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山間の田舎町で起こった葬儀を巡る小さな争いを描いた
横山拓也脚本、上田一軒演出の『目頭を押さえた』が
7月20日(金)よりABCホールで上演!

7月20日(金)よりABCホールにて、ABCホールプロデュース公演『目頭を押さえた』が幕を開ける。脚本に横山拓也(売込隊ビーム)、演出に上田一軒(スクエア)を迎え、林業を生業とするある村での葬儀を巡る物語を上演する。横山×上田コンビでの芝居は、昨年8月に再演された、ある地方の屠場を舞台にした『エダニク』(真夏の會)以来のこと。その『エダニク』で横山は、日本劇作家協会新人戯曲賞を受賞。審査委員のマキノノゾミに「パーフェクト」と言わしめ、話題となった。そして間もなく、横山×上田コンビの第二弾となる『目頭を押さえて』である。キャスティングにも細心の注意を払ったという本公演について、演出の上田一軒に話を聞いた。

--ぴあ関西版WEBです。今日はよろしくお願いいたします。『目頭を押さえて』は、『エダニク』以来の横山さんとのコンビとなりますね。

上田一軒(以下、上田):横山くんの脚本は、お笑い中心のものと複雑な人間関係を描いたものとがあるんですが、『目頭を押さえた』は人間関係が絡み合っていく話です。登場人物の一人一人に抱えている問題や葛藤があって、その一つ一つがかなり丁寧に描かれていて、すべてがうねりながら進んでいきます。なので、登場人物の関係性をきっちり描いたものを作っていこうと。群像劇のような感じですね。いろんな人がいろんなことを抱えながら、状況がどんどん重なっていって。「わ、どうなるんやろう、このみんなはどうなるのかな」というお話なので、いい役者さんを呼びたいなと。

--なるほど。では、そのキャスティングについて教えてください。

上田:キャスティングにはかなり時間をかけました。金替康博さんを筆頭に、緻密な表現ができる役者さんを呼びたいなと思いました。この芝居は、仕掛けが面白いとか、派手な演出があるわけじゃなくて、会話しているだけなんですよね。会話の中でいろんなものが見えてきたり、積み重なってきたり、亀裂が生じたりして。なので、お客さんが思わず前のめりになって「私、この気持ちわかるわ」とか、能動的に参加できる空気感を作れる人がよかったんです。そういうこともあって芸達者な人を集めました。

--金替さんを筆頭にとおっしゃいましたが、一番に決まったのが金替さんでしたか?

上田:そうですね。最初ですね。金替さんに出ていただけるかどうかで、他のキャスティングも変わるくらいでした。

--そんな金替さんの魅力を教えてください。

上田:金替さんにはこの芝居の主軸になってもらおうと思っているんですが、彼の演技には本当に引き込まれるといいますか…。ガーッと押し出してくる演技じゃなくて、滲み出てくる面白さ。本質みたいなものがふっと滲み出る凄みといいますか、押し出さなくても出てくる怖さが出せる人ですね。

--なるほど。そして金替さんと敵対する家族の長が緒方晋さんです。

上田:緒方さんは『エダニク』にも出てもらったんですが、すごくいい役者なんですよ。何がいいかってね、リアリティがすごいんですよ。オッサンの。職人の役とか、何かすごいリアリティなんです。すごく味がある。すごくおとなしい印象の金替さんの身体性と、頑固親父みたいな緒方さんの身体性があって、この二人やったら組み合わせが面白いぞと思いましたね。

--緒方さんの娘役が橋爪未萠里さんで、金替さんさんの娘役が松永渚さん。

上田:彼女たちは女子高生役なのですが、僕のオーダーとして「かわいい子にしてくれ」と(笑)。でも「かわいいだけじゃいかんぞ」と。橋爪さんは以前、横山君と一緒に芝居したことがあったそうで、横山君も「僕の台本をすごく的確に表現してくれる」と言っていたので、じゃあ、女子高生にも見えるし、かわいいし、そうしようと。松永さんも横山くんと一緒に芝居をしたことがあるみたいで。松永さんはすごく目が強いんですよ。目力がありますね。

--キャストのほとんどは関西の方ですが、唯一、七味まゆ味さんが東京から来られて。

上田:七味さんは都会から来た人の役なんです。だからちょうどよくて(笑)。彼女はいいですね。面白い役者さん。センスありますわ。

--実際にキャストが固まって、どんな印象を受けましたか?

上田:たくさんの候補の中から俳優さんを選びましたけど、集まって、稽古してみて、非常にいい感じですね。雰囲気がいい。みんなが自然に協力しあって、芝居作りを楽しんでいるような、「やろうよ、やろうよ」というノリや雰囲気がいい感じです。みんな、同じ方向を見ていて、キャラクターもバランスがよくて、いい座になってますね。

--読みどおりですか?

