インタビュー&レポート

ホーム > インタビュー&レポート > 「とにかく今は、早くお客さんに観てほしい」(丸尾) 劇団初の時代劇にして自信作、愛おしいほどダメな 一人の侍の生涯を追った『田舎の侍』、大阪から開幕!

「とにかく今は、早くお客さんに観てほしい」(丸尾)
劇団初の時代劇にして自信作、愛おしいほどダメな
一人の侍の生涯を追った『田舎の侍』、大阪から開幕!

深い味わいある人間が多数登場し、うまくいきそうでいかないそれぞれの人生を泥にまみれながらも生きてゆく物語に、歌やダンスをふんだんに取り入れた舞台で魅了する劇団鹿殺し。最新作は初のロックオペラ×時代劇で贈る『田舎の侍』。劇団員総出演はもちろんのこと、元唐組の丸山厚人、コンドルズの山本光二郎、そしてファントマの元看板女優・美津乃あわをゲストに迎え、大阪はHEP HALLで上演する。
そんな最新作『田舎の侍』はどのようにして出来上がったのか、HEP HALLでの上演を前に、脚本・出演の丸尾丸一郎と今作で初の主演を務めるオレノグラフティに話を聞いた。

--ぴあ関西版WEBです。最新作『田舎の侍』ですが、まず、時代劇にされた動機や経緯を教えてください。

丸尾丸一郎(以下、丸尾):東京は久しぶりに下北沢の駅前劇場で、3週間の公演をします。まず、駅前劇場に戻ろうと思ったのは、本多劇場や紀伊國屋ホールといった中規模の劇場で上演させていただきましたが、劇団員との間で”いい意味でぶれながら活動していこう”となって、駅前劇場で長期間という企画を考えました。その時点で主演はオレノグラフティと決めていて、もっとバカで振り切れた作品にしようと思っていたんです。僕たちは劇団鹿殺しとは別の、鹿殺しRJPというエアロックバンドもしているのですが、このバンドに『田舎の侍』という代表曲がありまして。これはオレノが自分で曲を書いて歌っている曲で、その歌詞が個人的に好きで。その歌を基にというわけではないのですが、意味がありそうでなさそうな『田舎の侍』という言葉も好きだったので、次は『田舎の侍』というお芝居にしようと。最初はサイボーグの人間が生まれてとか、そんな話を考えていたのですが、それよりも鹿殺しの持つノスタルジーさを含む『田舎の侍』に決めて。そしたら本格的に時代劇に挑戦してみたくなりました。

--となると、オレノグラフティさんへのあて書きに近いですか?

丸尾:そうですね。

--あて書きとは、嬉しいですね。

オレノグラフティ(以下、オレノ):僕は唐十郎さんがすごく好きで。唐さんがあて書きされるということは一人前の唐組の役者と認められているということで、実際に唐さんの座組みであて書きされている方は本当に数名しかいなくて。作家さんとか演出家さんの思いをしっかり受けられる役者になるという意味でも、あて書きにすごく憧れていたので、主演であて書きしてもらえるというのは、本当に嬉しかったですね。

--主役はどんなキャラクターなんですか?

丸尾:最初はもうちょっと作りものの話にしようかなと思っていたんですけど、結局、稽古していく間で変わっていって。やっぱり等身大の、オレノという人間に近い感じにしました。何て言うのかな、ダメなやつというか……侍になりたいけど、なれない、なりたい、でもなれないという挫折を繰り返すような男です。で、絶えず前のめりに倒れる(笑)。後ろ向きには倒れない。前向きには倒れまくるんです(笑)。

オレノ:いかにも主人公らしい(笑)。

丸尾:話は壮大な時代劇ですが、主人公のキャラクターは『ジャンプ』に掲載されている漫画の主人公にいそうな、前のめりな感じの人(笑)。伸びしろがすごい。今がすごいんじゃなくて、伸びしろがすごいな、コイツはっていう(笑)。イッポンマツトラゾウという名前で、トラゾウの一生を1時間40分~45分に詰め込んで。最初は片田舎から始まって、どんどん大きくなっていきます。

--等身大に近い役がらというのは、どうですか、

オレノ:難しかったですね。劇団の『電車は血で走る』という作品があって、それは劇団のことをオマージュしたような作品で、この作品でも自分と同じようなポジションの役を与えられたのですが、その時も自分に近いけど、どこかちょっとだけ違うというところ、そのどこかの部分が埋められなくて。だから全然違う役の方が全く違う解釈でできますね。ほぼ自分と同じ考えを持っている人間は逆に、舞台の上にあげることが難しくて。そのまま上がってもダメだし。だから今回もすごく悩みましたね。でも「悩んどってもしゃーないから動け」ってチョビさんに言われて。とにかく体を動かせって。それでやってますね。とにかく動いてます。

