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「歌ううえで大事にしているのは聞いていて心地よいかどうか」
歌声を通して涙や鳥肌を誘う豊潤な音楽を目指す
メジャーデビューイヤー真っ只中Myukの現在地

スウェーデン語でやわらかさ、やさしさという言葉を語源に持つアーティスト・Myuk(ミューク)。やわらかさややさしさのイメージをそのまま音にしたような甘くふんわりと包み込むような声と感情に訴えかけてくる豊かな表現力が魅力の、シンガーソングライター熊川みゆによる音楽プロジェクトだ。シンガーソングライター熊川みゆとしての活動ののち、今年1月にテレビアニメ『約束のネバーランド』Season 2のエンディングテーマとなった「魔法」でメジャーシーンへと進出するにあたってMyukとしての活動をスタートさせた。そしてこの秋、セカンドシングルとなる「シオン」を発表。自分で作詞作曲した音楽を自らの歌で表現した日々を経て、現在はアーティストが制作した楽曲をボーカリストして表現する“歌い手”へとシフトして1年弱、そんな彼女が歌と出会った幼少期からMyukとしての現在の活動に至るまで、音楽遍歴を追うインタビューとなった。



折れた心を救ってくれたギターポップス

 
――まずはシンガーソングライターとして活動を始めることになった最初のきっかけからお伺いしたいなと思っています。歌に興味を持ったのはいつ頃だったんですか?
 
私、小学校6年間を通して民謡を習っていたんです。祖父に勧められて始めたんですけど、民謡でステージに上がるようになってから舞台で歌うことに魅力を感じて歌手になりたいと思うようになりました。ポップスにはない歌い回しやこぶしを回したりすることをすごくおもしろいと思ったし、ステージの上で歌を表現することが気持ちよくて、将来は歌う人になりたいって思っていました。
 
――そもそも小さい頃からおうちでいつも歌っているような女の子でした?
 
そうですね、いつも歌っていましたね。幼稚園に通っていた頃、韓国ドラマに夢中だったんです。それが韓国の王宮もので主題歌がすごく民謡のテイストだったんですけど、それを家で歌っていておじいちゃんが「民謡をやってみたら?」って。ハングルの意味もわからないまま、耳コピして無理矢理歌っていました。
 
――民謡って、同級生たちがおそらく聞いていた日本のポップスとはかなり違う要素がたくさんある音楽だと思うのですが、Myukさんにとって民謡のどういったところが魅力的に感じていたんでしょう。
 
なんだろう…民謡ってすごく伸びやかというか、声をすごく強く伸ばして出すっていう感じなんですね。そこは自分が歌っていてすごく気持ちよくて。でも当時は魅力とかあんまり深く考えていなくて、「歌っているだけで楽しい!」としか思っていなかった気がします。もうひとつ民謡の特徴としては、高い声をしっかり出したり祈りがテーマになっていたり、ワークソングというか労働の中で広がっていった音楽としても歌い継がれてきたものなので、そういったところにもすごく魅力を感じています。
 
――そもそもですが…「民謡を習う」とは具体的にどういうことを教わるんですか?
 
歌い回し…先生のお手本を聞いて、それをそのまま歌う。コピーして歌うみたいな感じだったんですけど、でも地域によってとか会によって同じ歌でも歌い方が全然違うので、そういうところをひとつひとつ習得したり、あとは大会に出ていろんな地域の歌を知っていくみたいな感じですね。
 
――あぁ! 民謡といえば大会に出るみたいなイメージはあります!
 
大会にはすごくたくさん出場していました。練習して大会に出て、練習して大会に出ての連続でした(笑)。
 
――そんな民謡にどっぷりの日々を送る中で、シンガーソングライターへの道がどのように拓けていったのかすごく興味があります。
 
はい。東京で毎年開催されていた民謡の全国大会に出場していたんです。私、そこで1位になることがずっと目標だったんですね。それで小学校6年生で出場した時に、自分的にすごくうまく歌うことができて「歌い切ったぞ!」みたいな気持ちになれたんです。自分の中ですごく達成感があったのに、なんの賞にも入ることができなくて…。前の年は賞に入れたんですけどね。達成感に対して結果が伴わなかったことで、もう自分としてはやりきったんじゃないかなっていう気持ちになりました。そのことがあって、その頃はすごく悩んで鬱々としていたんです。でもそんな時にYUIさんや絢香さんの歌に出会うことができて、すごく心が救われたんですよね。それでギターを持って歌ったり、自分で曲を作って歌ってみたいという思いが芽生えてきて、そっちにシフトしていきました。
 
――やりきったとはいえ、やっぱり期待をしていただけに心が折れてしまった。
 
自分の中では結果を期待していたけど、すごく満足したというか「これでいいな」って思った部分もありました。もちろん悔しい気持ちはありましたけど。でもあの時入賞していたらずっと民謡を続けていたんだろうなとも思うし、今はよかったんじゃないかなって思いますね。
 
――そこからギターも始められていったということですが、そもそも民謡をやられていた時に三味線を弾いたことは?
 
