9mmらしさがより強く、より深く、よりピュアに表出した 3年ぶり9枚目の新作『TIGHTROPE』について語った 9mm Parabellum Bullet菅原卓郎&滝 善充インタビュー
「俺たち、今かなりストロングだからね」。1時間に及ぶインタビューの中で菅原卓郎がサラリと放ったその一言がとても強く印象に残っている。9mm Parabellum Bulletの9枚目のアルバム『TIGHTROPE』がいよいよ8月24日にリリースされる。すでに発売されている『白夜の日々』や『泡沫』を含む全10曲。前作『DEEP BLUE』が発売された2019年とは世界が一変する中でどのように制作が進められていったのか、ソングライターコンビでもある菅原卓郎と滝 善充にじっくり話を訊いた。‘17年には、滝が腕の不調からライブ活動を一時休止せざるを得ない危機を乗り越え7thアルバム『BABEL』が制作された。今作の制作途上においてはコロナ禍を避けて通ることはできず、その辺りについても語ってくれている。そうして完成に漕ぎ着けた新作『TIGHTROPE』には、現時点での彼らのディスコグラフィの中で最高の強度を誇ると言っても差し支えない『BABEL』を凌ぐほどの屈強さ、重厚さを垣間見ることができる。とともに、バンドの持つ抒情性や透明感が凛々しいまでに高められた瞬間にも出会うことができる。また、アルバムの最後を飾る『煙の街』は、これまで9mmを愛聴してきたファンにとっても驚きの出会いとなるに違いない1曲で、滝の言葉を借りれば「これをやれるバンドはおそらく9mmしかいない」。今年の9mmの日である9月9日(金)Zepp Osaka Baysideを皮切りに待望のリリースツアーもスタートする。
『One More Time』をライブでやれて、悪かった空気は完全に吹っ切れました
――前作『DEEP BLUE』(2019年)から3年ぶりの新作です。前作を作られた時とは世界が変わっている中でどんなふうに制作されましたか?
滝 善充 「そろそろ作ろうかなという気持ちで生活している時に新型コロナウイルスが日本にも入ってきて、それによって私は実家の茨城に逃げ帰って行ったりとかして」
菅原卓郎 「実家に自分の作業場があるからね」
滝 「はい。そのスタジオでできたものをみんなに投げるというやり方で作り始めていて。でもその後の世の中の変化を見ていて結構へこんできちゃって、一回作曲の工程を止めちゃって。だめだ、パワーが出ないなって」
――そうなんですね。
滝 「それまでに『白夜の日々』(M-4)と『泡沫』(M-9)ができていて。そのあと世の中も少しずつ落ち着いてきて…、それでついにそろそろアルバムを作ろうとなって。それから曲を作ったんだっけ?」
菅原 「曲はそれまでに滝が作っていた中から選んだのもあるし、そこから新しく作ったものもあるし。『白夜の日々』と『泡沫』、それと『One More Time』(M-2)も2019年の時点で作っていて、『白夜の日々』はもともとはツアーのチケットにCDとして付けるつもりだったけど、ツアーができないから曲を先にみんなに聴いてもらおうということで2020年9月にリリースして。同じように『泡沫』は去年のツアーに付ける曲として呼び出してきて。去年のツアーは一昨年のリベンジツアーみたいな形で、当初のコンセプトを変えて、アルバム『BABEL』とインディー時代の作品の再現ライブにしようということで。それに『泡沫』がすごくしっくりきたんですね。コロナ禍で、ちょっともうどうにもなんねえなっていう心情も曲調に反映されていたりもするし」
滝 「そうだね」
菅原 「そのツアーが7月に終わって、9月9日のKT Zepp Yokohamaのライブで『One More Time』の原型を披露して。曲は今とまったく同じなんだけど、歌詞が違っていて。前はそういうことをよくやってたんですよ。曲はできてるから歌詞は間に合わせのままライブでまずやってみよう、みたいに。その時の歌詞がいい感じだったら採用するし、やっぱ違うなって思ったら書き直そうっていう感じで」
