ホーム > インタビュー&レポート > 辻本茂雄の人気キャラ・茂造の少年時代を振り返る 長編芝居『茂造の閉ざされた少年時代』に迫る!!
―― @ぴあ関西です。今日はよろしくお願いします。“茂造の過去”シリーズですが、辻本さんは作・演出を手がけてますね。そこでまずは、演出家という部分でお伺いしますが、演出的な部分で、1作品目から最新作まで、変化したことはありますか?
辻本茂雄(以下、辻本)「そうですね。まあ、3つとも全然、芝居の内容が違うので、演出よりも台本の方が時間がかかるというか、毎回大変ですね。お客さんに来てくださってもらったのに『何や、もうひとつやったな』って思われるのも絶対いやなので、お客さんに満足してもらえるよう、作家と一緒に作っていく段階でかなり時間がかかりますね。『これやったらいけるんちゃうか』っていう高見まで内容を持っていくのが…」
―― その「これやったら」というお気持ちは、回数を重ねるごとにですか?
辻本「1回目がよかったら2回目を期待される。2回目がよかったら3回目を期待されるっていう、そんな期待があると思うんです。そういうことも含めて舞台セットもまた全然違いますしね。1回目の『茂造~閉ざされた過去~』では、舞台の美術は鉄の棒を組んだものだけでしたけど、2作品目の『茂造~閉ざされた過去・完結編~』のセットは2パターンにして。茂造の職場と生活空間という2つで分けて。そういう部分でも、1回目と2回目とでは違う見方ができるんじゃないかなと思いまして。今回はそれプラス、子役で少年が出てきますから、また見た目も内容も変わりますね。最初はすごく楽しい、吉本新喜劇を上演します。そっから、第2幕からだんだん過去へと行くという…」
―― 1回目も2回目もそうでしたが、1幕の吉本新喜劇と、2幕からのお芝居とでは、その内容のギャップに驚かされました。
辻本「そうでしょう。2幕に入った直後は楽しいんですけどね、だんだん茂造の過去を追いかけるうちに…(笑)」
―― 予想をはるかに超えますね。今回は少年時代のお話ですが、辻本さんの少年時代はどんなお子さんだったんですか?
辻本「やんちゃでしたね~。ガキ大将とようケンカしてました。僕、3年生ぐらいまでは結構いじめられてたんですよ。で、いじめられて泣いて帰ったら、お母ちゃんに『勝ってくるまで帰ってきたらあかん!』って締め出されて、かぎ閉められて。ほんで、ようありますやん、ドラマとかで、ケンカの強い子にわーー!ってなりふりかまわず向かっていったら、たまたま拳が当たって泣かすみたいな、そんな感じでケンカをし直して(笑)。で、『勝ってきたでー!!』『ほんまか! ほな入り!』って。そんなお母ちゃんが一番、めちゃめちゃ怖かったですね。お母ちゃんに殴られて鼻血を出して倒れたりとか、階段から突き落とされたりとか(笑)。うちの階段、45度くらいあるんですけど、どんって背中を押されてドドドドドドーーー!って転落して、『あんたが悪いねやー!!』って(笑)。めっちゃ怖かったです」
―― すごいスパルタですね(笑)。
辻本「そうですね、家から放り出されてました。『反省するまで家に入れへんで!』って鍵をきゅっきゅっきゅっと閉められてね。近所のおばちゃんに『家に入れたってー!』って言われてましたよ。家の裏に住民センターってところがあって、そこで一晩過ごしたこともありますね(笑)」
―― では、そういうお母様のスパルタもあってガキ大将になっていった?
辻本「そうですね~(笑)。そういうこともあって、やんちゃになりましたね」
―― 『茂造の閉ざされた少年時代』では、そういった辻本さんの片鱗も伺えますか?
辻本「そうですね。僕自身の過去もありますね。あと、人間って年をとったらだんだん子供になりますよね。そういう面白さも見てほしいですね。現代の茂造と子供時代の茂造。そこで何かリンクするものを芝居の中に出しているつもりです。爺さんはちょっと幼稚やけど面白いみたいな」
―― なるほど辻本さんは茂造というキャラクターに出会ったことに対して、改めてどう思わますか?
辻本「何ぼかある僕のキャラの中でも、茂造は子供さんにも人気で。元々は御茶ノ水博士をイメージしてたと思うんですね。生命維持装置を作るっていう、そういうお話の新喜劇があって。それはかなりスベったんですけど(笑)、その博士がイメージ的に面白くて、博士である茂造が一般社会に出たらどうなるかってところで作られていったんですけど、僕は出会ってよかったですね」
―― 茂造というキャラと出会って辻本さんご自身が変わったことはありますか?
