ホーム > インタビュー&レポート > ピアノ・トリオ・バンド、fox capture plan おびただしい数の曲を制作した2023年を経て 2024年春、ツアー開始直前zoomインタビュー
fox capture planでは避けていることも
劇伴制作ならば厭わず挑戦できる
――みなさんへのインタビューは対談という形でしたが前回が2021年の8月以来ということで、2年半ぶりです。あの頃はまだまだコロナの最中という状況でしたが、その後どんな日々でしたか。
岸本 亮(Piano)「バンドに大きく変わったことはないですけど、スタンディングのツアーができるようになったり、"やっとちゃんと(元通りになってきた)"という感じですね。オリジナル作品に関しては長いこと出していないんですけど、劇伴や楽曲提供をとめどなく続けているというのが活動の特徴になったかなと思います」
――ライブに特化していうと、コロナ後に変化は...。
岸本「コロナが終わるまでにアルバムを3枚出して、エレクトリック要素が増え出しているので、その辺もライブの反応として変化してきているかなとも感じています」
――先ほども「劇伴や楽曲提供をとめどなく続けている」というお話がありましたけど、特に2022年2023年は劇伴・楽曲提供やら、fox capture planとしてのリリースやら、全部ひっくるめたら尋常じゃない数の作品を発表した年でしたよね。
Digital Single「不可思議のカルテ feat. Chihiro Sings」(2023年)
Digital Single「Delight」(2023年)
2000's Cover Album「COVERMIND II」(2023年)
ヒグチアイ / 「この退屈な日々を」「誰でもない街」(2023年)
映画「なのに、千輝くんが甘すぎる。」(2023年)
第74回NHK紅白歌合戦グランドオープニングテーマ(2023年)
テレビ朝日「タモリステーション」テーマ(2023年~)
フジテレビ系ドラマ「うちの弁護士は手がかかる」※川井憲次と共作(2023年)
テレビ朝日系オシドラサタデー「ノッキンオン・ロックドドア」(2023年)
カンテレ「newsランナー」テーマ(2023年~)
日本テレビ系日曜ドラマ「ブラッシュアップライフ」(2023年)
劇場版「青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない」(2023年)
OVA「スタンドマイヒーローズ WARMTH OF MEMORIES」(2023年)
Amazon Original アニメ「ルパン三世 VS キャッツ・アイ」(2023年)
岸本「すぐに思い出せないほどのレベルで作りましたね」
――いつ休んでるんですかっ!? という作品数だと思いました。
カワイヒデヒロ(Double Bass)「休みはなかったですねぇ。2023年の夏休みがまだ取れていないですから」
――2023年がここまでの作品を発表する状況になったのは...。
井上司(Drums)「それは本当にたまたまですね」
――たまたまにしてもすごい量で、ひと組のアーティストが1年で発表できる量の限界値ってどこかね? と思わされました。
全員「あはははははは!」
岸本「ですよね」
――どうしてこんなことができたんでしょうか。
岸本「オファーがきたものを極力引き受けたというか」
井上「特にこの頃はそうでしたね」
岸本「ちょうど映画やドラマ、アニメの制作サイドとの音楽性がマッチングしていることも大きかったかな」
――作品に必要な音楽の要素が、fox capture planの音楽性とリンクしていたというか。
カワイ「fox capture planのサウンドを求められてのオファーというのが結構ありましたね。昨年、僕らにアルバムを制作する予定がなかったからこそできたことかなとも思いますけど」
岸本「カヴァーアルバム(『COVERMIND Ⅱ』)の制作が終わっていたので、ちょうどよかったところはありました。常に曲は作っていますけど、サブスクの時代なので出し時を考える時間だったと言いますか。その結果、サブスク時代にガッツリなったことで、シングルリリースがより有効になってきたということと、やっぱりオリジナルアルバムが重要なのかなということを改めて思い始めています。シングルの方がバンドが精力的に活動している感じを発信しやすいと思っていたけど、とはいえアルバムはすごく大事だなと」
――なるほど。とはいえ2023年は、バンド名よりドラマなり映画なりの作品名がバーンとくるというパターンでの動きだっただけに、オリジナルアルバムを出せていない分fox capture planが止まっている? と思われるような不安も感じそうな気がしますけども。
カワイ「...もう、それどころじゃなかったんですよね(笑)」
岸本「カヴァーアルバムやシングルを出したり、ドラマの劇伴やサントラも出たからいけるかなーとは思っていました。ただそろそろ必要なんじゃないかというのは、去年の後半から思い始めたところですね」
――fox capture planが担当した劇伴作品リストを見ていたら、特に昨年は意識していないところでfox capture planの音楽に出会った人もめちゃくちゃいた年だったのでは、と思いました。中でも自分たちがワクワクした作品はありましたか?
