BRAHMANが初のホールツアーで見せる新機軸とは? 狙い、コロナ禍後の活動、そして目指すバンド像を TOSHI-LOWが語る
BRAHMANがキャリア初のホールツアー「Tour -slow DANCE HALL-」を展開中だ。今年6月に、コロナ禍初となるライブツアー「Tour 2021 -Slow Dance-」を行ったばかりだが、その手応えをもって、さらにコンセプトを進化させての続編的ツアーとなる。前ツアーでは、BRAHMANの「静」の部分に光を当てるというコロナ禍での規制を逆手にとったコンセプトで、「変化球」という以上の喝采をファンから得た彼ら。今しかできない選曲を、紗幕や映像を使い効果的に演出したステージングを今回はどう進化させるのか。前ツアーの手応えも含めTOSHI-LOWに話を聞いた。
メロウなもの、静かなものの中に、すごく熱いものを感じたり
静かなんだけどこれは激しいんだなとか、そういうものが見えてきた
――まずは今年の6月に行った「Tour 2021 -Slow Dance-」の話から聞かせてください。BRAHMANの「静」の部分にスポットを当てるコンセプトは、もともとはフェス出演の際に提案されたということですよね。コロナ禍の規制なかで、BRAHMANとしてライブをする発想は自分たちからは、それまではなかったのですか?
TOSHI-LOW :思いっきりできないんだったら、やんないほうがいいかなってずっと思ってた。中途半端でやるよりはと思ってたんだけど、コロナが収まると言ってもそれはいつなのかわからないし、やれる形を自分たちでもっと模索してもいいんじゃないかなと思いなおして。
――別ユニットであるOAUは、コロナ禍の規制のなかでも活動しやすい音楽性なので、そちらだけで活動をしていく選択肢もありましたよね。
TOSHI-LOW :たしかに、OAUでいいじゃんっていう気持ちもあったよね。でも、やっぱ質感が違うんだよね、ブラフのゆっくりな曲と、OAUでやるべき曲って。ただ、このコンセプトでツアーまでやろうとは、もちろん当時は思ってなかったけど。もともとBRAHMANで予定していたツアーがあったんだけど、コロナもあってやめることになったのよ。ライブ自体をキャンセルしようかとも思ってたんだけど、いや、待てよと。静かな曲を並べてみたらどうなんだろうと思いはじめて。
――今まで、そういう発想で曲を考えたことはありましたか?
TOSHI-LOW :ないよね。演出とかは今までいろいろやったけど、使っても1曲か2曲。でも、紗幕を使ったり、映像におけるアイデアは最初からすぐ出てきて。全編でそれをやるって考えたときにも、こうしたい、ああしたいとか、いろいろ湧いてきちゃったんだよね。
――具体的に考えてみるまでは、自分たちでも懐疑的なところがあったんですね。
TOSHI-LOW :パンク、ハードコアに根ざした音楽、いつも肉体的なところを強くやっているから。静かな部分も俺らの一面だと思いつつも、面白いと思ってもらえないんじゃないか、とは思ってたよね。剣と盾なら、盾しかないみたいな感じで(笑)。
――(笑)なるほど。実際に曲を並べてみたらどうでしたか?
TOSHI-LOW :それはそれで、もう面白くて。盾だけでも戦えんじゃん、みたいな。それでいけるとまでは思ってないけど、一個の楽しみ方としてはありだなって。曲に対しても演奏してみて、改めて自分たちで作ったものをより深く理解できたっていうか。作った時は作った時で、一生懸命やってたと思うんだよ。だけど、年齢重ねたあとにやってみたほうが意外にしっくりくるみたいな。背伸びしてる部分がなくなってるっていうか。
――前回のツアーは初期の曲も多かったですね。
TOSHI-LOW :うん。多かったね。今なら、できるようになったみたいなのもすごいでかいね。
――確信があって進めたというよりは、やっていくうちにのめり込んでいった感じですね。
TOSHI-LOW :確信なんかいつもないよ。手探りで、いつも答えを何とか探してる感じで。辻褄合わせになりかけるのが、最後はうまく結びつく。やってみないとわかんないからね。
――曲が決まったのは、そのあたりが見えてからですか。
TOSHI-LOW :そもそも静かなやつって、そんなには数ないから。ハードなのができないんだからね。でもメロウなもの、静かなものの中に、すごく熱いものを感じたりとか、静かなんだけどこれは激しいんだな、とか、そういうものが見えてきたから面白かったよね。
――ライブを見てる側としても、静かな曲というイメージが、ライブの途中から全くなくなりました。
TOSHI-LOW :そうなの、そうなの。初めは何か静かなんだな、動かないんだなみたいな感じなんだけど、全然そうじゃなくなってくるっていうか。自分たちもやるごとに、深くなっていったっていう感じだったよ。いつもみたいに力業で何かをひっくり返すんじゃなくて、静粛の中にピーンと張り詰めたものがあって、ポトンと1滴が落ちる音をみんなで聴くみたいな。和風庭園みたいな感じ(笑)。
――最後に披露された「Slow Dance」は新曲でしたが、制作はギリギリだったんですよね?
