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「今回は来てくれた方のための編成であり、
アレンジメントなので、本当に楽しみにしていてほしいです」
地元・大阪でのライブを控えた世界的ギタリスト、
Ichika Nitoにインタビュー!

2020年にイギリスのギター雑誌「トータル・ギター」の読者が選ぶ「史上最も偉大なギタリスト100選」で「今世界で最もホットなギタリスト」として第8位にランクインした世界的ギタリスト、Ichika Nito。タッピングなどを駆使した唯一無二のギタースタイル、美しい音色、メタルで培われたテクニックから生み出される独創的な音楽は海外でも高く評価され、ジョン・ペトルーシ(ドリーム・シアター)ら世界的ギタリストをはじめ、世界的アーティストからも絶大な支持を受けている。昨年には東京で行われたCHANELの『2022/23年メティエダール コレクション』のオープニングに出演し楽曲を披露。ギタリストとして幅広く活動している。世界中から熱視線を集め、各国を飛び回っている彼が、4月に大阪と東京でライブを開催。今回、ギターを始めたきっかけや、海外との違い、そして押尾コータロー氏をゲストに招いて行う地元・大阪でのライブ『Ichika Nito Live “season 1 osaka ver i-1”』について話を聞いた。

メタル音楽で培われた現在のプレイスタイル



――Ichikaさんがギターを始めたきっかけはなんだったんですか?

「お父さんがメタラーで、ギターとベースを持っていたんですよ。僕自身、3歳の頃からピアノを始めて、ピアノから音楽に入ったんですけど、中学生くらいの時にちょっと興味がわいて、まずは弦の少ないベースから始めたんですね。何の曲を弾こうかなと思ったときに、お父さんの部屋に敷き詰められていたCDの中から適当に選んで聴いたのがアイアン・メイデンの1stアルバムだったんですよ。そのインストをベースで練習し始めたのが弦楽器の始まりで、だんだんと物足りないというか、コードも弾きたくなってギターに移行した感じです」

――弦楽器を始めてから聴いて練習していたのはメタル。クリアトーンで作られた美しい旋律が印象的なIchikaさんの楽曲からは想像できません。

「そうですね。ただ、ジャンルとしては逆になりますけど、テクニカルな部分や、メカニカルな構築というか音の配列みたいなのはメタル譲りみたいなところがあるかなと思います。実をいうと、自分に近いプレーヤーの曲を練習するみたいなことは1度もなくて。もちろん、いろんなジャンルの音楽を勉強するんですけど、好んで練習するのはメタルばかりで。ヘヴィメタルから始まり、テクニカルデスメタル、プログレッシブメタルなど、そういった音楽のカバーばかりをやっているうちに、今のプレイスタイルも培われたのかなと思います」

――メタルから今の音楽スタイルになるきっかけは何があったのでしょう

「もともとピアノ1つ、楽器1つで完結できる音楽にすごい憧れがあって。ピアノは坂本龍一さん然り数々のプレーヤーがいて、有名な曲や本当に素晴らしい楽曲を生み出されているじゃないですか。それに対して、エレキギターでそういった活動をしてる方ってピアノと比べてあまりいないなと思い、自分がエレキギターでそうなりたいと思ったのが今の音楽スタイルのきっかけです。音に関しては、メタルって音が歪むから、今の自分のプレイみたいにコードを弾くとどうにも音が濁って分離しないというか、ギター1本で聴かせるにはメタルの歪み感ではダメだと思ったんですね。そこで、"ゲイン"という歪の量を調整するつまみがあるんですけど、その値をどんどん下げていくうちに音がどんどんクリーンになっていって、結果ゼロが一番いいじゃんって思って。歪んでいないピュアな音でコードを弾いたりしていくと、すごく自分のやりたかった音になるし、この音で音楽を作っていくとギター1本でも聴けるんじゃないか、ってなって今に至ります。だから、僕の曲をバラしてゲインを上げたらメタルになるんですよ(笑)。ジャンルが遠いようで、実はつまみ1つをいじるだけで変わってしまうぐらい、音楽性自体は(メタルと)けっこう近しいところがあるんですよ」

――なるほど。ちなみに、メタルを聴いていてバンドを組もうとはなりませんでした

「高校の時とかはメタルのバンドを組んだりはしていたんですけどね。それよりもソロでやって、1人でやりたいことをやるための練習だったり、研究に費やそうと思って」

――さっきの音の話ではないですが、追及する、研究するのは好きな方ですか?