丸尾:鹿殺しの中では珍しいくらい、主人公に比重が傾いているんですよね。台詞の量もすごく多いし、一度舞台に出たらほぼ出ずっぱりなので、かなり大変だろうなと。オレノ以外はみんな、結構楽してるんですけどね(笑)。ああ、でも、女の子たちは結構大変だろうな。

オレノ:早替えがすごいありますね。

丸尾:着物だし、鬘もあるし。その上で早替えがあって。通し稽古では鬘のピン留めがちゃんと留ってなくて鬘がポーンと飛んでいったりとか、鬘をかぶるのが間に合わなくて茶色のネットのままで出てきたりとか、ひどい状態でしたね(笑)。もしかしたら初日もネットで出てくるかもしれないです(笑)。

--間もなく本番ですが、オレノさんの心境はいかがですか?

オレノ:とにかく楽しみですね。いつもより役の比重が多い分、脳も筋肉も動かすことが多いくて、しんどいことはしんどかったですけど、これから実際に板に上がって、どんなふうにお客さんに見てもらえて、どういうふうに自分が提供できるのかということは、チャレンジと言ったらアレですけど、自分の中では新しい試みだと思っているので、しっかりと極上の物が届けられたらなと思っています。

--演出では、チョビさんからどんなアドバイスがありましたか?

オレノ:とにかく華を出せと。それが一番難しい(笑)。

丸尾:チョビが言っているのは、お客さんは主人公を通して見るから、お客さん目線になれというイメージだと思うんですけど、「いち登場人物になっちまうな」みたいなことはずっと言われていましたね。それも結構苦労していたっぽいですけど…。

--そこはどう、クリアしたんですか?

オレノ:それもやっぱり、とにかく体を動かすということと、どっしり立つということをメインに置きました。小手先で何かやっても、小手先のものにしか見えないので、もうどっしりと立って。あとは、動いたり、台詞を言った時に現れる自分の人生や人間味をもっともっとエンタテインメントに昇華できないかということを考えました。

--それがどう出るか、楽しみですね。次に、”時代劇”というジャンルで、参考にした世界観などはあったんですか?

丸尾:やっぱり、お芝居で時代劇、僕らみたいに音楽を多用するとなったら、どうしても劇団☆新感線というイメージがあると思うんです。何しても新感線の真似じゃないかと言われそうな気が、すごくしていたんです。『田舎の侍』の台本も何稿か書いたんですけど、第一稿は運命に翻弄される主人公がいて、話も最後は壮大になっていて、それがすごく新感線っぽいとスタッフやチョビに言われて。そこからチョビのリクエストもあって書き直しをして、まずは出来事とかそっちのけにして、主人公の人生を書いていくとことにシフトしていきました。そうやって今、仕上がって、鹿殺し的な時代劇になってきたかなと思いますね。もっとダメな感じというか、別にわざとカッコ悪いことを狙っているわけじゃないんですけど、もっと等身大というか…。身の丈にあっていて、自分たちのできる、逆に自分たちにしかできない、そんな時代劇になっているんじゃないかなと思います。あと、時代劇と言ったからには時代劇にチャレンジしたいので、小道具も衣裳も本格的なものを用意してもらいました。

--時代劇だからこその見せ方の面白さはありましたか?

丸尾:脚本を書いている時期に舞台で共演した俳優さんから「時代劇の何が楽しいかと言ったら制約があることだ、というようなことをマキノノゾミさんが言ってたよ」と教えてもらって。確かにそういう面はすごくあるなと思いましたね。あと、現代人だからこそ、その時代に生きていないからこそ想像で埋められるところもありますし…。書いている時は“これでいいのかな”と思うことがたくさんありましたが、実際に稽古したらすごく新鮮で、楽しかったですね。いつもとは全く違って。殺陣稽古もありましたし…。

--殺陣もあるんですか。

オレノ:かなりの量の殺陣があります。みんな、ほぼ1から練習して。

丸尾:ラストでも殺陣で人生を描くみたいなシーンもあるし、ちゃんと殺陣をしなきゃいけないところが多くて。殺陣の先生に来てもらって、練習しました。僕が台本を書いている時点でも、何人かは殺陣教室に通っていて。特に若い子たちには「殺陣さえうまくいったら舞台に出られるよ」というような話をしていたので、みんな殺陣教室に行ってましたね。

--オレノさんはどうでしたか?

