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12年ぶりの再演を果たす清水邦夫×蜷川幸雄による
傑作舞台『血の婚礼』について中嶋朋子が語る!

'86年、劇作家・清水邦夫がロルカの『血の婚礼』にインスパイアされ、執筆した同タイトル作『血の婚礼』が間もなく、森ノ宮ピロティホールで幕を開ける。演出はもちろん、清水の盟友であり、当時『GEKISYA NINAGAWA STUDIO』公演として初演した蜷川幸雄。これまで再演を重ねてきた本作だが、この夏は『大規模修繕劇団』の旗揚げ公演として上演。窪塚洋介、中嶋朋子、伊藤蘭など刺激的なキャストが集結し、物語を詩的な台詞回しや独特のユーモアで彩りながらダイナミックに展開してゆく。土砂降りの雨、路地をさまよう鼓笛隊、渦を巻く男と女、そして血族たちの愛と憎しみ…。懐かしさと新しさが交錯する世界に、蜷川幸雄が放つ鎮魂歌。大阪公演を前に、主演を務める中嶋朋子に本作の魅力や見どころについて話を聞いた。

12年ぶりの再演となる『血の婚礼』は大規模修繕劇団の旗揚げ公演として演じられる。'11年7月から約半年間、全館設備改修工事を実施するBunkamura。その間、クオリティとエンタテインメント性はそのままに、日本全国で刺激的な演劇を上演するカンパニーとして、また、日本の演劇界を修繕するという思いを込めて、蜷川幸雄を筆頭に結成された大規模修繕劇団。名付け親は生前の井上ひさしだ。

―― 過去に幾度か上演されている本作だが、関西では清水邦夫×蜷川幸雄というコンビの作品は初となる。それだけに、この世界観を初めて目撃する人も多いはず。まずは、中嶋朋子から見た二人の魅力について聞いた。

中嶋朋子(以下、中嶋)「清水さんと蜷川さんは若いころから二人で作っていらして、盟友で。蜷川さんは、清水さんの作品への思い入れがものすごく強くて、一語一句変えずに、一言一言をすごく大事に作られます。『血の婚礼』は何回か上演されていますが、今回は初演に戻して、最初のエネルギーでやりたいとおっしゃって、すごい大事に作っていらっしゃいますね。清水先生の作品は、言葉がすごく美しくて、知的で、生きるということのエネルギーが凝縮しているんです。それは現代には欠けてしまっている、食らいつくようなエネルギーというのかな。美しいものに対してもそうですし、生きるということにも、死というものにも、全部に正面から向かっていくエネルギーにすごく満ちている作品をお書きになります。蜷川さんもそういった部分をずっと追い求めていらしていると思うんです。そうやって若いころからエネルギーをぶつけ合っていたお二人のタッグですから、そこに挑戦する役者陣も相当なエネルギーを要求されます。稽古場では『そんなんじゃ伝わんねーよー!』っていう罵声が飛びまくってましたね(笑)」

―― 清水邦夫の脚本について、さらに聞いてみると…。

中嶋「清水さんの本って、何気ない会話の繰り返しなんだけど、何気ない生活ってこんなにドラマチックだったり、美しかったっけって思うマジックがあるんです。何しろエネルギーに満ちているので、笑いもあれば、ぶつかり合いもあるし、切ない部分もあるしと、いろんなことが盛り込まれているんです。さらっとしているんだけど、エネルギーがありますね」

―― 『血の婚礼』の見どころの一つに、豪雨の中を行く鼓笛隊が行くシーンがある。中嶋にとって“豪雨の中の芝居”は2度目のこと。雨の中の芝居とは、どんなものなのだろう。

中嶋「前も蜷川さんの『オレステス』という作品でして。それはもう滝行ですよ(笑)。高所から雨が降ってくるので、すごい水圧なんですね。痛いし、溺れそうなときもあるんです。もちろん小降りのときもあるんですけど、声を出すのも大変だし、身体的にも相当芯を持っていないと…。今回は、いろんなものに抗っていくということが大テーマだと思うんですね。蜷川さんもこの作品にはある種のレクイエム的要素を心の中に持っていらっしゃるので、『どんな環境でも2本の足ですっくと立っていくようなエネルギーがないとダメなんだよ』って言われてます」。

