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東日本大震災から1年、KAVCから発信するのは、
神戸に縁深き演劇人による“普遍的な営み”の物語
脚本・角ひろみ、演出・丸尾丸一郎にインタビュー

神戸アートビレッジセンター(以下KAVC)が、演劇プロデューサーの養成を目的としてスタートした企画「《神戸の視点》実践!演劇プロデューサーへの道」。2011年の夏より、ワークショップや公演現場での実習などを経て、演劇制作やプロデューサー業務について学んできた10名の候補生。集大成となるプロデュース公演では、脚本に角ひろみ、演出に劇団鹿殺しの丸尾丸一郎を迎え、神戸と東日本大震災の被災地に共通する“海のある街”を感じる物語『地中』を上演する。『地中』は、角が東日本大震災が発生するよりも前に書きあげていたという未発表作品。この作品に対する思いや演出の構想など、角と丸尾のふたりに訊いた。

――今回のプロデュース公演のオファーを受けて感じられたことは?

角「私にとっては、すごく縁を感じる公演で。今は、岡山県に住んで劇作をしているんですが、関西で劇団を主宰していた頃、ホームグラウンドのように、KAVCさんでとてもたくさん公演をさせていただいていて、私はとてもKAVCに育てられたイメージがあったんです。その中で、KAVCさんの企画で神戸市の高校生がひと夏かけて演劇を作るっていう企画を続けられていて、丸尾さんと演出部で一緒に演出をさせていただいたことがあります。劇団が2005年に解散して以降は、関西でどっかり根をおろして活動できていなかったんですが、そんな中で、プロデューサー講座のお芝居で私の名前があがっているというお電話をいただき、ものすごく縁の繋がりを強く感じましたね」

丸尾「僕はまず、このお話をいただいたときに3点感じたことがあって、お引き受けしたいなと思いました。1点目は、僕はもともと演出をしたいタイプの人間で、劇団では座長が演出をすることになっているので、演出したい気持ちはずっと持っていたんです。あと、角さんの作品が大好きで、関西にいるときに数ある作品を観させていただいた中で、『あくびと風の威力』は心に残る作品のひとつでした。当時OMSで観たとき、まだ鹿殺しがつか(こうへい)さんの作品をやってた時期で、僕は台本を書いていなかったんですが、すごく心を動かされて、こういう作家になりたいと思った覚えがあります。で、今回、脚本が角さんだと聞いたときに、チャレンジしたいとすごく強く思いました。あともうひとつは、このプロデューサー講座という企画はすごく新しいし、面白い取り組みだなと思ったんです。プロデューサーというのは、演劇を作る上で本当に重要なポジションだと思うんです。より演劇が続いていくためには、プロデューサーの力が必ず必要で、まず根っこを作る人だと思うので、そういう人たちを育てていこうという試みと、そういう人たちが今後続けていくお手伝いができればと思い、その3点からやりたいと思いました」

――では、作品について教えてください。

角「KAVCさんから提案されたのが、“海を感じさせるお話”で、ダイレクトに出す必要はないけど、“震災”への意識を持った作品を書いてほしいというもので、それにピッタリのホンを書いていたんです。本当に偶然ですが、2010年の春に、海を感じさせる作品で、場所を限定せずに“日本のある土地”ということを私の中で頭に置いて作っていました。私にとって、阪神大震災を経験したことは色濃く残っているから、日常の価値を見つめた作品を作っていくと、自然とそちらの方に進むんですよね。『地中』は、出産を経験して、自分がいつ死ぬかわからない中で、子どもに残せる話を作りたいなと思って書き始めたんです。その頃は、男女のもつれのような、暗い話をたくさん書いていたので、今私が死んだらこの子にはこの作品が印象として残るなと(笑)。そうじゃなくて、母が子に伝えるべき作品を作るにはどういうのがいいんだろうと考えて、普遍的な繰り返しというか、営みを書こうと思ったんです。ある土地にある人が来て、その人が去って、また別の人が現れて、またその営みがなくなって繰り返されて……という。震災についてその時点で意識はしていたんですが、あるひとつの震災とか、あるひとつの事件や出来事をピックアップするのではなく、もっと大きなスパンの中でそういうことが繰り返されている地上に、私と子どもがいるんだなということを強く意識して、作りました。とにかく普遍的なものを強く意識して書いています。土地だけを同じに限定して、4つの全然違う時代の、違う人たちの話が進んでいきます。住む土地を探しに来た男女と、なんらかの大きな事象で埋まっている少年と少女と、死んで土の中にいる家族と、あとは白い兵隊アリと黒い兵隊アリが砂を掘り進んでいるという、4つの話が進み、最終的にひとつにシンクロしていくお話です」

丸尾「すごくふわ~っとしていますね(笑)。観る人によって捉え方が異なるような感じで書かれています。どう料理しても構わないですよって目の前に脚本を出されて、それに対して、初めてご一緒する役者の方々とどう作っていけばいいかなと、試行錯誤しながら進めている状態です。ただ、僕のスタンスとしては、芝居を始めて観る人にも伝わりやすいものにしたいという思いがあって。持ち帰るところは人それぞれで良いと思うんですが、わかる人だけわかれば良いよっていうスタンスではないので、そういったお客さんをターゲットにどう考えていけるかなと、苦戦していますね。プロデューサー講座の方々と衣装や美術も一緒に作っていて、本番まで一緒に進めていけたらなと思っています」

――実際、役者が入って感じたことは?

