インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「幕が下りると同時に、自分がいかに狂気に 侵されていたか、お客さんも気づくと思います」 舞台の重要なカギを握るトバイアス役を演じる 武田真治に、『スウィーニー・トッド』の魅力を聞いた

「幕が下りると同時に、自分がいかに狂気に
侵されていたか、お客さんも気づくと思います」
舞台の重要なカギを握るトバイアス役を演じる
武田真治に、『スウィーニー・トッド』の魅力を聞いた

現代ミュージカルの巨星、スティーヴン・ソンドハイムが作詞作曲し、1979年にニューヨーク・ブロードウェイでオープンした『スウィーニー・トッド』は、以降ロンドンでも人気を博し、日本では2007年、四半世紀ぶりの上演を果たした作品だ。

舞台は18世紀末、産業革命期のロンドン。好色の判事に妻を横恋慕された挙句、無実の罪で流刑となった理髪師のベンジャミン。その後、“スウィーニー・トッド”と名乗り15年ぶりに街へと戻ったものの、妻はもとより娘までもターピンに奪われたことを知った彼は、ターピンへの復讐を決意。そして狂気の世界へと暴走する様を描いている。

本日シアターBRAVA!で幕を明けた本作は、2007年、2011年と同じく宮本亜門が演出を手がけ、市村正親演じるスウィーニー・トッドと、大竹しのぶ演じるラヴェット夫人の名コンビもそのままに、さらにパワーアップ。そして、武田真治も前回と同じくラヴェット夫人を慕う心優しい青年トバイアス役で登場。そこで、2007年公演より参加している武田に、トバイアス役に挑んだことでの心境の変化や本作の魅力など、話を聞いた。

--2007年にトバイアスを演じたことで「役者として階段を上がったような気がした」と2011年公演のパンフレットでお答えになっていますが、2011年公演ではどんな心境で臨まれていましたか?

 

武田真治(以下、武田):ざっくり言うと気が楽でしたね。亜門さんからのオーダーをちゃんと作り上げたら評価につながるということが初演を経て分かったので。初演の時は「何でこんなかっこ悪いことをさせるんだろう」とか、「おかしなことをさせるな~」とか思ってて。

 

--それは稽古中にですか?

 

武田:はい、幕が開くまでイヤだった。でも本当に、亜門さんが辛抱強く、幕が開くまでずっと丁寧に演出してくださって僕もやっと理解できたというか…。幕が開いて、亜門さんの言うとおりにやってみて…。そしたら、1幕が終わった時、「武田がどこに出ていたか分かんない」「あの男の子が武田なの?」と役者冥利に尽きるご感想を聞いて、それで、「ああ、僕はそのぐらいのことができているんだ」って感じることができたんです。なので、前回はもう、役を受け入れることに対する抵抗が僕の中ではなくなってましたね。

 

--その2007年公演の時は、亜門さんはどういうことをおっしゃっていたんですか?

 

武田:亜門さんは、それぞれの役者さんのスタイルというかタイプを見て、その人が一番理解できるやり方や角度で演出してくれるんです。初演の時は18世紀ごろのイギリスの街を描いた挿絵とかを持ち出して見せてくれて、「トバイアスのように、こういう状況の中にいる人がラヴェット夫人に逢ったらどう思う?」とか言ってくれたりして。

 

--そういったアドバイスでどんどん、お役に近づいて?

 

武田:そうですね。作品への出演オファーってシノプシスだけ読んで受けたりするんですけど、初めてトバイアスの役を読んで、“おしっこを瓶につめて毛生え薬だって言ってるような男の子で、ラヴェット夫人に恋心を抱いて人肉パイを売るお手伝いをする”という人物像に、トバイアスは不良少年だと思っちゃったんです。この字面だけ並べると完全に不良少年、パンキッシュだと思ったから、ガミガミガツガツというような意識を持って挑んでしまっていました。“動乱の時代に翻弄された被害者”という要素はまるでなくて。純粋で、ひたむきで、不器用でっていうトバイアスとは全く逆になっちゃったんですよね。そういう、自分の中で“こんな人間だ”っていうビジョンを持って役に入り過ぎると、簡単にはぬぐい去れないですよね。でも「そうじゃないよ」って。足元に溝鼠がいるような生活で、虐げられた少年の絵とか見せてもらって、「ラヴェット夫人だけが頼りで、やっていることは間違ってないって信じながら人肉パイとは知らず売ってるんだ」って、「そうした方がラストシーンに向けてより膨らむから」って、何度も何度も説明してもらって。でも、僕は「いや、ストーリーのためにそうであるのはよく分かるけど、そのために俺はかっこ悪いことしたくない」って間違った反抗とかしちゃって…。もう、信じられないくらい若かったです(笑)。反抗期が出ちゃった(笑)。