滝 「そうそう。9月9日に新しい曲をやれて、進んだぞ感があったことがよかった」
菅原 「2020年は同じ会場で無観客でライブをやって、去年は同じ場所でお客さんを入れて新曲もできて。1年でこうなったねって目に見える形でね。さっきもニュースで感染者が増えているって報道されてたけど、昨秋の時点では、今まで俺たち2年ぐらい我慢したり頑張ってきたけど、そろそろ世界中のみんなが“楽しい”っていう気分で盛り上がってもいいよね、という感じでしたね。そういう時に『One More Time』を聴いて欲しかったし、そこが突破口というか。9月9日のライブでやったことが今回のアルバム制作の最初のとっかかりになっているんじゃないですかね」
VIDEO
――そういう経過があったんですね。
滝 「感染者が減ったことで規制もちょっと緩和されてたから、元気な曲もできるぞってタイミングでしたね。2年ぐらい寝かせてたけど、ついにこの曲をやるタイミングが来たぞって。それから他の曲もガンガン作っていって」
菅原 「それで、来年はアルバムを出そうって2021年の年末になる頃に話しながら何曲か見繕っていって、滝はまた新しく作曲に入っていって。今年の年始からちょっとずつ作業を始めていきましたね」
――今回も全曲滝さんの作曲、菅原さんの作詞という体制で。
滝 「自分でガツンと作りたいなという気持ちがあったし、曲を出せるようなテンションじゃないなみたいな状況を自分の力で振り切れるものが欲しかった。『One more Time』の原型をライブでやってからはめちゃくちゃ集中することができて、そこから5、6曲ぐらいアレンジを終わらせて、それで悪かった空気は完全に吹っ切れました。そこまでやらないと進めなかったかなというところもありましたね」
――菅原さんは以前、歌詞を書く時に滝さんの曲に導かれて言葉が出てくることもあると話されてましたが、去年の秋以降に滝さんから投げられてきた曲にそれまでとの違いみたいなものはありましたか?
菅原 「とりわけ、コロナ禍が収まってきたぞということに対しての勢いというより、作曲するのに胸のつかえがないっていう勢いの曲のクオリティだと思うんですね。僕もそうですけど、滝も置かれている状況をそのまま反映するというより、そこをある程度無視して作っていって、後になって“あ、あの時のあれが出てるね”って感じのタイプだと思うんですね。ある程度無視するパワーも必要で」
――なるほど。
菅原 「だから、曲に対しては素直に反応して書いている感じですね。イキのいい曲がきたらイメージも湧きやすいし、滝自身が手応えを持っている曲だったら、滝の方から“これは元気な曲だから”とか抽象的なイメージだったり具体的なイメージだったり織り交ぜながらヒントがあったりするので」
滝 「そうやってイメージを話すことも年々増えてきましたね」
菅原 「アレンジもそう。曲に関して迷っていて“こうしようかな、ああしようかな”っていうのと、歌詞について迷って“こういうことかな”ってなっているのを、同じぐらいの取扱方で話せている気がしますね。歌詞と曲は違うものだけど、同じ仕組みで書いてるんじゃないかなと思う時はありますね」
――今作は1分台、2分台の曲も何曲かあって作品全体としてもタイトですが、できあがってみたらそうなっていた?
滝 「ふだんイントロから作っていきますけど、イントロを作った時に、この曲は3分以内だなって漠然とした目標もあって。その中をきれいに割っていくと構成が自然と見えてきたりして」
――1曲目の『Hourglass』も約2分半ですがそうやって作られた?
滝 「そうですね。最初に、この曲は2分半かな、みたいなのもあって。『Hourglass』はイントロのクリーンなギターを外して2分半ですけど、曲が速すぎるのでこれにバランスをとって長くしようと思うと静かなパートをくっつけることになっちゃうんですが、それは別にいらないなって。だったらズバッと、これは速い曲でした!と終わる方が私も気持ちよくアウトプットできるなって」
VIDEO
――『All We Need Is Summer Day』(M-3)も?
