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中島らもの中華冒険活劇『桃天紅』が 
wat mayhem・山内圭哉の手によりよみがえる!

4月30日(土)・5月1日(日) 、シアターBRAVA!で上演されるwat mayhem『桃天紅』。'94年、笑殺軍団リリパット・アーミーによって上演された本作は、故中島らもが山内圭哉初主演作として書き下ろした物語だ。桃天紅という秘薬を巡って、旅人や盗賊、宗教団体がバトルを繰り広げる中華活劇。当時、「かなりハチャメチャで面白かった!」と記憶していた山内が今回、演出も手がけるにあたって改めて、『桃天紅』に向き合い何を思ったのか。その胸のうちはもちろん、作品の魅力から、自身のプロデュースユニットwat mayhemを立ち上げたいきさつなどを語った。

―― まず、wat mayhemを立ち上げたきっかけからお願いします。

山内圭哉(以下、山内)「wat mayhemという自分のプロデュースユニットは'02年に、関西の小劇場界の活性化という意味を持って立ち上げました。関西ではちょうど、いろんな劇場がなくなっている時期だったんですが、仕事で東京に行くと、劇場も多いし、下北沢という街もあって、演劇で生業を立てている人がたくさんいる。その中には、ものすごい上手な俳優さん、素晴らしい演出家の方がたくさんいらっしゃって、でも、それと同時に、『こんなんもおるんか!?』というような人もたくさんいらっしゃって。そういう部分を見て、『関西にもおもしろい俳優さんはたくさんおるぞ』っていう憤りもありまして、wat mayhemを立ち上げました」

―― 今回、『桃天紅』を上演されるいきさつを教えてください。

山内「wat mayhemでは前回、『パンク侍、斬られて候』という町田康さんの時代小説を舞台化したんですが、関西の役者さんをメインに据えて、久しぶりにむちゃくちゃな芝居をやろうと、不親切なお芝居をやってみようと思ったんです。割とわかりやすいことをやっていると主導権が客席の方に行ってしまう。もちろん、お客様にはお金を出して観ていただいているわけですから、それなりのクオリティのものを作らなくてはいけないのですが、主導権が完全に客席に行ってしまうと求められているものだけしか作れなくなる。なので、『パンク侍、斬られて候』ではお客さんをふるいにかけるような、『これでもついて来れるか? 君ら』というような演劇をやりまして。で、やり終わって、面白いことをやれたなと思ったんです。と同時に、とんでもなくバカバカしいことをやりたいなという思いも沸きまして。それと、数年前から中島らもの戯曲をもう1回やりたいなっていうのがあったんですね。らもさんをもう一度、演劇に引っ張りたいっていうのがあって、そういう思いがリンクしました」

―― では、なぜ『桃天紅』に?

山内「ちょうどその頃、『“桃天紅”っておもしろかったよね』っていう話もよく出てて。それで、じゃあ、もう1回やりましょうとなって台本を取り寄せたんですけど、読んでビックリしました。全然面白くなかったんですよ。ビックリするくらい面白くなかった。で、何でやろう?と。何であの時はあんなに面白かったんやろうって考えたら、初演では役者が好き放題やってたんですね。(台本に)あることないこといっぱいやっていて。僕はリリパット・アーミーで初めて、『桃天紅』で主演をやらせていただいたんですが、主演とは聞こえはいいんですけど、要はお話を本筋に戻す役。結局、ツッコミなんですよね。桂吉朝さん、国木田かっぱさんが好き勝手しているのをつっこんで、無理やり本筋に戻していく。そのやり取りなんかにリリパット・アーミーらしさがあって、お客さんが非常に喜んでくれた作品だったんです。それが改めて台本を読んでみたら…。あまりの台本の薄っぺらさに一度は中止も考えたんですけど、ちょっと待てよと。そういえば(中島)さなえが作家デビューしとったなと。そこで、『さなえ、責任をとってくれ』と脚色をお願いしました。さなえも快諾してくれまして。まあ、そういう経緯で現在に至ると。要するに、改めて台本を読んだら面白くなかったから、そこからちょっと発展させて、さなえを起用したという次第です」

―― さなえさん、どうですか?