上田:そうですね…、こんないい感じの座になるとは、そこまでは思ってなかったですね(笑)。だからまあ、この芝居がおもしろなかったら僕のせいやなって…(笑)。分かりやすいお芝居じゃないので。主役がいませんしね。

--では、物語については、どのように描こうとお考えですか。

上田:田舎のある家の居間や庭で繰り広げらる物語で、そこを覗き見るようなテイストを目指していますね。一瞬見ただけでは日常の何気ない光景かもしれないですけど、時間が過ぎるうちにいろんなものが積み重なっているような芝居になっていると思います。基本的に横山くんの台詞はライトでポップ……それは言い過ぎか(笑)。小気味がいいんです。基本的には。笑いも散りばめられていて、品のいい、ウィットに富んだ会話があって。それで、『エダニク』の時、僕が彼の作品を演出するとしたらもっと泥臭く演出すると思ったんですよ。そのほうが面白いぞと。そういう方針の方が横山くんの台本は面白くなるはずやと思って。今回もそういうふうに描くと思います。『目頭を押さえた』は特殊なキャラ設定がなく、人物一人一人を綿密に描いてゆく芝居だと思うのですが、こういうお芝居は慌てて作っても表面的に終わるだけなんでね、じっくり描いていこうと思いますね。

--脚本については、横山さんと何かお話しされましたか?

上田:今回はしました。難しかったので(笑)。基本的には、僕は作家の意図を必要としていないんです。そうすると作家が陥る罠に僕もはまってしまうので。脚本の意図だけわかればいいんです。そこで意図を読み取れなかったら、それは僕の能力のなさですけど、まあ、わかるんですね、こういうふうにしたいんやろうなというのが。ただ、今回は、ちょっと僕の手に余るところがあったんで聞きました(笑)。それはすごく参考になりましたね。ただ、参考程度に聞くだけで、あとは脚本と役者に向き合って作っていきたいと思います。

--先ほど、「お客さんが能動的に参加する」とおっしゃいましたが、この部分についてもう少し詳しく教えてください。

上田:この本の登場人物は、あからさまに「こう思った」と言わない人たちなんです。だからこそ、実はこう思っているんだろうなとか、こうは言っているけどもここに何かが隠されてるぞというようなことが見えてくるんです。それってつまり、人間観察ですよね。なので、人物を見ていたら「私これ、分かる」というような感覚を持っていただけると思うんです。そんなふうに、徐々に登場人物の心情を読み解いていく状況に引き込んでいこうと思っています。いきなりそういうことされると「何や、ややこしいな」ってなりかねないですからね(笑)。徐々にお客さんの懐に入りながら、「実は何かあるな」と思っていただける芝居にしたいと思います。

--ほかに、お客様にはこんな部分を見てもらいたいとか、お考えですか?

上田:お客さんが思うことはいろいろやと思うんです。見終わった後、様々なご感想を持たれると思うんですけど、それぞれに考えるんだろうと思うんです。考えさせたいというか、そういうわけではないですけど、答えは一つじゃないと思います。“答えがない”というところで踏みとどまることはしんどいことやと僕は思うんです。そこで考え続けなあかんでしょう。ただ、社会問題にしても、時事的な問題にしても、答えがなかったり、わからなかったりとかして、“わからない”というところに止まるのは大事なことだと思うんです。わからないというところに踏み止まることはしんどいと、そういうことを伝えたらなと思っています。すぐに答えが出ないという感覚に止まることは大事なんじゃないかなって思ってもらえたらなと思っています。




(2012年7月11日更新)


Check
写真左から、緒方晋、橋爪未萠里、松永渚、金替康博

●公演情報

「目頭を押さえた」

発売中

Pコード:420-576

▼7月20日(金)19:00

▼7月21日(土)14:00/18:00

▼7月22日(日)14:00

▼7月23日(月)19:00

ABCホール


全席指定-3300円

[劇作・脚本]横山拓也

[演出]上田一軒

[出演]金替康博/緒方晋/橋爪未萠里/松永渚/魔瑠/うえだひろし/七味まゆ味/野村脩貴

※未就学児童は入場不可。

[問]ABCホール[TEL]06-6451-6573

ABCホール
http://asahi.co.jp/abchall/

前売チケットは各日公演の3日前まで発売中!!
チケット情報はこちら

●あらすじ

江戸時代から林業を生業としてきた香茨山(かいばらやま)の山間にある集落、人見村高木地区(ひとみむら たかぎちく)。住民全員が例外なく「田舎」と称するこの土地で、「葬儀」を巡っていがみ合う二つの家族があった。

伝統的な葬儀を守ってきた中谷家と、小さな葬儀社を開業した杉山家。

高木地区では、季節労働である林業に携わる者が葬儀の取り仕切りを行なうことになっていて、現在この地で唯一林業を営む中谷家が長年に渡って「年行司」(葬儀を仕切る役)を務めてきた。その伝統的な葬儀の特徴のひとつに、「喪屋(もや)」という建物で通夜および葬儀を執り行うことがある。これは、死は「穢れ」という伝承から来ており、穢れを隔離する目的が主であった。

一方、杉山家は、亡妻の故郷であるこの土地に8年前に越して来て、小さな葬儀社を開業。現役世代のニーズに併せた「家族葬」や「直葬」といった都会的な葬儀を持ち込んだ。

古きを守る中谷家、新しきを取り入れた杉山家。主に中谷家の家長からの強い嫌悪が杉山家に向けられ、二つの家族は徐々に溝を深めていった。

さて、この二つの家庭にはそれぞれ高校生の娘がいる。

彼女らはこの村唯一の同級生で、父親同士のいがみ合いなど気にすることなく、幼い頃から仲良く過ごしてきた。よく喪屋を秘密基地にして遊んで叱られたりしたものだ。しかし、思春期を迎えた二人は同時に高校の男性教諭に恋をして、少しずつその関係にひずみを生じさせる。そのことをきっかけに、この二家族の関係は修復不可能なものになっていくのだった…。