滝 「はい。『Hourglass』とほぼ同時に作って、曲の長さも同じ2分半ぐらいで、すっごく暗い曲と明るい曲で、最初から対になるような曲じゃないかなと思っていて。構成は違う割り振りで組みましたけど、そういうところも対になることを気にして、同じような勢いで聴かせたい。それが9mmっぽいかなって」
VIDEO
――そういう、この2曲は対になっているというやりとりは2人の中で最初にするんですか?
菅原 「試聴会みたいなのをやったんだよね」
滝 「そう。いつもは家で作ったものを投げるだけなんですけど、今回は卓郎に来てもらって“できている曲はこんな感じです”と」
菅原 「まさに今インタビューしているような感じで、ミーティングするみたいにメモとか取りながら。“この曲はこういう感じだね”とか、聴かせてくれる前に滝の方から“ちょっとこういうところを迷っているんだけど、どう思う?”とかあると、“迷ってて自信ないって言うけど、これはいいと思うからやりたい”とかそういう話をしながら。対称だねって気づくというより一個一個の曲に対して、この曲はすごくクオリティがあるねとか、この曲はすごくいいけどたしかに迷っていると言ってる通り、ちょっと寝かせておいたらいいのかもねとか。案外そういう曲も、何年か経って改めて聴いたら何も直すところはなくて、そのまま採用されたりするんですけどね」
滝 「その時その時のモードだよね」
菅原 「そう。たとえば『タイトロープ』(M-7)だったら、あれは『Hourglass』と違っていろんなセクションがあることで完成している曲で、曲を成立させるために静かなところがあったり、1回しか出てこないコーラスがあったりもして」
滝 「その曲に必要なら入れるからね」
――コーラスといえば『One More Time』の最後の「永遠を~」のところのコーラスがすごくいいですね。
菅原 「最高ですよね」
滝 「すごいボリュームで入ってるところですね。追っかけコーラスみたいなのをやりたいなと思って、やってみると面白くてハマっちゃって他の曲でも2、3個ぐらいこういう追っかけコーラスを入れていて」
菅原 「コーラスを録る時に検証して、ここは追っかけられるんじゃないかな?じゃあ追っかけられるものは追っかけようと。本人的にはこれが聴きたくて待っているというか、曲を最後まで聴いたご褒美だと思ってますね(笑)。それとこの曲には歌詞に仕掛けがしてあって、あいうえお作文になっているんですよ」
――え? あ、本当だ! 最後の<あくまでも飽き足らない いくらでも食らいなさい 裏切りもたまにはいい 永遠を望むのもいい 大人気のない君がいい>の頭文字があいうえおになっている。
菅原 「言わないときっと誰も気づかないだろうから、インタビューシーズンに入ったら言わなきゃって。そういう遊びもあります。そこまでにもあいうえお作文の予兆があって、そもそも書き始めた時に“あ、い、うで書き始めよう”って書き出して、じゃあここからは“え”と“お”にしようって。言葉を引っ張ってくるというより、意外と向こうからやってくるんですよ」
9mmは今、かなりストロングだから
――『All We Need Is Summer Day』は音の広がりやボーカルのエフェクトの作用というんでしょうか、とても開放的でスカッとする曲で。
菅原 「ポカリスウエットみたいな清涼飲料感ですよね」
