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落語家・立川談春はなぜ、大阪、神戸での
12ヶ月連続独演会に挑むのか? その理由を問う!

今年1月より、大阪と神戸の2カ所で月1回、12ヶ月連続独演会を開く落語家、立川談春。談春といえば2008年末、一時閉館が目前に迫ったフェスティバルホールでホール史上初の独演会を開催。当時はまだまだ、関西では知る人ぞ知る存在。そんな中での無謀とも言える挑戦だったが、圧巻の『芝浜』で聴かせ、満員の観客に深い感動を与えたのだった。そんな談春が次に挑むのが、この『12ヶ月連続独演会』だ。談春はなぜ“アウェイ”である関西で、しかも大阪、神戸の2カ所で12ヶ月連続の独演会を行おうと思ったのか? その理由はもとより、師匠・立川談志への思いや落語に対する考えを聞いた。

昨年末に収録した談春さんのコメントです!こちらもお楽しみを!

――『立川談春12ヶ月連続独演会2012』が、大阪と神戸の2ヵ所で開催されることになりました。前代未聞というべき連続独演会への意気込みをうかがう前に、やはり昨年11月に亡くなられた師匠・立川談志さんのことをお聞きしないわけにはいきません。訃報の直後、談春さんは軽い躁状態になられたそうですね?

立川談春(以下・談春)「2年前から別れる用意をしてたんです。『あんたは談志師匠が死んじゃったら、まぁ1年は落語できないだろうね』とか、みんな言うんですよ。そんなことないよと思ってるのに信じてる奴らが言うってことは、その方が正しいんだろうなって。じゃ、今から準備しとこう。『はい、死んだ、死んだ、死んだんだよ』ってね。それでも軽い躁になるってことは、ほんとに何も考えてなかったらヤバかったのかなぁって思うけど、それも時間が解決して今何を思ってるかはきっと嘘になってくるでしょうね。むしろ、どんなメディアに出ても『落語は正しいんだ。間違ってないんだ。分かんない奴がバカなんだ』って言ってた、立川談志という最高の広報官を失った落語という芸能の今後は大変だろうなぁと思いますね。『俺の客は頭がいい。バカは俺の芸は分からない』っていうのは本気ではあるんでしょうが、半分はポーズですよね。それは世に中に伝わらない。『また始まったよ。バカだね』って。バカを道化として演じてたのかどうかは知らないけど、それを命がかけでやってたていう凄さはヒシヒシと感じます。もしかすると、それが一番の功なのかなと思う。普通の心の強さではできない。でも、亡くなってみないと分からなかったですね。天に与えられた使命だと思ってた。違う! 自分から飛び込んでいって、一言の言い訳もせずやり通し、さようならっていなくなっちゃいましたね。僕は落語家として立川談志の扶養家族だけれども、もういないんだよってなった時に甘ったれたいけど『腹くくれ』と。いつまでも“ごっこ遊び”じゃないだろうって。さぁ、それを2年で思えるかね」

――そんな談春さんが、関西で独演会を開催されるようになって5年目に突入します。関西の観客についての感想はいかがですか?

談春「慣れるんだね。慣れるから前に進めるし、慣れるから怖い。そのくせ、お客さんには慣れて欲しくないから手を変え品を変え小ざかしくやるわけですよね。で、いい拍手を頂戴できたなと思った時に、もう嬉しいじゃなくて正直ホッとする。てことは、慣れたってことですよね。それを思い上がってると言われれば、何も反論はできない。だけど、慣れるからまた何かしなけりゃいけないと思うのも事実。だからまたスリルを求める」

――そこで、毎月大阪と神戸で『12ヶ月連続独演会』をやろうと?

談春「『芝浜』でもなきゃ、『文七元結』でもないもので、幕を下ろす会をやらざるを得ないなって。大阪と神戸は同じ内容ですが、1年間で24席やんなきゃいけない。そん時に勝算がゼロはあり得ない。だけど、勝算が80%っていうのが凄く僕にとっては恐怖ですね。80の勝算が60の満足度で終わった時には、客はもう2度と来ないですよ。『談春、分かった』と全部見た気になるから。120%取りにいってたら、満足度が30%でもお客さんってもう1回来てくれるんですよ。空振りだとか、ファールチップだったりしても、目いっぱい振ってると、何かをこいつはやろうとしてる。そう思った時に『当たったらどうなるんだろう』と、もう1回来るんですね。そのことは、カセみたいに心に植えつけてあります。ただ、思いっきり振るには心も体も必要。まだ僕の場合は心ですよ。それが、老いというものに通じてくると大変でしょうね。それは、談志を見てて思った。年とればとるほど、上手くなると思ってますからね、落語っていうのは。円熟、洗練、名人ってことになるんだけど、それがなかなかできないんですね」

――この会を始めるキッカケは何かありましたか?