TOSHI-LOW :うん。ツアー名が「Slow Dance」に決まって、そこから、新曲はないのか、「Slow Dance」って曲を新曲できないのか?って作り出したんだけど。作っていたら何か腹立ってきて。何で静かな曲とかに縛られなきゃいけねえんだよと、結局ああいう曲になった(笑)。
――あの曲が最後にあることで、ステージとして一つのストーリーになりましたね。
TOSHI-LOW :いつもなるんだよ、一つの繋がりに。でも、繋がりがなんにもなくても、それはそれでまた違うものにつながっていくのかもしれないし、もはや目の前の失敗とか成功じゃないっていうか。静かな曲って言われている曲たちもそう。今まででは、どっちかと言うと中休みみたいに感じていた曲が、コロナ禍の中ではメインとして光ってくる。当時と全然違う聞こえ方をしだしてくる。それは、何がどこでどう繋がるか、やっぱりわかんなくて。とにかく今一生懸命やれることやっておかないと、未来に繋がらないっていうだけだよね。
――映像もかなり効果的に使われたツアーでしたが、普段のツアーとは向き合い方は違いましたか?
TOSHI-LOW :最終的には変わってない。初めはちょっとした緊張感はあったけど、やりだしたら結局、ライブで持ってる気持ちの動き方っていうのはあんま変わんないんだなって。集中してライブをするっていうことに関しての熱量はあんま変わんない。
――見てる側も、それに近いところはあったかもしれないですね。お客さんの評判、ものすごくよかったじゃないですか。ライブ後は、いいものを見せられたという確信はありましたか?
TOSHI-LOW :いや、確信はないよ。だけどどんな形であれ、これはこれでいいものを作りたいってやっぱり思う。自分たちの見られてるイメージとか、そういうものに引きずられる必要もないし。今の形がこれしかできないんだったら、それでいいと思ったよ。だって、みんな変わっていくんだもん。すべてのものが移り変わっていくわけで、いくらそのままでいたいって言ったって、それはできない。けど、心持ちだったり、続けるっていうことだけはできるわけだから。コロナが明けたら、いくらでもライブハウスで激しいやつはできると思うし、俺たちもまたハイエースに乗って全国を回ると思う。でも今しかできない形にも、しっかり懸けてやってみたいからね。そういう意味では、今後の自分たちにとって、もう一個の武器みたいなものを持てたんじゃないかなと思う。
――それは確実にありますよね。でも、すでにあったんだろうなとも思いました。そこが前面に出てないだけで、実はずっと持っていたものだったんだろうなと。
TOSHI-LOW :そうなんだよね。そういうのってずっと走ってると、意外に自分たちでもあんま気づかないっつうか。速く走ることだけが目的になってしまうことがあって。世界が一瞬ピタッと止まった瞬間に、自分たちも止まるっていうことができれば、見つめ直す一個のいい機会にはなるよね。どうせ止まんなきゃいけないんだったら、そういう気づき方をしたいなと思ってたし、その中でもいろんな音楽は続けられたわけだから。
――今さらですが、ライブを見てこの曲ってこんなにいい曲だったのかと、聞き返した曲が結構ありました。そういう気づきを持った人って、結構いるんじゃないかと思います。