 

--(笑)。そういうことも全部、亜門さんは受け止めてくださって。

 

武田:普通に考えたら、(トバイアスは)男の子がやりたがる役じゃないですから。かっこ悪いですし。僕ね、その2007年の稽古で最終的に「これをやっても人気が出ない」って言っちゃった(笑)。「これをやってもモテない!」って(笑)。30代前半で、まだモテたかったし、お客さんが観に来てくれてもモテないって(笑)。でも、幕が開いて、評価をいただいて…。

 

--初演を経て役者として階段を上がったとおっしゃっていたのは、そういうことなんですね。

 

武田:自分が見ている角度とは違うところに自分の新境地ってあるんだなと思いました。自分の計算の立つ角度ばっかりを掘り下げて、それを研ぎ澄ますというやり方もあるんでしょうけど、全く予想もしないことを受け入れたからこそ、新境地にたどり着くんだろうなって。だから、本当に亜門さんには感謝しています。2011年の再演の時には「何でも言うこと聞きます」って言いました(笑)。

 

s003_text.jpgスウィーニー・トッド役:市村正親
ミセス・ラヴェット役:大竹しのぶ
写真撮影:渡部孝弘

--主演の市村さん、大竹さんは、武田さんにとってどんな存在ですか?

 

武田:市村さんと大竹さんは本当に、生きる伝説という感じですね。ありきたりかもしれませんが、まず大前提としてパワフルです。で、天才と言われている人は稽古の時から上手で達者で天才かといったらそうでもなくて。結構失敗して、やらかしてくれたりするんですよね(笑)。でもね、同じ間違いは二度されないです。稽古場で1ヶ月くらい、台本の遥か上を飛び越えるような演技も飛び出すこともあれば、「しっかりしてくださいよ」っていうような、かわいらしいミスもしてくれたりして、すべての瞬間が愛しい人たちです。僕は20代とか、30代の前半は生意気すぎちゃって、人から何かを学ぼうという気がなかったというか、「俺は俺でいつも正解を生み出せる」みたいなことを思ってたんです。でも、自分が年齢を重ねて、今40歳になって、やっとまだまだだなと思って。そうやって謙虚になれた時に、背中を追いかけたい先輩たちがまだ(この世界に)いてくれるのはすごく幸運なことだと思います。

 

--偉大な先輩方とお仕事ができて、まだまだ吸収することもたくさんありそうですね。

 

武田:そうですね。本当に、偉大な人というか、そういう方って、とても謙虚で上下関係があんまりないんですよね。だから僕が「勉強になりました」って言うと、彼らは必ず「僕も皆といて勉強になりました」っておっしゃいます。そんな姿を近くで拝見して、やっぱりそういう人たちが残っていくんだろうなって思いました。

 

--武田さん自身も、何か意識が変わったことはありますか?

 

武田:自分にないものはすごいって単純に認められるようになってきました。年下でもすごい人はすごいなって。

 

--そう思えるようになって、どうですか?

 

武田:やっぱり楽しいですね。若い頃って「アイツの方がすごい」って認めるとソワソワして眠れないこともあると思うんです。今は、「アイツ、すごいなー」って思うようなことがあっても、「でも1日でこうなったわけじゃないんだろうな」って。もし僕がその人と同じことをこれから学びたいのなら、その人と同じだけ時間をかけなきゃいけないわけで。でも、もっと早く学びたいならその人と友達になって直接教えてもらうのが一番の近道で。そうやってすべて肯定的に捉えるというか。さらに言うと、「この人のこれはできないから、じゃあ、その人呼ぼうぜ」みたいな、どうしたらほしいものが手に入るのか、もしくはその力を借りられるのか、どんどん冷静に考えられるようになりましたね。その人のいいところは認めたもん勝ちだなって思うようになりました。

 

--なるほど。では、最後に『スウィーニー・トッド』という作品の魅力を聞かせてください。

 

武田:まず、勧善懲悪じゃないところですね。誰がいいとか、悪いとかじゃなくて。主人公のふたりは人肉パイを売って生計を立てながら復讐のタイミングを見計らっている。その大前提に「人を殺してパイを作っている」っていう事実がありながら、お客さんはいつのまにかそんなふたりを応援しているという不思議な作りをしていて。幕が下りると同時に自分がいかに狂気に侵されていたか、お客さん自身も気づくと思うんです。「あれ? 人殺しを応援してた」って。そうやって観客の皆さんの立ち位置とか、目線とか、モラルそのものをお芝居の間だけ吹っ飛ばす力のある作品だと思います。ただ物語を傍観してもらうだけじゃなくて、お客さんをその世界へと連れていく素晴らしいエンターテインメントで、勧善懲悪という形をとらなかったことで不思議な感覚に襲われるというところが最大の特徴の作品だと思います。

