「今のフロアとテンションが一緒になりたい。
そう考えて、ゆらゆら揺れて聴ける方向にシフトしていった」
1年振りのニューアルバム『HiGNOTIQE』をリリース&
前作『ZOZQ』との合併ツアー『HiGNOTIQE + ZOZQ tour』が
開催! 髭の須藤寿(vo&g)インタビュー
2023年に迎える活動20周年を視野に入れて、マイペースに進化し続けるオルタナティヴなロックバンド、髭。11月10日に届いたニューアルバム『HiGNOTIQE(ヒグノティク)』はコロナ禍を乗り超える、髭流のロックな催眠療法のように感じた。タイトルはヒプノティク(催眠)とHiGEが合わさった造語とのこと。ロックやポップスの定型に収まることなく、時代のムードを受信して、髭でしか出せない音楽世界へと誘ってゆく。メロウで心地良く、奇妙で刺激的でもある唯一無二の世界…、それは一体どんな発想や思考から生み出されるのか? 今回、11月27日から開催される前作『ZOZQ』との合併ツアー『HiGNOTIQE + ZOZQ tour』を前に、髭の核となる須藤寿(vo&g)にリモート・インタビューを敢行! 物腰柔らかいけど尖った部分もあって、飄々としていて、その奥には謎もある。44歳の須藤寿とバンドの今について、画面越しに不敵な笑みをたたえて揺れながら(笑)たっぷりと語ってくれた。
音と音がトロトロに溶けてるような
アンサンブルの調和をすごく重要視するようになってきた
――今作『HiGNOTIQE』は前作『ZOZQ』とのつながりや関連性は意識して制作されたのですか?
「いや、特に考えてはいないんですけど、制作自体は、前作とかなり地続きになっちゃってて。前作をリリースした頃から、ちょうど世の中が、ライブはできないよねっていうムードになっていたので。『ZOZQ』をリリースする前に、ツアーの開催中止が決定してたんですよ。自分としては残念だなと思ってたんですけど、2021年は少しは(ライブできるように)好転してるはずだから、その時がきたら『ZOZQ』のツアーをしようと思ったんですけど、ライブができない間にもう一枚作っちゃったよっていう、こっち側の姿勢を見せたいなと。だから、『ZOZQ』をリリースする前から、今回の『HiGNOTIQE』の制作が決定してたんですよ」
――へー、それは異例ですよね?
「はい。『ZOZQ』をリリースする前に、今作の一曲目の『Oh Baby』という曲はできてたので。『ZOZQ』の最後の曲『Surfin' JPN』から今回の一曲目の『Oh Baby』は、制作期間でいうとそんなに間は空いてないんです」
――実際、どんな風に曲を作っていったのですか?
「『ZOZQ』を作ってる時に、ちょっとわかったことがあって。そこで掴んでた感覚を今回のアルバム制作にフィードバックしやすかったというのはあるかもしれない。それは音の積み上げ方というか…、特に気にしてたのはアンサンブルなんです。それまで、僕が書いてきたものをバンドメンバーが好きにアレンジしてて。細かいところで音がぶつかってたりもしたんだけど、そこは勢いがある音楽としてOKかなと思ってやってたんです。でも、自分としては、(曲作りで)調和をすごく重要視するようになってきて。言うなれば、とろっとろに溶けたシチューみたいな。ギターとベースとドラムと歌とコーラスワークが、ぶつかることなく、トロトロに溶けてるような状態の音楽がすごく肌に合うようになってきて。そういう音の積み上げを丁寧にやるようになったんです。それが、前作の『ZOZQ』の途中ぐらいからですね。これからは自分が率先してトータルでアレンジメントしていかないといけないなと思って。だから今回の『HiGNOTIQE』は割とトロトロに溶けている感じというか…」
――コロナ禍になってライブがストップしたことで、制作時に今までよりゆとりが持てたということも影響していますか?
「そうですね。ゆっくりと音楽と向き合うことができたので。(ライブができない間に)髭の昔の曲を洗い出してみたり、他の人の曲を聴いて解析してみたりして。初めてと言ってもいいぐらい、ゆっくりと、ああ音楽ってそういう風に作るんすね…みたいな(笑)」
――(笑)。髭を20年近くやってきて。
「今更ながら(笑)。やっと曲の書き方がわかってきたみたいな感じというか…。とはいえ、20代30代の今までの自分を否定してるわけじゃないんですよ。40代になって、ああなるほど、一つわかりました。みたいな感じで。それを全部フィードバックさせたのが今回の『HiGNOTIQE』っていう感じですね」
――ああ、それわかります。『ZOZQ』のラスト3曲が今作に通じる雰囲気ですね?