TOSHI-LOW :俺もそうなんだもん(笑)。あれ、よくねえ?と。そっか、昔は歌えてなかったんだとも思って。昔はつたないなりに、そのときにしかできないことを必死でやってる良さがあったけど、でも、今の方がいいな。ずっと今がいいと思ってやってるからね。昔に戻りたいって一回も思ったことないし。そう思ってる理由は、やっぱ今の方が楽しいからっていうことでしかなくて。それはコロナ禍でも同じだった。コロナ禍の中でも、昔に戻りたいとは思わなかった。今こうなったんだから、この次にどうなるかっていうことしか楽しみはないと思ってて。
――見てて豊かさみたいなものを感じました。BRAHMANのライブって、どっちかっていうともっと刹那的だったというか。
TOSHI-LOW :そうなんだよ。自分もそう思ってたし。もちろん、この一日だけをどうやって燃やし尽くすかっていうことばっかり考えてるし、それは根本的には変わらないんだけど、燃えた後に燃え尽きてしまわないっていうか。今日のことと、10年後のことを並行に考えれるっていうのが、俺の考え方だけじゃなくて、バンド的にも出てきてる。今日を楽しく生きるだけだったら、今日、別に努力しなくてもいいじゃん?ただ飲み狂って、遊び狂っていればいい。だけど明日が来てしまったとき大変になるわけで。でも、それだけじゃないものを積み重ねて、同じメンバーで見れてるっていうのはすごい幸せなことだよね。永遠には続かないっていうことも俺たちは知ってるし、だから刹那であるものと永遠に感じるもの、それが矛盾して喧嘩しないっていうか。どっちも必要だよね。
――バンドメンバー4人だけじゃなくて、スタッフ全体で同じ方向をちゃんと向けるっていうことは、なかなかできないですよね。
TOSHI-LOW :同じチームっていうのは、それはもうでかいよ。働いてる連中も20年以上、何も変わってないからね。しかも、東日本大震災やこういうコロナっていうものをくぐり抜けて一緒に生きてくっていうのは、それは、大変な時代だからこそ生まれる強さだったり、絆みたいなものもやっぱりあって。ずーとバブルみたいな時代だったらこうなってないもん。物質的に豊かになっても心が豊かになってないだろうね。でも、俺たちがほしいのは、最終的には心の豊かさであって。死ぬっていうときに、ビルを買ってたって、お金がどんだけあっても持っていけないけど、「結構やったな、楽しかったな」って思えたら勝ちだと思ってるから。正直、明日終わっても、俺、よくやったよって思う。いや、もうちょっと頑張れたほうがいいかな(笑)。でも、俺ぐらいのレベルでよくやったよって思うよ。だから、後悔はないっていうか。好きなことやったし。
――それは、20代の頃に考える刹那とはちょっと違いますよね。
TOSHI-LOW :全然違うよ。20代までの頃は、逆に終わってしまえばいいと思ってたからさ。老化したり劣化したりしないで、ここで終わってくれたらどんだけいいだろうって思ってた。今の一番いい瞬間のまま終わっちゃえばいいのにって。それとは全く違うよね。
あの曲もやるんだ、この曲もやるんだと、前に見た人も
また全然違って楽しめる曲選びができてる気がする
――前ツアーを受けての今回のホール公演ですが、すぐ次のイメージはあったんですか?
