みながらも懸命に生きようとする若者たちの姿を描いている。人の心はいつの世も変わらず、その姿は現代に生きる私たちにリアリティを持って訴えてくる。喜びも、悲しみも、彼らの心が手に取るように伝わってくるのは、表情、仕草、台詞回しや間(ま)など、その技量は当然ながら、劇場に漲っている「気」によるところも大きい。たとえばクライマックス直前、花道から舞台へ向かって静かに歩いてゆく愛之助扮する与兵衛。その背中からは狂気と悲哀、ある種の覚悟など様々な感情があふれ出している。役者を通じて登場人物たちの「気」を肌で感じられることこそ、演劇の、生の舞台の一番の醍醐味だろう。それを歌舞伎で得るというのもまた特別な経験になること間違いなく、ことビギナーに優しいこの新作歌舞伎でぜひ、体験してほしい。

特筆すべきは他に、劇中に登場する見世物小屋の口上師であり妖術使い、果心(かしん)の存在だ。「見てゆかぬか、見てゆかぬか」と妖しげに呼び込みながら、与兵衛の心の闇へと忍び込み、トラウマを引きずり出す果心。その妖術が実は、観客の私たちにもかけられていたことをやがて幕引きと同時に実感することだろう。果心という存在も、最後まで目が離せない。

昼の部のもう1作品、『楳茂都 三人連獅子』は、親獅子、母獅子、子獅子と三人の獅子が舞う上方舞の楳茂都(うめもと)流ならではの舞踊で、四代目家元である愛之助の「歌舞伎に舞踊があるということと、楳茂都流の舞いを知ってもらいたい」という願いも込められての上演だ。踊りでもって、親子の団欒風景や父親の厳しさ、母の優しさ、子どもの成長などを描いている。最大の見せ場である三人の獅子による毛振りは、生で観るとその迫力に圧倒され、思わず手を叩きたくなる。『楳茂都 三人連獅子』もまた、詳しく知らずとも楽しめるので、歌舞伎舞踊の華やかな雰囲気を存分に味わえること請け合いだ。

夜の部の『通し狂言 夏祭浪花鑑』も、有名な作品ながら通しで上演されるのは実に51年ぶりという。気になる作品をいつ生で観られるか分からないというのも舞台の妙味。見たいと思った瞬間こそ絶好のチャンス、一期一会の出会いがもたらす奇跡をぜひ、五感と、そして肌とで直に感じてほしい。演目、役者、舞台美術、音響効果、照明…と、歌舞伎の面白さにきっと心を奪われるに違いない。

公演は10月27日(日)まで。チケット発売中。




【昼の部】11:00
一『新・油地獄 大坂純情伝』
河内屋与兵衛(愛之助)/お吉(壱太郎)/刷毛の弥五郎(亀鶴)/皆朱の善兵衛(萬太郎)/天王寺屋遊女小菊(新悟)/おかち(尾上右近)/雁金文三(薪車)/山本森右衛門(猿弥)/おさわ(吉弥)/豊嶋屋七左衛門(男女蔵)/果心(翫雀)

純情ながらも不良仲間とつるみ喧嘩沙汰ばかり起こす河内屋与兵衛は、苦涯に身を落とす恋人小菊のこと、男癖の悪い母親おさわのことと悩みは尽きない。そんな折、母おさわの放蕩で妹おかちが身売りすることになるかもしれないと知り、普段なにかと世話を焼いてくれる幼馴染で油商豊嶋屋女房のお吉に、金を融通してほしいと頼むが、にべもなく断られてしまい…。
 
二『楳茂都 三人連獅子』 
親獅子(愛之助)/子獅子(吉太朗)/母獅子(壱太郎)
 
【夜の部】16:00
『通し狂言 夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』

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序幕……お鯛茶屋の場 住吉鳥居前の場
二幕目…内本町道具屋の場 横堀番小屋の場
三幕目…釣舟三婦内の場 長町裏の場
大詰……田島町団七内の場
同………大屋根の場
   
団七九郎兵衛(愛之助)/一寸徳兵衛(亀鶴)/玉島磯之丞(薪車)/団七女房お梶(壱太郎)/娘お仲(新悟)/傾城琴浦(尾上右近)/下剃三吉(萬太郎)/番頭伝八(猿弥)/徳兵衛女房お辰(吉弥)/釣舟三婦(翫雀)

和泉浜田藩家臣、玉島兵太夫の子息玉島磯之丞は堺お鯛茶屋の遊女琴浦と恋仲となります。横恋慕する大鳥佐賀右衛門にそそのかされ遊興にふけり、その放蕩が主君の耳に聞こえ父より勘当されてしまいます。堺の魚売り団七九郎兵衛は佐賀右衛門の中間との喧嘩がもとで入牢中でしたが、女房お梶の願いを聞いた兵太夫のとりなしにより、出牢を許されます。恩人の子息磯之丞とその恋人琴浦を佐賀右衛門から守ろうと、団七は、お梶や義兄弟の契りを交わした一寸徳兵衛、その妻お辰、釣舟三婦らと奔走します。しかし、強欲な舅三河屋義平次がお金に目が眩み琴浦を拐(かどわ)かし、連れ去ってしまいます。奸計(かんけい)に気づいた団七は長町裏で義平次に追いつき、言い争いの末…。
 
(『歌舞伎美人』より)

(2013年10月15日更新)


Check
『新・油地獄 大坂純情伝』
『楳茂都 三人連獅子』
  

「十月花形歌舞伎」

発売中 

Pコード:431-644

▼開催中~10月27日(日)  

大阪松竹座

1等席-12600円 

2等席-7350円 

3等席-4200円

【昼の部】11:00
一『新・油地獄 大坂純情伝』
二『楳茂都 三人連獅子』

【夜の部】16:00
『通し狂言 夏祭浪花鑑』

※未就学児童は入場不可。
[問]大阪松竹座[TEL]06-6214-2211

大阪松竹座
http://www.shochiku.co.jp/play/shochikuza/

歌舞伎公式総合サイト 歌舞伎美人
http://www.kabuki-bito.jp/index.html

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