滝 「コーラスとかボーカルもエフェクターで清涼感のある感じにして。いわゆる夏っぽいといわれる音作りをしました」
――たしかにビールをプシュッとやるのとは違った、清涼飲料水感ですね。この曲に『白夜の日々』が続きますが、2020年にこの曲がリリースされた時は当時の状況とも相まって胸にグッと迫る感じを受けましたが、アルバムでは冒頭3曲に続く流れのまま爆音で聴きたくなりますね。
菅原 「そうですね。リリースした時は2020年の4月とか5月ぐらいの気分を歌詞に書いていたし、あの頃新しいのはこれしか聴くものがない中で受け止めるから、センチメンタルなところもあるでしょうね。ただ2年前に録ったから、音作りの好みが変わってきているところもあって。俺たち今かなりストロングだからね。2年前よりもストロングだから、『白夜の日々』もパワーアップして聴こえるようにしたいねとは話していましたね」
滝 「少しだけ、後で録り直したものをさらに派手に音を作ってみたりして。ただ、この曲自体は当時は元気な曲だと思って出したけど、アルバムに入ってみて、ここまでバキバキな曲が前に続くとちょっとアンニュイな曲なんだなっていうのをこの曲順にして初めてわかりました(笑)」
――2020年当時にこの曲を聴いた時、この先ライブが行われるのか?ライブに行くことはできるのか?という不安もあった中に光が差すように感じたのもたしかで。今アルバムの中の1曲として聴くと、あの時の感触にさらに爆発力が加わって聴ける仕上がりですね。
菅原 「そうですね。ちょっと前向き寄りで聴ける気がしますね。先が見えないわけじゃないなって。完璧に元通りになることはないわけで、そこを目指そうとすると進んでいけないこともあるから、やれることをやろうと。バンドでツアーをしていると、各地で“また来るよ!”って言うんだけど、果たせない約束だけどんどん増やしていってしまってるなって気持ちもあって。これを歌うことで、“また来るよ!”って言った人たちに“忘れてないよ”っていうのが伝わったらいいなと思ってますね。そういうところも、押し出し強く聴かせるわけではないところと関係あるかなとは思います」
――『淡雪』(M-5)『Tear』(M-6)と続く2曲で、『淡雪』は一見バラードのおとなしそうな曲に聴こえますが実はそうでもなくて。『淡雪』から立ちのぼる情景や、この曲の持つ抒情性が川端康成的というか、『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』(『雪国』)のような世界で。
滝 「風景的なものと、楽器系を駆使した結果の奥行きみたいなものが合うんでしょうね」
菅原 「そうだね。心理描写とね」
――この曲も試聴会の時点でできていたんですか?
菅原 「できてましたね。音像もこういう感じで、それをより強調していってリバーブ感というかエコーをいたるところにかけて」
滝 「できたときにすごくいい曲だなと思ってたんだけど、当時は元気な曲を書きたくて書けないみたいに悩んでたから、この曲をもっと派手に派手にしようって頑張ったりして結構迷ってましたね。でも最終的にちょいストロングぐらいに落ち着いて(笑)。爽やかな曲かなと思ったけど、録り終わって聴き直してみたら結構ラウド系でしたね。爆音というより轟音という感じでしょうか」
――ですね。分厚い音の壁も抒情味を掻き立てるというんでしょうか。この曲も滝さんの曲から導かれて歌詞を書かれました?