TOSHI-LOW :静かな曲って、やってみると思っていたよりも何かハードだなって思ったのもあって、幅が広がった。だから、曲の選び方もすごく変えられるというか。もちろん前回のツアーでやったいい部分は残しつつ、また新しくできる部分もいっぱいある。曲もこれは入れられるっていうことがわかったものもいっぱいあったから、結構変わる。
――同じバンド、テーマでも、視点が変わるだけで、それだけやれることが変わるんですね。
TOSHI-LOW :すごい面白いよね。生まれ変わってくっつうか。ずっとやり続けたご褒美みたいな感じもする。そういうふうに変わっていった曲が、ライブハウスに戻ったときにまた変わるだろうっていう予感もあるしね。ふくよかな部分や、太くなった部分を、ライブハウスのエッジ効いたとこでギュッとやったら、また違う響きでできんじゃないかなって。そういうものを再び磨けるっていうのは、やっぱうれしいよね。そういう玉というか、曲っていう玉が今回もたくさんある。あの曲もやるんだ、この曲もやるんだと、前に見た人もまた全然違って楽しめる曲選びが今できてる気がする。コロナがなかったら気づかなかったろうから、悪いことばっかじゃないよね。今っていう時代に生きてるんだから、今っていうものの中で生ききる活動をしたほうが、やっぱ面白いんじゃないかな。
――BRAHMANというバンドのサバイブ能力の高さというか、たくましさみたいな部分もありますね。
TOSHI-LOW :うん。そうだと思うよ。たくましいんだと思う。強くなったんだと思う。でも、初めっから強かったんではなくて、自分たちの弱い部分とか含めて続けてきたからだと思う。ダーウィンの進化論で言うと、強い生物が生き残るわけじゃないじゃん、弱かったからこそだよね。自分たちの才能なんてたかが知れてるっていうこともわかってるから。その分、自分たちには新しい発想や斬新なアイデアっていうものが必要だったと思うし、だから、こういうへんてこりんな音楽をみんなで作り出してるんだと思う。どこにもないようなもの、まわりと同じようなものをやったら埋もれてしまうし、普通に演奏できて、上手だったわけじゃないから、すごく激しいステージングをしてきたと思う。ただ単にメジャーのバンドになったって面白くないから、アンダーグラウンドとオーバーグラウンド、行き来するような活動をしてきたりね。それは強さからきたんじゃなくて、自分たちの発想や何かで乗り越えるしかなかったから。今回も同じだよね、それは。
――ただ、そういうアイデアとか発想だけではない、芯みたいなものが今のバンドにはありますよね。これがあれば別にいいんだ、みたいなものがある人って、絶対強いですよね。
TOSHI-LOW :そうなんだよ。これさえあればっていうものが見つかるか見つからないかで、人生はがらっと変わると思う。それを見つける旅なんだと思う。そういうのもあるから、やっぱ結局何も変わったようで変わってないっていうか。バンドさえやれればずっと大丈夫だと思ってたから。それこそ10年前の震災のときはまだ自分自体が揺らいでたところもあって、本当にこれさえあればっていう「これ」が、バンドや音楽なんだろうかって思ってる途中だったけど。
――今はもうないですか、そういうの。
TOSHI-LOW :今、何も揺らがない。それは10年かけてそうなった。いつか辞めるときは来るし、やりきったっていう日を望んでるけど、そう遠くはないんじゃないかなって思ってるからこそ、もうちょっとやりたいよね。もうちょっとやらないと、それこそ後悔してしまう。
――20代のときとの違いって、きっと、そこですよね。実際に終わりがリアルに見えてくる。
TOSHI-LOW :もし平均寿命ぐらいまで生ききっちゃったとしても、あと30年とかでしょ? それはもう、だいぶ早いよね。1歳から30歳までの長さじゃないからね。あっという間じゃないかな。
――そういう旅を、同じ4人プラスチームで一緒にしていくって、結構難易度が高いですよね。
TOSHI-LOW :運がいいんだと思うよ。よく表現者の人が努力してるとか言うけど、もちろん努力も才能も必要なんだろうけど10%ぐらいじゃない?あと全部、運だと思うよ。だって同じ人でも時代がちょっと違ったり、それこそ1年ずれてただけでわかんないなって思うもん。あとは、そこに乗るか乗んないかっていうぐらいで。
――今回のツアーは、タイミング生かそうとする気持ちみたいなものがすごく重要でしたよね。
TOSHI-LOW :どうせ転ぶんだったら、地面に落ちていく様を見たほうがいいと思う(笑)。そこを見ないふりしなくていいと思うんだよね。せっかくだったら、思いっ切り土の匂い嗅げばいいと思うし、転ぶっていうのはどういうことなのか理解すればいいし、痛みを感じればいいと思う。そういうふうに考えると、死ぬ以外はほとんどのものって大丈夫なんじゃんって思う。最終的にはみんなベーシックになってくっていうか、すごく基本的になっていく。日常的になってくしさ。
――余計なものがなくなっていく感じですかね。
TOSHI-LOW :ある種の開き直りみたいなところと、でも、本当に汚しちゃいけない部分もあるっていうものを持ってる人は、多分、アーティストとしてずっとやっていける人なんだと思う。それかずっと演じられる人。あと、嘘つく人(笑)。
――(笑)。そういう意味では、今のBRAHMANの状態って本当、無理ないですね。
TOSHI-LOW :嘘ついてるわけじゃないからね。ライブハウスでワーってやってるときも、自分たちの本当に燃やし尽くすっていうパンクな姿だし。それは決してなくならないってことがわかってるから、今できてるところはある。逆に言えば、BRAHMANが変わったというよりは、そっちの部分はもうなくならない、むしろいくらでもある、いつまでもある。だから、それ以外のことを、すごく育ててるんだと思う。俺たちのチャレンジっていうものが、今はこっちなんだっていうことなんだと思う。
――ちゃんと育てていたものがあったということですよね。今回も久々にやる曲もけっこうあるんですか?