オレノ:いや~、難しいですね。知れば知るほど、どんどんどんどん深くなっていくから…。見るのとやるのとでも全然、違いますしね。形が綺麗とか、斬っている感じとかも別にして、やっぱりお芝居の殺陣だから、どうやって感情表現するのかとか、どうやって人生を表現するのかとか。実際に自分が表現する側になった時に、なかなかそういったことができなくて…。ただ斬るのも難しかったですし。個性や、その人なりの斬り方とか、そういうことまで考えていくと果てしないな…って思いましたね。

丸尾:殺陣以外も、動きもいつもより激しくて。1シーンが短くて、それがすごい勢いで流れて行きます。通し稽古で観た時、“どう流れていくの?”というところも楽しく出来上がっているなと思いました。キャラクターをうまく見せられるかどうかは役者の力にかかっているかなという気はしますが、シンプルながらすごくいい作品が作れたんじゃないかなと思います。

--そしてゲストが美津乃あわさん、丸山厚人さん、コンドルズの山本光二郎さんです。

丸尾:そうですね~、厚人は鹿殺しの作品に出るのは2回目で、あわさんはKAVCでの芝居に出てくれて、その時によくしゃべっていて。鹿殺しにもすごく合うだろうと思っていたので、予想通りでしたね。劇団員の面倒も見てくれるし、劇団員がバタバタしている中でも落ち着いて、じっとし待ってくれていて(笑)。ファントマの時も若い人たちを見てたやろうから、懐かしい目で見てくれていますね。山本さんは、ストライクというコンドルズのバンドプロジェクトと鹿殺しRJPでライブをしたことがあって、その時にお会いして。ハゲでヒゲが生えててダンスができてサックスが吹けてって、もう、時代劇にすごく合うと思って。お三人には、『田舎の侍』というのが何となく見えた時にすぐ、オファーをしました。

--じゃあ、もう、劇団ともなじみがあるし、作品との相性もいいし。

丸尾:バッチリですね。ゲストの3人を呼んだからこそ鹿殺しっぽい時代劇を作れると確信したというか。あわさんにはチラシにも載っているメイクでお願いしますと最初に言ったので、このメイクで成立する時代劇を想像したし、昔、剣道をされていたと聞いて浮かんできたものもありました。厚人は長渕剛さんが好きだからギターを持ったシーンも成り立つようにして、山本さんにはもちろん、サックスも吹いてもらって、踊ってもらいたいから、そういうシーンも要るなとか考えて。時代劇でありながら、そういうところでも幅が広がりましたね。あと、あて書きに関してはチラシの表に載っている8人は全員、あて書きしているんですけど、うまいこといったなと思います。“この人がこの役ですごく合っている”ということが最後まで続きますし、その一方ではバカな登場人物が集まって何か成し遂げようとするところもあるし、本当、面白い感じに仕上がっているなと思います。

--稽古を通じて、ゲストの方から受けた刺激はありますか?

オレノ:洗練されている部分とパワーで押す部分のバランスが皆さん、すごいですね。個人個人のバランスがすごく完成されていて、ちゃんと自分を商品として見ていらっしゃるんだなと思ってすごく勉強になります。あと、単純にキャラクターとして濃いので、舞台に立った時にどうやって自分を浮かしていくのか、どうやって効果的な仕事をしていくのかということを目の当たりにして、“ああ、いろんなやり方があるんだな”って思ったりしています。

--オレノさんはいつも音楽も担当されていて。今回は主役もやりつつ、音楽も。

オレノ:はい。ただ今回は早い段階で歌をいっぱい入れようと決まっていたので、稽古に入る前に音楽の作業は固めて、あとは入交にガンガン作ってもらって。なので、稽古に入ってからは役者の方に専念できましたね。

丸尾:台本が完成する前から音楽会議を始めていて。僕からイメージを伝えて、入交がオリジナルを作り始めて。稽古の初日で歌の3分の2はできてましたね。

オレノ:そうですね。早かったですね。“ロック”がつくと早いですね。入交は(笑)。『青春漂流記』は割とポップな曲が多かったのですごく苦労していたんですけど、今回はロックだからすごく早かったですね。

丸尾:『田舎の侍』では、BGMも含めて肉厚だけどシンプルなロックという感じの曲が多いです。でも途中でバービーボーイズみたいな曲が入ったり、洋楽っぽいラブソングが入ったりと、いろんな曲が入りますね。

--作品そのものの幕開けが大阪からというのも珍しいですね。

丸尾:ここ何年かは東京と大阪の2都市で公演をするようにしているんですが、最近は大阪のお客さんがすごく増えてきて、今回も大阪のお客さんが楽しみにしてくれていて、チケットもかなり売れているみたいで。そういうことを知ると作ってきた甲斐があるというか、作ってきたものを早くお見せしたいという気持ちが高まりますね。あと、HEP HALLは劇場の面でも恵まれているというか、まずはHEP HALLでできるようになって東京のより狭い劇場に持っていきたいと思っていて。