「そうですね。大学でもウイルスの研究をしていたんですよ。ウイルスってだいたい人に仇をなすものって言われていますけど、そのウイルスのDNA、遺伝子を組み替えて人の役に立つオリジナルウイルスを作ることで、がん細胞を殺せるんじゃないかっていう研究をしていたんですね。研究をするうえで仮設を立てて考察までいくというプロセスや考え方、根気だったりが今のスタイルを作るにあたって役立ったんじゃないかなって思っています」

――ウイルス研究からなぜミュージシャンに??

「研究ばっかりやっているとバイトもできないし、時間もなくて。当時、家の事情もあって両親の援助が見込めなかったので、なんとかせなあかんけど、それどころじゃなかったんですね。研究以外の空いた時間で、寝る時間を削ってなんとか音楽を作ったりしていたなかで、とりあえず1回形にして、配信してみようかなと思って曲をリリースしたんですよ。そしたらそれがたまたまiTunesの総合ランキングのトップ10に入って。当時は事務所にも入ってなかったわけですから、その収入があった時に音楽で食べていけるじゃんって思って。だから、大学院の入学式が終わって、次に初めて学校に行く日に教室に行かず、事務局に行って退学届けを出して、音楽1本にしたっていう流れなんですよ」

――大学の人もびっくりしていたのでは?

「びっくりしていましたね(笑)。そもそも音楽で生計を立てるなんて考えは一切なくて。普通に働きながら、趣味で音楽をやっていけばいいなっていう気持ちだったんですけど、メインの収入源になるじゃんってなって、そこで一気に考えが変わりました(笑)」

――人生、何が起きるか分からないですね(笑)。今では世界的なギタリストとして活躍されているわけですが、公式のYouTubeチャンネルを見ると海外の方のコメントが多い印象があります。やはり海外のほうが反響は大きいですか?

「始めた当初から今に至るまでそうですね。ファンの全体のうちの6割がアメリカからで、残りの4割のうちの2割が日本を除くアジア、2割弱がヨーロッパ、残りが日本みたいな感じです」

――海外のほうがインスト音楽に対する土壌があるのでしょうか?

「そもそも歌のない音楽、インスト音楽に馴染みがあるのは日本よりもアメリカだったりヨーロッパだったりで、日本はどっちかっていうと音楽は嗜好品になっているかなって思っていて。宗教や文化の根ざし方によって違うと思うんですけど、海外だとキリスト教を筆頭に教会だったり、本当に生まれた時から音楽に触れる機会が日本より圧倒的に多いと思うんですね。よくアメリカに仕事で行くんですけど、サンタモニカとかを歩いていると、街中でも家族でドラムを外で叩いていたり、いろんなところでみんな演奏しているんですよ。音楽に対するとらえ方が"衣食住音楽"というか、それくらい日本に比べると音楽が身近なもので。だからこそ歌がなくても馴染みがあるというか。日本だとどうしても歌がないと音楽としてとらえられない人が多いと思うので、そういう意味では、自分の活動が歌のないインスト音楽だからこそ、自然とそういう国に広がっていったのかなって思っています」