「そうそうそう! 曲調とかじゃないんですけどね。音の繋ぎ方とか、音の積み上げ方、自分の方法が一つわかってきたというか」
――初期の頃の攻撃的な曲調も刺激的だったんですけど、それとは明らかに違うアプローチで。ここから新しい髭が始まっていくんだろうなと。
「うん、そうそう。だから、曲を作るのがすごく楽しくって。今はとりあえずバッと曲を書いたら一回整えるというか。自分が歌ってるメロディーの主旋律と副旋律となるみんなのアレンジがもっともっと溶け合うように、丁寧にするようになったって感じですね」
――音楽理論を参考にしてより緻密に曲作りをするようになったと?
「ああ、たぶんそうですね。今まで自分としてはそういうことをあまり重要視してなかったんでしょうね。でも、こうするだけでこんなに気持ちいいんだとか、自然とコーラスワークも少し変わってくるし。俺が言いたかったことが、やっとできるようになったなと。要するに、僕が自然にできるメロディラインはどっちかといえば陽気じゃなくて、暗いんです。どっちかといえば不穏で、ぐにゃっとした世界にいて。説明しづらいんですけど、そのツボがわかったというか。なんとも言えない不思議な気持ちになるものが好きで。楽しくもない悲しくもないみたいな…」
――そういう須藤さんの音楽的な感覚を、“ストレンジ”と言われたりもするのでしょうか?
「ああ、そうかもしれないですね。そういうのが好きで、そこがどういうところに隠れているのか、見つけるスピードが早くなったっていう感じで。この1、2年で自分のツボがわかってきたというかね。ここを取れば自分の気持ちいい、うっとりする…みたいなところが…。とは言え、まだまだ、途中っちゃ、途中なんでしょうけどね。『STRAWBERRY ANNIVERSARY』の時とはもう全然違うし、『ZOZQ』の時より、今の方がさらに熟成してきてる気がする…」
今回のアルバムはすごくメロウだけど
ざらっとした不穏な気持ちもすごくある
――そんな今作は『HiGNOTIQE』(ヒグノティク)というタイトルです。これは、“HiGE”と“ヒプノティク”(催眠)が合わさった造語なんですね?
「そうです。“HiGE催眠”」
――制作する時は、“催眠”というテーマで作っていったのですか?
「うん、もうそれしかないです! とろーんとして、自分の言いたいことだけずっと歌詞で言ってて…。たとえば、“それくらいのことさ それくらいのことさ たったそれくらい”(『それくらいのこと』M-2)とか…」
――それは、今のコロナ禍だから、そういう作品を出したかったというのは意識してましたか?
「いや…、そんなことないんですけど。今はこういう感じだなあと思って、それを発信した。そういうムードを受信して、自分のフィルター通して発信したら、こういう音楽になったということで…。もともと、デモ制作はだいたい斉藤くんと一緒に作業してて。休憩の時に、彼のレコードコレクションタイムがあって、その時に割とヒプノティクな音楽がかかってて。そういうのを自然とかっこいいねって受け取っていて、書く曲も彼が聞かせてくれる音楽に影響されてるっていうのはあったかもしれないですね」
――そのへんはやはりバンドメンバーからの影響もあって?
「そうですね。めちゃくちゃ影響されますね」
――“ヒプノティク”というジャンルを教えてくれたのも斉藤さんなんですよね?
