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MYTH&ROIDのコンセプトアルバム後篇『VERDE』はなぜ傑作となったのか、一貫性をあえて持たせなかったサウンドプロデュースと心のざらつきがない歌声から紐解く
「たまたま起きたような奇跡から生まれた作品」

2024年の音楽シーンを代表する傑作である。3月27日に発売された、MYTH&ROIDのアルバム『VERDE(ヴェルデ)』は、2023年10月発表『AZUL(アズール)』の後篇にあたる。そんな同作を聴いて、とにかく震撼した。ストーリーの深遠さ、そして多彩な歌とサウンドから、不安、恐怖、怯え、そして希望などいろんな感情が湧きたった。『AZUL』では少年が、『VERDE』では少女がさまざまな不遇を経験する姿がファンタジックに描かれているが、それらは決して絵空事ではなく、現代にこびりつく“残酷さ”を重ねて聴くことができる。コンセプトアルバムとしても、単作としてもあまりに素晴らしい『VERDE』について、メンバーのTom-H@ck(プロデューサー/サウンドクリエイター)、KIHOW(ボーカル)に話を聞いた。

KIHOW「悪いことを罰するために立ち上がった"正義の人たち"が攻撃し過ぎてしまう」


――『VERDE』からは、未知のものに触れたときの人間の畏怖を感じました。それがどれだけ美しく圧倒的な存在だったとしても、自分の理解に及ばないものは恐怖のあまり排除までする。そんな人間の乱暴性について語られているのではないかと。

Tom:今のご感想だけでこの作品をしっかり聴いていただいたことが分かります。これははっきりと明らかにしているわけではないのですが、前作『AZUL』の年代性は昔、『VERDE』は昨今をイメージしました。そして作詞・ストーリー原案を手がけるhotaruとよく話していたのが、まさにおっしゃってくださったことの延長線上。今は現実世界にあるいろんなものがねじれ曲がっていて、真実じゃないものが真実になり、大衆心理が結果的に誤った答えになる時代。それらによって人々が不幸になるような事象が渦巻き過ぎている。そしてそこに一石を投じることを、日本人は国民性的に苦手としていると感じています。

――たしかに。

Tom:SNSを見ても、「どうしてこんなことになるんだろう」ということがたくさんある。そういった考えを、僕たちの活動の範囲のなかだけでも投げかけたかったんです。大袈裟ですが、正したいという気持ちや違う価値観を表現したかった。作品自体はファンタジックな物語ですが、メッセージとして伝えていることはかなり現代的なんです。

KIHOW:乱暴性という表現がありましたが、3曲目『DiLeMMa(ディレマ)』では、人は怒りではなく不安がまさったときに攻撃的になるのだと感じました。不安の大きさが怒りとしてそのまま出てくるものだ、と。だからこそ未知なるものへ恐れを抱いたり、排除したりするんだと思います。『DiLeMMa』は激しい曲なのでボーカル面ではサビをかっこよく歌うのが一般的ですが、それ以上に弱い部分から出てくる醜さを最大限に出したかった。そのために、自分のこれまでの経験を思い返す作業をしました。自分のなかにある攻撃的な部分や、逆に攻撃を受けたとき、なにがあったのか。それはすごくしんどい作業でもありました。

――過去と向き合ったわけですね。

KIHOW:自分に目を向けてなにかを表現するのは正直、楽なことではありません。ただそういうことを経て、すぐに正しい人間にはなれないですが少しだけでも良い方向へ近づいていきたい。目を逸らさず、分かることから向き合っていきたい。『AZUL』『VERDE』を並べて聴くと、「自分はあのときはこう思っていたけど、今はこうだな」「だから歌えた曲なんだ」といろんなことに気づけます。

――『AZUL』『VERDE』で重要なのは、自分が他者から攻撃を受けたとしても、攻撃した側は時間の経過とともにそれを忘れてしまうこと。しかし攻撃を受けた側は心に傷を負ってずっと苦しむ。それが『AZUL』の少年であり、『VERDE』の少女です。

Tom:被害者側がなんとか正そうとしても、それは容易ではない。その気持ちを汲み取りながら、絶対的にいけないことに対してはなんとか抗いたいというか、声をあげる場がもっとあるべきじゃないかと。MYTH&ROIDというアーティストとしても、Tom個人としても、それはすごく感じていること。そういう場所がもっとパワーを持ってほしい。どう考えても間違っていることっていろいろあるから。

KIHOW:一方で、SNSでもよく見られますが、悪いことを罰するために立ち上がった"正義の人たち"が攻撃し過ぎてしまうこともありますよね。その線引きもできなくなって、嫌なことしか起きない状況ばかり。でも、そういうことを自分のなかでちゃんと意識するのが重要ではないでしょうか。意識することで、反省できたり、今まで見えなかったことが見えたりする。自分たちが音楽を通してそれを伝えた時、『AZUL』『VERDE』のメッセージを受けて、「みんなどう思うんだろう」という気持ちはあります。



Tom-H@ck「ネガティブな意味ではなく、一貫性を持たせることの勇気がなかった」


――ストーリーのなかのメッセージ性だけではなく、サウンドプロデュースも驚異的でした。特に、1曲目の朗読「<Episode of VERDE-Part1>」から5曲目の朗読「<Episode of VERDE-Part1>」の間に挿まれている歌モノ「Palette of Passion」「DiLeMMa」「RESIST-IST」はかなりソリッドなサウンドになっています。あの攻撃性を最後まで押し通したら、デジタルロックの傑作になっていたはず。しかし6曲目「Dizzy,Giddy」、7曲目「Whiter-than-white」でがらりと世界観を変えることにより、物語性のある作品としての傑作へと昇華した。サウンド面での一貫性を良い意味で崩したことに、サウンドプロデュース面の勇気を感じたんです。