談春「おそらく再来年か3年後が30周年なんですよ。変な話、この会は30周年にやってもいいんです。でも、2年待ってるのが怖かったのね。それは、さっきの『80点をとりにいってるんじゃないの?』『できるものをやるんでしょ?』っていう。てことは30周年に勉強せざるを得ない状況を作ろうと思ったら、全部アウトプットしちゃえばいいだろうと。だって開ける引き出しがないんだから、あとはインプットするしかないじゃない。『そんなエラそうなこと言っていいの?』『12月まではもたないかも知れないけど、俺が客なら1月、2月なら行ってみようかなと思うもん。今やりゃいいじゃん。30年は30年の時に考えなよ』『辛くねぇ?』『辛いのはプレーヤーのお前が辛いんだろ。俺は今プロデューサーとして考えてんの。2年後にどれだけプレーヤーとしてお前が辛いか』…っていう発想」

――キャパは森ノ宮ピロティホールが約1000、神戸朝日ホールが約500。英断ですよね。

談春「そこは僕の落語家としての生い立ちですね。寄席に出れない。しゃべるところをまず探さないと僕たちは落語ができない。それをずっとやって来たんですから。やることの不安より、やらないことの不安の方が強いんですよ。イズムとは言わないけど、立川流っていうのはそういうことでしょうね。そこでやって来た人を見てるでしょ。談志だけじゃなくて志の輔を。パルコ1ヵ月やって、1万何千枚が10分で完売しちゃうんだから。で、志の輔兄さん、大阪でやってねえな。大阪でやろう、大阪でって」

――常にご自身を追い込んでいるように思うのですが…。

談春「そうやってないといけないと思い込んでるんですね。原動力は不安と嫉妬。さだまさしさんだったり、志の輔兄さんだったり、文珍師匠だったり、鶴瓶師匠だったり、自分より凄い人がビックリするような舞台をやってる。チキショー!客は喜んでる。嫉妬ですよね。この人がこんなにやってるのに、俺何やってんの? 不安ですよね。解消しないでウジウジしてる方がもっと精神的に嫌だから、やって苦しむんだったらいいじゃない。ただ、ダメな可能性もある。これやっちゃって勉強できなきゃ、30周年迎えられないかも知れない。そん時は諦めればいい。石にかじりついても勉強するぞ、なんて気持ちは毛頭ない。やらざるを得なくて、やるんじゃないのって言ってるだけの話で。フェスティバルホールをいっぱいにして、NHKホール、サンケイホールブリーゼ、シアター・ドラマシティ、ピロティホールでもやらしてもらって。もう良い思い出は作ったもん。思い出抱きしめて、ゴルフしながら生きていきますよ。その潔さはあります」

――1年間で24席を披露されます。演目は談志師匠の十八番あり、他のネタもあるとか。

談春「例えば『九州吹戻し』を聞きたいという、落語なり談志なり僕なりに愛情を持ってるお客さんが3割いるとするじゃないですか。お蔭様で大阪という土地の持つパワー、『あいつ面白いよ』と思った以上は人に伝えてしまう有難さ。それで来たとかっていうお客さんが、やっぱり3割いるんですよ。ネタを聞きたがってるお客さんと同数だから大阪でやるんです。でも、あとの3割は最後まで分からない。ストーリーに起伏がない、ドラマがない。話芸という技術があったという歴史も知らない。TVを見てると全てのギャグにスーパーがついてる。その人たちにやったって、分かんないですよ。えばってるんじゃなくてね。そうすると、この人たちは取り残されるのね。その状況で俺はどうすんの?何やんの?っていうのを自分で見たいの。ただ、2月ぐらいからネタを1席だけでも出します。『この噺ならどんな無理をしても聞きたかったのに』とか、『これなら来なくても良かったのに』っていうのがあるかも知れないでしょ(笑)。それは親切じゃねえなと思ったんで」

――それだけ談志師匠のネタは、弟子をしても難解なんですね。

談春「米朝師匠の落語は全員がやるでしょ。やれるように作ってくれてる。うちの師匠は違うから。とてつもないトラップとは言わないけど、談志自身ができるように『やれるもんなら、やってみろ』っていう作り方をしてるんでできないんです。でも、弟子はみんなやりたい。『芝浜』や『らくだ』、『文七元結』はやるんです。こっちの方が簡単なんですよ。私はその簡単なネタで、大向こうにウケるネタで大阪で4年間幕を下ろしてきたんです。5年目になって『じゃ、他のもんでできんのか』って自分の中のプロデューサーが言ってるんだね。『できる、できないはいいんじゃないの』と思いながら、『やれやれ!』って。で、このタイミングで師匠が亡くなったので、1年上手くいかなくても追悼でごまかせるなと。いい時に死んだね。『何だったんですか、今日の噺は?』『追悼なんです』って(笑)」

