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ただいま大阪・HEP HALLで上演中!
劇団柿喰う客の最新作『無差別』について
作・演出の中屋敷法仁にインタビュー!

演出家、劇作家の中屋敷法仁主宰の劇団柿喰う客が大阪・HEP HALLにて約1年半ぶりの新作『無差別』を上演中だ。戦中から戦後を時代背景に、山深い村で暮らす兄と妹の生活と、山に在るもう一つの世界とを絡ませながら描き出す日の本の国の物語。限りある命の中で、生きることのみを選択する神や獣、人間たち。彼らの姿を時に残酷に、時に軽妙に映し出し、命とは何か、生きるとは何かと問い続ける本作について、作・演出の中屋敷に話を聞いた。

--『無差別』は1年半ぶりの新作ですね。

中屋敷法仁(以下、中屋敷):本当に久々の最新作ですね。わがままに自分のやりたいこと、書きたいことに向き合って作ったのですが、そういった作品は1年半ぶり以上のような気がします。今、28歳なんですけども、このまま何も書かずに30代に突入するわけにはいかないという思いがあったのかなと思いますね。せっかく劇団を持っているのだし、書きたいものがあるのだから、命がけで書いてみようと。

--物語は戦中から戦後の日本が舞台で、“神”が大きな存在感を示しています。

中屋敷:『無差別』は3月11日以降初の新作なんですが、現代にどんな戯曲が在り得るかと考えた時、放射能の問題だけをやるのは全く意味がないと思ったんです。まず、なぜ我々は神を信じなくなったのかと。今は神より、お金とか技術ですよね。そのことがすごく残念に思っていて。“神様を信じましょう”ということじゃなくて、人間たちに扱えない大いなるものがある、そういうものへの敬意がないなと思ったんです。いつからそうなったんだろう。日本人の思想には神とか自然に敬意を払って、生かせて頂いておりますという謙虚な姿勢があったのに、3月11日以降は特に、“もっと繋がろうよ”とか、“頑張ろうよ”とか、何か人間だけで解決しようとしているなとも思って。人間だけで解決できると思っているから、自然とか、自然の背後にある神様や霊的なもの、人間が扱えないものに対する意識が薄れていて、相変わらず息苦しいですよね。

--目に見えないもの、手に負えないものへの畏怖の念というもの作品の大きなテーマですね。

中屋敷:演劇という芸術も紐解けば神様に奉げるもので、非日常的なものですよね。作品を作るということに対する畏れ、最近、そういうものを抱いてないなという自分の反省でもあって。すごく驕っているなと思って。演劇を見せるテクニックがあっても、それだけでは本当に向き合っていると言えないのではないかという自戒の念でもあります。そういうこともあって、悪い意味じゃなくて、引退してもいいと思えるものを書きたいなと思っていました。僕は演出家は一生、やっていきたいと思っているんですが、劇作家としてはもう、書きたいものを書ききってしまえば成仏するんじゃないかと。だから、この『無差別』は引退作になってもいいという、素直な気持ちで書きました。

--なるほど。稽古場ではどうでしたか?

中屋敷:演技をどうしたらいいかとか、そういうことはつかこうへいさんの口立てみたいな感じでやりましたね。例えば、劇中で仏を彫るシーンがあって、「私は仏を彫る」と言う時に、それって何なの?って話になって。仏を彫るという想像力が伝わってこない。劇作家が『仏を彫る』と書いたものをただ読んでるだけだから。仏を彫るなんてとてつもないことなのに、“俳優だから台詞をしゃべっている”となっていたから、それは全然素直じゃないよって話したりとか。みんなお芝居をたくさんやっているから、できるのは当たり前なんだけど、でも劇作家の中屋敷くんが素直に書いているものに対してテクニックだけでは意味がないと。テクニックを超える情熱とか、素直さで見せないとって。玉置くんは1行の台詞を言うだけでもぐったりしていて、“ああ、この子はお芝居が好きなんだな”って思いましたね。たった1行の台詞なのに心拍数が一気にマックスまで行くというのは、それは俳優さんを誉めるところですよね。芸能というのは危険な仕事だし、神棚にも祈ります。先輩たちはそうしてきました。人間が舞台の上に立って何かをやるということは危険な作業だと思うんです。玉置くんは劇中で犬を殺すのですが、本当にヤバイ役ですね。俳優も、そんな役を宿すという危険性を考えてほしいし、神様の役をやるというのも、とんでもないものを降ろすんだという意識を持ってほしいですね。宿すという、それぐらいの畏れを抱いてほしいですね。

--なるほど…。気迫というか…。

中屋敷:思いですよね。演じることへの畏れ。芸への畏れもあるし、自分への畏れもあるし…。稽古場の空気が一番悪かったのは、10分くらいのシーンがすぐできちゃった時でしたね。僕もイライラしたし、みんなもイライラして。“できちゃったよ、こんなんじゃダメだよ!”って。すっとできちゃったから、すごく傲慢だなと思ったんです。以前、「和田アキ子さんがコンサートの前にレイ・チャールズの写真を見て震える」というエピソードを聞いたことがあったんですが、それってすごく人間的ですよね。演劇を始めた頃の気持ちとか、初舞台を踏んだ時の緊張感とかどんどん忘れちゃいますよね。あの感動がないですよね。そういうのものを取り戻そうと。『無差別』には、神様や獣が出てきますが、基本的には命を描いた作品です。僕らの命とはどういうものなんだろう、果たして何をもってして生きるとするかということをやりました。僕らはまず俳優として舞台に立たないといけないから、生命体として舞台に立つべきだということを念入りにやりましたね。

