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「今やりたい音楽を素直に作品に込めた」
10年ぶりとなるオリジナルアルバムをリリース!
デビュー35周年を迎える辛島美登里インタビュー

透明感あふれる歌声、女心の機微を繊細に、丁寧に掬い上げるような歌詞の世界観とメロディー。シンガーソングライター・辛島美登里の曲は、平成~令和と時代や社会のあり方がどんなに変化しようとも、常に人の心にそっと寄り添い続けてきた。そんな彼女が今年6月にデビュー35周年の節目を迎える。その記念日を前にして、3月6日に10年ぶり16枚目となるオリジナルアルバム『Coral』をリリースする。近年ベストアルバムやカヴァーアルバムのリリースに加え、ライフワークとなった夏と冬に開催されているコンセプトコンサートに注力していたが、文字通り“満を持して”のフルアルバムだ。デビューからの日々を真摯に重ねてきた今だからこその人生、恋愛、結婚、友情などが垣間見ることができるこの作品は、いかにして制作されたのか。とても風が冷たい1日となった2月某日、たっぷりと話を聞くことができた。歌う時と変わらない透明感のある声で、軽やかに、そして終始楽しそうに話してくれたことが今も忘れられないことを、お伝えしておきたい。

デビューから35年、みんなが支えてくれた


――3月のアルバム『Coral』に先駆けて、先行シングル「Favorite Phrase」の配信からリリースが始まっていますね。

「10年ぶりのオリジナルアルバムになるんです。私はシングルCDを出していた世代なので、配信って何? と聞くところから始まったぐらいで(笑)。そんなこともあって配信は雲を掴む感じがありました。リリース当日に、"買いました"ではなく"ダウンロードしました"という言葉をたくさん見かけてすごく不思議な感じですね」

――感想もキャッチされているのですね!

「はい。買いに行かずともそれぞれの場所でダウンロードしてもらえるので、 配信当日にすぐ聞いたという声も上がってきて、瞬時にいろんなものが浸透していく感覚は今回が初めてです。本当に自分の音楽が染み渡っていく感じがしています」

――ちなみにどんな感想を目にされたのでしょう。

「優しい気持ちになれたとか、笑顔になれたという声が多かったように思います。シングル曲を自分で書く時は、力が入って何かインパクトがあるものをと声も張ったりしていたことが多かったんです。今回は槇原敬之さんに曲を提供していただいて、本当にふっと体の力が抜けて"いいよいいよ私が応援するから"という存在の曲をシングルにできたのは、初めてなんです。今年は元旦から大きな災害や事故があって、新年でもなんとなく踏みとどまってしまう心持ちの時に、ゆっくり行こうとか今日はのんびりしようとか、心をほぐしてくれるような音楽をお届けできたのは私自身もすごくホッとして救われていますね」

――槇原さんに曲をお願いしたきっかけをお伺いできますか。

「デビュー35周年なのでアルバムを作ろうという気持ちがまずありました。そこでどういうアルバムにしようかと考えた時に、これまでなら自分で詞を書いて曲を書いて届けようとしたと思うんです。でも今回はコロナ禍や震災の影響もあったのか、今思うことを素直にアルバムに乗せたいなと思うに至りました。今会いたい人、今歌いたいものを考えて、前々から槇原さんのとっても身近な言葉を使った繊細で優しい言葉...生活のすぐそばにあるけども、ずっと失っていたものを拾い集めて見せてくれるような彼の世界観が大好きで、心の中ではいつか彼の曲を歌えたらいいなぁと思っていたんです。それを伝えてみようとオファーをしてみたら、槇原さんの方からも"辛島さんに歌ってほしいと思っていた曲があるんです"とお返事が来て!」

――え、曲がもうあったんですか!?

「そうなんです。 "すぐに送ってください!"とお願いして聞かせていただきました。それが本当にいい曲で、歌わせていただきたいのですがぜひコーラスを入れていただけませんか? とさらにお願いをしました」

――辛島さんと槇原さん、相思相愛だったんですね。

「もう本当にうれしくて! これまでカヴァーアルバムは出してきましたけど、オリジナルアルバムで作詞・作曲ともに提供していただいた曲を歌うのは初めてだったので、とにかくどの曲よりも最初に歌入れをして完成させようと取り組みました。本当に緊張したけど、槇原さんに"もう完全に辛島さんの曲みたいですよね。曲も喜んでいると思います"と言ってもらえて、それもすごくうれしかったし安心しました」

――槇原さんから曲を受け取った時に、素敵だなと思ったポイントはありましたか?

