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Bialystocksインタビュー
生と死を描く映画とその先にある
別ベクトルのアルバムを経て初のツアーヘ旅立つ

映画監督としても活動する甫木元空(vo)とピアニストでもある菊池剛(key)から成るBialystocksが、2022年11月30日にメジャー第一弾となるアルバム『Quicksand』をリリース。さらに甫木元が監督を務め、Bialystocksが音楽を担当した映画『はだかのゆめ』も同年11月25日より全国で順次公開され、2023年1月21日(土)からは初のライブハウスツアー「Bialystocks “Quicksand” Tour 2023」が幕を開ける。そんな多忙な二人が前回の取材から約8か月、ぴあ関西版WEBに再び登場。映画のこと、アルバムのこと、ツアーのこと、時間の許す限り質問に答えてもらった。

――まずは映画『はだかのゆめ』について。その舞台は甫木元さんのお母様の故郷・高知県で自叙伝的な作品ですね。

甫木元「一作目の映画(2016年公開の『はるねこ』)も(自身の)地元・埼玉県越生町で撮りまして、次も自分のルーツで撮れたらなって。高知には祖父が住んでいて、小さいころの夏休みや冬休みには必ず行く場所。自分の原風景は埼玉と高知ですね。一番鮮明な記憶が残る、その風景の中で映画が撮りたいと思って移住して脚本を書き始めました」

――移住までする原動力は何ですか?

甫木元「自分の根底ある風景や場所をちゃんと知りたいっていうのがあって、祖父と母親ぐらいしか自分のルーツを知る人もいないので、それを残したいっていうことが一つ原動力かなと。それは映画のテーマになっている生と死みたいなものとも直結すると思います」

――映画には甫木元さんのおじい様も出演していますが、ドキュメンタリーではなくファンタジーのような作品にした理由は?

甫木元「(映画制作の)始まりは祖父の言うことを書き起こして(それをもとに)小説を書くところからで、そこにはインタビューみたいなものもそのままあるわけです。それを脚本にして映画にする時、映画でしかできないことは何だろう? 文字ではできないことは何だろう⁇って考えて言葉にできない感情や時間の流れを映像にできたらなと。それで、役者さんがいて、祖父も出てきて、(登場人物の)4人は同じ場所にいるけど、すれ違いながら違う時間軸で生きているような設定に。普通の映画なら(この映画の)終わりが物語の始まりというか、、物語と物語のすき間を今回は映画にしたいっていうのがありました」

――そして映画の音楽はBialystocksとして担当。山、川、海といった大自然の中で緩やかに進む映画と音楽のバランスはどのように考えましたか?

甫木元「菊池に音楽がのってない状態で見てもらった時、‟別に音楽はいらないんじゃないか"みたいな話になり、音楽より環境音ぐらいの方がいいのかなって。近所のピアノ教室の音が環境音と混じって聞こえてくるくらいを想定したんですけど、それはそれで狙い過ぎの感じがして、もう環境音と音楽はまったく分離させ、音楽はいわゆる王道の映画音楽のあり方......その場面を少し彩り豊かにするっていうことに。音楽がありつつも、そこまで感情を揺さぶらないように、なるべく音に意識が行き過ぎないようにって考えました」

――菊池さんも撮影現場を訪れ、音楽もそこで作ったりしたんですか?

菊池「音楽は撮影が終わって、甫木元が絵(映画)をある程度固めてからですね。しかもここにどういう曲を入れたいっていうのも先に出してくれてっていう感じです」

――お二人も少しだけ出演されていますね。高知県を訪れたことは音楽に影響していますか?

菊池「そうですね。行っているのと行っていないのでは、ちょっと質感が違うかもしれないです。もし高知に行かないで作ったら、もっと音楽に遊びを入れていたかもしれないと思います」

――その理由は?

