漢字をなぞ解きの鍵に用いたミステリー小説『虎と月』
初の舞台化は脚本・構成に角ひろみを起用し
ピッコロ劇団の演出家、鈴木田竜二があらゆる
演劇の手法を取り入れて見せるエンタメ会話劇に!
兵庫県立ピッコロ劇団が、本拠地である塚口のピッコロシアターで『第44回公演「虎と月」~中島 敦『山月記』から10年後~』を上演中だ。
『虎と月』とは、柳広司が中島敦の『山月記』から10年後を描いたなぞ解きミステリー。当時4歳だった子どもは14歳へと成長し、“父は虎になったのか?”と、真相を探るべく旅へと出る。様々な事件に遭遇しながらも父の姿を追いかけ、クライマックスは漢詩をモチーフにしたなぞ解きのシーンだ。
ピッコロ劇団は、その『虎と月』を初めての舞台化に挑んだ。そこで、舞台監督として数々の演出家と舞台を創り上げてきたピッコロ劇団員の鈴木田竜二と、虎になった父を求めて旅へと出る“14歳のぼく”を演じる孫高宏に話を聞いた。
--『虎と月』を初めて舞台化されますね。
鈴木田竜二(以下、鈴木田):1年ちょっと前にピッコロ劇団の上演作品を決めて行く時、たまたま柳広司さんの作品を面白いなと思っていて、他にどんな作品を書いてはるのかと調べて行く中で“『山月記』の続編”と銘打たれた『虎と月』を知りました。高校の時の授業で一番、印象に残っている『山月記』と『羅生門』だったので、読んでみたらかなり面白くて。今回は兵庫県下の中学生のための演劇鑑賞事業 『ピッコロわくわくステージ』での上演も兼ねていますので、子どもの成長の物語であり、父との精神的な和解を描いた本作は中学生向けのステージに非常にリンクしていると思って、これはうまくやれば面白いんじゃないかと思ったのが始まりです。
--小説では漢字にスポットを当てたシーンが多いですね。
鈴木:そですね。文字を読んで初めてわかること、漢字の意味や成り立ちなど、小説でしかできないことをやっている作品ですよね。それを舞台化する場合、そこをどう変換していくか難しいなと思っていて。第4回近松門左衛門賞(次代の演劇界を担う優れた劇作家を紹介し、新たな演劇作品の発掘、劇作家の育成を目的とする尼崎市の事業。近松門左衛門が尼崎に縁があることからこの名称に)を受賞した角ひろみさんがこの時期、ちょうど空いていたので何とかできるんじゃないかと思って脚本をお願いして。文字をいかにビジュアル化するかという感じでしたね。
--孫さんは主人公の“14歳のぼく”の役ですね。
孫高宏(以下、孫):見えるかどうか不安なんですけど(笑)。ただ、お客さんは芝居を観ているうちに慣れてきますよね。だから大丈夫かなと思っていますが…。
--原作を読まれてどんな感想を持たれましたか?
孫:着想がすごく面白いですね。『山月記』って、読んむとすごく印象に残る作品だと思うんです。独特で。その続編というか、息子の話を書いていているとことがすごく面白いなと思って。『山月記』が好きな人はゾクゾクするんじゃないですか。
--役作りではどんなことを?
孫:いつも稽古場に半ズボンで通ってました(笑)。
鈴木田:主人公は“父親を知りたい”と切実に思って、衝動で旅に出ます。孫さんにはそんな主人公の心境や行動を切実にやれるかということを期待しました。子どもの頃の切実さや衝動は大人になると薄れてきますよね。でも、14歳の中学生くらいの時期って思い込んだら走ってしまうという情熱があります。その情熱をいかに見せるかですね。。ただ、主人公にはある種、すごく無邪気な面もありますので、稽古場ではひたすら意味のないダンスするなど、14歳以下の少年から作り込んだりしました(笑)。
--今回、鈴木田さんが演出ですが、孫さんからご覧になって鈴木田さんの演出はどうですか?
鈴木田:物足りないと思いますよ(笑)。
孫:いやいや、すごく丁寧に作っているなと思いますね。決して声を荒げずに、優しく…。僕らってガツン!っと来られたら後退してしまうところがあるので、そのこともよくわかっていらっしゃるなと思いますね。
--演出のこだわりは?
鈴木田:今回は『ピッコロわくわくステージ』での中学生向けの公演であるということもかなり意識います。中学生で初めて演劇を見る子が多いと思うんですが、それをどう面白いものにしていくか。今って、ゲームひとつとっても僕たちが子どもの頃に比べると、ものすごいリアリティのある映像で遊んでいりするじゃないですか。そういう子に面白い演劇体験をしてもらうとなった時、どうするかと。今回はピッコロ劇団には珍しい、エンタテインメント性に富んだ作品なんですが、エンタメ性だけで見せるかと考えた時、どうしても片手落ちな気がして。だったら、ガッツリ台詞劇で行くのかと、演技で見せるのか。それだでも物足りないと思うので、そういった見せ方を交互に入れているいます。映画の『嫌われ松子の一生』や『モテキ』がわかりやすい例だと思うんですけど、会話劇とエンタメをしっかりやっていますね。また、分厚い原作をギリギリまで絞って作り込んでいて、上演時間が90分とは思えない台本の厚さと熱量になっています。役者も汗だくでへっとへとになっていますね。動きがめちゃくちゃ多くて、孫さんは走りっぱなしですよ。
孫:ああ、そうか~。あんまり自分ではわかってない(笑)。
鈴木田:そして、この作品はやはりミステリーなので、最後の展開をどう見せるかですよね。小説では一つ見落としても何度も読み返せますし、そこでカタルシスがあるんですが、舞台ではそれを役者がどう見せるのか。なので、役者にいろんなことをさせてますね。見せ方もシーンごとにどんどん変えているので、お客様は面白いかなと思っています。
--シーンごとに見せ方を変えるというのは?
鈴木田:90分という時間に収めてもらうため、角さんには必要な情報だけを入れて書いていただいたのですが、一瞬見逃すと後半の美味しい部分がわかりづらくなるんですよね。なので、演出としては、興味を持続させること、シーンを印象づけることを考えて作りましたね。飽きそうになったら歌を歌うとか(笑)。まあ、単にそれだけではないですが、派手な照明が続いていると飽きないかというと、そうではない。やっぱり人間は慣れちゃいますからね。なので、いろんな手法を取り入れて、演劇アラカルトみたいな感じでやっていますね。
--手法が異なると言うことですが、演じる側の孫さんはそこに対してはどうですか?
孫:僕は、コミカルなものとか、喜劇がすごく下手なので、今回はその辺でいっぱいしごかれるのかなと思ってたんですけど(笑)、逆に、自分が苦手なことに挑戦して、それができるようになるのはすごく嬉しいですね。
--では最後に、読者に皆様にメッセージをください。
孫:『山月記』ファンには必見の芝居だと思いますし、そうじゃない方でも『山月記』を読みたくなる芝居ですね。ぜひ観に来てください。
鈴木田:おそらく初めて演劇を観るだろという方のために力を入れて作っています。じゃあ、わかりやすいものにする必要があるのかというと、そうではないんですね。演劇のわからなさもいろいろあるんですけど、そこも魅力的あるというのが主眼で。“あれはいったい何だったんだろう”という余韻がしばらく続くように作っています。まだ舞台でのお芝居を観たことのない方も楽しんでいただける作品だと思っていますので、こんな近所でこんな楽しげなことをやっているんだと気軽に来てもらえたらと思います。
(2012年10月10日更新)
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