「初めの歌詞...バラをモチーフにしたワンフレーズを聞いた時から、なんてアカデミックな表現なの! と驚きました。私には一生書けないわ、と。聞けばイギリス種と日本種を掛け合わせることで冬を越せるようになったバラがあるとテレビのドキュメンタリーで見て、この歌詞を思いついたそうなんです」

――そこから膨らませた歌詞だったんですね。

「そうなんです。膨らませ力が素晴らしくて! その感想も槇原さんにはすぐお伝えしました」

――槇原さんの提供曲「Favorite Phrase」が1曲目に収録された16枚目のオリジナルアルバム『Coral』は、3月6日(水)にリリースとなります。本当にトピックス満載の1枚なのですが、一番大きなトピックスは辛島さんのデビュー35周年を記念した作品であることだと思います。長い道のりを振り返ると、どんな日々が思い出されますか?

「経験はないですけど、35年ひとつの会社に勤めている方と同じ気持ちではないかな? と思います。いろいろ紐解けば大変なこともあったしいいことばかりではなかったけれど、ここまで来てみたらただ健康でよかったなとかみんなが支えてくれたなと思います。本当にそれに尽きますね」

――その長い年月の中では、大きな震災が起こったりパンデミックが起こったりしたこともありましたし、"健康でよかった"という言葉の重みをすごく感じます。

「そうですよね。健康でいうと、心の健康も大切だなと思います。特にコロナ禍は、五感をも奪われていくような制限の多い日々で辛かったですよね。どうやったら励まし合えるのだろう? これをどう乗り越えて行くのだろう? と考えることが多かったです」

――そんな日々を辛島さんの作品の数々に支えられていた人も多いと思います。

「でもコロナ禍の間は、作品もなかなか生まれて来なくて...。どんな悲しい歌も、希望という魂があってこそ書けるんです。でも希望が見えなくなると書けなくて。とにかく点のようにライブはできていたので、その際に少しでも新曲をお届けしたいと書いていたものを今回のアルバムにも反映することができました」



アルバムタイトルは思いつきのダジャレ


――今回の作品、オリジナルアルバムとしては10年ぶりになるわけですが、それだけ長い時間を要したのは...?

「10年の間にデビュー30周年を迎えたので、ベストアルバムを作りました。実はそこに至るまで自分を振り返る作業は全くして来なかったので、初めてアルバム制作のために過去を振り返ってみました。そうして振り返りつつ昔の曲も歌ってみたら"そうだよね! 大事にしないといけなかった!"と再確認して。その後も収まりきらなかった曲でベストアルバムを作ったり、カヴァーアルバムを作ったりしながら自分の原点を探っていた矢先にコロナ禍に入ってしまいました」

――その原点を探るということをしてから新しく曲を作ることで、何かよい影響はありましたか?

「今回の『Coral』はデビューした頃に書いていたアルバムの曲たちに近いかもしれないですね。スタートから7~8年のデビュー期はポップな曲も書きたいし、こんな曲も好きだしとたくさん絵の具を出してこんなイラストを描きましたというふうにいろんなことをやっていたんですね。その後中期になって大人っぽい曲が書きたいと挑戦をしましたけど、今回はデビュー期に少し立ち戻った感じがしています。35周年を迎えるまでは、そういう作業をすることが恥ずかしかったんです」

――恥ずかしかった?

「あれもこれもと手を出す私って、すごく子どもっぽくて落ち着きがないと。それにそろそろ私らしさを集約したいというか、辛島美登里はこういう音楽性だというものを作っていきたいという思いもあったかなぁ。それが、今はそんなこといいんじゃない? と。やりたいものを素直に出して、アルバムにしていきたいなと思うんです。子どもっぽいと思われても、それが今やりたいことなのだからいいんじゃないと思って完成させたのが、このアルバムですね」

――『Coral』は辛島さんが今やりたいことの集合体だ、と。

「はい。やりたいことを音楽にしました、という作品です」

――なるほど。アルバムのトピックスとしてデビュー35周年の記念であること、槇原さんの提供曲が収録されていることのほかに、友人である永井真理子さんとのデュエット曲が2曲収録されていることも話題になっています。

「永井真理子ちゃんとは、元々曲を提供させていただいたことと、事務所が同じというご縁もあって30年以上のご縁なんですが、お互いお忙しくなかなか接点がなくて。それがコロナ禍の際のイベントで同じ楽屋になって、久々に深い話がたくさんできたんです。その時に何か一緒にできたらいいよねと話していたので、アルバム制作の際にお声がけしたら"ぜひ!"と言っていただけました。1曲は彼女に提供した「Keep On"Keeping On"」なのですが、彼女のファンの方々もすごく大事にしてくれている曲なんです。私たちがデュエットをすることで、私たちだけがうれしいのではなくてお互いのファンのみなさんも喜んでくれる姿が目に浮かびました。そしてもう1曲は今私が真理ちゃんに対して思う気持ちを歌詞にしたいと思って、「シロツメクサ」という曲を書き下ろしました」

――「シロツメクサ」を永井さんに聞かせた時の反応というのは?