―― 本作では100分間、雨が降り続けるというが…。

中嶋「ほぼ100分間、降り続けます。稽古場でも『そんなんじゃ聞こえねーよー!』ってしょっちゅう言われていましたから、そのたびに『あ、ここも降ってるんだ』って思ってました(笑)」

―― 中嶋は、婚約者も、家族も、故郷も捨てて、窪塚洋介演じる〔北の兄〕と結婚式場を逃げ出す花嫁〔北の女〕を演じる。〔北の女〕はしなやかな母性の中に女性としての強靭さも併せ持っている女性だ。この役柄に対し、どのようにアプローチするだろうか。

中嶋「エネルギーはあっても捌け口がないとか、そもそもエネルギーの出し方がすごく不器用という生き方ってあると思うんです。『血の婚礼』は、そういう人たちがいっぱい出てくるお話でもあるので、キャストの皆さんとのバランスを見ながら〔北の女〕としてのエネルギーの出し方を考えています。〔北の女〕には、必ず釘を刺したり、聞き返したり、確認をとるという台詞が割と多いので、かなり強くて、現実主義とまでは言いませんが確かなものを追い求めている人だと思います。でもそういう人って逆に自分は不確かだろうなとも思うので、そういう矛盾は押さえておこうかなと」

―― 〔北の女〕に対して理解できる部分と、できない部分はあるのだろうか。

中嶋「そうですね。一辺倒じゃつまんないですしね。『こういう部分もあるんだ』みたいな、いろんな意外性が出せたらいいんですけど、それはやっぱり腕にかかってくるから何とも言えないです(笑)。何とか頑張ろうとは思ってます(笑)」

―― 次に、共演者の印象を聞いた。まずは窪塚洋介について。

中嶋「すごい真っ直ぐな人ですね。キャストには、蜷川さんにこてんぱんにやられる人と野放しにされる人とで二分化されるんですけど、窪塚くんと私は野放しの方なんです。フリースタイル。窪塚くんは、何が出てくるかわからないところが面白い、柔軟な人なので、芝居について話し合っていても、『ちょっと違うことをやってみたいと思うんだけどいいかな?』とか、そういうことをよく話し合ってます。こちらの要望に対しても『いいよ、いいよ、自由にやろうよ』という雰囲気の人で、お芝居については熱くて、真面目ですね」

―― そして、伊藤蘭については以下のように語る。

中嶋「(伊藤)蘭さんの声がすごくきれいで。蘭さんの口からあの声が出て、この台詞が聞けるんだっていう、その幸せはいつも感じてます。蘭さんは劇中、声だけでの出演もあるんですけど、『世界の果てからお便りします』という台詞など、なんともこう、悲しみとか苦しみとかをあの一言の中にギュッと詰められているのがすごく…、情景までも入れられてしまう感じがすごい好きですね」

なお、物語の時代背景は特に絞られていないという。舞台上には、未来と過去、そして現在のいずれにもリンクしている情景が広がっている。

―― 時代背景を特定せず、美術や衣裳はどのように表現しているのだろうか。

中嶋「舞台美術はしっかりあります。ビデオショップがあって、コインランドリーがあって…みたいな。衣裳は、自分たちで役をイメージして、それに合わせて着てくるというところから始まりました。蜷川さんの舞台では、稽古着から衣裳さんが大量に用意してくださっていて、蜷川さんが最初にお話になったイメージで揃えていて、みんなで『これとこれを足して私はこう着てみました』というふうにやることが多いんですけど、今回は最初から自分で持って来てという投げかけをされました。それは私は初めてだったんですが、みんなの解釈が面白かったですね。稽古中、台詞のやりとりでしかその人が理解できないこともあるんですが、そのとき、『あなた、どういうつもりでやってるの?』と聞いたらすごく嫌な感じじゃないですか(笑)。なので、いつもどういうつもりでやるのかな?って間合いを量るんですけど、衣裳を持ち寄ってこういうふうにやりたいということが明確になると、『ああ、なるほどね』って3歩くらい先に進んでいる感じがあって面白かったです。でもそれを『違う』って言われたときの寂しさもないですけどね(笑)」