辻本「茂造と出会う前に自分自身が変わってましたね。僕は以前、ヤクザ役が多かったんですね。で、舞台に借金取りの役で出て『アゴ本~』『辻本や!』『シャクレ本』『辻本や!』『ペリカン!!』『誰がペリカンやねん!』っていう、そういうアゴネタで3分から5分のやり取りをして、それではける。そういうことが何年か続いたんですよ。そのとき、こんなんでええんかなって思いまして。このやり取りだけを続けてたら絶対、芝居を覚えられへんなぁって思って、当時のプロデューサーに『すみません、アゴネタ止めたいんです』って言うたんですよ。そしたら『何言うてんねん! アゴしかないやないか、お前! アゴネタしかないやろ! そんなん止めたら出番少ななるぞ!』って言われたんですよ。でも、『それも覚悟します。いっぺん芝居も勉強したいですし』って押し通したんです。あのとき、プロデューサーにああ言われたけど、自分の意思を押し切ってよかったなって。ずっとあんなやり取りの役をやってたら茂造にも出会ってなかったかもしれないですね」
―― 出番はどうなったんですか?
辻本「結局なくなりました。そこで間寛平が現れるんですよ。寛平兄さんの『広島横断ツアー』っていうイベントがありまして、主役の人が体調が悪くて出られなくて僕に出演の声がかかったんです。それで、出してもらったんですけど、芝居も回して、全部に突っ込むというのは初めてだったんですよ。でも、そのツアーが終わったあと、寛平兄さんがいろんな人に『辻本のツッコミおもろいぞ! 芝居も回せるぞ!』って言ってくれて。それが誰かの耳に入って、初めて新喜劇で芝居を回して、突っ込みもする役を頂いたんですよ」
―― その、出番が少なくなった頃が転機だったんですね。
辻本「そうなる前も出番は多くなかったんですけど、余計に少なくなりましたね。でも、めだか兄さんにも言われました。『辻本、あれがよかったんちゃうか。止めたいって言うたから今があるんちゃうか』って」
―― 何がどう転がっていくかわからないですね。
辻本「そうですね。あのまま借金取りの役でアゴネタをずっとやっていたら、今も同じことをやっているかもわかりませんからね。そのアゴネタを止めてからローテーショントークもできましたしね。僕、出番も少ないし、ほかの2人と一緒に3人で借金取り役で出てるのに台詞が全員で3行ぐらいしかないんですよ。手下を連れているけど、その3行を僕が全部喋って。これではおもろないなと。そこで、『3行の台詞をみんなで言おうや』って。短く、2周、3周くらい回って言おうと。それを実際に舞台でやって、『お前ら、交代せんと喋られへんのか!』って突っ込まれたときに、僕が『ローテーショントークや』言うて、お客さんがどーん!と笑ったんですよ。それで次からも取り入れて。ほんま、何がきっかけで生まれるかわからないですよね。ほなら、ローテーションもありなら民謡もありやろと、その手法が広がっていったんですね」
―― それは大体、どのくらいの時期だったんですか。
辻本「かなり前ですね……。何年前ですかね…。もう二十何年も新喜劇におるからいつか忘れました。できたんは、東京のシアターアップルの公演でしたね」
―― では、辻本さんは新喜劇で95年にニューリーダー、99年に座長になられましたが、このあたりの転機はどうでしたか?
辻本「ニューリーダーとかになるまでは、台本作りとかに参加してなくて、自分が与えられた台詞の中でっていう感じだったんですけど、今度は芝居全体に視野を広げてやっていかなあかんなと。台本作り、舞台づくり、すべてに参加するようになりました。今、階段を落ちるシーンがありますけど、あれも僕が提案して。今から4、5年前、僕、競馬のディープ・インパクトの応援団長をしていて、フランスに行ってたんです。そんで、ちょうどフランスにおるときに新喜劇のスタッフから電話がかかってきて、『いや、そんなセットやないねん!』って言うた覚えがありますね。台本も出来てへんかったから、フランスのホテルまでファクスで送ってもらったりとか。フランスとかタイとか、香港でも新喜劇の見せ方を練ってましたね(笑)。そういうふうに、いろんなことを背負わなあかんくなったのも大きな違いですね。あと、自分だけのネタじゃなくて、どこをどうしたら全体的におもろなるかっていう、そういうことも考えるようになりましたし、『若手はこうやったらおもろなるんちゃうか』とか言いながらやってますね」
―― 『茂造の閉ざされた過去』で作・演出を初めて手がけられましたが、このご経験を新喜劇で反映されたりしてますか?