「"これ、私たちのことを歌ってます? うれしい!"とメールをもらいました(笑)。レコーディングも一緒にしたのですが、びっくりしたのはハモった時のふたりの声質がそっくりだったことですね。それぞれ年月を重ねた今の声がそっくりだということはうれしかったし、驚きました。あと歌詞にも書きましたが、出会った時彼女はデビュー前でしたが、本当に光り輝いていて。こういう人がスターになるのだなと思いました。そして一昨年ゆっくりと一緒に時間を過ごした時に、全く変わっていなくてまるでタイムカプセルに入っていた真理ちゃんが目の前に現れたように、出会った当時の彼女そのままでした。彼女は一度日本での活動に区切りをつけて、オーストラリアに渡っていましたが"ピリオドの先にこんなことがあるんだね"とふたりで笑いながら、レコーディングをしたのもいい思い出です」

――素敵な関係ですね。アルバムのトピックスである3曲を支える他の曲に関して、辛島さんのどういった"やりたいこと"が反映されているのでしょうか。

「半分くらいはコロナ禍の間に少ないながらコツコツと書き溜めていたものです。毎年行なっている『冬の絵本』というクリスマスコンサートはタイトル通り絵本をモチーフにしているのですが、一昨年『人魚姫』を題材にした際にアンデルセンの童話を紐解いてみたら、実は本当に酷い話で! 報われない話なんですよね。それをどうやって掬い上げようかとずっと考えてできたのがアルバムに収録した「人魚の恋~風になって~」という曲です。恋愛をしてボロボロになって魂が死んだと思うのだけど、そこから立ち上がれ! という気持ちを吹き込みたいと思って作った曲です。そして「逢いたくて」という曲は、夏の恒例ライブとなっている『夕涼みコンサート』に来てくれるファンの方が、お母様が亡くなられて箪笥を開けてみたら藍染の浴衣が出てきて、それはお母様が自分のために仕立ててくれた浴衣だったそうでそれを毎年着てコンサートに来てくださっていると聞いて、それを歌にさせていただきました。年齢的にも親や友人が他界することも珍しくない世代になってきました。10代や20代の頃に言っていた"大人になったら"とか"いつか"なんていうことも、もう言えなくなってくるんです。残り時間をどうやって身のある生き方をしようかなとか、笑って生きようかなというのがテーマになってくるので、私と同年代の人たちが今だから感じられることを歌いたいなと、"今"に焦点を当てて書きました」

――そういった曲がギュッと集まった久しぶりのオリジナルアルバムに『Coral』というタイトルを付けられた理由というのは...?

「アルバムのタイトル、実はいつも適当なんですよ(笑)。だいたい最後につけるので、今回も最後に決めようと思って仮で『Coral』とつけていたんです。なぜこれが仮タイトルだったかというと、これまで『Carnation』『colorful』『cashmere』『Cherry blossoms』とCがつく流れで来ていたので、Cがつけばそれはそれで楽しいよねというぐらいで。『Coral』=珊瑚=35=35周年ってシャレだけどそれもいいか! とつけたら、そのまま採用になりました(笑)」

――最初に辛島さんの中で『Coral』というワードが浮かんできたのは...。

「ダジャレです(笑)。きっとこの後もアルバムに収録した曲のお話をする時に、35周年の時の作品だから『Coral』に入っている! とすぐ思い出せるようにとつけました」

――アルバムタイトルが、そのままツアータイトルにもなっています。3月から4月にかけて愛知、兵庫、東京の3カ所で開催されますが、どんなコンサートになるでしょうか。

「『Coral』の曲は全て披露できたらと思っています。それと、全ての会場に永井真理子さんがゲストで来てくださるので、真理ちゃんと一緒に歌える曲でみなさんがここじゃないと聞けない曲は何かと考えました。アニメーションの『YAWARA!』のオープニング「ミラクル・ガール」を彼女が歌っていたんです。そして私がエンディングの「笑顔を探して」を歌っていたので、その2曲をぜひステージでと話しています」

――わぁああ! めちゃくちゃ素敵です!

