これからの活躍にも多大なる期待を!
若手アーティスト4組が集結した
『STYLE PARK』@なんばHatchライブレポート
これからの音楽シーンを担う、若手アーティストらにスポットを当てたイベント『STYLE PARK』が11月6日(土)に大阪・なんばHatchで開催された。「今日が初ライブです」と語るMyukをはじめAnonymouz、HONEBONE、そしてオープニングアクトにSean Oshimaというフレッシュな4組が出演。 大阪でも屈指の大バコライブハウスでの開催ながら、1組1組の歌の力が驚くほど至近距離から感じることができる一夜となった。その模様をお届けしたい。
「こんな大きなステージは人生で初めてです!」。オープニングアクトは、オーストラリアと日本をルーツに持つシンガーソングライター・Sean Oshima(ショーン オオシマ)が、サックスを含めた5人編成のバンドスタイルで登場。疾走感のある爽やかなサウンドにたっぷりとエフェクトをかけたボーカル&サックスの音色がアーバンな雰囲気を演出した「ラブソングはいらない−No More Love Song−」から始まり、どこか懐かしさも感じられるカントリーポップソング「LAの道を−Load of LA−」など全4曲を披露。大きなステージのセンターで飛び跳ねながらギターを鳴らし歌う彼の姿が音を奏でる面白さを体現していたのはもちろん、面白かったのはバンドのグルーヴ感。メンバーそれぞれが骨太な音を鳴らしながら、バンドとしての一体感を魅せてくれる。まるでガレージに持ち寄った楽器で思う存分セッションしている5人を見ているような感覚は、心の底からワクワクすることができた。
本編1組目としてステージに上がったのは、ボーカルのEMILYとアコースティックギターのKAWAGUCHIによるフォークデュオ・HONEBONE(ホネボーン)だ。大阪でも屈指の大きさを誇るなんばHatchのステージにボーカルとギターがたったふたり、究極にミニマムなライブになる予感が漂う。「どうもこんばんはHONEBONEでございます! 2階席も1階席もありがとう!」とEMILY。1曲目のミュージシャンの悲哀を歌った「バンドマン」、大好きな飲食店への愛を叫んだ「オムニマッ」、そして2人のMCまでを見て頭に浮かんだ言葉は“まるでギター漫談”。自分の人生に起こること良し悪し選ばず日本語で生々しく歌い上げるEMILYと、全てをさらけ出す歌詞にがっちり寄り添うKAWAGUCHIのギター。それに加えて、曲で表現する以上によく喋る2人のMCが加わればもはや芸の域。NGKでもライブできそうなふたりだなあとの思いをよそに、恐ろしく人の心をえぐるようなメッセージ性の強烈な曲が始まる。その独特な詞の表現は刺さるではなく、えぐる。それが正しい気がする。セットリストからも曲の内容が少し想像できるかもしれないが、実際に聴くと想像以上に心をえぐってくる。中でも「生きるの疲れた」のインパクトはエグいとしか言いようがなかった。
生々しい世界を歌いながら、どこかふたりは飄々と、しかし自由だった。今のライブハウスでできる最大限のやりとりをお客さんと楽しんだり、広いステージを生かしてステージにゴロンしながら歌ったり。終盤EMILYが「リスタート」で突如放ったアカペラでのどこまでも伸びる歌声は、心が震えるほどゾクゾクした。HONEBONE、次は距離感のめちゃめちゃ近いバーや飲食店で、ビールを飲みながらライブを見ることができたら面白い。そんな思いにさせてくれるふたりだった。
続いてステージに登場したのはAnonymouz(アノニムーズ)。洋邦問わず人気の楽曲を、独自解釈した英語詞を制作して歌ったカヴァー動画で圧倒的な人気を得た彼女。公式HPのABOUTページを見ても、『ある日突然自分の名前を失った少女…。絶望や落胆の中、彼女は旅に出た。曲がりくねった道中にも小さな幸せがあった。Anonymouz-名前のない女の子。彼女は本当の名前を探して、歌を歌う。』と書かれるのみで、顔出しもしていない。そんな謎に包まれたアーティストは、大阪初ライブをギター&チェロの伊藤ハルトシ、キーボードの渡辺シュンスケを含めた3人編成でライブをスタートさせた(なんとこの日が初めての大阪訪問だったそうで、楽屋に差し入れされた堂島ロールを公演後に食べるのが楽しみだと語っていた)。この日は彼女のアーティスト性がそのままタイトルになっている「No NAME」から幻想的なメロディーと世界観のオリジナル曲3曲を披露。ステージ上には力強く歌声を届けるAnonymouzの姿があるけれど、ステージ奥からの強いバックライトを浴びている彼女の表情は、客席からだと逆光になっていて読み取ることはできない。これまでも自身のビジュアルを公表してきていない、今のところ公表予定はないAnonymouzらしいのライブの見せ方なのだと思う。
