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6人組オルタナティブ・クルーS.A.R.インタビュー
“瞬発力”と“2020年代にリリースすること”を意識した
1st Album『Verse of the Kool』のはなし

音楽のみにとどまらず、映像、アートワークなどあらゆる制作物をメンバー自身が手掛けている“オルタナティブ・クルー” S.A.R.。ソウル、R&B、ヒップホップ、ジャズなどをベースにしながらも、メンバーそれぞれのルーツや嗜好性も色濃く反映した洒脱な楽曲を次々と発表し話題になってきた。活動開始からシングルの配信リリースのみを続けていた彼らがついに、1st アルバム『Verse of the Kool』をリリースした。収録された13曲は、楽曲ごとに強い光を放つキラー・チューン揃いなのだがイントロ・アウトロをアルバムの最初と最後に、そしてアルバムタイトル冠したインタールード(間奏曲)を“Part Ⅰ~Ⅲ”までを曲の間に配置するという構成で、カラーの違う曲が詰まった1枚ながら、『Verse of the Kool』という作品の世界観を巧みに表現している。そんなS.A.R.からsanta(Vo)とEno(Ba)のふたりとzoomをつないでインタビューを敢行。S.A.R.活動初期のエピソードも含め、初めてのアルバム制作などについても語ってもらった。

自分たちで制限を作らずに
好きなことをやっていく



ーー今日はぴあ関西版WEBでS.A.R.を初めてご紹介するということで、どんな人たちなのかというところから明らかにしていければと思っています。「S.A.R.ってどんなアーティスト?」と聞かれたら、なんと答えるでしょうか。

Eno「どんな...初めて聞かれました。それ」

santa「公式的には"オルタナティブ・クルー"と名乗っていて。正直言うとジャンルで音楽を聞かれたくないなっていうのがあるから、自分たちで制限を作らずに好きなことをやっていくし、好きなことを言うよ? という意味も含めているところはあります」

――そこでバンドではなく、クルーと名乗ることに意図はありますか?

santa音楽だけやるというわけではなく、ある程度自分たちに関わることは全て自分たちでやろうというイメージだったんです。それこそアートワークを手伝ってくれた友人もいたりして、そういう人たちも含めてS.A.R.だと思っていたのでバンドではなくクルーっていう言葉を使っています。...ただ、本当のところを言うと個人的にバンドって名乗るのが好きではなくて」

――好きではない?

santa「感覚的なものなのでうまく言えないんですけど、バンドって括られるのはちょっとなと」

Eno「うん、わかる」

santa「それこそ1回しかできてないけどDJセットでライブをやったり、いろんな形態でやりたいっていう思いもあるから、バンドっていう形にハマるのも窮屈というか」

Eno「そうですね。それと、自分たちの音楽はあまりバンドマンがやっている感じもないしメンバーにバンドマンっぽい人もいないし、その言葉が邪魔になっちゃうのかなって」

――なるほど。そもそもS.A.R.はどんなふうにスタートしたのでしょうか。

santa「元々は同じ専門学校に行っていたギターのAttieと今はやめちゃったAlexと僕の3人で違う活動をしていたんですけど、それをやめて違うことをしようかって始めたのがS.A.R.でした。その後Alexが音楽大学に編入して、そこで仲良くなった人たちがかっこいいから紹介するよって出会ったのが今のメンバーですね」

Eno「僕はその音楽大学のジャズ専攻ジャズ科で音楽を勉強していました。でもS.A.R.に入ったのは音大のできそこないというか、底辺チームのやつらが加わったって感じですね(笑)」

santa「その頃は、とりあえず曲作ってビデオ撮って...みたいなことを続けていましたね。コロナ禍だったから、ライブができる状況でもなかったし」

Eno「結成から半年ぐらいはずっとそんな感じだったと思います」

――その頃はどんな音楽をやっていこうみたいな話はありました?

santa「3人の時はR&Bっぽかったり、ヒップホップ、トラップっぽいトラックを作ったり。ただ、とりあえずなんかかっこいいのを作れたらいいねっていうアバウトな感じしかありませんでした。それこそ2枚目のシングルの「Skate」は、僕が適当にメロディーとコードを持っていって肉付けしてもらったり。その後メンバーが加わった「Kawasaki」も同じ感じでした」

Eno「まぁ、作り方は曲によって違いますよね。誰かが作ってきたものに誰かが肉付けするようなやり方もあれば、ジャム的なセッションで作っていくこともあるのでケースバイケースですね。本当にS.A.R.の音楽は"作り方を固定化しない"んですよ。こう作るっていうのも都度都度だし、音楽のジャンルも色濃く出ることもあれば全然出なかったりもするので、すごく気まぐれですね」

santa「ただ、メンバーが3人から増えたことでいろいろ変わったところはあります。メンバー1人1人がすごくセンスがいい人たちが揃っているので、一斉にバンって出す音の全てが素直に"あ、かっこいいな"って思えるようになったんですよ。曲を作っていて"ここ、もっとこうしたいね"みたいにならないのは、みんなの出した音がすんなり自分の中に入っていくし、かっこいいって素直にすぐ思えるからだろうなと思っています。だからこそ制作面は、すごくスムーズでやりやすくなりました」