中島さなえ(以下、さなえ)「これ、謝罪会見ですか? このたびはうちの父が生前に…(笑)。長女の中島さなえと申します。山内さんがおっしゃったとおり、台本を読んで、ヒヤッとしました。すごい躁鬱が…」

山内「書いてる途中に躁になって」

さなえ「それはもう、明らかにわかりますね。上がったり下がったりの、ぶっ飛んだ脚本で。私はお芝居にかかわるのは初めてで、観客としてずっと劇場に行っていました。今回、山内さんに声を掛けていただいたときに、山内さんだったらということでお受けしました。それで、父の脚本も初めて目にして。初めて読んだ台本が『桃天紅』だったんですが、こういう脚本で舞台ができるのかな?って思うくらい、ストーリーが何もない…(笑)」

山内「あらすじ以上のストーリーが存在してないんですよね」

さなえ「公に配布される資料に書かれているあらすじ以上のストーリーがなくて、今もないんです(笑)。逆にキャラクターはものすごく立っているんですが」

山内「らもさんの作品には他にも中華芝居のシリーズがあったんですけど、その中では、おもしろくない、内容がないとはいえ、キャラクターの設定が非常に面白い。ただ、当時は(リリパット・アーミーの)劇団員が22人くらい出たんですけど、約半数は要らない役でした」

さなえ「今回は15人ですね」

山内「15人に絞りました。要るヤツだけにしました」

さなえ「ということで、キャラクターやストーリーの変更なんかで、かかわらせていただきました。戸惑いつつも、山内さんに助けていただいて。非常にスリリングな舞台になると思います。よろしくお願いします」

―― 山内さんがさなえさんに初めて会ったのは?

山内「さなえと初めてあったのは…」

さなえ「94年の秋…?」

山内「『桃天紅』を上演した後くらい。その年、扇町ミュージアムスクエアの10周年イベントがありまして、大阪プールで劇団☆新感線、WAHAHA本舗、憂歌団、リリパット・アーミーでライブイベントをやるってなって、らもさんがボーカルで、コーラスでさなえをつれてきたんですよ。そのときさなえはまだ16歳で。そっかららもさんが急にバンドをやりたいとしれっとおっしゃいまして、自動的に僕らも参加することになって。さなえも参加することになって。バンドメンバーとして親交がありました」

さなえ「PISSっていう、おしっこっていうバンド名で、アルバムも2枚出しましたね」

山内「出しましたね(笑)」

さなえ「父はラップにも挑戦しました」

山内「それ何の情報やねん。らもさんは歌録りのときに、急に椅子を持ってブースに入っこともありました。『ちょっとちょっと、座って歌うんですか!? ロックやりたいって言ってませんでした?』って」

―― 今回、脚色するにあたって山内さんからの注文は?

山内「まず最初に、好きに書いてくれと。そしたらさなえが偉かったのは、全部書き直してきたんです。設定とあらすじにそって、キレイにリライトしてくれまして、おおっと思いまして。それをいただいたんですが、面白くなかった台本がちょっと恋しくなったんですよ。リライトしてくれたことによって前の面白くなかった台本のいいところが見えてきて。そこから、これは残そうよ、ここはこれでいこうよっていう作業をしました。オチとかひどいんですよ。でも、どうせやるなら、そのひどいオチをやっぱりやらなあかんっていう話もしましたね」

さなえ「固く誓い合いましたね。『このオチで終えような!』って」

山内「『これは俺らの挑戦やぞ!』って(笑)。17年前の本ですし、ギャグ的なところもやっぱり古いっちゃ古いんですけど、それを新しく変えてしまうんじゃなくて、一度それに挑戦してみようと。まあ、そういうのりしろを残すような脚色にしてます」

―― 初演のとき、キャストの皆さんが好き勝手されていたっておっしゃっていましたが、今回も好き勝手になるんでしょうか? それとも山内さんがしっかりと演出されるのでしょうか?

山内「いやもう、好き勝手にしてもらいます。ただ、その好き勝手の部分と、きっちりやる部分は必要だと思うし、そういう(切り替え)力のあるキャストのみなさんなんで、キャッチ&リリース的なものになると思いますね。やっぱりその、ただの悪ふざけになってしまうとつまらないので、守るべきものはきっちり守って、その状態の上で遊ぶという、そういうふうにしようと思ってます」

―― 上演時間はどのくらいですか?

山内「台本だけ読むと1時間20、30分なんですけど、初演のときの千秋楽は2時間20分になってましたね。桂吉朝さんなんかはひどかったですよ。やりたい放題。当時はわかぎえふさんが全部演出をされていたんですけど、わかぎさんは厳しい演出家なんで、いらんことはしないようにという方向性だったんですが、なんせ(らもさんが)躁転しましたもんですから、劇団内にもいろいろと負担がありまして、わかぎさんの演出がちょっとゆるかったんですよ。それをいいことに、ジジイ連中が羽目を外しまして(笑)、そんなことになったんですね。でもお客さんはそういうのってすごい楽しんでくれるので。お客さんって“トチリ”好きでしょう。普段の演劇というのは、“トチリ”を絶対にしたらあかんお芝居がほとんどですから。でも、今回に関してはそういうのもアリにしようかなと。そういう本ですし。大阪のお客さんからしたら、観たかったものが観れるんちゃうかなって、このメンツで期待してもらえるものは観せられると思います。誰もまじめにやってない。今回は僕も率先してまじめにやらんとこうかなって考えてます」