菅原 「そうですね。1番のサビが終わって、ギターでメロディを弾いているところがあるんですけど、そのテンテンテンテン♪ってところが、“あー、雪降ってるな”って」
滝 「おお」
菅原 「ただ9mmのこういう抒情的な曲だとわりと雪を降らせがちなので、ただ降らせると同じになっちゃうから、季節はいつなのかとかどんな雪なのか、なんで降っているのか…を考えて。僕、山形出身なんですけど、雪の季節が終わって5月頃になってからパッと一瞬雪が降ったりすることがあって。それはなぜかというと、本当は言いたいことがあったんだけど、言えない代わりに雪になって降ってくる――ってことがあったらすごくロマンチックだなって。曲にも合うなと思ったので、それをそのまま大事に全編に乗せました」
滝 「…いいですねえ」
――いいですねえ。そして桜も歌詞に登場しています。
菅原 「そう。桜が咲き始めているぐらいの時季に聴くと沁みるなあって」
滝 「夏にリリースですが(笑)」
菅原 「そう。ただこのアイディアを思いついた時に、長く聴いてもらえるんじゃないかなって」
滝 「いいよいいよ。それのおかげで曲の優しいところが出て、心地よいところに落ち着いて。ぜひ某有名麦焼酎のCMに使って欲しいですね。岩の上に麦焼酎の瓶が置いてある映像とともに流れるとか(笑)」
菅原 「合うだろうね。それこそ雪が降ってる映像に、“――僕の気持ちでした”みたいなコピーがついたりして(笑)。歌詞に敬語を入れるのはこっそり得意技なんですよ」
――これまでにも敬語調の歌詞はありますね。ただポップな一面もあって、さっき滝さんが曲の優しいところが出ていると言われましたが、そういうところなのかなとも思います。
滝 「そうですね。80sの日本のポップスのようなフォークのような感じというか。昭和歌謡まではいかないんですけど」
――また『淡雪』の後に『Tear』へ続く流れが素晴らしくて。
滝 「『淡雪』は真っ当な曲ですけど、『Tear』はかなり展開が尖っていて真逆といえば真逆ですね。短くて、プログレッシブで」
――重みもあります。それと『Tear』の歌詞は、言葉数の少なさや筆致的にも歌の詞としてだけじゃなく、詩として成立しているようにも受け取れます。
菅原 「そうですね。俳句に近いなって。滝の曲って、いろいろ詰め込んである曲もあれば音数を絞っている曲もあって。これは絞っている方の曲で、事前に“あんまり言葉を入れられないよ”とは聞いていて。俳句とか短歌って、最初から最後まで全部を書かなくても感じたところだけ入っていればいいから、その部分を逃さないように。歌詞を書いた達成感でいえば『淡雪』とか『One More Time』の方がものすごく手応えがあるし、『Tear』だと書ききれないというか、どうしても入りきらないところがあるけど、意外とこういう方が想像力を刺激されるんじゃないかなって」
滝 「そうですね。詩の世界がね」
菅原 「曲の激しさの中に歌も隠れていて、そういうふうに捉えてもらったらいいなって。ハードコアな状態のまま聴く人の中に入ってほしいなというのもあって」
滝 「この曲は『BABEL』期の曲ですね。『BABEL』と同じタイミングで作っていて、でも尖りすぎているから『BABEL』に入れなかったぐらい」
――歌詞の余白と、この曲だからこそのぶっ壊れ感が相まっていて。作られた当初から、あまり言葉が入らないような構成だったんですか?
滝 「いや、その時はもうちょっとメロも地味で。でもやっぱりハードコアっぽい感じで、言葉は入るのかな?って感じでした。2分もない短い曲ですが、奥行きが出ましたし他の曲より音数が多いんですね」
――7曲目の『タイトロープ』はアルバムタイトル曲で、雑な言い方ですがアラブっぽいギターも気持ちよくて。そのゆらゆらしたギターの音や、綱渡り的な不安定な世界の現状が歌詞のベースになっているように感じましたが。
菅原 「『タイトロープ』の歌詞は、ゲームをしようぜと言っている人がいて、それと自分の生き方が重なっていて…というキャラクターのストーリーですね。書いていてタイトロープって言葉が出てきたので、それはアルバムのタイトルにいいかもしれないと思って。アルバムのタイトルとして込めているのは、危機的な状況に対して僕たちはどうやって立ち向かっていくのか?というところを言ってるけど、曲の方はその危機的な状況の中の危ないところを楽しんでいる寓話的な話として書いていますね。言ってしまえば『賭博黙示録 カイジ』とかそういう感じ」
――なるほど。
菅原 「これは歌詞が大変で、歌う直前まで書いてましたね」
滝 「前日まですごく話し合ってああだこうだアイディアを出し合ってましたね」
菅原 「それでもできないもんだから、これはやり方が間違っているのかもしれないって。次の日、歌入れの直前までまだ書いていて、最後に書いたものを“こういうことじゃないでしょうか?”って滝に見せたら…」
滝 「これです!って(笑)。それで録り始めて、録りながら語尾をちょこちょこと変えてみたり、それもまたギリギリな感じがして良かったんじゃないでしょうか」
菅原 「ほんとにタイトロープだったね(笑)。かなり頼りにして、アイディアをもらって書いていましたね。曲のアレンジをしている時もそんな感じで、“ここは歪んでる方がいいんじゃないか”とか、“ここは細かいフレーズの方がいいんじゃない?”ってやっていることの逆というか」
滝 「私の場合はお題がある中で思いついたらアイディアを投げるけど、組み立ててバランスを取るのは卓郎なんで、とにかく投げまくっていればいいという感じで。ただ作詞者、作曲者しかわからない世界もあるので、そこは信頼の中でやっています」
アルバムを聴いてライブに来てほしい
こんな当たり前のことをやっと当たり前に言える
――滝さんが曲を作る時は、“こういう歌詞が乗るのかな?”ということは考えないで作っている?
