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「ひょっとしたら自分の中にあるやも分からない
“悪”を描いていくのが面白い、アハハ!」
桂文珍、『夢の三競演2012』で「帯久」を口演!

2004年から始まった桂文珍、桂南光、笑福亭鶴瓶という人気落語家による三人会『夢の三競演』。上方落語界の年末の風物詩として定着し、落語ファンが毎年、その幕開けを待ち望んでいる人気の会だ。今年は南光、鶴瓶、文珍の順で高座に上がり、名人芸ともいえる珠玉の話芸で楽しませてくれる。「ぴあ関西版」でも雑誌時代から恒例となっていたお三方へのインタビューを今年も実施。まずは今年トリを務める文珍から、落語の魅力や予定演目についての話を聞いた。

2.jpg――人気者3人がしのぎを削る好例の『夢の三競演』が、今年から会場をシアター・ドラマシティに移し12月25日に開催されます。早いもので『三競演』も第9回を迎えました。

桂文珍(以下・文珍)「9回!野球なら終わりやけどね(笑)。やっと皆さんに可愛がっていただけるような会として、定着した感じがありますね。特別なイベントにも関わらず、レギュラー化していただいて。恒例の…となってくると、それが普通の日常になってきますからね。しかしながら、3人共が今年1年、集中的にやったネタを集めて聞けるというのが、よその会とちょっと違うとこやからね。そこがええんちゃうかな」

――この9年の間に、落語界を取り巻く状況もかなり変貌を遂げていますが…。

文珍「こないだね、天ぷら屋でカウンターの端っこの方で食べてたんよ。ほなら、僕がいてるって知りはれへんかったんやろね。カウンターの反対の方で、落語の話してはるねん。どういう風に思てはるのか、興味があるやん。おじちゃんたちと若い女の子1人のグループで来てはるねんけど、1人のおじさんが『落語は面白いなあ』って。すると、ツレの若い子が『あんなんってどれぐらいするんですか?』。『そやな、だいたい2時間ぐらいやな』。そしたら、物凄い迷惑そうな顔で『ええっー!嘘や』。その後に『人間って、2時間も人の話って聞けるもんですかぁ?』って、ごっつオモロイこと言うねん」

――大胆な発言ですね(笑)。

文珍「ああ、そうか、なるほどと。つまり、その子はそういう体験をしたことがない。人の話を聞くというのは、説教か学校のオモロナイ授業か。興味がなかったんやろね、聞くということに。詰め込み教育を受けてるのと、物語の楽しさというか、読み聞かせを子供の頃にしてもうてないもんやから、人の話を聞くのは苦痛以外の何物でもない。音と光と映像と、やったらついていけるねんけどね。そしたら、もう一人の人が『それがな、話の内容を知ってるのにオモロイねん』て言いはるねん。よう言うてくれたと(笑)」

――師匠は、密かに拍手喝采(笑)。

文珍「その若い子は物語というか、お話ということが分かれへんのやろうね。だから、やっぱり小さい時の読み聞かせが大事なんやろなあ。小学校の時に聞いた本のストーリーは忘れへんやん。読み聞かせをしてあげたら、イメージする力が伸びていくと思うな。もうちょっと大層に言うと、食育と同じように“笑育”っていうか、そんなことが子供の頃にできると楽しいやろなと思てます。いみじくも、てんぷら屋でおった方が言いはった『知ってるのに、聞いたらオモロイねん』というのが古典の楽しさですよね。で、新作聞く時は緊張するねん。どないなんねんと。そういう風に、落語には両方の楽しさがあるんですよ」

――しかし、落語に対する認識というのは昔と今もそう変わってはいないのですね?

文珍「こないだ朝日新聞に『最近、落語を聞いてますか?』っていうアンケートが載ってたんよ。それで、『聞いてない』っていう人が、どうしてかっていうと『敷居が高い』『面白くなさそう』『おじいさんっぽい』とかね。頭の中でワープするというのが、意味として分からないんやね。ただ、ウチの家内に初めて会うた時も『何してはるんですか?』と聞かれたんで、小さな声で『落語家ですけど』言うたら、『ええっー!あんなん、おじいさんの仕事ちゃうん?』。『あのね、若い時からやってるからおじいさんになってるんです』て言うたのが、こないだのように思いますけどね。これは伝統芸やね(笑)」

――天ぷら屋さんでの若者や、新聞のアンケートをご覧になって、改めて思われることは?

文珍「嗜好の問題やったりもしますけど、でも、やっぱり落語は面白いのよと一生懸命に言葉を尽くして、説明していく必要があるんやなと改めて感じさせてもらいました。やっぱり接してもらわないかんからね。だから、我々が積極的に出かけて、アプローチして、キャンペーンしていくという。もちろん、この会も裾野を広げる狙いがあって、南光さんや鶴瓶さんという人気者に集まってもらってやろうと始めたわけなんです」

――落語初心者の方にも、この会を入口にしていただけたらと…。

文珍「これが仕事やったんやと分かっていただければ。ひどいのになると、三人会というと3人が並んでコントすると思てはるからね(笑)。特に今回は、知らん話がようけ出てますから、よけいにオモロイわな。みなさんそれぞれの演出で、それが一堂に会する…そういう意味では、聞きごたえのある会です」


1.jpg――今回の文珍師匠の演目は、ドラマチックな展開が魅力の『帯久』です。

文珍「僕は軽~くしよかなと。『帯久』やなしに『オバQ』か、『バーべキュー』に替えたろかな(笑)」

――『帯久』は、今年初めて手掛けられたんですね。どうしてやってみようと?

