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ひとり芝居と落語で見せる北村薫の<円紫さんと私> 
小説の世界を具現化した舞台の魅力を柳家三三が語る

『柳家三三で北村薫。』は、直木賞作家・北村薫の記念すべきデビュー作<円紫さんと私>シリーズの短編を、原作の構成・文体は忠実に踏襲しつつ、演者・柳家三三(やなぎやさんざ)がたったひとりで上演する試みだ。
春桜亭円紫という落語家が、天才的な洞察力とひらめきで、主人公の若き女性<私>の持ち込む日常のささやかな謎を解決する。ストーリーを語る場面は、スーツ姿にひな壇腰かけの「ひとり芝居」形式で。劇中、円紫さんが高座に上がる場面では、着物に着替えての「落語」形式で。
今年3月26日、東北大震災の直後に初演された東京の会場は、交通網や余震の不安が色濃くあったにもかかわらず、超満員、大盛況。北村薫の作品世界と柳家三三の落語が想像以上のケミストリーを醸し、深い余韻と感動が会場を貫いた。それはまた、伝説の舞台が生まれた瞬間でもあった。
そして12月、『柳家三三と北村薫。』が、東京と西宮に帰ってくる。そこで、主演を務めた柳家三三に話を訊いた。

--まずは、『柳家三三で北村薫。』という公演が生まれたいきさつを聞かせてください。

柳家三三(以下、三三)「落語と他のジャンルを融合して、新しいことをできないか、という相談を受けたのが始まりです。『好きなものは何ですか?』と訊かれて、『北村薫先生の小説』と答えたら、本当に正式な話として決まりました(笑)」

--数ある北村薫作品の中から、<円紫さんと私>シリーズが選ばれました。

三三「一番インパクトがあって、北村ファンも愛着がある作品がいいと思ったんです。<円紫さんと私>シリーズの小説には必ず、落語家・春桜亭円紫さんが古典落語を演じる場面があります。読者はその高座を想像するだけですけど、それを落語家・柳家三三がやれば、高座のシーンが具現化される。そこにこそ、ぼくがやる意義があります」

--北村作品の原文を、忠実に再現しました。

三三「脚本の西森英行さんには、徹頭徹尾、原作に沿う形で脚本を作ってもらうようお願いしました。それは、原作の表現を100%尊重したかったからなんです」

--原作は一人称の小説です。

三三「主人公の女子大生、<私>の一人称小説です。落語で一人称をやるのは無理なんですね。観客席に『私は…』と語りかける演出方法は、落語にはないので。そこで、ストーリーを語る部分では、ひとり芝居的なスタイルにしました。それによって、落語の場面もぐっと際立ちました」

--劇中で口演する古典落語『三味線栗毛』も通常、演じられるものとサゲが違います。

三三「もともとは、『空飛ぶ馬』を読んで、『三味線栗毛』という噺を知ったんです。実演では聴いたことのない噺でした。だから、僕にとって、この噺の最初のイメージとなったのは、小説の中の円紫さんバージョンなんです。『三味線栗毛』を初めて実演で聴いたときは違和感を覚えたほどです。でも、噺家になって、柳家喜多八師匠の『三味線栗毛』を聴いたとき、円紫さんバージョンの『三味線栗毛』とも、それまで実演で聴いてきたものとも違う、とても心地よい世界を感じたんです。だから通常の高座では、喜多八師匠バージョンでやっていますね」

--今回はもちろん円紫さんバージョンですよね。

三三「円紫さんバージョンの『三味線栗毛』を演じるにあたっては、北村先生の演出意図や、具体的な解釈やイメージを、ご本人に突っ込んで訊くことができました。この日だけは“春桜亭円紫”として高座にあがるつもりです」

--『空飛ぶ馬』はクリスマスの話です。それを12月に演じます。

三三「演者にとっては大きなアドバンテージですよ(笑)。世間の空気が自然にクリスマスになっているから」

--ところで三三さんは、かなり早い時期に小説<円紫さんと私>シリーズと出合われたそうですね。

三三「僕は中学生のころ、とても内向的な子供で、休みの日は1日中、本ばかり読んでたんです。そんなこともあってか、父親が時々、本をプレゼントしてくれていました。それが、ちょうど落語に興味を持ち始めたころだったので『落語家が探偵役を務める推理小説があるよ』と言って、『空飛ぶ馬』を買ってきて。すぐ夢中になりましたね。寄席通いを始めたのが中1で、本と出合ったのが中2か中3。今でも一番好きな作家です』

--なるほど。前回公演は、東北大震災の直後でしたね。

三三「公演日の直前まで『公演中止にしないで大丈夫か?』という雰囲気でした。でも、震災直後の空気の中で、あの素敵な話を演じたことは大きな経験になりました。暗い世の中に何か温かい灯を点す瞬間を演じていて高座で感じられましたから。打ちのめされ、希望を持てないでいる中、この作品を演じて普段以上の何かが残ったんです。僕自身は、普段は『クリスマス? 別に…』というタイプですけど(笑)、今年はいつもの年とは、クリスマスというものに寄せる思いが違う年だと思うんです。この公演は、演者個人の力だけではない、舞台と会場、それから、世の中全体の気持ちが作り上げた作品です。今回は、それがもう一度、どんな風に具現化されるのかな、という楽しみがあります」
 




e001k.jpg<円紫さんと私>シリーズとは?
直木賞作家・北村薫の記念すべきデビュー作短編集。第1短編集『空飛ぶ馬』の単行本が発刊されたのは1989年。ちなみに、北村薫という作家は、この作品でデビューしたころはまだ、名前以外のプロフィールは一切明かされない“覆面作家”だった。春桜亭円紫という落語家が、主人公の若き女性<私>の持ち込む日常のささやかな謎を、天才的な洞察力とひらめきで解決する本シリーズ。本格ミステリーとしての完成度はもちろん、登場人物たちの温かい交流や、シリーズを通じて実感される主人公<私>の成長、あるいは、円紫さんが語る落語の芸談など、読み手の心にそっと寄り添うような内容の豊かさが、多くのファンを獲得している。シリーズはその後、第2短編集『夜の蝉』(1990)、長編『秋の花』(1991)、長編『六の宮の姫君}(1992)、第3短編集『朝霧』(1998)と続く。

(2011年12月 1日更新)


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柳家三三

●あらすじ

『空飛ぶ馬』

女子大生の<私>が、幼いころに通った幼稚園。その園庭に、クリスマスプレゼントとして、木馬の乗り物が設置されることになった。ところがある晩、なぜか、その木馬が一時的に消えた、という目撃証言が。年の瀬の落語会で、『三味線栗毛』を演じたばかりの春桜亭円紫師匠に、消えた木馬の謎をぶつけてみる<私>。するとそこには、思いがけない、心温まる謎解きが待っていた。


●公演情報

『柳家三三で北村薫。
<円紫さんと私>シリーズより』

「空飛ぶ馬~『空飛ぶ馬』より/三味線栗毛」

発売中
Pコード:414-597

▼12月18日(日)14:00

兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール

全席指定3000円

[原案・原作]北村薫

[劇作・脚本]西森英行

[出演]柳家三三

※未就学児童は入場不可。

[問]芸術文化センターチケットオフィス
[TEL]0798-68-0255

兵庫県立芸術文化センター
http://gcenter-hyogo.jp/

前売りチケットは12/16(金)まで販売!
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