「そう! だから、サイケデリックじゃないんだよね~。でもこういうのってあるじゃんって、話ししてたら、“ヒプノティク”かな~?って。あ、それだ!ってなって髭と“ヒプノティク”っていうコンセプトでアルバム一枚作ってみようと。どうせライブでみんなで声あげて騒げないんだし、ゆったりしていいんじゃないって。僕たちもお客さんもぼんやり揺れているだけみたいなのもいいねってなって。すごく創作意欲に火がついたんです。今の時代にヒット曲を作りたいとは思っていないし、髭っていうバンドがこのテーマを決めてコンセプトアルバムを一枚作りました!っていう方が俺は燃えるんですよ。個人的に今回のアルバムはすごくメロウだと思うんですけど、同時にすごくざらついてて不穏な気持ちもすごくあるし。その、ほのかに匂う部分に、誤解なく言えば、いわゆるロックみたいなものが感じられれば、俺の中ではもう十分OKって感じで。(テンポが)早いかゆったりしてるのかっていうのはあまり気にしてなくて、これはバッチリだなと思いますけどね」
――このアルバムは髭流の音楽の催眠療法のようにも感じます。潜在意識に働きかけて、コロナ禍で弱った気持ちが楽になるように暗示するような楽曲だなと。
「ああ、そうですね。だから、聴いてて耳に痛くなくて、いつの間にか、こうふわっと少し気持ちが持ち上がってるみたいな。そんな音楽がいいなと。感情のずれみたいな、悲しくなったり楽しくなったり切なくなったり、なんかわかんないけど、リズム感覚で小躍りしたり…。ちょっと間抜けなメロディラインで少しコミカルな気持ちになったり、ふわっとしてて、ほんのちょっとだけ揺れ動いて、楽になれたらいいなっていう…。それは僕のコンセプトとしては、ずっとあるんですけどね。でも、自分の中にいる危ないものって、あるじゃないですか…。そういうものは相変わらず持ってはいるんだけど、それでわかりやすく人を傷つけたりしたいワケじゃない。でも、それがソフトなものの中に隠れてる方が、面白くなってきちゃったんですよね。それは年齢もあるのかもしれないけど、やったことがない表現方向に走りたくなるから」
いわゆるポップの定型じゃないような構成にしたかった
――今作は全9曲で、インストの表題曲があって、その後の展開として『おうちへおかえり』(M-4)と『思い通りいかないもん』(M-5)がすごく気になるんです。どういう感覚でできたのかなって。
「その2曲は実は制作時期は近くないんですよ。『思い通りいかないもん』は去年のうちに書けてたけど、歌詞だけ難しくて書けなかったんです。他の曲の歌詞は全部即興なんですけど」
――え、そうなんですか?
「曲と歌詞はほぼ全部一緒に書いてたんです。前は楽曲を作って、アレンジが固まって、歌入れする前まで歌詞を決定できなかったんです。まだまだ面白い言葉が出てくるかもしれないみたいな感じで。でも、最近その作り方が、自分的に温度が低いなと思うようになってきちゃって。要するに楽曲ができた時が俺が一番盛り上がってる時だから、その時に作詞もしちゃった方が楽曲の鮮度はいつまでも高いような気がしたんです。だから、僕は割と去年ぐらいから作詞自体はすごく早くしてるんです。『Oh Baby』だったら、“Oh Baby”って歌ってるし、『それくらいのこと』は“それくらいのことさ”、『おうちへおかえり』は“おうちへおかえり”というふうに、楽曲の重要なワードになるものが自然と曲題になってて。仮タイトルがそのまま本タイトルになったというだけで」
――そうなんですね。
「でも、『思い通りいかないもん』は全然歌詞が思いつかなくて…。どんな曲なのかわかんなくてずっと考えてたんですけど。その間に、先に『おうちへおかえり』ができて、作詞も速攻できたから。できる時って、うそみたいにできちゃうんですよ。いわゆるポップの定型じゃない作りにして、自分が今どこにいるのかわかんないような構成にしたかったんです。そんなことを作曲の時は考えていました」
――すごく自由に純粋に楽しみながら作れたと?
「すごい楽しみでしたね。まだ『ZOZQ』が出たばっかりだったので、心に余裕があって、いくらでもゆっくりやっていいワケだから、すごい楽しんでやってましたね」
――なるほど! そんな今作のCD本体にはジャケットやブックレットは付けていませんね。
「今回、アートワークをCDっていう形において、ブックレットとして歌詞やアートワークを入れなかったんです。WEBの方でアートワークを公開してるんで、それをCDについてるQRコードからデータで受け取れるようにしてます。音楽はスマホに入れて常に携帯できると思うんで、歌詞やアートワークも同じスマホに保存してもらえれば、僕の音楽と一緒に携帯できるので。ぜひ僕らの音楽をいつも身近にそばに置いておいて欲しいなと思います」
黙って手をあげてるだけでも
フロアが盛り上がっているのは伝わる
――ところで、コロナ禍になってから、ライブはどんなことを意識してやっていますか?
「ステージ側はできるだけ何も変えないようにしてる。そっちの方がいつも通りできるから。例えば、『テキーラ!テキーラ!』とかプレイする時に間奏で、コール&レスポンスをいつもしてたと思うんだけど、(お客さんの方は)しなくていいよと、(しなくても)気持ちは伝わるから。黙って手をあげてるだけでも伝わるから。こっちはより(今までと)変えないようにしました」
――メンバー間ではどんな話をしましたか?
「とにかくバンドのメンバーの中でも調和が大事だなと。演奏のテンポも走り過ぎたりせず、俺たちとフロアにいるみんなとの調和を目指してたんです。ライブをやる中で、テンポの早いエイトビートの曲を何曲もやってても、なんか白々しいというか(笑)」
――このコロナ禍でライブをする時に?