滝 「ある時とない時があって。ある時は、曲を作り始めてイントロとかAメロに入ったあたりで情景がバーッと出てきて。なので、それを説明します。昔だったら『Black Market Blues』がそうで、赤道近くの夜の闇市みたいなところで~とか。そこにあるクラブで凶悪な低音が鳴っていて、みたいなイメージがありました。今作だと『煙の街』(M-10)は細かく情景が浮かんでいたので、それを解説しましたね」
菅原 「すごかったよね。カメラワークとか、煙突から煙がもくもく出ていて~とかかなり細かかったね」
――『煙の街』はアルバムの最後を飾るかなり衝撃的な曲ですが、滝さんの中にそんな具体的なイメージがあったんですね。
菅原 「そう。滝の中にあるイメージを聞いて、じゃあそれってどういうことなんだろうってひとしきり考えてたんですけど、煙が止まらない街というのが実際にあって。そういう現実にあるもののイメージでもあるし、コンビナートがあるスモークだらけの場所を“煙の街”と表現することもあるみたいだし、いろいろ考えてみてサビのメロディーに煙の街って乗るから、“こういうふうにしたんだけど”って見せたら」
滝 「こういうことです!と(笑)」
菅原 「滝のイメージを聞きながらも、最初は煙の街というところから離れてイメージを模索していたんだけど、そのまま書けばいいんだなって。そういうやり方をするのが近道なんだなって。そのままを書くことにビビらなくなってきたんだよね。チープなイメージなんじゃないかとか、より複雑な方がいいんじゃないかとか、うんちくがありそうな方がいいんじゃないかと思いがちなんだけど、サビでバーンって曲のイメージが広がる&決定づけるような言葉が乗っている力強さに惹かれるというか。そっちの快感の方が音楽と一体化した時にすごくパワーがあるなというふうに今はなっていますね」
滝 「うん。そのままやってもらってよかったですね。そのままじゃない時もいくらでもありますから」
――歌詞ももちろんそうなんですが、『煙の街』の曲の手触りがとにかく衝撃で。最初の一音から、一体何が始まったんだろうって。
滝 「昭和な感じでね」
菅原 「カラオケかな?っていうね」
――こう、うらぶれた小路を入っていったところにある、寂しい居酒屋のようなクラブのような場所でこの歌が歌われている…という画が見えるようです。
滝 「本当にそういう感じです。私が描いていた、表現したかった昭和の世界というか。カラオケエコーみたいなのをかけて録りたかったから思いっきりカラオケエコーかけたしね」
――昭和のブルースというんでしょうか。9曲目の『泡沫』の重さを引きずったままこの曲を聴くことで、どっぷりとこの曲の世界に浸かるというか。歌詞の言葉の重々しさも沁みます。
滝 「そうですね。拍子も似ているし、ひと続きの曲のように聴こえますね。ただ『泡沫』は2020年に原型があったものですが、『煙の街』は超最新です。意欲作です」
――たしかに意欲作であり新基軸というか。作りながら“これはみんな驚くんじゃないかな”みたいな思いがよぎりませんでしたか?