菊池「(高知は)すごく静かで東京付近の山とは違う......何ていうんですかね、高知の山は東京の山とは違う質感というか......東京の山って湿度の高い森みたいな気がするんですよね。逆に長野とかはカラッとして明るいようなイメージなんですけど、高知は......どっちでもない感じ(笑)?」

甫木元「どうなんだ(笑)?」

菊池「太陽が近い感じみたいな」

甫木元「(高知の山は)標高が高いわけじゃないんですけどね」

菊池「基本的に特色のない山が永遠に続いている感じ。その虚無感......虚無感はダメな言葉ですけど(ダメな意味ではなく)、見ていても登りたいって思わせない感じ。僕、山が好きなんですけど、長野とかだとかっこいい山が見えて登りたいってなるんです。でも高知の山の中にいると、ここに座っていようって気になるんですよね。ただあるっていう感じなんです」

――何の変哲もない山の風景に触れたから、奇をてらわず不要な遊びを入れなかったということですかね。では次に新作『Quicksand』の話へ。実は勝手に映画のサウンドトラック的な作品なのかな?と予想したのですが、違いました。

甫木元「アルバムはアルバムでいいかなと。あまり先入観を持ってアルバム(制作)に入るのもよくないかなっていうので、今回もテーマは決めず、いつもどおり二人でデモ曲を持ち寄ってメロディが引っかかったものを選んで作りながら、少しポップな曲があった方がいいかなとか、シンプルにしてもいいかもねって他の曲とのバランスを探りつつっていうのが(サウンドトラック的になっていない理由に)ありますね。あと個人的には映画に寄り過ぎず、(映画と)真逆を向くくらいの方がおもしろいかなと思ってました」

――静かな映画と比べて、そして前作のEP『Tide Pool』と比べて熱量が高めな感じがしました。4曲目の『あくびのカーブ』や7曲目の『Winter』などはライブが楽しみになります。

菊池「個人的にはドラムを叩きまくる音楽とかが好きだし、前回のEPがたまたま少しテンション低めな感じだっただけで、特に心境に変化があったわけでもなく感覚的には通常営業ですね」

甫木元「前回が特にダウナーだったわけではないですけど(笑)、だた同じことはやらないようにしようって。あと『あくびのカーブ』は"せーの!"で(セッション的に)録ったので。でも意図して前回と変えようっていうのは考えてなくて、そのまま地続きです」

――では映画で流れた二つの曲のことも。5曲目の『ただで太った人生』と9曲目の『はだかのゆめ』ですが、『ただで太った人生』は映画にも出演している前野健太さんとの曲。でも"前野さん節"は控えめな感じです。

甫木元「毎回、菊池が編曲の方向性を決めてくれるんですが、これも最初のデモはいわゆる想像するような(前野健太らしい)フォーク感のある感じで上がってきたので、そこから方向性を高知県の田舎からアメリカンな方へ(笑)。それで印象も変わったと思います」

――そして映画のラストに流れるのが主題歌『はだかのゆめ』。この曲は割と表現がダイレクトな気が。以前の取材で直接的表現はあまりしないという話を聞いたので意外でした。

甫木元「これは脚本を書きながら作っていたんですけど、最初エンディングの曲としてはちょっとクサいかなと感じてて。でもそれは録ってから決めればいいかくらいにして、菊池がストリングスのアレンジのイメージがあるっていう話だったから、ストリングスが映画の中でどうなるんだろう?って考えつつ、映画で言葉にできない部分をやりたい(音楽にしたい)ってなって、ある種、直接的に音楽を一回作ってみようというので映画と音楽を行き来するうち、ああいう表現になったんです」

――ストリングスで曲がくっきりする分、言葉もダイレクトに?

甫木元「ストリングどうこうで歌詞の内容が決まったというよりは、脚本は余白が多い分、音楽はより直接的にと。個人的には、エンドロールでそこからちょっと切り替わってほしいなと思ってます」

――そんな区切り的な『はだかのゆめ』ではなく、『雨宿り』がアルバム最後の曲なのが少し不思議です。

甫木元「これ(『はだかのゆめ』)で終わってもおもしろくないなって。映画はあれで終わるとして、アルバムは別物でその先を描けたらいいなと思ったんです。ま、歌詞だけですけど、何かが終わって始まりを予感させた先で何かが起こるという感じですね」

――そんなアルバムの先、2023年1月からは「Bialystocks "Quicksand" Tour 2023」が。ちなみに2022年10月には東京の大手町三井ホールで初ワンマンもあり、次は初ライブハウスツアーです。

甫木元「会場の規模が大きくなったりお客さんが増えたりしても、その場所でしかできないことや、来てくれた人たちとの一回性みたいなものは大事にしたいなって。見ている視線の数の分、集中して聴いてもらっているのも感じるので、今はまだコロナで大きなリアクションはないですけど、もっといいキャッチボールができるようになればいいなと思います」