Tom:逆に自分はその勇気を持てなかったんです。つまり一貫性を持たせることの勇気がなかった。それは決してネガティブな意味ではなく。僕たちのこれまでの作品は、いずれも一貫性がある方でした。でも『VERDE』は、序盤の歌モノ3曲のようなテンションで最後まで押し通した場合「つまらなくなるかな」「味が濃過ぎて何回も聴いてもらえないんじゃないか」ということが頭をよぎりました。サウンド面での味の旨みはその3曲で十分魅せられるから、6、7曲目は切り替えたんです。

――狙いはばっちりだったと思います。

Tom:もう一つは、これは楽曲を作る前にhotaruが僕に強く言ってきたことで、「最終的には救いがあるように話を持って行きたいんだ。人間の人生はそれがないとダメだ」と。もちろん、強い信念のなかで絶望や悲しみで物事を終える人はいます。しかし人間の素直な願望として、最終的に目指すのは幸せや光のある方へ向かうことじゃないかと僕らは考えました。その話があったので、特に最後の曲「Whiter-than-white」は神秘的で光を感じさせる曲にしました。

――歌の力もすごいです。「Dizzy,Giddy」「Whiter-than-white」の北欧的な歌声がその神秘性を際立たせ、それまで流れていた景色を歌の面でも変えています。

KIHOW:「Whiter-than-white」のレコーディングは特に、自分にとって特別なレコーディングになりました。曲調として解き放たれたイメージだけど、かといって歌い上げるとまではいかない。そのバランスを意識しつつ、一種人間でもないような、心のざらつきがまったくない"なにか"が歌っているような立ち位置で取り組みました。実際、自分が歌っていると感じないくらい楽に歌えた曲でした。ゾーンに入る、と言うことだと思うんですが。

――今まではそんな経験がなかったんですね。

KIHOW:いろんな条件が揃って、たまたま起きた奇跡的な歌のようなものだと考えています。もちろんその奇跡はこの作品全体にもあらわれています。人を安心させたり、希望を感じさせたり、歌でそれができたような気がしていて。でも、人間が歌っているという感覚からは離れています。「そういう風にできた」というか、「なった」というか。

――それだけ『AZUL』『VERDE』の世界に没頭できていたのではないですか。

KIHOW:そのときにしか表現できない歌や作品ってあるんだな、と思いました。特に序盤は攻撃力のある曲が続いて、私の歌もその温度感になる。そういった曲のテンポやリズム感も含めて、私の人間味、感情、雑念、個人的に嫌な経験が思い起こされていった。でも後半に進むにつれてそれが徐々になくなっていって、最後にはざらつきも消えた。振り返ってみると『VERDE』は、一曲、一曲の疲労度の違いがかなりありましたね。

――そんな『VERDE』の世界観が味わえるツアー『MYTH&ROID One Man Live 2024 Spring Tour"VERDE"』が、大阪・心斎橋SUNHALL(4月28日開催)含め6か所で開催されますね。

Tom:2023年の『AZUL』のツアーでは、セットリストのなかに『AZUL』のセクションを入れたのですが、すごく好評だったんです。「『AZUL』のセクションで違う世界へと持っていかれた」という意見をいただきました。今回の『VERDE』はその上を目指したい。異世界感を感じてもらえるライブをお届けしたいです。

KIHOW:ライブでしか生まれないものって絶対にあると思います。自分たちが意識して作り上げている根本的なものと、ライブでしか生まれないものが融合したとき、なにが起こるのか。それはその日、その会場に来ないと分からないはず。自分たちはライブツアーを始めるようになったのが最近なのですが、その短いスパンのなかで自分たちのライブのあり方が急激に変わっていることが実感できています。特に、大きく変わっていく瞬間は"今"な気がします。ですので、MYTH&ROIDの"今"を見届けて欲しいです。

Text by 田辺ユウキ




(2024年4月16日更新)


Check

Release

Mini Album〈Episode 2〉『VERDE』
発売中 2750円(税込)
ZMCZ-16972
株式会社KADOKAWA

《収録内容》
01. <Episode of VERDE - Part1>
02. Palette of Passion (よみ:パレットオブパッション)
03. DiLeMMa (よみ:ディレマ)
※テレビ朝日系全国放送「musicるTV」 3月度エンディングテーマ
04. RESIST-IST (よみ:レジスト イスト)
※ゲームアプリ「崩坏学园2」新章主題歌
05. <Episode of VERDE - Part2>
06. Dizzy, Giddy (よみ:ディズィー,ギディー)
07. Whiter-than-white (よみ:ホワイター ザン ホワイト)

http://mythandroid.com/verde-azul/

Live

【静岡公演】
▼4月13日(土) LIVE ROXY SHIZUOKA
【岡山公演】
▼4月14日(日) YEBISU YA PRO
【宮城公演】
▼4月20日(土) 仙台MACANA

Pick Up!!

【大阪公演】

チケット発売中 Pコード:257-956
▼4月27日(土) 18:00
SUNHALL
オールスタンディング-6000円(ドリンク代別途要)
※未就学児入場不可、7歳以上有料。
※販売期間中はインターネット販売のみ。1人4枚まで。チケットの発券は4/20(土)10:00以降となります。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【愛知公演】
▼4月28日(日) スペードボックス
【東京公演】
▼5月12日(日) 新宿BLAZE

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