辻本「僕が好きな笑いは、緊張と緩和っていうものなんですけど、風船で言えば緊張をずっと溜めといてパーンって爆破させたときの笑いの大きさっていうんですか、あれはたまらんものがあるんです。やっぱり、ちょっとずつチャチャ入れてボケていくよりも、溜めて溜めてドーンっとなった方が、NGKとかだったら1000人近いお客さんの笑いがドーンと波のように来るんですよ。やっぱりそれを狙ってるというか、その笑いがほしい。その緊張と緩和をもっとできるようになったかなっていう感じですね。
―― その辺の緊張と緩和のコントロールができるようになったということですか。
辻本「そうですね。こうやったらもっと笑いが取れるんちゃうかっていうのがわかるようになったというか。ああいうのは試してみんとわからんので。なぜ長編芝居を京橋花月でやらせてもらったかというと、なんばグランド花月は漫才あり、落語もありで、お客さんは九部九厘、笑いにきていると思うんです。芝居も求めてるとは思うんですけど、あまり長い芝居をやるのはどうなんやろうと。でも京橋花月ではできるなと。1景があって暗転、2景があって暗転、3景があって暗転っていう進行だとしたら、僕の信念っていうのは、暗転のときにお客さんがワハハハって、暗転中に拍手しながら笑ってくれる状況を目指してます。暗闇の中で『ほんまおもろいわ~』って声が聞こえてきたら、『よしよしよしよし! あんだけ長い時間、打ち合わせしたかいがあったわ』ってなりますね」
―― 今回は子役の二人、玉山詩くんと田上夢都くんが出ますが、詩くんも夢都くんも、舞台ではお客さんを楽しませたいと意欲的でしたね。
辻本「あの記者会見で、記者の方があんなに笑顔になってるのを初めて見ました(笑)」
―― 本当、可愛いですもんね。
辻本「自然でしょ。挨拶するときも、テレながらでも自然にしてて。でも台本を持ったらちゃんと大きな声を出せて。最終選考では3人に絞られて、最後にスタッフ全員で投票して、あの二人に決めたんです」
―― 最終選考に残った中に、詩くんも夢都くんにもキラリと光るものがあったんでしょうか。
辻本「詩くんは『茂造の孫』オーディションで会ったことがあって、夢都くんとは初対面だったんですね。で、子役の子でも泣く子はすぐ泣くんですけど、夢都くんの場合はだんだん、台詞を言うたびに『嫌や』っていう気持ちになっていって、それで涙がぱっと出たんですね。そのときに『お!』となりましたね。オーディションではみんな、同じ台詞を言うていくんですけど、みんなが鳥肌が立つような、ジーンと来る台詞ってありますよね。それを一番伝えたのが、最後に残った3人だったんですよ」
―― そうなんですね。それは楽しみですね!
辻本「今回は吉本新喜劇のメンバーがメインなんですけど、劇団往来のあいはらたかしさん、十六針刃太郎さんにも出ていただきます。で、子役のふたりと。1回目のゲストは松下萌子さんで。2回目は渋谷天外さんと天外さんの周りで頑張っている若手の子たち。そういうのも全部、僕からオファーしてます」
―― 2回目のお芝居も、また面白かったですよね。
辻本「僕もよかったと思いますね。吉本新喜劇と松竹新喜劇を融合させて。それぞれテンポが違うんです。新喜劇はめちゃくちゃ早いんです。僕らからすると松竹新喜劇はめちゃくちゃ遅い。それで戸惑いもあったんですけど、2幕になると吉本新喜劇でもなく、松竹新喜劇でもない、何か違う空間ができた。それを僕と天外さんたちで『大阪新喜劇』と名づけたんですけど、みんなでいつか『大阪新喜劇』をやろうと」
―― 確かに、それぞれの新喜劇のいいところが出ていましたね。ちゃんと役割分担もされた上で融合していた、印象深い舞台でした。
辻本「僕も久々に感動しましたね」
―― 前回は渋谷天外さんという松竹新喜劇の大ベテラン俳優さんがゲストで出られて、今回は本当にフレッシュな、フレッシュすぎるくらいのお子さんが出られて、そのふり幅も面白いですね。
辻本「そうですね。もう、子供たちがお客さんに感動を与えてくれると、僕は台本ができ上がったときにそう思いましたね」
―― お客さんに感動を与えるという部分では、あの子達に託していると?
辻本「そうですね。子供たちが与えてくれるのと、今回もみんなでワーッとやる大掛かりなシーンがありまして。それもこないだできました! 歌もありますし。白浜アドベンチャーワールドのCMソングを作曲した方に作ってもらいました!」
―― 前回の和太鼓のシーンも圧巻でした。今年も見ごたえありそうですね。
辻本「今、こういう世の中になって、本当にみんなに希望を与えられる舞台になるんじゃないかなと思います。初めはそういうつもりもなかったんです。その前から作っていたんで…。なので、ぜひ、最後のエンディングのみんなが出るシーンも観てほしいですね。そして、次は『大阪新喜劇』もしたいなって思ってます」
―― いい流れですね。いろんなことをやって、新しいものが生まれる。
辻本「そうですね。いろんな人と絡むことによって自分の幅も広がるんで、勉強になります。今年も子供たちとやって勉強して。『茂造の孫』もやりたいですし。お客さんも、舞台で一生懸命やってる子を見て喜んでくれるんですよ。そういうこともやっぱり劇場を盛り上げることにつながると思いますので、頑張ります」
(2011年4月21日更新)
▼4月25日(月)~5月8日(日) 19:00
京橋花月
大人3800円(指定) 子ども1800円(指定、小学生)
[劇作・脚本]徳田博丸
[出演][劇作・脚本]辻本茂雄
[出演]辻本茂雄/
玉山詩・田上夢都(Wキャスト)/青野敏行/
高井俊彦(ランディーズ)/西川忠志/
伊賀健二/平山昌雄/村上斉範/宮崎高章/
今別府直之/大島和久/太田芳伸/
佐藤太一郎/信濃岳夫/後藤秀樹/
浅香あき恵/たかおみゆき/金原早苗/
ほか新喜劇メンバー
※この公演は終了しました。