――それでは最後に今後の目標を教えてください。

菊池「元々スキルがないところからバンドを始めたんですけど、最近音楽的スキルが前より上がってきた感じがすごくするので、そろそろ自分がめちゃくちゃに、永遠に、納得できるものを作りたいですね」

甫木元「2022年はアウトプットの年だったなと。まずはツアーを着実に成功させて、インプットをして次なるアウトプットの準備ができるようにしたいですね」

Text by 服田昌子




(2023年1月26日更新)


Check

Release

Album『Quicksand』
発売中

【初回限定盤】(CD+Blu-ray)
4950円(税込)
PCCA.06165

【通常盤】(CD)
2970円(税込)
PCCA.06166

《CD収録曲》
01. 朝靄
02. 灯台
03. 日々の手触り
04. あくびのカーブ
05. ただで太った人生
06. Upon You
07. Winter
08. 差し色(テレビ東京系ドラマ25『先生のおとりよせ』EDテーマ)
09. はだかのゆめ(映画「はだかのゆめ」主題歌)
10. 雨宿り

《Blu-ray収録内容》
Bialystocks 第一回単独公演 於:大手町三井ホール 2022年10月2日
01. All Too Soon
02. 花束
03. またたき
04. Emptyman
05. 光のあと
06. フーテン
07. コーラ・バナナ・ミュージック
08. あいもかわらず
09. Winter
10. ごはん
11. Thank You
12. I Don’t Have a Pen
13. Over Now
14. 差し色
15. Nevermore
16. 日々の手触り
17. 夜よ

https://bialystocks.lnk.to/2ndAL_CD

『ビアリストックス』(LPレコード)
2023年1月25日(水)発売
3850円(税込) PCJA.00112

《Side A》
01. 花束
02. I Don’t Have A Pen
03. ごはん
04. またたき

《Side B》
01. コーラ・バナナ・ミュージック
02. Thank You
03. 夜よ
04. Nevermore

https://lnk.to/Bialystocks_LP

『TIDE POOL』(LPレコード)
2023年1月25日(水)発売
3080円(税込) PCJA.00113

《Side A》
01. Over Now
02. All Too Soon
03. フーテン

《Side B》
01. 光のあと
02. あいもかわらず

https://lnk.to/Bialystocks_LP

Profile

甫木元空(ほきもとそら・vo)、菊池剛(きくちごう・key)から成るバンド。2019年、甫木元の監督作品で、青山真治プロデュースの映画「はるねこ」の生演奏上映をきっかけに結成。ソウルフルかつ伸びやかな声で歌われるフォーキーで温かみのあるメロディと、ジャズをベースにしながら自由にジャンルを往来する楽器の組み合わせは、普遍的であると同時に先鋭的と評される。2021年には1stアルバム「ビアリストックス」を発表し、収録曲「I Don't Have a Pen」はNTTドコモが展開する「Quadratic Playground」のWEB CMソングに決定。2022年4月には初の書き下ろしドラマ主題歌として「差し色」がテレビ東京系ドラマ25「先生のおとりよせ」のエンディングテーマに起用される。また同年10月には初ワンマンライブ「第一回単独公演 於:大手町三井ホール」を開催し、即日ソールドアウトを達成。さらに同年11月30日には2枚目のフルアルバム「Quicksand」でPONYCANYON/IRORI Recordsよりメジャーデビューを果たし、2023年1月21日(土)からは同作を掲げて東名阪をめぐる、初めてのライブハウスツアー「Bialystocks “Quicksand” Tour 2023」へ乗り出す。

Bialystocks オフィシャルサイト
https://bialystocks.com/


Movie Data

(C)PONY CANYON

『はだかのゆめ』

☆追加上映
▼1月26日(木)・27日(金) 19:30~
シネ・ヌーヴォ
http://www.cinenouveau.com/
出演:青木柚/唯野未歩子/前野健太/甫木元尊英
監督・脚本・編集:甫木元空
音楽:Bialystocks

【公式サイト】
https://hadakanoyume.com/


Live

Bialystocks Tour 2023
※Sold Out!!

【大阪公演】
Bialystocks(5人編成)
▼1月21日(土) 18:00
Shangri-La
スタンディング-4000円(ドリンク代別途要)
※未就学児童は入場不可。
[問]キョードーインフォメーション
■0570-200-888

【愛知公演】
Bialystocks(5人編成)
▼1月22日(日) TOKUZO

【東京公演】
Bialystocks(7人編成)
▼2月18日(土) LIQUIDROOM