TOSHI-LOW :あるある。わあ、これやるんだっていうのはたぶんけっこうあると思う。
――前回ツアーのパート2、ではなさそうですね。
TOSHI-LOW :違うね。ホールでしかできない感じを出したいなって思ってて。キャリアの中で初だし、最後になるかもしれないし。だから自分でも楽しみたいなと思ってる。ホールは、昔はやだなとか何か毛嫌いしてた部分もあったんだけど、OAUでホール回らしてもらって考え方が大きく変わった。音楽をやる環境として本当に素晴らしい。もともとライブハウスの自由さが好きだったからさ、好きなとこで見て、飲みながら見れて。だから、そういうものじゃないっていうホールが嫌いだったんだよね。敷居高いみたいな。けど、見に来てる人の椅子があって、荷物も置けるっていいうのが、結構、悪くないなと思えるようになって。
――ホール公演だと、ボーカル力がより要求されるイメージがあります。
TOSHI-LOW :ここ何年かは、歌うことから逃げんのもやめようって思ってやってたとこはある。特に武道館ライブの前に手術してからは、ずっと歌と向き合ってるから。むしろ前回のツアーは、ボーカリングはまだ伸びてく部分あるんだなって思えた。だから大変な感じはなかったな。逆に若いとき、ちゃんとやってなくてよかったなって思うもん(笑)。長く生きてみなきゃわかんねえもんだなと。
――ツアーの内容は事前にかなり作り込んでいるんですか?もしくは始まって変わっていく部分も多い?
TOSHI-LOW :あるある。前回も楽曲の間の取り方とかも少しずつ変わっていったし。真ん中でやってた『旅路の果て』はもう作り変えながらやってた。そうやって一緒に育てていく感覚があって。昔、結構そういう曲の作り方してたんだよ。8割ぐらいの完成度でライブでやっちゃおうぜって。やっぱサビ要らねえな、最後のところはこうしようかって、どんどん変えていく。だって誰も知らない曲なんだし、その日限りのかたちがあってもいいじゃんみたいな。バンドなんてもっと自由なんだよ。今、音楽理論に対してでも何でもすごいじゃない、全部計算とデータとみたいな。面白さってそんなことじゃない気がするっつうか。未完成のものでも面白かったり、完璧なものを完璧に提供しなきゃお客様が喜びません、みたいな感じじゃないと自分たちは思う。
――すごい失礼な言い方ですけど、BRAHMANのライブで一番わくわくするのって、ちょっと何か欠けてる感じですよね。だからもう一回見たくなる。
TOSHI-LOW :MAKOTOとか、もうひっくり返ってアンプとかグチャグチャになって、音、全然出ないときとか最高だなと思うよ(笑)。最高のライブだなって思う。これこそ今日しかできないことだって。それはトラブルだ、音が出ないなんてミュージシャンですか?と思う人もいるわけでしょ。だから、そういう人たちより楽しめてんなと思う。
――完成形をずっと届けるっていうのも、何か飽きそうな気もしますよね。
TOSHI-LOW :そうなんだよね。安心感はあるんだろうけどね。でも、やっぱハラハラしたいじゃん。ドキドキしたいっつうか。
――話のベクトルは違うんですが「Slow Dance」のPVとかも、もうわけわかんないですよね。
TOSHI-LOW :わけわかんないでしょ?いいんだよ、それで。
VIDEO
――RONZIさんの演技うまいですよね(笑)。なかなかあそこまで、真に迫った崩れ落ち方ができる人はいないんじゃないですか。
TOSHI-LOW :(笑)
すごい優しい部分がある人は、すごい怖い部分があるみたいなさ。
それを全部出せたら、やっぱり豊かだよね。
――メンバー間で、今まで聞いたようなバンドの方向性について話しをすることってあるんですか?
