インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 中村橋之助、37年ぶりの「柳影澤螢火」に 込める想いと勘三郎イズム

中村橋之助、37年ぶりの「柳影澤螢火」に
込める想いと勘三郎イズム

歌舞伎俳優・中村橋之助が、大阪松竹座の『七月大歌舞伎』で37年ぶりの上演となる「柳影澤螢火(通称:柳澤騒動)」に出演する。「柳澤~」は本名の中村幸二の名で初舞台を踏んだ、橋之助にとって思い入れのある演目。今回は初役で柳澤吉保に挑む。

 

徳川五代将軍・綱吉のもとで権力をふるった実在の人物柳澤吉保を主人公に、浪人から老中にまで登りつめた男の生き様を、出世欲にとりつかれた人物として描いた物語。橋之助は10年以上前からこの作品の再演を熱望していたという。「元々は4時間半ある話ですからなかなか上演が難しかったんですが、諦めかけた頃に決まったんです。今回は台本を手直しして、3時間半ほどに収めます」。共演者の顔ぶれも揃った。吉保を寵愛する桂昌院に片岡秀太郎、護持院隆光に中村扇雀、吉保の許嫁おさめを橋之助の兄・中村福助が勤める。「配役にぴったりの方々ばかりで、待った甲斐がありました」と嬉しそうに話す。

 

s003_text1.jpg

「この上演が決まった直後、(初演で吉保を演じた)三代目實川延若さんの甥御さんに、本当に偶然なんだけどお会いしたんです。そのとき、延若さんに(吉保を演じる事を)許していただけたような気がしました」と不思議な縁を語る橋之助。吉保といえば大河ドラマ『元禄太平記』などでの悪役の印象が強いが、「僕は4歳の時にこの作品で初舞台を踏みました。だから、小学生くらいの頃、テレビドラマで吉保が悪い人だと知ってショックを受けたんですけど、今回の脚本を読み直すとただ悪いだけの人ではない。脚本の宇野信夫先生の筆による吉保は品格があってね。出世欲が強くて、業の深い人だけれども、そこが人間らしくてなんだか許せてしまうんです」と吉保の魅力を話す。「水を使ったり、早替わりがあったりという派手な見せ場はないけれど、人間の内面を描くドラマになると思います」と確信に満ちた表情を見せた。

 

夜の部の「一條大蔵譚」で吉岡鬼次郎を勤める。「すごく久しぶりですね、21年ぶりになりますか。(大蔵卿の)仁左衛門の兄さんはいろいろ教えてくださいますけれど、こうしてそばで出させていただくことで、盗める部分は何でもいただいておこうかと(笑)」。

 

もうひとつ、「杜若艶色紫」で、お六(福助)と共に金儲けを企む坊主の願哲を演じる。「鶴屋南北らしい面白さがありますね。台本は以前とだいぶ変わってくるんじゃないかな。難しいことは考えずにやります」。

 

歌舞伎座が4月に新開場し、歌舞伎が新たな時代に入ったといえる今年。自身も「若手と言いつつ、だんだん年齢も重ねてきましたから、これからはみんなを引っ張っていかなくては」と気を引き締める。「新しい世代も育っています。長男の国生はいま高校3年生ですが、亡くなる前の勘三郎兄さんに『復帰したら、初めにお前の稽古をやるから身体をつくっておけよ』と言ってもらったそうなんです。残念ながらそれは叶わなかったけれど、今年、三津五郎の兄さんのところに自主的に稽古をつけてもらいに行って、先日、雀成会で「大原女」という演目を踊りきることができたんです。『りーパパ(勘三郎)はうそをつかない、最後まで僕のことを見てくれた』と言ってね。勘三郎兄さんの肉体はないけれど、精神は伝わっている。僕自身も、古い演目をただ埃を払ってやるのではなくて、兄さんに教わった芝居作りの姿勢を受け継いで演じたいと思います。そうしないとあの人、化けて出ますからね(笑)」。

 

7月に大阪松竹座に出演するのは、十八代目中村勘三郎襲名興行以来だという。「大阪でも歌舞伎がどんどん出来るようになって嬉しい」。こう話すのは、大阪で歌舞伎興行を打つのが難しかった時代を経験しているからこそ。この7月興行も「関西・歌舞伎を愛する会」第22回公演と銘打っている。「みんながひとつにまとまって、劇場に魂を入れることが大切」。たくさんの思いを受け継いで演じる橋之助の役者魂を大阪の地で見届けたい。

 

(取材・文/釣木文恵 撮影/榎本靖史)




6月30日に行なわれた「船乗り込み」のレポートはこちら

(2013年7月 6日更新)


Check
中村橋之助

●公演情報

〈関西・歌舞伎を愛する会 第二十二回〉
『七月大歌舞伎』

▼7月4日(木)~28日(日)
大阪松竹座

一等席-16000円
二等席-8000円
三等席-5000円

11:00
「通し狂言 柳影澤螢火/保名」
[出演]片岡仁左衛門/片岡秀太郎/中村福助/中村翫雀/中村扇雀/中村橋之助/片岡孝太郎

16:30
「曽我物語/一条大蔵譚/杜若艶色紫」
[出演]片岡仁左衛門/片岡我當/片岡秀太郎/中村福助/中村翫雀/中村扇雀/中村橋之助/片岡進之介/片岡孝太郎/上村吉弥/坂東薪車

※日時・席種により取り扱いのない場合あり。
未就学児童は入場不可。

[問]大阪松竹座■06-6214-2211

大阪松竹座
http://www.shochiku.co.jp/play/shochikuza/

演目、配役等詳細は『歌舞伎美人』で!
http://www.kabuki-bito.jp/index.html

チケット情報はこちら