――では、談春さんはこの1年間で談志師匠の十八番を腹に入れ消化していくという。

談春「全くしない。そんなもん消化しようと思って無駄な努力をするぐらいなら、自分のものを作った方がいい。できるとこだけ消化するの。で、『大事なんです。忘れないんです。この人がいたから私はいるんです』でいいじゃないですか? おそらく崇めるってそういうことでしょ。ただ、『分かった』と思うのは怖いよぉ。次の対象と目標を探すからね。で、死ぬ時に「俺、何にも分かってなかった。やれるもんだけやってたんだ」と思ったら怖くて死ねないな。分かんないけど、この部分は好きで俺もできちゃったんだよねとか。『よくよく聞いてみると、談春さんは談志師匠のモノマネだったんですね?』『分かっちゃった』とか(笑)。こんな感じですもん。だから、『お取次ぎは致しますが』てなとこですね」

――それぞれの会場の感想はいかがですか?

談春「ピロティホールは響きすぎるホールだけど、無から有じゃないから出来ると思うし、良いホールですよ。神戸朝日ホールは、何でキャパ500のホールでフェスの間口なんだよと思いながら、ちょっと背筋が伸びた(笑)。それとね、東西の顔見世というようなスーパースターだけを集める落語会が、どういうわけだか神戸でずっと続いてるんですよ。落語家として招いていただけるような…もっと言えば、やりたいんですけどと言って迎えてもらえるような土地だと思ってなかったので、そこで自分が独演会をやれるっていうのは嬉しいじゃないですか。あと、二つ目になった頃に、神戸オリエンタル劇場であったミュージカルのオーディションにたまたま受かって。初めて俳優とかお芝居とかっていうのに触れた、思い出の場所でもあるんですよね。さぁ、神戸で何か美味いもん探さないと(笑)」

 

(取材・文/松尾美矢子)




(2012年1月25日更新)


Check
撮影:大西 二士男

●公演情報

立川談春独演会〈12ヶ月連続 独演会〉

[各日]指定席-3800円
[出演]立川談春

▼1月26日(木)19:00
神戸朝日ホール
▼1月27日(金)19:00
森ノ宮ピロティホール
※当日券は要お問い合わせ。

一般発売:2月2日(木)10:00~
Pコード:417-630
▼2月27日(月)・3月30日(金)19:00
神戸朝日ホール
▼2月28日(火)19:00・3月31日(土)15:00
森ノ宮ピロティホール

一般発売:4月5日(木)10:00~
Pコード:417-631
▼4月24日(火)・5月29日(火)19:00
神戸朝日ホール
▼4月25日(水)・5月30日(水)19:00
森ノ宮ピロティホール

一般発売:6月9日(土)10:00~
Pコード:417-632
▼6月27日(水)19:00
神戸朝日ホール
▼6月28日(木)19:00
森ノ宮ピロティホール

一般発売:7月14日(土)10:00~
Pコード:417-633
▼7月29日(日)15:00・8月30日(木)19:00・9月25日(火)19:00
神戸朝日ホール
▼7月31日(火)・8月31日(金)・9月26日(水)19:00
森ノ宮ピロティホール

一般発売:10月11日(木)10:00~
Pコード:417-634
▼10月23日(火)19:00
森ノ宮ピロティホール
▼10月24日(水)19:00
神戸朝日ホール

一般発売:11月4日(日)10:00~
Pコード:417-635
▼11月20日(火)19:00
森ノ宮ピロティホール
▼11月21日(水)19:00
神戸朝日ホール

一般発売:12月3日(月)10:00~
Pコード:417-636
▼12月28日(金)19:00
神戸朝日ホール
▼12月29日(土)15:00
森ノ宮ピロティホール

※発売初日はいずれもチケットぴあ店頭での直接販売および特別電話[TEL]0570(02)9540(10:00~18:00)、通常電話[TEL]0570(02)9999にて予約受付。

※未就学児童は入場不可。前売り券は各日とも公演日3日前まで販売。
[問]キョードーインフォメーション
[TEL]06-7732-8888

●プロフィール

立川談春

たてかわだんしゅん/1966年生まれ、東京都出身。1984年に立川談志に入門。1988年に二つ目、そして1998年に真打ちに昇進した。鋭い眼光で迫り来るかと思いきや、情感豊かに涙を誘うなど、緩急自在の落語は実に聴き応えあり。東京はもとより関西でも人気を博している。東京では毎月3日間、300人というキャパシティでの会場で稽古会を開催中。これまでの博多、札幌で独演会を行ってきたが、2012年は大阪、神戸でも各12回の独演会が決まっている。また、2008年には師匠への思いを切々と綴ったエッセイ『赤めだか』(扶桑社)を上梓。同年、第24回講談社エッセイ賞を受賞した。