文珍「こんな噺はせんとこと、長い間思っとたんですよ。そやけど、ちょっと待ちや、ようできてるなぁ。そやけど、ちょっと整理せなアカンなと。文珍流の編集をしまして、50何分あったのを30分足らずに編集しました。どうしても昔のやりよういうのは、丁寧に繰り返しが多かってね。でも、お客様は編集しながら聞いてはるし、慣れてはるんですよ。そういう時代やねんね。それに合うやり方をした方が面白いなあと」

――12月で64歳を迎えられますが、年齢も関係していますか?

文珍「年齢を重ねて人間の持っている色んな要素を経験していけば、演じる側になると結構深みになっていって面白いですよ。そうすると、年齢によってやれる噺、やれなくなっていく噺があって、それを見つけ出すのがまた楽しい。ただ64歳になると、ちょっと落ち着いてくるね。今まで卵みたいな人生やったんやわ。卵って親のところからよそに逃げないように、必ず元の場所に戻るようになってるんですよ。なんか、僕もグルグル回ってた。結局、色んなことをしては、落語のとこに戻ってくるような人生やったなと。もちろん、それはそれでええんですけど、60半ばにさしかかってくると、卵が今度はゆで卵みたいになってね。ゆで卵の殻をむいて、スポンと半分に切って、切った面を下にして置いたら転がりもせんという。つまり、落ち着いてくるんですな。全ての事柄に興味があるのは、大事なこと。でも、自分で見えるわけやねん。そんなもんやなと。これがおもろうて」

――では、『帯久』の魅力とは?

文珍「やってて楽しいなぁと思たのは、やっぱりお裁きのところかなぁ。和泉屋与兵衛は善人やのに、あるキッカケで火つけするという。片や帯屋久七は別に善人にする必要がないし、最初から悪人で描いた方がいいでしょ。分かりやすくするためにね。『落語に出てくる人は、いい人ばっかりで』っていう言い方は、僕は気に入らなくてね。そんなことあるかいなと。そんなことしてたら、お寺のお説教やがな。そんなわけがない。もっと人を描かなアカン。ただ、そこにロマンは大事やから、ちょっと一言足してね」

――悪知恵の働く平兵衛が主人公の『算段の平兵衛』もニンにピッタリのお噺でしたが…。

文珍「そうなんです。ほっとけ(笑)! そういう部分てあるやないですか。隠ぺい体質というか、談合体質というか、日本人の持っている負の部分ね。そういう部分を演じるというのは、それはそれで面白いですよ。だって、現実にはそんなことでけへんのやから。フィクションはそういうことが描けるという楽しさですよ。ただね、『井戸の茶碗』とか、爽やかな人物が出てくるのをいいなぁと思うというのは、時代が良くないからですよ。フィクションの中に善を求めてるわけでね。北野武さんが描くバイオレンス映画の中には悪人がいっぱい出てきますが、それを観て同じようにやろうというアホはおれへんでしょ。そやから、『井戸の茶碗』とかがウケる時代っていうのは、あんまりいい時代だとは思っていません。もっと気楽に笑えるバカバカしい噺に、共感して笑えると一番ええと思うやけどね。そやから、あんまりきつく善人を善人として描かない。善人なんだけどやっぱり悪を持ってたり、悪人だけどちょっと善なるところがあったりするというような。だって、この時代『こんがり焼いたっとくなはれ』なんて、つい言うてしまいそうやもんね。帯久は正直な男ですよ。悪人ってなってるけど、自分の中にも、ひょっとしたらそういうところがある、というのを描いていくのが面白いんですね」

――さて、『三競演』では、毎回最後にダンスを披露されるのが恒例になっています。

文珍「今年はそんなチャラチャラしたことはやめて、もっとジャラジャラしたことに方向転換します(笑)。それなりのことを初お披露目しようかと。で、稽古してるねんけど、落語より難しいから困ってるねん(笑)。お客様には喜んでいただけるかと思います」

――では、読者にメッセージをお願いします。

文珍「人間は、2時間でも話を聴けるもんです(笑)。面白くないものを聞いたらいけません。面白いのは何時間でも聞けるもんです。つまり頭を刺激するわけですからね。小説を読んだことのない人が、小説に目覚めるのと同じようなことですから。イメージ力というか、その力はあなたが気付いてないだけです!…ってわしゃ、霊能者か(笑)」


 (取材・文/松尾美矢子  撮影/大西二士男)




(2012年11月 2日更新)


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桂文珍
かつらぶんちん●1948年12月10日生まれ、兵庫県出身。1969年10月、桂小文枝(5代目文枝)に入門。2009年、「芸術選奨文部科学大臣賞」を受賞し、2010年、「紫綬褒章」を受章した。2007年から日本全国47都道府県を巡る落語ツアーを行い、ファイナルの2008年4月にはなんばグランド花月で『桂文珍 10夜連続独演会』を、2009年のツアー2巡目ファイナルは2010年4月、『桂文珍 国立劇場10日連続独演会』を開催。いずれも前人未到の記録を打ち立てた。

●公演情報

『夢の三競演2012
~三枚看板・大看板・金看板~』

11月17日(土)10:00~一般発売

Pコード:423-921

▼12月25日(火)18:30

梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

全席指定-6300円

[出演]桂文珍/桂南光/笑福亭鶴瓶

※未就学児童は入場不可。

[問]「夢の三競演」公演事務局
[TEL]06-6946-2260

※発売初日はチケットぴあ店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9505(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。販売期間中は1人4枚まで。

11月6日(火)11:00まで
先行抽選「プレリザーブ」
受付中!
http://ticket.pia.jp/pia/ticketInformation.do?lotRlsCd=97976

チケット一般発売は
11月17日(土)10:00~
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