「うん。観てる人はライブ会場には来てるんだけど、(声を出せない、お互い距離を取っていてあまり動けないなど)制限されていて、こっちが激しく煽っても同じようにはできないから。自分の場合はもっとフロアとテンションが一緒になりたいなと。もっとゆらゆら揺れて…、テンションが合った方がいいなと。だったら、テンポは落としても、腰にくる音楽の方が(一緒に)ライブを楽しめるのかなと。(今は)ぴょんぴょん跳ねたりできないし。だったら、ゆらゆら揺れて聴けるようなライブにシフトしていった方がいいんじゃないかなと。そう考えてるうちに、だんだん作る曲もそういう方向にシフト行きました」
――なるほど。
「自分たちの表現の押し付けにならないようにしたい!っていうのが、今の僕の明確な意図ですね。自己主張はとっくに楽曲と作詞でされてるから、それ以上に過剰にスパイスを振る必要はない。もう何にも考えないで、やる気も起こさなくていいみたいな(笑)。バンドメンバーとはそんな話をしたりしました。盛り上げようとすると、変なアクションが出たりするから、そんなものはいらないなと…。観てる方は盛り上がってないワケじゃないから。良い演奏をした時は、拍手で熱意が伝わるってわかるんです。声が出せないから、すごい一生懸命拍手してくれてる。狂喜乱舞してなかったら盛り上がってないってワケじゃないじゃないですか?」
――そうですね。
「特に俺たちで言えば、自分たちが40代になって、フロア(のみんな)も一緒に歳を取ってるワケだから。メインで支えてくれるファンは自分と近い世代だからね。かといって、他の世代が入ってこれないワケじゃなくて、もちろん10代の子たちにも伝わったら嬉しいけど。そう考えると無理に盛り上げる必要はないなと。盛り上げたくないワケじゃなくて。本当に盛り上げたいんだったら、盛り上げない方がいい」
――そういう姿勢に今の髭イズムを感じますし、先日の京都・磔磔のパフォーマンスにおいても、今の須藤さんのカッコ良さやセクシーさが出てると感じました。
「うん。だって曲のテンポ自体は遅いから、“ゆったり”という言い方をしてるだけで…。今回の『HiGNOTIQE』って、俺の中ではガッチガチに速いし、ガッチガチに尖りまくってるアルバムだと思ってるんですよ!」
――はい。今も内面は尖ってると思いますよ!
「マインドとしては、『ロックンロールと五人の囚人』を歌ってた頃とか、『テキーラ!テキーラ!』を作っていた頃の、“どうだ、今の髭はすげーだろ!?”っていう気持ちは何も変わってないんで。“めちゃくちゃいいでしょ?”“これでしょ!”っていう感じがしてるよ。だけど、世の中一般的に見れば、“すごくゆったりしたいい感じだね”ってとられても、それはそれで当たり前のことだから。(曲の)テンポはどれも遅いから。だから、さっき“メロウだけど、ざらついてて、バッチリだと思う”って、俺が言ってたのはそういうことなんだけど…」
――はい。
「みんなで(体を動かして大きなリアクションして)そんなことやらなくてもみんなきっと心の中でそうなってるでしょって。そこで(こっちも)アジテーションする必要はないなと」
――そうですよね。そういうモードでアルバムができて、今後の髭がどうなっていくのか楽しみですね。
「うん。これから熟成度が増していくんじゃないかなと思ってて、自分自身はすごい楽しみ(笑)。誰だって歳はとっていくし、無理して、“俺たちだって20代に負けないぞ!”なんて、それが一番カッコ悪いっていうかね(笑)」
――そう思います!
「さっき世代の話したから、限定的に聞こえちゃったら嫌だけど。もちろん今だって世の中の人が俺の音楽ですげーハッピーになってるっていうのが最高の状態だと思ってますよ!」
――髭は、2023年に活動20周年を迎えますが、そこに向かって、ここから髭の新章が始まると捉えていいですか?
「うん。そう! 今の自分としては、髭に対してすごくポジティブな制作意欲なので。このコロナ禍が俺にとっては、一回強制的にライブ活動をストップさせられて、独りにさせられて、プラスにできた気がする。悪いことばかりじゃないなって思う」
――そして、前作『ZOZQ』との合併ツアー『HiGNOTIQE + ZOZQ tour』がまもなく開催されます。
「きっと踊れると思うし、スゲーいいライブになると思う。『HiGNOTIQE』を聴いてもらって、今の自分のフェーズにフィットする方はぜひツアーに遊びにきてください!」
Text by エイミー野中
(2021年11月26日更新)
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