カワイ「手応え的に『ブラッシュアップライフ』(バカリズム脚本担当。タイムリープがコンセプトのヒューマンコメディードラマ)は、あとからジワジワきましたね。最初に数話分の台本を読んだ時から、絶対おもしろいやつじゃんっていう予感はありました。一見地味な雰囲気を持ったストーリーだったのでどこまで僕らの曲がハマるかなという思いもありましたけど、最終的には噛み合った形になり、放送後にいろんな賞を獲ったりと、印象に残る作品でした」
岸本「個人的には劇伴ではないんですけど、ヒグチアイさんへの楽曲提供ですね。一方的にファンだったので、ヒグチさん側からオファーをいただいて驚きました。すごい人がオファーしてくれたなって単純にうれしかったし、非常にクリエイティブな作業でした」
カワイ「ちょうどボーカルものやってみようかって話してたんだよね」
岸本「そうそう。『ヒグチアイさん、いいな』と話していた翌日にオファーが来てうれしかったです」
――我々、関西在住者にとってはfox capture planがカンテレの夕方のニュース番組の『newsランナー』の音楽をやっている! というのも驚きでした。
岸本「あぁ! そうですね! 俺も実家に帰った時にテレビから流れてきたことがありました」
――平日毎日のことでもありますし、すごく耳に残りますよね。
カワイ「関西でライブをやる時は演奏した方が、みんな"あー!"ってなってくれるんでしょうね。YouTubeにもアップされているし、人気番組なんだろうなと思ってます」
――ちなみにあの曲はどういうイメージで?
岸本「カワイくんが作りました」
カワイ「僕らの特徴でもある疾走感あるサウンドは意識しつつ、ニュースは明るい話題もあれば暗い話題も扱うので、どちらでもない"ニュートラルな疾走感"をイメージしました」
――"ニュートラルな疾走感"って、すごく目指すところが難しそうです。
カワイ「そうなんですよ。明るすぎると暗いニュースの時には使いにくくなっちゃうので一番意識するべきところだと思っています」
――去年おびただしい量の劇伴を制作されて、自分たちの今後の作品に活かせるかもしれないなと思えた発見はありました?
カワイ「お仕事として受ける作曲と、fox capture planがアーティストとして作る曲は若干テンションが違うというか。お題ありきみたいなところもあるので、お題なしでつくろうとすると意外と悩みます」
岸本「オリジナル作品に関してはオリジナリティを重要視したいし、アルバムを出すごとに何か新しい要素を入れたいと思っていますけど、劇伴に関しては普段fox capture planでは避けているようなベタなことも厭わず挑戦していこうという感じですね。我々があえてやらなくてもいいんじゃないかなっていうことも結構入れ込むんです」
―― "普段fox capture planでは避けているようなベタなこと"というと?