「あら、もしかして世代?」

――はい、ずっと放送をリアルタイムで見ていた世代です!

「そういう方も多いと思います。私たちふたりがいないとできないよねと真理ちゃんと話していて。それはレコーディングの時から話していたので、楽しみにしていてもらいたいですね」

――そして35周年を超えてこれからも月日を重ねていかれます。次の40周年に向けて、イメージする未来はありますか?

「本当にずっと行き当たりばったりで活動してきて、それが35年になっていたというのが正直なところです。た、少なくとも年は重ねていくので、可愛げのあるシニアになりたいなとは心がけています。嫌がられないように、小うるさくならないようにしようと思っています(笑)。音楽に関しては、会いたいな、一緒にやりたいなと思える人に素直にお声がけして、ご縁がつながればまたご一緒する。ジャンルが違っていてもそこで新しい感覚を楽しめるような、そんな活動を続けていけたらと思っています」

取材・文/桃井麻依子




(2024年3月 4日更新)


Check

Release

Album『Coral』
2024年3月6日(水)発売 3300円
UICZ-4664
ユニバーサルミュージック

《収録曲》
01. Favorite Phrase
02. 人魚の恋~風になって~
03. Keep On“Keeping On” (Duet Version) (辛島美登里&永井真理子)
04. 3months~止まった地球(ほし)~
05. 逢いたくて
06. シロツメクサ (辛島美登里&永井真理子)
07. エスポワール
08. 卒業記念日
09. 日常
10. 忘れないで
11. [BONUS TRACK] 最後の手紙 (Studio Live Version)

LP『colorful』(初回生産限定盤)
2024年4月24日(水)発売 4730円
UPJY-9423
ユニバーサルミュージック

《収録曲》
Side A
01. サイレント・イヴ(colorful version)
02. つよく、つよく・・・
03. 蛍
04. シアワセノイロ~家族になりたい~

Side-B
01. 毒
02. ハロウィン過ぎたら
03. あなたは知らない(colorful version)
04. 手をつなごう~ひとりぼっちじゃない~(colorful version)

Profile

からしまみどり…鹿児島県出身。奈良女子大学在学中に制作した「雨の日」で、『第26回ヤマハポピュラーソングコンテストグランプリ』を受賞。大学卒業後に本格的な作曲活動を開始し、永井真理子はじめ多くのシンガーへの楽曲提供をスタートさせた。そして89 年 6 月にシングル「時間旅行」でアーティストデビューを果たすと、翌年にリリースした「サイレント・イヴ」が大ヒット。その後95年に発表した「愛すること」は、『第37回日本レコード大賞』の作詞賞を受賞した。近年は、リクエスト曲を中心に構成される夏の『夕涼みコンサート』や絵本をモチーフにしたオリジナル脚本の音楽劇&クリスマスコンサート『冬の絵本』をはじめ、飾らないトークが好評の『トーク&ライブ』、中西圭三・中西保志・澤田知可子・杉山清貴と開催している『AR40 メモリーコンサート』など、多彩なスタイルのコンサートを行う。一方で地元鹿児島の観光大使や、2020年かごしま国体イメージソング「ゆめ~KIBAIYANSE~」の作詞・作曲・歌唱を担当したり、多数の校歌を提供を行うなど、故郷の活性化や児童の育成にも携わっている。 また、エフエム世田谷にてオンエア中の『アフタヌーンパラダイス』(毎週月~木曜・13:00~、金曜16:00~)の火曜パーソナリティを担当するなど、多方面にわたって活躍を続けている。

辛島美登里 オフィシャルサイト
https://karashimamidori.bitfan.id/


Live

辛島美登里 35th Concert Tour 2024 ~Coral 35~

【愛知公演】
▼3月30日(土)
Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール

Pick Up!!

【兵庫公演】

チケット発売中 Pコード:252-765
▼4月13日(土) 17:00
兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール
一般-8000円(指定)
[ゲスト]永井真理子
※未就学児童は入場不可。
※高校生以下は当日4000円をキャッシュバックいたします。公演当日、会場に設置される「キャッシュバック受付」にて年齢を確認できる身分証をご提示ください。必ずご本人様が窓口までお越しください。年齢が確認できない身分証または身分証をお忘れになられた場合はキャッシュバックの対象外とさせていただきます。また、身分証のコピーや写真は対応致しかねます。なお、キャッシュバックはチケットに記載の公演日の開場時間のみ対応させていただきますので予めご了承ください。
※販売期間中は1人4枚まで。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

【東京公演】
▼4月27日(土)
きゅりあん(品川区立総合区民会館) 大ホール

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