滝 「最初は驚かれるかもしれないけど、作りながらみんなが普通に演奏している姿は想像できたので、いけるなと。しかもこれをやれるバンドはおそらく9mmしかいない。という自信もあってあんまり悩むこともなく一息で書きましたね」
――菅原さん、『煙の街』を最初に聴いた時はいかがでした?
菅原 「これはいいなと思いましたね。本当はこういうのもやりたいよねというリストが心の中にあったとしたら、その中の一つだよね。サビの後に激しいパートがくるとか、そこにはメロディーがないとか。それがより曲のイメージを深めていると思うし、煙の街の重々しさがあるからこそ、そこにちょっと希望のある言葉が入ってきた時に、それがより光って感じられる。そういうところもいいなと思いますね」
滝 「最後に1か所だけ明るいコードを入れていて、そこに希望的なことが入るといいなというのは話してましたね。狙いどころですね。“茜色に~”のところです」
――『泡沫』も、『白夜の日々』同様アルバムの中の1曲として聴くと感触が違いました。こんなにも重厚で、聴いているうちにまるで両足に重い鎖がついたみたいに身動き取れなくなるような曲だったかなと。
滝 「重たい感じと『泡沫』も歌謡曲的なところもありますね。だんだん歌謡曲になっていくというか。サビはさっぱりしたメロディーだけどAメロBメロはねっとりしていて、それってハードコアっぽい感じだし歌謡って感じもいいと思うんですよね。歌謡の世界になってくると9mmの独壇場だと思っているので(笑)、これはやっちゃっていいなって」
――菅原さんのソロ作品はいかにもその歌謡の世界ですが、滝さんの中にも歌謡の要素がある?
滝 「それがまったくないんですよ。さっぱりなくて、卓郎にそういうのがあるんじゃないかって勝手に思い込んで作っているという」
菅原 「実際、素養があるしね(笑)」
滝 「フォークとかも全然詳しくないんですが、子どもの頃になにかしら触れていてそれが残っているのかな。美空ひばりとか、あとはラジオを聴いたりとか」
菅原 「俺もそうだよ。親が聴いてた世代だからその刷り込みもある。だからか、『煙の街』はバンドとかギターを弾いて歌う人じゃなく、ハンドマイクで歌ってる人が目に浮かびますね。前川清さんとか」
滝 「ここは~ 煙の街~(とマイクを持って歌うまね)」
――『煙の街』はとてつもなく9mmならではというか、こういった曲を叩きつけられるバンドが果たして他にいるのか、と。
滝 「いませんね。『煙の街』はしてやったりですし、みんなここまでやる度胸はあるまい、と」
――これまでのどのアルバムにもない感触と余韻が残ります。さっき今の9mmはストロングであると言われていましたが、これまでにない作品を作り上げたことも強さの表れでしょうか。
菅原 「そうですね。『煙の街』はアルバムのどこに置くか、僕らの中で選択肢は限られていて」
滝 「前半に置くと重すぎるよって。卓郎は最後がいいって言っていたけど、最後でも重すぎるから7、8曲目ぐらいじゃないのかなとも思ったんですが、いろいろ話しているうちにこうなりました」
菅原 「別の選択肢で『Hourglass』を最後にするとか、それだとわりと9mmらしいねって。ただ『Hourglass』は1曲目のイメージが最初から滝にあったからそれはトップに据えて。と考えると最後だねって。『煙の街』みたいな曲は誰もやらないし、誰がやっても得にならないと思うんですよ(笑)」
滝 「そうね。こういう曲を真面目に作ることはしないよね」
菅原 「けど俺たちがやった場合はすごくプラスに働くなって。ヘヴィさでいえば1曲目と10曲目の2曲はつながっていて、ここから1曲目に戻ってくることを考えた時にもすごくいいと思う。楽しいだけとか悲しいだけとかじゃなく、いろんなフェーズがあることを感じながら聴けるんじゃないかなと思っています」
――ダークな色あいが濃い曲もあれば、鮮やかな『All We Need Is Summer Day』のような曲もあり、個々の色がはっきりとしたとても色とりどりなアルバムで。ところで先行リリースされたインストゥルメンタル曲『Spirit Explosion』(M-8)も、2020年に配信リリースされたインスト曲『Blazing Souls』『Burning Blood』も熱い曲でした。この曲についてもお聞きしたくて。
滝 「新日本プロレスからテーマソングのオファーをいただいて。うちらも活動が思うようにできなくて、どうしようかなって悩んでるような時にその話をもらったこともあって、すごく元気をいただいたし、めちゃくちゃやる気でね。すごくいっぱい曲作っちゃって(笑)」
VIDEO
菅原 「5~6曲あったね。実際に『Blazing Souls』が新日本プロレス最強決定リーグ戦『G1 CLIMAX 30』テーマソングに使われたしね」
滝 「そう。だからこのコロナの時期の、プロレスにすごく元気をもらったこの時期の思い出として『Spirit Explosion』をアルバムに入れておきたいなって」
――アルバム1枚全部そういう曲が聴きたいんですが、インストアルバムを作る予定はないですか?
