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ホーム > インタビュー&レポート > 「観る人の出逢っていない想像力や 眠っている価値観を刺激したい」 “分かり合いたい若者たち”を描く 悪い芝居の新作『春よ行くな』について 主宰・山崎彬にインタビュー!

「観る人の出逢っていない想像力や
眠っている価値観を刺激したい」
“分かり合いたい若者たち”を描く
悪い芝居の新作『春よ行くな』について
主宰・山崎彬にインタビュー!

人間の内側に渦巻く“陰”な部分や危うさをエネルギーに変え、毎回、異なるアプローチで息苦しさを内包したポップな舞台を見せる、京都の劇団・悪い芝居。今回、8月22日(木)より、大阪・in→dependent theatre 2ndで上演する新作『春よ行くな』について、作・演出の山崎彬に話を訊いた。

――まず、今作の『春よ行くな』で見せたいことを教えてください。
 
「ストーリーとしては、簡単に言うと恋人と別れた女性の話なんですけど、その中で描きたいものは、人と人との思惑のズレ。人って、分かり合いたくて分かり合おうとしても、結局100%分かり合えることなんてないと思うんですよね。その“分かり合おうとする人”たちのやり取りを見せながら、物語を進めたいと思っています。今回はあまりコーティングせず、自分の中から出てくる素直なものを書いているので、表面的には何も起こっていないように感じるかもしれない。演出もショーアップするのではなくて、極力シンプルに、人と人との何気ない会話の中でうごめくものを観ていただけたらと思っています。ただ多分、お客さん自身も、登場人物の誰ひとりのことも分からないと思います。というのも、“分からないけど、魅力がある人”を描いたら、観ている人はきっとその人について知りたくなるし、想像するでしょ。だからドラマ性のあるものを見せるよりも、お客さんが想像できる物語を作りたい」
 
――お客さんを感情移入させるのではなくて、その人たちが何を考えているのかを想像させるということ?
 
「役には移入させないですね。物語全体にお客さん自身が入っていくことはあると思います。誰かに何か言葉をかけるときって、今相手が求めていることを想像するし、その中に、自分のエゴをちょっと混ぜようとする。そこに表れる劇性を見せたいんです。“分からないけど、自分だったらこう言うだろう”っていうことが感じられて、お客さんの中で想像して世界が埋まるような作品にしたいんです。役者に対しても、最初から分かったように振る舞われるのが嫌で、書かれた言葉通りに動くのはやめてって言っているんですよ」
 
――もっと自然にしてほしいということですか?
 
「例えば、相手に好意を伝えるときって、相手がどう言われたら嬉しいかめちゃくちゃ考えますよね。“はっきり言う人が好きそう”とか、逆に“はっきり言うと引かれそう”とか、“何か物を渡した方がいいんかな”とか。いろんな選択肢がある中から考え抜いて、結局相手の手を持って“好きです”って言ったけど、やっぱり“手紙だけ渡して走り去った方がよかったかな…”とか、いろんな葛藤が同時に出てくると思うんです。それとか、人がいなくなったり、人が黙る、下を向く、いなくなる、メールが返ってこない…。こういうときって、自分でその人のことを埋めるしかなくて、自分の中のすごくいろんなものが動くと思うんです。その瞬間とかを描きたいと思っていて。だから、役者にも与えられた言葉や状況に対して、もっと迷ってほしいんです」
 
――お客さんにとっても、いろいろと刺激されそうな作品になりそうですね。
 
「日常的には、“分からないこと”の方が僕らは脳みそが刺激されるし、興味を持ったりすると思うんです。だからこの作品も、お客さんをきちんと刺激できるように、魅力的な分からないものにしたい。分かることが薄いとか浅いというわけじゃなくて、より演劇として面白いものを求めて作りたいと思っています。お芝居を観ている人が、目の前で行われていることに刺激されて、昔のことでもいいし、今そこにないことをぼんやりでも考えられるお芝居にしたいんです。単純に、“この人、普段何してるんやろう”ってことでもいいんです」
 
――お客さん自身に返ってくるようなものに?
 
「例えて言うと、“中華料理を食べた後に飲む水”みたいなお芝居。中華料理を食べに行って最初に水を出されるでしょ。その時は普通の水だけど、こってりした料理を食べた後に飲むと、すごく美味しく感じる。観る人の日常が水だとしたら、僕らのお芝居が中華料理なんです。濃いお芝居を観たことで、“何でもなかったものが、価値のある何かになる”ようなものにしたいんです。僕は、いちばん面白いのは、お芝居よりもお客さんの日常とか、その人が考えていることだと思うんですよ。だから、まだその人が出逢ってない想像力とか、眠っている価値観を刺激さえできれば僕らはそれでいいんです。お芝居は観ている人が主役。お話としてはよりシンプルにして、その余白をお客さんに埋めていただきたいですね」
 
(取材・文:黒石悦子)
 



(2013年8月16日更新)


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山崎彬
やまざき・あきら●1982年奈良県出身。2004年に悪い芝居を旗揚げ。全公演の作・演出を手掛ける。俳優としても活躍し、外部出演も多数。11月2日より東京・サンシャイン劇場で上演の『ショーシャンクの空に』(作・喜安浩平、演・河原雅彦)の舞台に出演予定。大阪は11月16日よりサンケイホールブリーゼにて上演。

悪い芝居vol.15『春よ行くな』

▼8月22日(木)~8月27日(火)

22日(木)19:30◆
23日(金)19:30◆
24日(土)13:30/18:30☆
25日(日)13:30/18:30☆
26日(月)14:00☆/19:30
27日(火)19:00

日本橋 in→dependent theatre 2nd

一般-3000円
早期観劇割引チケット-2500円(◆回のみ)
一般ペアチケット-2500円(2名様-5000円で限定数販売)
学生-2000円
学生ペアチケット-1500円(2名様1組-3000円で限定数販売)
高校生以下-1000円

※当日券は一般、学生とも一人500円増。

[作・演出]山崎彬

[音楽]岡田太郎

[出演]呉城久美/大川原瑞穂/池川貴清/大塚宣幸(大阪バンガー帝国)/山崎彬/植田順平/宮下絵馬/北岸淳生/森井めぐみ

悪い芝居公式サイト
http://waruishibai.jp/

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