角「上演する予定もあてもなく書いていたので、自分の脳内ですごく暗くて地味な世界で行われていたんです。それからキャスティングや丸尾さんの演出でと伺ったときに、全く違う世界へと引っ張ってもらえるんだろうなってワクワクしました。演出と作が一緒だったら、割とひとつの世界に没頭する良さがあると思いますが、逆にそこから抜け出せなかったりする。特に女がやるとダイナミズムというものが観念的になってしまうところがあって、丸尾さんならそれを破ってもらえるだろうなって。俳優の方々も、異空に飛んでくれそうな活動をしているキャストが多くて、作品にすごく広がりができそうで楽しみです。ここのところ、ものすごく日常的なお話を書いていて、日常だけどそこから非日常へ行きたい人たちの話というのが多かったんですが、今回は全然違う作品で、私的にもチャレンジだったんです。場所を限定しないし、人の名前も、男、女、少女とか、大きく括ってあって、私の強みだった方言のリズムもやめて、この作品ではフラットにしました。それを読んで頂いたのを聞くと、するりと腑に落ちた感じがしましたね。あともうひとつ新しい仕掛けがありまして、歩く音や物を置く音、掘る音とかを全部台本の中に言葉として入れていて、それを俳優が話すように書きました。人しかいない中で、人の力で進めていく話で、例えば、誰かが歩く音を別の人が「テクテク」って言っていたり。何か効果音を出す以上の、繋がりの効果が出るんじゃないかという試みがあって、実際聞くと、深い効果が出ている気がして、やって良かった!って思いました」

丸尾「そんなふうに、演出的な面も台本に書いてあってすごく強い世界観があるので、その辺がプレッシャーですね」

角「むしろ私はどんどん壊してくださいっていう感じですけど(笑)。でも壊してくるだろうなって思っています」

丸尾「今も若干揺れ動いているんですが、最初に台本を読んだとき、角さんのイメージをなぞっていこうかなと。その方がこの作品をいちばん強く出せる気がして。でも、最終どこに落ち着くかわからないけど、僕を選んでもらったからには、一度、それとは真逆のものをぶつけてみようかなと思ってやっています」

角「その方がきっと面白いから。自分的には変えてもらった方が楽しいですね。役者さんも、実際書くときは割とガッチリと、特に主人公はどんな感じの人というのを投影して書くんですが、そういう目線じゃない方がこの企画は広がりますよね」

丸尾「役者にとってもセリフが難しいんですよ。方言がなくて、あるテンポがあるわけじゃないというか、どういう解釈にも読めるような感じのセリフだから、役者としてはすごく難しい。普通に読んじゃうと詩を読んでいる感覚になってしまうんですけど、そこを人間として読めるかどうか、結構役者の力量がかかっているから、役者も大変だなと思いますね。あと、さっき角さんが仰ってた、効果音を出す人を台本では「人影」と呼んでいるんですが、人影たちが、物語を進める人たちにどう絡んで表現していこうかなというのがすごく悩みどころです」

――コロスのようなイメージですか?

角「そうですね。シーンとは関係ない人たちがやっていて、それが繋がっているようには作っています。私の中では近年ないくらい動き満載(笑)」

丸尾「今のイメージとしては、人影たちがいろんなものを動かしてスタッフワークを兼ねながら、その絵を作っていく流れにしたいなと考えています。あとひとつ悩んでいることが、物語のイメージは上下なんです。舞台は意外と上下の関係性が見せにくいというか、地層のような上下関係が見せにくいから、そのあたりを舞台見慣れていない人にもわかりやすいように提示していきたいと思っています」

――時代が異なる4つのお話が進むということですが、時代の順番はあるんですか?

角「特にないし、限定されていないです。近い時代と思えば近い時代と思えるようなことでもありますが、特に順番を限定していないですね。過去や未来という相互関係も、単体のお話で観た時にはありませんが、最終的にそれが繋がるときに、少年と少女が男と女に対してどういう関係に思えるかということは意識しています」

――丸尾さんは、台本を最初に読まれたときの印象は?