岸本「去年でいうとドラマの『うちの弁護士は手がかかる』のために作った曲も、うちのバンドにはギターがいないのにギターのリフで引っ張ってホーンがメロディーを奏でるような展開の曲も作ったりして。どちらかというとピアノ、ベース、ドラムは後ろに下がる形なんですけども、自分たちがメインの活動ではやらないですね。しかも結構ハードロック調だったりもして。オリジナルアルバムでは絶対やらないことなので、新しい発見があったりします」
カワイ「これぞfoxだねっていうのは、僕ら的にひとつのフォーマットができあがっているので、そこに何を足すかというところをオリジナルの時は考えます」
――そもそも曲の構築というかスタートのさせ方が、劇伴とオリジナルの制作では違うと。
カワイ「そうですね。ゴールも違うからルートが違うという感じですね。オリジナルは自分たちでゴールを設定するところから始めるんです。僕はどういう曲を作ろうかなとイメージしてからのスタートになるので、今のfoxにはどんな曲がないかなと考えるところから始まる感じなんですよね」
海外の音楽にはヒントがたくさん眠っている
――昨年fox capture planとしては2015年以来となる洋楽カヴァーアルバム『COVERMIND Ⅱ』のリリースも話題になりました。この作品を8年ぶりに出そうという流れになったきっかけはあったんでしょうか。
岸本「実は1枚目を出した時点で2枚目まで作ろうというのは考えていたことだったんですよ」
カワイ「常にfoxのアルバムにはカヴァー曲を1曲入れる流れができていたので、気づけばアルバムを作れるほどの曲がたまってきたんです。じゃあ出すかと。1枚目(90年代の洋楽カヴァー)を出した時点で、すでに2000年代のカヴァーを始めていたんです」
――その流れでいうと、2010年代の洋楽カヴァーで『COVERMIND Ⅲ』も期待してしまいます。
岸本「いや~、もういいかなっていうところもありますけどね(笑)」
――そもそも選曲も難しいのでは? と思うのですが...。
岸本「そうなんですよ。ピアノがメロをとってアレンジしやすい、ライブ向けとかを考えながら僕と井上で選びました。でも超有名曲も恐れずにやろうっていうのはあったかもしれないですね。我々はジャズにカテゴリーされることもあるので、そういう僕らが人気曲をやることに意味があるかなと。その分、同じ曲をカヴァーしている人も多いですけど」
カワイ「割と原曲に忠実にアレンジしたり...」
岸本「Coldplayの「Viva la Vida」はよりバラード調にしたり。ダフト・パンクの「One More Time」はダンスミュージックに振り切っているけどピアノソロをつけてみたりもして」
――いわゆる超名曲をカヴァーするにあたって、研究したり再構築したりすることで曲の成り立ちなど見えてくることがたくさんありそうです。
岸本「おもしろいですよね。日本の音楽はサビがめちゃくちゃキャッチーで、そこに向かっていくAメロ・Bメロみたいな構造なんですけど、そうじゃない海外の音楽にはヒントがいろいろ眠っているなと思います。ダフト・パンクで言うと、どこがメインっていうわけじゃないというか、どこを切ってもメインみたいな。洋楽にはそういうおもしろさがありますね」
カワイ「日本ではAメロ・Bメロ・サビがあるべきみたいな作り方が多かったけど、それが変わってきている感じもあります。ただ、曲としての構成の違いはカヴァーしてみるとわかったり、なんでここ繰り返すんだろうという発見があったり。分析すると見つかることがあるんですよ」
岸本「基本、ジャズは人の曲を演奏することが多いんですよ。ただ今我々がジャズのスタンダードをやる必要はないんじゃないかというところでセレクトしたのが、この2枚の『COVERMIND』ですね」
カワイ「新しいスタンダードになってくれたらいいなと」
――そんなカヴァーアルバムのリリースを経て、去年はfox capture planとしてオリジナルでは配信シングル「Delight」のリリースもありました。この曲はどんなところから制作が始まっていったのでしょうか。
岸本「「Delight」はこの言葉をツアータイトルに付けまして、意味合いとしては祝祭とか歓喜という意味なんですけど、コロナが明けてきてそういうことを象徴するようなツアーになればと思って付けたんです。ツアータイトルを決めてから、それを元に作曲をしたんですよ」
――お? 珍しいパターンですね。
岸本「タイトルありきで作りましたけど、コロナのネガティブな部分とか、必ずしも楽しいだけじゃない感じが曲に出てしまったかなとも思いますけど」
――タイトルからすると、もっと開けたというかクラッカーパン! 紙吹雪ヒラヒラ~! みたいな喜びのメロディーなのかなと思いきや、意外にも控えめな喜びといいますか。
岸本「コロナ禍の葛藤みたいなものも反映されたかなと。それでも、前向きな感じは出たかなと思います。あと、曲としてはこのくらいの速さの曲はなかったんです。疾走感はあるけどただ力で押す感じではない、いいバランスの曲になったかなと思っています」
――そして、この春全国8カ所を巡るツアーが始まっています(※ツアー初日は公演終了)。ツアータイトルが『TRICOLOR』となっていますが、これはどこから?