――曲を作るうえで大事にしていること、込めている思いも教えてください。

「さっきの文化の話に近くなってくるんですけど、音楽での感情の揺り起こしみたいなものを求めています。どういうことかというと、僕、3歳の時にビル・エヴァンスの『ワルツ・フォー・デビイ』っていう曲を聴いた時にすごく悲しくなったんですよね。でも、3歳の時って、別にそういった感情になることを何も経験していなくて。そういう悲しくなる、嬉しくなるという感情は後天的なものが多いと思っているんですけど、何の体験も経験もない当時3歳の自分が『ワルツ・フォー・デビイ』の旋律、音を聴いて悲しくなるっていうのは、シンプルに音楽だけの力なんじゃないかなって大学くらいの時に思って。そう思った時から今に至るまで、本当に音楽だけの力で自分の望んだ方向に聴いてくれた人、聴いた人の感情を傾けさせるような、そういった力のある音楽をギター1本で作りたいっていうのが変わらないテーマ、目指していることであります」

――それを目指す中でやりがいや、難しさを感じることは?

「ありますね。例えば、ジブリの音楽、久石譲さんの作るメロディーって、やっぱりこう、なんだか切なかったり、ノスタルジックってよく言われるじゃないですか。自分もそう感じるんですけど、あのメロディーでそう感じるのは日本人だからこその感情の動き方らしくて。自分もジブリや、坂本龍一さん、久石譲さんが本当に大好きで、あの2人の曲にすごくノスタルジーを感じるから、そこにインスパイアされたメロディーとかもあるんですね。でも、動画を出してコメントを見ていると、ある国の人は日本人と同じような感じ方をするけど、別の国の人は僕らが中東音楽とかを聴いてエキゾチックだと感じるみたいにジャパニーズ・エキゾチックに感じるらしくて。だから、ある国の人にとってはノスタルジーどころか、ホットみたいな感じらしいので、そういうのを見るたびに難しいなって思っています。この曲を聴いてノスタルジーを感じてほしいと思ってもなかなか自分が望んだ通りにはいかないので。だから、まずは国ごとのルーツとか文化、宗教を一回理解しなきゃいけないなと思って。もちろん長い時間の掛かる話ですけど、ゆっくり勉強していこうかなっていうところです」

――国によってとらえ方が違ったりするなど、いろいろと面白いですね。では改めて、曲を聴くうえで、こういうことを感じてほしいとこはありますか?

「まずはインスト音楽にどれだけ精通しているかによって聴き方が変わってくるかなと思っていますが、いろんな人に僕の曲を聴いてほしいと思っているからこそ、ちょっと工夫がしてあって。歌はないんですけど、メロディーがけっこう豊かというか、ちゃんと旋律が真ん中にあるので、インスト音楽に慣れていない人はまずは旋律を意識して聴いてもらえるとすっと入ってくるかなと思います。ある程度、インスト音楽に馴染みのある方は、メロディーの先にある工夫にぜひ耳を傾けてもらいたいなと。ピアノだと音の揺れとかはあんまり表現できないんですけど、ギターは押さえるポイントだったり、スライドすることで音と音が滑らかにつながることができたり、音の揺れを表現できたり、さらにはパーカッシブなことができてギターならではのリズムの作り方ができているから、『これをギター1本でやっているんだ』とか、ギターから出ている音、ギターである意義みたいなことをポイント、ポイントから感じてもらえるといいなと思っています」



日本公演ならではの特別な編成ライブに!



――実際に演奏を聴ける機会として、4月5日に森ノ宮ピロティホールでワンマンライブが開催されます。地元なんですよね?

「はい。地元中の地元です(笑)。日本でライブをやること自体少ないのに、地元の大阪でライブができるっていうのは変な気分です(笑)」

――しかも、今回はゲストに押尾コータローさんが出演されるとのこと。この経緯は?

「押尾さんってそもそも僕が今のスタイルに行き着くにあたり、参考にさせて頂いたギタリストの一人でもあって。そういう意味では僕にとっての日本のギタリストのレジェンドみたいな人なので、お会いしたことはなかったんですけど、この機会に押尾さんに声をかけてみようってコンタクトを取ったら引き受けてくださって。交流はなかったんですけど僕のことを知ってくださっていたみたいで、本当にありがたいです。すごく楽しみなんですよね」

――その楽しみな大阪公演。どういうライブにしたいですか?