菅原 「サントラみたいな感じになると思うので、楽しいだろうという予想はつきますね」
滝 「えー、あのインストアルバムは出す予定はないですけど、テーマソングを作ってくれと言われたら作ります。…まあ2枚組で2枚目をそれにするとかだったら……」
菅原 「それは熱いね」
――ぜひ検討してください。アルバムを携えたツアー『Walk a Tightrope Tour』が9月9日(金)Zepp Osaka Baysideから始まります。いよいよリリースツアーですね。
菅原 「9月9日のライブは今回は配信をやらないで、由緒正しいレコ発のスタイルでやります。アルバムを聴いてもらって、この曲をどういうふうにやるのかな?って楽しみにしながら来てほしいし、そういうツアーの始まり方にしたくてリリースとツアー初日の間隔を空けています。アルバムを聴いてからライブに来てほしいっていう意志表明ですね」
――配信の良さも重々承知ですが、やはりその場で生で音楽を聴く醍醐味は他にも変え難いですね。大袈裟でなく“このために生きてた”と感じる瞬間があって。
菅原 「演奏する側としても、ちょっとずつみんながリアクションできることが増えてきているとエネルギーの出し甲斐があるっていうかね」
滝 「そう。熱量的なものも自然と出てきちゃいますね」
――今作がちょうど9枚目のアルバムであることにもめぐり合わせを感じます。
菅原 「コロナの真っ最中に“何かやらなきゃ”って去年とか一昨年に慌てて出すんじゃなくて、自分たちのペースとか、滝の作曲のペースを大事にしながら、心とか体の動きに逆らって活動するんじゃなくあくまでも自然と、今なら自分たちも盛り上がれるなというところに従ってアルバムを出すことができましたね。それが、これまで活動してきた道のりの1つのゴールと考えてもいい形だなと思うし、こうしてやっていけばいいじゃんと思える。そこに対しては正直にありたいですね。逆らうんじゃなく、動きがあるならそれに乗ってパワーを出していく。そういうやり方がいいのかなと」
――最後に、ツアーを楽しみにしている皆さんに一言お願いします。
菅原 「月並みですけど、アルバムを聴いてライブに来てほしい。こんな当たり前のことをやっと当たり前に言えますね。アルバムを聴いてライブに来てくださいってことを本当に伝えたいですね」
滝 「そう。聴いてもらえればもらえるほど、うちらが何をやろうとしているのか伝わりやすくなるというか。たくさん聴いてもらって、アルバムを体に染み込ませて会場に来ていただいたら、見ている皆さんも私たちもより楽しめる気がします」
――わかりました。『煙の街』がライブでどんなふうに聴けるのか楽しみです。
菅原 「ですよね。カラオケで歌ったりして(笑)」
Text by 梶原有紀子
(2022年8月24日更新)
Check