丸尾「なんとなく、子どもの印象が強くて、角さんがお母さんになったなって思いましたね(笑)。あと、本当に幅の広いというか、どうにでも捉えられる、ある意味絵本的な感じがしました。これを紐解くのに、ひとつの時代を1点置いた方が見やすいのかなって思って、まず、男と女をベースにして、そこから過去未来というように考えた方がいいのかなって最初に考えたんです。でも、今の考えとしては、4つともがフラットでありながら、最後にはなんとなく未来と過去が提示される作り方なので、ベースにひとつ置くというアプローチとは違うようにしています」

角「この作品を作ったのは、ある骨が掘り起こされたことがきっかけだったんです。で、その骨を見ている私の目線なのか、“自分”であるその骨自体なのか、誰の目線で見るかですよね。でも特にこれは主人公を限定していないんです。遥か昔から流れている時間の中で、私からみてその印象深かった骨は、実際生きていて生活していたんだなっていうことを、当然のことなんですけど強く思いまして。だからたぶん限定しなかった」

――4つの場面は行ったり来たりする感じですか?

丸尾「そうですね。感覚がどんどん短くなっていって、最後繋がっていくっていうような」

――角さんはいつかはどこかで上演したいと思われていたんですか?

角「小さい子どもがいて夜の稽古に出れませんので、自分が作品を作っていく生き方がまだ定められていない部分があるんです。でも、良い作品は残るだろうと、自分の中で思っているところがあって、いつかどこかでやろうということよりも、まず作品を作ろうということで書いています」

丸尾「それってすごいですよね。もしかしたらほかにもそういう方がいらっしゃるかもしれないですけど、作家って、予定があって書き始めることが多くて、何年後に劇場押さえて、どこの劇場でどんな作品にしようっていう企画がありながら、それに向けて書くと思うんですよ。だから、単純に良い作品を書きたいっていう衝動で生まれた作品っていうのはすごく貴重だと思うので、大切に舞台化していきたいと思いますね」


(取材・文/黒石悦子)
 




(2012年3月 6日更新)


Check
写真左より、劇団鹿殺し・丸尾丸一郎、角ひろみ。

●公演情報

「地中」

Pコード:417-952
※各日とも公演日前日まで販売。

〈≪神戸の視点≫実践!演劇プロデューサーへの道2011プロデュース〉

▼3月9日(金)19:00
▼3月10日(土)14:00/18:00
▼3月11日(日)14:00

神戸アートビレッジセンター KAVCホール

一般-3300円(整理番号付)

学生-1800円(整理番号付)

高校生以下-1000円(整理番号付)

[劇作・脚本]角ひろみ

[演出]丸尾丸一郎

[出演]山田かつろう/前渕さなえ/美津乃あわ/行澤孝/中村真利亜/岡本拓朗/他

※ペア割は取り扱いなし。小学3年生以下は入場不可。

[問]神戸アートビレッジセンター[TEL]078-512-5500

神戸アートビレッジセンター
http://kavc.or.jp/

前売りチケットは、公演日前日まで販売!
チケット情報はこちら

●あらすじと配役

【 あらすじ 】

何もない、誰もいないある地での話。

あるとき、その地は荒野だった。
男と女がやってきた。住まう土地を求めて。
やがてそこは更地となり、開発地となり、宅地となっていく。

あるとき、その地は戦場だった。
黒い兵隊蟻と白い兵隊蟻がいた。
今まさに戦おうとしている。

あるとき、その地は墓場だった。
老いた家族がいた。
永遠の食卓を囲んでいた。
家族は待ち人を迎える準備をしている。

あるとき、その地は古代図書館だった。
少年と少女がいた。
大量の本の下に背中合わせで埋まって、身動きできずにいた。
少年と少女は互いを知らない。

同じ地で別の時代にある4つの境遇。

その地中にはーー。


【 キャスト 】

男:山田かつろう
女:前渕さなえ

黒い兵隊蟻:美津乃あわ
白い兵隊蟻:行澤 孝

父:大沢秋生
母:千田訓子
祖父:岡本拓朗
祖母:中村真利亜
犬:杉森大祐

少年:宮下絵馬
少女:西分綾香

●プロフィール

すみ・ひろみ(写真右)/尼崎市出身。’95年、「芝居屋坂道ストア」を旗揚げ。作・演出・俳優として関西を中心に活動。震災をテーマにした作品『あくびと風の威力』('98年)で、第4回劇作家協会新人戯曲賞佳作を受賞。'05年の劇団解散以降、岡山市に拠点を移し、劇作家として活動。'08年には『螢の光』で第4回近松門左衛門賞を受賞。'11年にピッコロ劇団が深津篤史の演出で上演した。

まるお・まるいちろう(写真左)/豊中市出身。'00年、関西学院大学在学中に「劇団鹿殺し」を旗揚げ。神戸を拠点に活動を開始し、つかこうへい戯曲を上演。第4回公演よりオリジナル台本を手掛ける。劇場公演と同時に、路上劇やイベント出演を展開。'05年に拠点を東京に移し活動の幅を広げている。劇団では主に作・俳優、「劇団鹿殺しオルタナティブズ」で作・演出を担当。パルコプロデュース「カフカの『変身』」('10年)、キューブプレゼンツ『有毒少年』('11年)などにも出演。