「Anonymouzです、よろしくお願いします。今日は私を初めて見る人も多いと思います。みなさんのお顔はしっかり見えていますので、みんなで一緒に楽しんでいけたら嬉しいです」。歌声通り甘い声でのMCは初々しく、これからのアーティストという印象を受けたが、歌い出すとそのイメージが吹っ飛んでいく。ギターとキーボードが紡ぎ出すメロディーに、とてつもない歌唱力(そして英語の発音がとても美しい!)で歌声が乗っていくと、急に目の前が開けていくようだった。物語を見せてくれるような表現力とでも言うだろうか。この日はAnonymouzの真骨頂とも言えるVaundyの「東京フラッシュ」やRADWINPSの「そっけない」の英語詞カヴァー、オリジナル曲「Eyes」も含めて全10曲を歌い上げた。歌はもちろん、今後またどんなライブを作り上げていくのか、全てを曝け出すことなくどんなビジュアルを作り上げていくのか、ひとつひとつが楽しみなアーティストであると感じさせてくれた。
そしてこの日最後のステージを任されたのは、Myuk(ミューク)。元々シンガーソングライターとして活動をしていた熊川みゆの音楽プロジェクトとして今年1月にスタートをきったばかり。コロナ禍だったこともあり、この日が初めてのライブという貴重な一夜だ。ステージにはMyukのほか、大きなグランドピアノとバイオリン・チェロ奏者が1名ずつ。記念すべきファーストライブは、優しいメロディーを奏でるピアノに弦楽器の調べが豊潤に重なっていく「シオン」でスタート。ライブハウスであるなんばHatchではなかかなお目にかかることのできない、クラシカルでアコースティックな演奏がとても新鮮だ。1曲目を歌い上げると挨拶を挟み、フーッと息を吐いた後『11月6日 大阪・なんばHatch 初めて君と出会った日 教えてくれた花の名前 2人の愛と重なった 街に埋もれそうな小さな花』とオリジナル詩の朗読が行われた。そして朗読された詩の世界がそのまま広がる尾崎豊「Forget-me-not」のカヴァー、自らギターを演奏しながら歌い上げた切ない恋の歌「あふれる」、Myukの伸びやかでふわりとした声で優しく会場を包んだ絢香の「みんな空の下」のカヴァーを披露。そして再び詩が朗読される。『星が降る夜 見上げた光 同じ光を映した瞳 君も覚えているだろうか また会える日を 星に願いを』。
そしてその流れをしっかりと受けて、オリジナルソング「星に願いを」を披露する。合間に詩の朗読を挟みこむことで、まるでひとつのショーとして全ての曲を繋いでいるような構成で、1本の物語の中にいるような感覚になってくる。『あの夜をそっと思い出す 今も私を支えてくれるのは 今も私を信じていられるのは 君といた時間も 君といた景色も 幻のように この夜を超えてゆけ』との朗読の後、祈りを綴ったデビュー曲「魔法」で締めくくった。ただシンプルに歌を届けるのではなく、曲前に詩の朗読をすることでこれから歌う曲のイメージを頭に思い描くことができたのはもちろん、その後に続く歌の世界に没入できる展開がとても斬新だった。目の前に映像があるわけではないのに、なんとなく映像が浮かび上がってそこにMyukの歌声が乗ってくる。そしてそのままキラキラと光る世界に連れ出してもらったような、豊かな30分間だった。
今回の『STYLE PARK』は四者四様、多彩な音楽性を存分に“魅せる”ライブを届けてくれた。また世の中が順調に元の状況へと戻っていけば、また違うライブハウスで、ホールで、また野外でなどいろいろな場所で曲を披露していくことになるのだろう。彼らがどんな音楽を奏でていくのか、期待して見守っていきたい。
取材・文:桃井麻依子
写真:渡邉一生
(2021年11月30日更新)
Check