岸本「2024年は何があるかなと考えた時にパリ五輪もあるし、僕は去年のラグビーワールドカップのフランス大会も見ていましたし、あぁ、フランスいいなぁって」
井上「めちゃめちゃ単純」
岸本「スポーツイベントの開催も含めて世界が活性化していく時に、フランスがキーワード的にあって、あぁ三色だなと。我々も3人だし、初期のオリジナルアルバムは『trinity』で三位一体という意味合いを持たせましたし、我々にとって3は重要なキーワードだなと。去年『DELIGHT』ツアーを経た僕らにとってぴったりの言葉かなと思ってつけました」
――ツアーはどんな内容になる予定でしょうか。
岸本「fox capture planのよりディープな音楽性の部分を出していけたらいいですね」
カワイ「MVになっている曲をやりがちだったので、そういう意味ではマニアックなfox capture planを体験してもらえたらなと思っています」
岸本「まさに2022年ぐらいからは大阪でもちょこちょこライブで来ているんですけど、ここ数年『fox capture planのライブは以前も見たし、今回はいいわ』という人には、より新しいセットリストが提示できるのではないかな。比較的新しいアルバムの中でも、ライブで披露できていない曲がありますし、リード曲系のアッパーでメロディックでというだけではない一面も、ライブではすごくグルーヴ感が出るので、そこも打ち出していきたいと思っています」
――そのツアーのあとは、fox capture planとしての作品も期待してしまいます。
井上「...今、作ってます」
岸本「上半期にシングルを出せたらいいかなと思ってますが、まだ未定です。アルバムも具体的にしていきたいと思っています」
――何か、私たちにヒントになるようなキーワードを提示してもらうことは可能ですか?
カワイ「なんだろ、難しいね」
岸本「より世界が活気づいていっているので、世界に向けてインパクトのあるものにできたらなと思っています。パリ五輪もありますし!」
カワイ「ニュース番組のスポーツコーナーで僕らの曲を使ってもらったりしているので、サウンド的にもスポーツとの相性はいいと思っているんです。そういうところと絡めるように狙っていきたいですよね」
取材・文/桃井麻依子
(2024年4月26日更新)
Cover Album『COVERMIND II』
発売中 3000円 ※数量限定
HNZN-001
Playwright
《収録曲》
01. One More Time [Daft Punk]
02. Welcome To The Black Parade [My Chemical Romance]
03. The Reason [Hoobastank]
04. Hey Ya! [Outkast]
05. Wait And Bleed [Slipknot]
06. Plug In Baby [Muse]
07. Because Of You [Ne-Yo]
08. Brianstorm [Arctic Monkeys]
09. Thank You [Dido]
10. Numb [Linkin Park]
11. Viva La Vida [Coldplay]
Digital Single
「Delight」
配信中
Digital Single
「不可思議のカルテ feat.Chihiro Sing」
配信中
fox capture plan…それぞれ違った個性を持つ岸本亮(Piano)、カワイヒデヒロ(Double Bass)、井上司(Drums)が未踏のピアノトリオサウンドを目指し、2011年に結成。これまで10枚のオリジナルフルアルバムを発表し、国内外の大型フェスの出演やドラマ、映画、アニメ、ゲームの楽曲制作やアーティストへの楽曲提供など、活動のフィールドは多岐にわたる。2023年は7月にカヴァーアルバム『COVERMIND Ⅱ』を、そして11月に配信シングル「Delight」をリリース。12月には年末スペシャルワンマンライブ『Year End Special 2023』at 品川インターシティホールをソールドアウトで成功させ、大晦日にはNHK 『第74回 紅白歌合戦』のグランドオープニングを担当するなど、飛躍の1年となった。
fox capture plan オフィシャルサイト
https://www.foxcaptureplan.com/
【福岡公演】
▼4月29日(月・祝) Gate’s7
【新潟公演】
▼5月25日(土) GOLDEN PIGS BLACK STAGE
【北海道公演】
▼5月31日(金) SPiCE
チケット発売中 Pコード:261-033
▼6月14日(金) 19:00
心斎橋JANUS
一般-6000円(整理番号付、ドリンク代別途要)
学生-3000円(当日要学生証、整理番号付、ドリンク代別途要)
※小学生以下は無料。
※学割チケットは入場時に学生証をご提示下さい。
※チケットは、インターネットのみで販売。販売期間中は1人4枚まで。チケットは、5/31(金)朝10:00以降に引換えが可能となります。
[問]GREENS■06-6882-1224