オレノ:東京の劇場は天井が低いので、稽古場でも木を上から垂らして、“これに当たったら照明に当たるから”とシミュレーションしながらやっていたんですけど、すぐ刀が当たるんですよ(笑)。

丸尾:見てる方が怖いんじゃないかって思うくらい。HEP HALLは天井が高いので大丈夫でしょう。舞台裏もHEP HALLの方が恵まれていると思いますね。なので、まずHEP HALL落ちついて作品に向き合たいと(笑)。ただ、いつもより初日を迎えることを思うとドキドキしますね。どんなリアクションなんだろうって。思った通りのところで反応が帰ってくるのか、帰ってこないのか。大失敗しそうな気もするし、大成功しそうな気もするし(笑)。

--お二人は関西出身ですし、そういったお客さんの感覚は肌でおわかりになるのでは?

丸尾:どうでしょうね~(笑)。関西にいる時は自分では関西人っぽいと思ったことがなかったんですけど、東京に行ってからはやっぱり、関西人っぽいですね。大阪出身の劇団って派手にしたかったらどこまでも派手にする。だからちょっと色的にきついんですよね(笑)。アンニュイなことができないというか。

オレノ:濃い味になってしまう。

丸尾:大阪から東京に出てきた僕ら以外の劇団を見てても、やっぱりどこか…。あと若干、貧乏性ですね(笑)。よく言われるのは、大阪の劇団はカーテンコールで物販のことを必ず言うと。東京はあんまり言わないみたいですね。逆に言わないんですか?って思ったんですけど。絶好のチャンスじゃないですか!(笑)。

--そうですね(笑)。では最後に開幕直前の心境をお願いします!

丸尾:今はとにかく、早くお客さんに観てもらいたいという気持ちでいっぱいです。とにかく初日が楽しみです!

--なるほど、ありがとうございます! グッズの宣伝はいいですか?(笑)

丸尾:そうですね(笑)、グッズはですね、初めてパーカーを作りました。あとは、新しいデザインのTシャツ。これもまたお客さんに喜んでもらえそうな、いいTシャツを2種類作りました。あと、前回、高田聖子さんにも出てもらった『青春漂流記』のDVDが出来上がったので、そのDVDも置いています。あとはタオルとか、缶バッチもありますので、観劇の記念にぜひお願いします(笑)。




(2012年9月26日更新)


Check
劇団鹿殺し
げきだんしかごろし●'00年、座長・菜月チョビが関西学院大学在学中に代表・丸尾丸一郎と旗揚げ。「老若男女の心をガツンと殴ってギュッと抱きしめる」を合言葉に、土臭さと激しさが同居する人間の愛おしさを表現する物語と、役者の身体、パフォーマンスに重点をおいた演出で観客を魅了。'05年に活動拠点を東京へ移して着実に経験を積み、'10年7月『岸家の夏』で東京・本多劇場に初進出。'12年1月『青春漂流記』で、第三舞台、つかこうへい事務所など、名だたる劇団がホームとしてきた紀伊國屋ホールへ進出した。<

●公演情報

写真:江森康之

劇団鹿殺し 「田舎の侍」

発売中

Pコード:421-769
(公演日3日前まで販売)

▼9月27日(木) 19:00

▼9月28日(金)19:00

▼9月29日(土)13:00

▼9月30日(日)13:00/17:00

〈追加公演〉
▼9月29日(土)17:00

HEP HALL

全席指定-4200円

[劇作・脚本]丸尾丸一郎

[演出]菜月チョビ

[音楽]入交星士/オレノグラフィティ

[出演]オレノグラフィティ/丸尾丸一郎/菜月チョビ/山岸門人/橘輝/傳田うに/円山チカ/坂本けこ美/山口加菜/水野伽奈子/鷺沼恵美子/浅野康之/峰ゆとり/近藤茶/丸山厚人/山本光二郎/美津乃あわ

※9/27(木)19:00公演はアフタートークイベントあり「関関OBトーク」(〔出〕丸尾丸一郎/丸山厚人)。

※9/29(土)17:00公演はアフタートークイベントあり「女優論」(〔出〕菜月チョビ/美津乃あわ)。

※学生は取り扱いなし。未就学児童は入場不可。

[問]キョードーインフォメーション
[TEL]06-7732-8888

劇団鹿殺し 「田舎の侍」特設サイト
http://shika564.com/inaka/

チケットは残りわずかです! お早めに!!
チケット情報はこちら

●動画もチェック!

劇団鹿殺しRJP 『 田舎の侍』