―― では、それぞれの役どころを教えてください。

山内「らもさんの中華芝居って基本、三つ巴なんですよ。いいもんチームと悪もんA、Bという構造になってまして。それで言いますと、いいもんが、僕が演じる流爾丹(リュウ・ジタン)という賞金稼ぎと福田転球さんが演じる爺爺(ジイジイ)が祖父と孫の関係で。爺爺もかつては名うての賞金稼ぎで、貯めたお金をゴビ砂漠に埋めるんですね。でも、埋めた場所を忘れてしまう。それを爺爺に思い出してもらうため、流爾丹は“桃天紅”というなんでも治す秘薬を探して旅を続けているんです。そして、川下(大洋)さん演じる周薛崑(シュウ・セッコン)という村一番のお金持ちがいて、そこの娘が黒川芽以ちゃん演じる周仙々(シュウ・センセン)。その仙々が山賊(中山祐一朗、松村武、コング桑田)に襲われかけているところからお話が始まるんですが、流爾丹は仙々を助けたということで、薛崑にもてなされているんですね。そのときに『ちょっとお願いがあるんやけど“桃天紅”という薬を探してくれへんか』と薛崑に話を持ちかけられる。『何で探してるんですか?』と聞くと、『この家には蛇の呪いがかかっていて、娘は初潮を迎えると蛇になってしまう。それを阻止するために“桃天紅”を探している』と。それを聞いていた山賊チームが“桃天紅”を横取りしようとするんです。そして娘に呪いをかけているのが、白蛇教という新興宗教。その教祖である白蛇妃(椿鬼奴)は、薛崑にある恨みがあって呪いをかけている。なので“桃天紅”で呪いを解かれたらかなわんということでそれを阻止しようとする。彼女たちも“桃天紅”を先に奪おうとするんですね。それとは別に、兼崎健太郎くん演じるお坊さんが別の地区にいて、そこが飢饉になっている。その人々を助けるために流爾丹とともに“桃天紅”を求めて旅をしているというお話ですね。その“桃天紅”というのが、昔々大きな桃が空から降ってきて、それが落ちた場所が桃の形をした“桃湖”という湖になっていると。その周りの桃林のどこかに“桃天紅”が隠されている。その桃林を守っている桃仙を松尾貴史さんが演じてくれます。……これだけ喋ったらもう、観たも同然ですけどね(笑)。あと、平田敦子は、桃林の近くの飯店のおかみ役です」

さなえ「平田さんはなぜか、亀甲縛りという…」

山内「これ以上話すと、ネタバレになるんで(笑)。で、シューレスジョーとぼくもとさきこが白蛇教の教徒です」

―― なるほど、音楽も山内さんが手がけていますが、どんなものになりますか?

山内「中華活劇なんで中華風で…。最初、誰かにお願いしようかなと思ったんですけど、中華風のものを誰に頼む?って思って自分でやりますと。それで今、いろんな音源を作ってます。まあ、だから、音楽は中華です。白蛇教団は、これね、らもさんにホンマ腹が立つんですけど『白蛇教だからヘヴィメタ』って…。ここはだから、ヘヴィメタです」

さなえ「『私たち白蛇教団にヘヴィメタ以外の何があるのさ!』っていう台詞もあります」

―― 今回、さなえさんがリライトされてますが、らもさんに似てるなって思うところはありますか?

山内「あるんですよ、それが。らもさんが書いてないのに、さなえが足した台詞でらもさんっぽいのがあったりして」

さなえ「呪われてるんですよ」

山内「呪いか? 価値観的なところとかね。会話がほしいなって思うところで出してきた台詞なんか、らもさんっぽくて面白いなって思いますね」

関西が誇る奇才・中島らものDNAも随所に感じられるであろう新たなる『桃天紅』。ジェットコースター感覚で楽しめること間違いなしのハチャメチャ冒険活劇をお楽しみに!




(2011年4月 5日更新)


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左から、山内圭哉、中島さなえ

公演情報

『wat mayhem「桃天紅」』

▼4月30日(土)13:00/17:00
5月1日(日)13:00
シアターBRAVA!
[一般発売]S席6800円 A席5800円
[作]中島らも
[脚色]中島さなえ
[出演][演出]山内圭哉
[出演]兼崎健太郎/黒川芽以/中山祐一朗/コング桑田/松村武/川下大洋/福田転球/平田敦子/JUN/椿鬼奴/シューレスジョー/ぼくもとさきこ/松尾貴史

※この公演は終了しました。

『wat mayhem「桃天紅」』
http://toh-ten-koh.laff.jp/