--中屋敷さんが考える「生きる」とはどういうことですか。

中屋敷:一番難しいことですよね。死ぬ方が簡単ですからね。何もしなければ死ねる。でも、生きるためには何かをしなくちゃいけない。ご飯を食べたり、狩をしたり。本当に難しい作業だなと思います。でも、地球上のものはみんな生きてますよね。すごく頑張ってますよね。植物も頑張ってますよね。みんな難しいことを頑張ってるなって思うんですけど、生きるということは本当に奇跡の連続でしかないから、1日1日の命に感謝を奉げていかなければいけないと思います。「生きてて当然と思ってないか、みんな?」って。この世に生まれて、今を生きていることは奇跡の連続ですよね。『無差別』の登場人物には、えげつなく生きているものもたくさんいて、それでも生きることを選択しています。本当に、みんなよく生きてるなぁって思いますね。本当にびっくりしてます。

--“終戦直後”という時代の転換期なんかも『無差別』では描かれていますね。

中屋敷:これは現代に通じるものがあると思うんです。僕の中で“原爆は神様か”という疑問があるんです。稽古場でもすごくいろんな意見が出ましたね。放射能って神様になるのかなぁって。あれだけ強い力があるんだったら、太陽と同じくらい崇めてもいいんじゃないかって。放射能はみんな神じゃないと思っていますよね。でも、あれだけの力があるし。じゃあ、太陽は手を合わせて崇められるけど、原爆や放射能に向かって手を合わせてありがとうと言えるかどうかと。。僕は、ありがとうと言えないものは、人間は使っちゃいけないと思うんです。感謝の気持ちがないですよね。

--時代背景の上でも、演技をするにあたっては年代的に超えないといけないハードルがたくさんありそうだと思ったんですが…。

中屋敷:それはすごくあります。僕らの理解を超えるもののことも考えながらやらないとって思います。でも年代的なことを言うと誰も何もできないですよね。戦後を体験していないから描けないとか、広島・長崎を知らないから原爆を描けないということが理解不能で。同じ時間軸を生きているんだから、経験はないけど思いがないわけじゃない。だったら僕たちはシェイクスピアもできないし、チェーホフもできない。僕たちには僕たちにしかできないこともあるなって思うんです。なぜ戦争の話をやるんですかって聞かれると、生きているからですと答えるんです。この国には戦争の影響が今でも、ないわけじゃない。敗戦国だということでの不遇も多いですしね。

--ああ、確かに、戦争に負けたと感じることは多いです…。『無差別』は、戦争、信仰、命について、生業についてなど、重厚なテーマを据えていますが、舞台で魅せるというエンタメ性ではどういうふうに描いていますか?

中屋敷:いや、これはもう、極上のエンタメだと思っています。こっちの想像力では補いきれない、信じられないものが見える。“何だろう、これ”という、つまりは我々が扱いきれないものを観られるから面白いんですよね。そのことですごく豊かな時間を過ごすことができて。日常では絶対に聞けない言葉や見られない作業も、しっかり練りこんで作っています。舞を奉納するとシーンもあるのですが、お客さんも含めての舞いというシーン、あの空気なんです。お客さんは自分たちの代わりに神様と交信してくれているものを見る。そういう意味合いも含めたエンターテインメントですね。

--なるほど。ではそのほかに、何か隠れたテーマなどありますか?

中屋敷:あと、今回は7がキーワードなんです。劇団7周年目に突入して、7人芝居で、上演時間は77分。美術も7にこだわっています。7は神に通じる数字でもあって、キリスト教では一週間、インドのチャクラも7、七福神もそうですね。『七人の侍』とか『髑髏城の七人』とかタイトルに7が入る作品には名作も多いですし…これも名作になると思います!




(2012年10月 5日更新)


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●公演情報

柿喰う客『無差別』

発売中

Pコード:422-620
(公演日3日前まで販売)

▼10月3日(水)19:30

▼10月4日(木)19:30


▼10月5日(金)19:30

▼10月6日(土)14:00/18:00

▼10月7日(日)14:00/18:00

▼10月8日(月・祝)14:00/18:00

▼10月9日(火)14:00

HEP HALL

指定席3800円

敬老(60歳以上)3500円(当日指定)

学生2000円(当日指定)

高校生以下-1000円(当日指定)

[作][演出]中屋敷法仁

[出演]七味まゆ味/玉置玲央/深谷由梨香/永島敬三/大村わたる/葉丸あすか/中屋敷法仁

※未就学児童は入場不可。

※10/7(日)18:00公演は、乱痴気公演(全キャストシャッフルにて上演)。

※10/9(火)14:00公演は、平日昼間割引公演。 【指定席 昼割-3500円】で販売。

※当日料金は各前売より500円UP。

[問]柿喰う客
[TEL]080-6801-7389

『無差別』特設サイト
http://kaki-kuu-kyaku.com/musabetsu/

前売チケットは公演日3日前まで販売!
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