―― 最後に、関西の演劇ファンに対する印象を聞いた。

中嶋「お芝居って自分たちだけで作るものじゃなくて、お客様が会場に入って、その温度で変わるんですよね。それが楽しいんですけど、関西は厳しい部分もありますし、シビアなところもあれば、温かい部分もあって。ダイレクトにリアクションが来るのが好きなんですね。そこは一番楽しみにしているところです。笑いにもテンポとかにも厳しいですけど、エネルギーにはがっと食いついてくださるので、一緒に登って行けるということが助けになります。関西のお客様は絶対に受身でないところが私は本当に好きですね」

と、関西での公演も楽しみにしている様子だ。清水邦夫×蜷川幸雄作品としては関西初登場、大規模修繕劇団の旗揚げ公演、12年ぶりの再演、100分間、舞台に降り注ぐ土砂降りの雨etcと、見どころも多数。そしてまた、蜷川幸雄がこの時代へささげるレクイエムでもある本作。その真意もぜひ、劇中から感じ取ってほしい。




(2011年8月11日更新)


Check

大規模修繕劇団 旗揚げ公演        『血の婚礼』

ストーリー

壊れたトランシーバーで“誰か”と交信を続ける〔トランシーバー少年/田島優成〕は水溜りに倒れこんだ〔北の兄/窪塚洋介〕と出会い、奇妙な友情を結んでいく。〔北の兄〕は2年前に〔北の女/中嶋朋子〕を結婚式場から奪い、故郷を捨てて上京してきたのだが、二人の愛は今や冷めてしまっているようだ。コインランドリーの店先には〔姉さん/伊藤蘭〕がタバコをふかしながら路地の人々を見つめている。その横には腐れ縁の〔兄さん〕の姿が。ユーモラスながらもどこか悲哀を感じる男女の会話が続く。自殺した妻の葬儀から抜け出した〔喪服の男〕。彼を心配して追いかけてくる子どもたち。その騒動を聞きつけて路地の住人たちが顔を出したそのとき、幻の警報が鳴り響き、幻の電車が通過してゆく。そして呆然と佇む人々の前を、雨に打たれながら鼓笛隊が通り過ぎた……。かつて花嫁に逃げられた〔ハルキ/丸山智己〕や親族が訪ねてくる。親友だった〔北の兄〕と〔ハルキ〕。路地に住む人々を巻き込みながら、〔北の兄〕と〔北の姉〕、そして〔ハルキ〕は再会を果たすのだった…。

公演情報

発売中
Pコード:412-450(公演日3日前まで販売)

▼8月18日(木)~21日(日)
木金19:30
土13:00/17:00
日13:00
森ノ宮ピロティホール
[一般発売]全席指定8400円
[作]清水邦夫
[演出]蜷川幸雄
[出演]窪塚洋介/中嶋朋子/丸山智己/田島優成/近藤公園/青山達三/高橋和也/伊藤蘭/他
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション[TEL]06-7732-8888

プロフィール

中嶋朋子

なかじまともこ/東京都生まれ。『北の国から』シリーズにて22年わたって螢役を務める。以後、映画、舞台、朗読など、幅広い分野で活躍している。映画 『ふたり』(大林宣彦監督)、『TUGUMI』(市川準監督)出演ほか、舞台では蜷川幸雄作品としては『幻に心もそぞろ 狂おしのわれら将門』『オレステス』に出演。また、『ガラスの動物園』(イリーナ・ブルック演出)、『クリーンスキンズ』(栗山民也演出)、『ネイキッド』(デビット・ルヴォー演出)などに出演。東日本大震災復興応援プロジェクト『RESTART JAPAN』へも参加している。

大規模修繕劇団 旗揚げ公演『血の婚礼』
http://www.bunkamura.co.jp/otherhalls/11_blood/

中嶋朋子オフィシャルサイト
http://www.nakajima-tomoko.com/

「RESTART JAPAN」オフィシャルサイト
http:// www.restartjapan.com/

チケット情報
http://ticket.pia.jp/pia/event.do?eventCd=1117990