 




(2013年5月10日更新)


Check
撮影/河上良(bit direction)

●公演情報

『ブロードウェイミュージカル
「スウィーニー・トッド」
ーフリート街の悪魔の理髪師ー』

▼5月10日(金)19:00
▼5月11日(土)13:00/18:00
▼5月12日(日)13:00

シアターBRAVA!

全席指定-12600円

[原作] クリストファー・ボンド

[脚本] ヒュー・ホィーラー

[演出][振付]宮本亜門

[出演]市村正親/大竹しのぶ/芳本美代子/柿澤勇人/高畑充希/安崎求/斉藤暁/武田真治/他

※未就学児童は入場不可。当日券は要お問い合わせ。

[問]シアターBRAVA!
[TEL]06-6946-2260

シアターBRAVA!
http://theaterbrava.com/

●あらすじ

18世紀末、産業革命期のロンドン。好色なターピン判事に妻を横恋慕され、無実の罪を被って流刑にされた理髪師のベンジャミン・バーカー。若い船乗りアンソニーに命を救われ、15年ぶりに街に戻った彼は、かつての自分の理髪店跡を訪れる。1階では以前と変わらず陽気なラヴェット夫人がパイ屋を開いている。不景気でろくな肉を仕入れられないラヴェット夫人のミートパイはロンドン一まずいことで有名だ。彼の素性を見抜いた夫人は、彼の妻が狂気の果てに自殺し、娘のジョアンナはターピンに養育されている事実を告げる。彼が店に残していった商売道具のかみそりを大切に保管していた夫人は、それを彼に返す。彼は“スウィーニー・トッド”と名乗り、判事への復讐を期して、ラヴェット夫人のパイ屋の2階に理髪店を新たに開く。その素晴らしい腕前から店は大繁盛。素性を偽る彼は、自分の過去を知る人間たちのひげをあたるふりをして喉をかききっていく。死体の始末に頭を悩ませたスウィーニーとラヴェット夫人の頭に、突如ひらめく妙案。 もし、その肉を使って夫人がパイを焼けば、仕入れ費はゼロでとろける味のパイができ、しかも殺人の証拠は隠滅できるじゃないか…!!  奇想天外な思いつきに、二人は小躍りしてかちどきをあげる。

パイ屋はたちまちにして大繁盛。二人は、2階で殺した死体がダストシュート方式で地下のパイ焼きキッチンへ直行する仕掛けを考案。スウィーニーに最初にのどをかき切られたかつての同僚の理髪師ピレッリの弟子で、ちょっと頭が足りない青年トバイアスは師匠が突然姿を消してからは何も知らないままにラヴェット夫人の世話になり、お店を手伝っている。ラヴェット夫人は次第にスウィーニーへの恋心を募らせ、復讐はほどほどにして二人で幸せに暮らそうともちかける。トバイアスはラヴェット夫人に心を寄せ、スウィーニーが彼女に危険をもたらすことを本能的に感じている。

一方、ターピン判事はかつてスウィーニーの妻を陵辱したと同じ暗い情欲をジョアンナに感じ、自分の好みどおりに育てた彼女に求婚する。世間から隔絶され、幽閉された家の窓辺に立つ彼女に恋をするアンソニー。二人は、ターピンからのがれるため駆け落ちを企て、スウィーニーに協力を頼む。しかしその計画は事前に漏れて、ターピンはジョアンナを精神病院に隔離する。そのころ、町では謎の乞食女が、ラヴェット夫人のパイ屋からくさいにおいがする、とふれまわっていた。

ターピンを店へおびきよせる策を練るスウィーニー、彼の知らない秘密を握りながら彼を愛するラヴェット夫人、愛を成就したいアンソニーとジョアンナ、ジョアンナを我が物にしたいターピン、スウィーニーの正体を疑うターピンの片腕の小役人ビードル、ラヴェット夫人のパイ屋に漂う不審な空気を感じその原因はスウィーニーではないかと疑い始めるトバイアス、不吉な予言を吐く謎の乞食女…それぞれの欲望が渦を巻き、物語は戦慄の終幕に突き進んでいく。
(公式サイトより)