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柳井"871"貢インタビュー
【第18回】仕事っていったい何だろう?①

柳井“871”貢(やないみつぎ)。株式会社ヒップランドミュージックコーポレーションの執行役員及びMASH A&Rの副社長として、「THE ORAL CIGARETTES」など全6組のマネジメントを担当する傍ら、近年は独自に「#871ンスタライブ」「#871さんに質問」など、SNS/noteを中心に主に音楽業界を志望する若者に向けて継続的に発信を続けている。

そんな彼が、自身の仕事やひいては生きる上でのキーワードに掲げる”No Border”とは?境界にこだわらず働き、壁を作らず人と関わり、越境して生きていく、そんな871流「NoBorder的思考」を紐解いていく。

――新卒社会人の皆さんもようやく仕事に慣れてきた頃かと。最初の悩みとしてよく聞くのは、人間関係の問題と、どこまでが仕事でどこまでがプライベートなのかの線引きが難しいという点です。
 
871:ルールで労働と休暇を明確に分けられる仕事はおそらく代用が効く仕事しか残っていないのではないかと思いますけどね。例えば休みの日に付き合いのゴルフコンペに行くのは仕事なのかどうか、とか、夜の先輩との飲みはちょっとグレーだな、とか、休日の取引先のメールはアウトみたいに、線を引くことはなかなかできないんじゃないでしょうか。たぶんそういったルールの限界はもうきているような気がしていて。もう少し経営者脳で、というか、重要なのは楽しめてやれているかどうかだと思うんですよね。
 
――やらされてるっていう意識だと何をやってもしんどいですもんね。少しでも自分でやろうという気持ちが持てたら楽になるのにな、とは思います。会社とプライベートという壁を自ら設けることで、仕事が壁の向こう側になって、途端に自分との距離ができてしまうような。
 
871:休日はもちろん休んでもいいんです。けどこれはグレーだなっていうことはたくさんあって、それでも休みは休みだからとルールを盾に取るような形で休んでしまうことは、後々自分に返ってくる。要するに、そうした仕事に対する向き合い方では給料は上がらないし、もしかしたら仕事のやりがいを感じられず早々に会社を去ることになるかもしれない。でもそれを正直に伝えたらハラスメントなんですよね(笑)。
 
――たぶん(笑)。
 
871:それも含めて、僕が最近思うのは、大学に行くのって正しいのか?っていうこと。もちろん高等教育自体を否定するものではないんですけど、ここが日本の大学のあり方の奇妙なところで、大学というところが就職準備機関みたいになっているということですよね。しかも実践的なことが学べるかと言えばそうではなく、どこか働く側の権利意識だけが偏った形で植え付けられる場所になっていないかな?っていうのは最近の就活生を見ていてすごく感じるところですね。やれあそこはブラック企業だからとか、休みがきっちり取れる、とか、その会社で何ができるということよりも、その会社に入ったらどれだけ自分のプライベートが保証できるかということに視点がずれてしまっているように思えます。そう考えたら、ライブハウスの方がよっぽど世の中の仕組みをダイレクトに経験できる場所だなと思いますね。ノルマがあって、30人呼んだらチャージバック30%でいくらかもらえて、それをリハーサルにかかった費用とか、それを差っ引いた売り上げとしてメンバーと分けるとか。Tシャツを100枚作るのに原価が15万円かかるけど、1枚3000円で売り切ったら差し引き15万円の利益が出るとか、そういうことを自らが生き残っていくために考えて経験できるんですよね。で、単純にチケットが捌けたとか物販が売れたって言っていますが、それは要するに自分たちの作った価値――音楽やパフォーマンス、物販のデザインといったものが受け入れられたことによって得られた対価ですから。初めから自分たちが主体的に生み出さなければそこから何も発生しないんですよね。その実感を持てているかどうかっていうことが社会で働く上ではとても大事なことだと思います。
 
――そうですね。
 
871会社って、そこにいさえすれば毎月給料がもらえるところっていう、大袈裟に言えばそれくらいぼんやりした感覚で就職してしまったら、そりゃあ見えるものは自分しかないかもねってことになりますよね。アルバイトでも何でも、コストと売り上げの関係というのは意識的でありさえすればだんだん見えてくるものですから、就活必勝法みたいなものを丸暗記するくらいだったら主体的に働くということを考えた方がよっぽど企業の採用担当者には響くでしょうね。
 
――「仕事=会社」という意識は、「勉強=学校」の意識と何ら変わりませんよね。場所だけがあって働く主体がそこにないというか。
 
871:僕は部下に「先生」って呼ばれて大笑いしたことがありましたよ。小学校の頃に教師のことを思わず「お母さん」って言ってしまうのと同じ感覚で、会社の上司のことを「先生」と呼んでしまったと。
 
――871さんが新卒の採用において重視しているポイントはどこですか? ってなんかこの質問、就活サイトみたいになってるけど(笑)。まあ流れで。
 
871:(笑)。やっぱり商売感覚がちゃんとあるかどうかですね。さっきのコストと売り上げ感覚で物事を捉えているかっていうことをこちらも探ろうとはするんですけど……なかなか面接だけでは難しいですね。

Text by 谷岡正浩



(2022年8月26日更新)


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Profile

871 - 柳井貢(やないみつぎ)

1981年生まれ 大阪・堺市出身。
HIP LAND MUSIC CORPORATIONの執行役員及びMASH A&Rの副社長として、bonobos(蔡忠浩ソロ含む)、DENIMS、THE ORAL CIGARETTES、LAMP IN TERREN、Saucy Dog、ユレニワなどのマネジメントを主に担当。

これまで「Love sofa」、「下北沢 SOUND CRUISING」など数多くのイベント制作に携わる傍、音楽を起点に市民の移住定住促進を図るプロジェクト「MUSICIAN IN RESIDENCE 豊岡」への参加や、リアルタイムでのライブ配信の枠組み「#オンラインライブハウス_仮」の立ち上げに加え、貴重な演奏と楽曲をアーカイブし未来に贈るチャンネル&レーベル「LIFE OF MUSIC」としての取り組みなども行っている。

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連載「No Border的思考のススメ
~ミュージシャンマネジメント871の場合~」