TOSHI-LOW :何て言うかな、そういう話をしなくてもメンバーの雰囲気というか、今、これやるべきじゃないよねとかっていうのは、やっぱり共有してんだよね。コロナみたいなことが起こったときに、メンバーが抜けちゃったり、辞めちゃったりしてるバンドもいるでしょ。あれはもともと共有してるものが少ないんだと思う。コロナみたいなことで、価値観がすごく違っていたことがわかっちゃったりするんだと思うけど。自分たちはもともと持ってるものもそうだし、考え方とかも一人一人もちろん違うんだけど、どういうふうにすべきかっていう考え方の肌ざわりみたいなものは、なんか似たものを持っていると思う。だからこの段階でライブハウスでやれないんじゃないかとか、いや、やったほうがいいと思うとか、そういう意見の違いも一切出ない。みんな、今はそれが一番いいよねっていう方向に揃ってくるというか。
――タイミング的には、方向性の違いみたいなことになりかねない時期ですよね。
TOSHI-LOW :なりかねないでしょう?そういうので、いくらでも終わっていくのも見てるし。もしかしたら、バンドにとって大事なことってそういうところなんじゃないかな。いい曲作るとか、いいライブするとか、そんなの当たり前じゃん。でも、そんなことばっかり考えがちで。本当に大事なのは違うところに隠れてんじゃないかな。音楽をどう捉えるかとか、音楽を奏でてる人間の本質に、いろんな大事なものが本当は詰まってるっていうか。チーム作りとかもそうだけど、大事なことって、嘘ばっかつくやつとか卑怯なやつがいなけりゃいいだけなんだよ。あとは別に、能力が高いとかっていうことじゃなくて頑張れば何とかなるよ。ただ、卑怯なのと嘘ばっかつくのは、あとで重大な穴を作るからね。
――身に沁みる言葉ですね(笑)
TOSHI-LOW :でしょ(笑)。これ、ちゃんと書いといてよ。
――今回のツアーは、同じメンバー、人間性でやっているのに、コンセプトでここまで変わってくるのが面白いですね。
TOSHI-LOW :人間って幅広いじゃん。すごい優しい部分がある人は、すごい怖い部分があるみたいなさ。それを全部出せたら、やっぱり豊かだよね。自分というものを人生通して音楽で体現していくことは、すごく面白いよ。大体、どっちかの狭いところだけで出して、あとは違う自分だと思い込んじゃってるわけでしょ。音楽だってそうだと思う。自由にやってる人なんか少ないし、看板ができちゃえばできちゃうほど、縛られちゃう人も多いじゃん。
――イメージが付くと期待されちゃいますもんね。BRAHMANはそういう意味では自由ですよね。好き好きロンちゃんとかもありますし(笑)。
TOSHI-LOW :変な話、ばかにされんのも怖くないっていうかね。馬鹿にされてるんじゃねえよ。馬鹿になってんだよ、こっちが(笑)。
――この話はTOSHI-LOWさんのバンド観の、根本がありますね。
TOSHI-LOW :最近、こういうことしか話してない。曲のインタビューとか、そういうことじゃないんだなって思ってる。要はバンド論なんだよね。時代、時代で、バンドをどう捉えてくかっていう。そもそも曲作ろうって、みんなあんま思わないのもあるけど(笑)。たまに気が向いたように作ってるし、OAUやってるっていうのもある。同じような曲、何曲も要らないから、満足してくんだもん。どうせだったら自分たちの中で違うものをやりたいっていうか。OAUに関しては音楽を奏でてること自体が楽しいから、同じ種類のものがいっぱいあってもいい。ワールドミュージックのなかでのジャンルもあるから、ある種、似ててもいいんだけど、ブラフの場合はジャンルでも何でもないっていうか。その何でもない自分たちを作り出していくっていくから、やっぱり時間がかかるんだよね。なんか、そのあたりうまく伝えておいてください(笑)
――わかりました(笑)。
Text by 阿部慎一郎
(2021年11月26日更新)
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