――S.A.R.の活動としては、コロナ禍に終わりが見えてきそうだった2021年ごろから、急激に広がっているなという感じがありますよね。

santa「S.A.R.になる前の活動でかなりライブは重ねていたんですけど、それに少し疲れてきて軸足をネットに持っていったんです。そこでの反響を見てライブしたらいいんじゃない? って。軽いノリでいろいろやっていた時期でしたね」



"2020年代のアルバム"を
作りたいと思った



――この春1stアルバム『Verse of the Kool』がリリースされて、どんな感想が届いていますか?

santa「想像以上の反応がありましたね。いろんな人がストーリーズやXに上げてくれて、いい感じだなって。ずっと自分たちがかっこいいと思う作品を出してきたけど、広める力もなかったからリアクションが得られなかったこともあったんです。そんな中で反応がたくさん返ってきたのを見て、純粋によかったって思っています」

――届いているぞという手応えを感じられているんですね。

santa「そうですね。本音を言えばもうちょっと届いて欲しいとは思いますけど、本当にありがたいです」

――このアルバムは、どんなところから制作はスタートしたのでしょうか。

Eno「これはもう、"アルバムを作ろう!"っていう意志からですねぇ(笑)」

santa「一番大事」

Eno「アルバム作ろうって、そのシンクロニシティですね」

――というと?

Eno「なんかメンバーみんな同時期にアルバム作ろうって思ったというか。そこから1曲1曲を重ねていくんですけど、制作を始める前にいろいろ考えてからスタートすると、あんまりクリエイティブが広がんないなと思っているんです。アルバムを作ろうっていうのは本当に最初にあるはあるけど、一旦それを忘れてバーって作る。で、時々"あ、アルバムだった"って思い出すみたいな。わかりづらいですよね?」

――いや、わかりますよ。アルバムっていう大きな作品を作るっていう意識はどこかにあって、そことは別の脳で曲は曲で作っていく感じですかね?

Eno「みたいな感じです。...いや、ちょっと待ってください。かなりかっこつけた感じになっちゃってるかもしれないです。そんな器用な感じじゃないと思う

santaでもみんなで集まっている時、その空間でその時しか出ない音を大事にした感じはあるよね。最初から自分たちで型を決めるみたいなのは、さっき話していたクリエイティブが広がっていかない感じもするし。多分一瞬で出せて、それがみんなでいいってなったものがいいものだと思うんですよ。だからその時のバイブスを重要視しているんです。一見バラバラに見えるものも、ちゃんとアルバムとして見た時に一貫性がある美しいものに仕上げられた感じもします」

――じゃあS.A.R.としてはジャム的な瞬発力を大事にされているんですね。

Enoうんうん」

santa「そうですね」

――『Verse of the Kool』の制作中にバンド内でよく話していたことや、この作品を聞くにあたって私たちがキーワードとして知っておくともっと楽しく聴けるよということを挙げるのは可能ですか?

Eno「僕個人的にではありますけど、(YUKI)FUKAYAくんが描いてくれたアルバムジャケをずっと頭に置いていました。このアートワークにハマる音を探していたというか。ジャケが結構早い段階であがっていたんですよ」

――このジャケはどういったオーダーで?

santa「元々は僕らが企画したライブに使うフライヤーを作ってくれっていうオーダーでした。あまり細かい注文はせずに、自由にやってもらった感じですね。俺ら結構アートワークを誰かにお願いする時は、好きにやっちゃっていいよみたいに伝えるんです。だからお題なし、テーマもなし、S.A.R.のためのアートワークを1つ上げて欲しいというか」

Eno「それで上がってきたジャケに曲や全体の雰囲気を寄せていったところはありますね。あと僕、2020年代とはなんなのかみたいなことをずっと考えていました。僕は90年代後半生まれですけど、60年代、70年代、80年代、90年代は音楽的には"こういう時代だった"ってなんとなく言葉にできるじゃないですか。その音色感とか曲の構成とか、年代によって違うと思うんです。それが近年になっていくと言葉にするのが難しくなっていく感じがあって」

――あやふやになっていくし、アーティストの数も曲のジャンルみたいなものも爆発的に増えて幅が広くなっていきますよね。

Eno「そうなんです。だからまず2020年代ってなんなんだろうっていうのを、自分的に解釈して。2020年代...サウンドヴィンテージとか言われるんですけど、僕的には2020年代のアルバムを作りたいっていうのがすごくあって。今はイントロがない方が再生数を稼ぎやすいし曲のトータルタイムが短くなってきていることも踏まえて、その中でもアルバムとして聴かせたいという思いがありました。今の時代を生きる人にアルバムとして聴いてもらうためのアプローチはすごく考えましたね。その試行錯誤が、最終的にこのアルバムになった感じですね」