「今回は僕一人だけじゃなくて、押尾さんもそうなんですけど、小オーケストラ編成でいこうと思っていて。バイオリン、チェロ、ピアノ、ドラムスで自分の曲をより拡張してみんなに聴いてもらいたいっていうライブになっています。これも音源化する予定はなくて、本当に今回来てくれた方のための編成であり、アレンジメントなので、本当に楽しみにしていてほしいなと思います」

――小オーケストラ編成の構想はずっとあったんですか?

「去年も海外に行って20何か国ぐらい回ったんですけど、僕のスタイルはギター1本でできるから1人で回って行くんですよ。お客さんが盛り上がってくれるからいいんですけど、たまにちょっと寂しくなるんですよね。だから、せっかく日本でやるんだったら日本のアーティストとか、みんなでやりたいなっていう気持ちが生まれてこうなりました」

――加えて、みんなでライブをやることでまた曲も違うテイストで届けられる、という。

「そうです」

――言える範囲でけっこうなのですが、たくさんの曲がある中でこのあたりをチェックしておくといいよというのはありますか?

「サブスクにあるランキング順の上から聴いてもらえれば(笑)。有名どころを聴いておいてください。それを聴いておいて、当日はどういう風に変わったのか楽しんでもらえれば」

――ありがとうございます(笑)。ちなみに、お客さんの層はどういう感じですか?

「大体、男女半々くらいで年齢層もすごいきれいにばらけていて、あんまり偏っていないんですよね。海外はギターキッズの割合が日本よりも圧倒的に多いからだと思うんですけど、海外でライブをすると8割9割が男性です(笑)。ギタリストの男性ばかりみたいな(笑)。それが日本だときれいにばらけているから面白いです。海外だと割と子どもを連れて来てくれる方もいたりするので、家族連れの方にも来てほしいですね。ギターのイメージって今もまだ割と若干ステレオタイプなところあるから、こんなに変わったギターを弾くライブに来てくれたら、観に来てくれた子供たちにとっても『こういうのがあるんだ!』みたいになると思うので。子どもが多くのものに触れるなかで、選び方も増えれば増えるほどいいと思うから、その選択肢の1個になれればいいなと思っていますし、子どもが興味を持つ何かのきっかけになってくれたらいいですよね」

――では最後にライブを楽しみにしている方々へのメッセージもお願いします

「今回、オーケストラ編成で演奏するので、元の曲からどれだけ進化したのかというような違いもより感じてほしいですね。そこが聴きどころになると思うから、来てくださる方はぜひ僕の曲を聴いて予習して来ていただけると本当に楽しめると思うので、よろしくお願いします」

Text by 金子 裕希(YU-KI KANEKO)




(2024年3月28日更新)


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Profile

Ichika Nito(イチカニト)…動画投稿をきっかけにインターネットでセンセーションを巻き起こし、インスタグラムは約100万人、YouTubeのチャンネル登録者数は200万人以上を誇るなど、世界で注目を集めているギタリスト。2017年1月に初のミニアルバム『forn』を配信リリースして以降、精力的に数々の楽曲を発表し、世界中でライブを開催してきた。2018年3月より、ゲスの極み乙女。川谷絵音らと共にichikoro、また2021年3月に結成された、前職・ぼくのりりっくのぼうよみのたなか、トラックメイカー/シンガーソングライターのササノマリイと共に3ピースバンド、Diosのギタリストとしても活動中。

Official Site
https://ichikanito.com/ja

Live

「Ichika Nito Live "season 1 osaka ver i-1"」

PICK UP!!

【大阪公演】

▼4月5日(金) 19:00
森ノ宮ピロティホール
全席指定-6800円
[ゲスト]押尾コータロー
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション■0570-200-888

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Ichika Nitoライブ「season1 tokyo ver i-1」

【東京公演】
▼4月7日(日) EX THEATER ROPPONGI

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