――santaさんは今の話を聞いてどうですか?

santa2020年代の音楽にしたいっていうEnoの音作り対する姿勢は皆んなに伝わっていたと思いますし、それをしっかり表現出来ている作品だと思います」

Enoいや、でも、このインタビューすごく大変だろうなって今思ったんですけど...。答えになってます? うちもメンバーが6人いてみんなそれぞれの考えがあるし、自分が単独でS.A.R.としてこう思っててっていうのを、インタビューで話すってちょっと大丈夫かなっていうか...」

――アルバム制作の前に"こういうものを作ろう"とかのコミュニケーションをがっちりするというわけではなくて、ジャムって作っていくことを重視しているからこそ逐一メンバーの意識の先とかを事細かには把握していないわけですもんね。その大丈夫かな? っていう思いも当然だと思います。とはいえ、今回のアルバムは構成にもすごく特徴があるじゃないですか。イントロ、アウトロがあって、「Verse of the Kool」というアルバムタイトルの曲がPart IからPart IIIが曲間に挟まるように配置されていて、こういうことはみんなで話し合わないとできない構成なのかなと思うのですが。

Eno「いや、でもそれも別に話はしていないんですよ。作っていってこうなったというか」

――そんなこと話し合わずにできちゃうんですか? アルバム全体として、すごくストーリー性があるというか、映画を見るような感覚すらありました。

Eno「1作品として、トータルで聴かせるっていうことはみんな意識していたと思いますけど。自然発生的にこうなりました、と言っておこうと思います」

――(笑)。ちなみにこれからS.A.R.を聴くという初めましての方々にこの曲から聴いてもらえたら、好きになってもらえるのではという曲を挙げるとしたらどの曲になりますか。

Eno「僕的には1回でいいからアルバムを通して聞いてほしいっていうのはまずあります!」

――曲単位、というよりは作品として。

Eno「はい。まぁでも強いていうなら「Kaminari」ですかね。1曲の中でも展開が変わったり、テンポが変わったり、テンポが変わったあとにグルーヴが変わったり。きっとライブになるとノリがすごくいい感じで変わっていくと思うので、実際に体感してもらうと楽しいと思います」

santa「自分は「POOL」かな。今YouTubeで上がっているMVの曲と、アルバムのミックスが若干違うんで、そこらへんも注意して聴いても楽しめるかなと思います」

Eno「ミックスの変化のポイントとしては、イメージとして少し広がった感じを出しました。あとはアルバムの流れに合うように、色彩感覚を合わせているというイメージですね」

――色彩感覚を合わせているというのは、すごくイメージが湧きます。アルバムを作り終えて、次やってみたいことは浮かんできている感じはありますか?

Eno「今までやっていないようなジャンルの音楽にトライしたいなとは思いますね。まぁでもどんなことをやるかは、またその時のメンバーのテンションを見ながら決めることになるのかな。そういうやり方がS.A.R.には合っているんだと思います」

取材・文/桃井麻依子




(2024年4月26日更新)


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Release

1st Album『Verse of the Kool』

配信中

《収録曲》
01. Intro (for P.S.)
02. Cannonball (feat. 寺久保伶矢)
03. Clouds
04. Verse of the Kool (Part I)
05. POOL
06. You be Kool
07. Desolate
08. Verse of the Kool (Part II)
09. Kaminari
10. Verse of the Kool (Part III)
11. UPTOWN
12. New Dawn (feat. Lil Summer)
13. Outro (for P.S.)

Profile

S.A.R. (ヨミ:エス エー アール)…Santa(Vo)、Attie(Gt)、Imu Sam(Gt/MC)、Taro(Key) may_chang(Dr)、Eno (Bass)で構成されたオルタナティブ・クルー。SOUL、R&B、HIP-HOP、JAZZなどをベースにしながらも、メンバーそれぞれのルーツを反映した幅広い音楽性を持ち、音源のみならず映像、アートワークなどあらゆる制作物を自身で手掛ける。

Live

「S.A.R. presents“Kool Theory”」

【東京公演】
▼4月27日(金) 東京・TOKIO TOKYO
※予定枚数終了


 

「T.B.O presents #長堀界隈 ver0715」

PICK UP!!

【大阪公演】

▼7月15日(月・祝) 17:30
CONPASS
スタンディング-3500円(整理番号付、ドリンク代別途要)
[出演]S.A.R./Black petrol
※未就学児童は入場不可。
[問]夢番地■06-6341-3525

チケット情報はこちら


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