はい、弾いていました。こうやって持つとかは近しいものがあるし、アコースティックギターの音色もすごく好きで。だからコード弾きはわりとすぐできるようになりました。最初はYUIさんの「Good-bye days」とか夏川りみさんの「涙そうそう」とかカヴァーをずっとやっていました。あと、老人ホームとかに訪問して歌ったりもしていたんですけど、リクエストをもらってちあきなおみさんの「喝采」を歌ったこともありましたね。
 
――やっぱり民謡の歌い方とポップスの歌い方って違うものですか?
 
全然違いますね。声の出し方が一番大きな違いで、民謡はすごくキーンとした高い地声でこぶしを回して歌うんです。それしかできない状態でポップスを歌うようになったので、なんだろう…私の表現の幅がすごく狭くて、これじゃダメだと思って、そこからエド・シーランとかテイラー・スウィフトとか洋楽を聴くようになって歌うようにもなっていくんですけど、そういう経験を通して今の歌い方とか声の出し方…低音を自然に出していくような歌い方に辿り着くことができました。
 
 
 
挑戦を求めて音楽プロジェクト「Myuk」をスタート

 
――そこからはどういう形でシンガーソングライターとしてのデビューにつながっていったのでしょう。
 
中学生の頃から自分で曲を作るようになって、地元でライブ活動も始めました。その中で地元・熊本のテレビ局の方にイベントにお声がけいただいて、それがきっかけになりました。
 
――デビュー前後の頃、思い描いていた「目指すアーティスト像」みたいなものって、ありましたか?
 
中学生や高校生の頃はYUIさん、エド・シーラン、テイラー・スウィフト、あとアヴリル・ラヴィーン、あいみょんさんとかギターを持って表現しているアーティストにすごく憧れを持っていたので、アコースティックギターで思いを吐き出すようなアーティストになりたいって思っていましたね。
 
――インディーズではシンガーソングライター・熊川みゆとしてデビューされて、思い描いていた通りアコースティックギターで自分の思いを自分の曲を通して歌っていたわけですが、今年1月メジャーデビューするにあたって Myukという音楽プロジェクトを始めようということになったのは、なぜですか?
 
大学進学で上京したことをきっかけにシンガーソングライター・熊川みゆとして活動を始めたのですが、メジャーデビューが見えてきたのと同時にテレビアニメの『約束のネバーランド』のエンディングテーマを担当するお話をいただいたんです。本当に好きな作品だったので夢のようにうれしい出来事だったんですけど、アーティストのEveさんが制作されたが楽曲を私が歌わせていただくということになって、最初は熊川みゆとしてそのまま活動していく方向でした。でも、上京していろんなフェスに出させていただいたりたくさんの経験を積む中で音楽の幅もすごく広がって、こういうこともやってみたらいいんじゃないかとか興味の幅もすごく広がっていったことで、これから新しいことに挑戦していきたい気持ちが大きくなりました。それと、熊川みゆとしてやってきたこととはちょっと違うこともやってみたいなと思い始めていた時期でもあったので、私もこれをきっかけに新しいステップというか…メジャーデビューを機にMyukとして今まではやらなかったことにチャレンジしていけるんじゃないかと思ったんです。名前も新たに、幅広い視野を持って活動していけたらと思ってMyukとしてのプロジェクトが始まりました。
 
――先ほど熊川みゆとしてやってきたこととはちょっと違うこともやってみたいとおっしゃっていましたが、“熊川みゆとしてはできないこと・ハマらないなと思ったこと”ってどんなことだったんでしょうか。
 
それこそシンガーソングライターとして自分で曲を作って歌っていたので、他のアーティストさんと楽曲を一緒に作り上げたりプロデュースをしていただいたりっていうことにも憧れはあったし、アコースティック主軸のものだけではなくてシティポップや違うジャンルのものにも音楽を広げていきたいなと思っていました。でもやりたいことがかなり変化してきたことによって自分がすごく成長できているなっていう実感はあります。
 
――ちなみにMyukの名前の由来を聞いてもいいですか。
 
そもそもは熊川みゆでそのままやっていこうと思っていたんですけど、「熊川みゆ」ってくまかわさんですか? くまがわさんですか? って聞かれることも多くて、読みにくいのかなと思っていました。そんな思いの時にスタッフの方にMyukっていう新しい名前を提案してもらって、直感で「これだ!」って。かっこいいし、意味もスウェーデン語でやさしいとか柔らかいっていう意味の「Mjuk」からきていて、音でいうと私の本名のみゆにもかかっているし。すごく素敵でいいなと思ったんです。文字の見た目もかっこいいし。
 
――確かに字面は一度見るとなかなかのインパクトですよね。ちなみに今活動をしていて、これはMyukだからこそできているなと実感するようなことってありますか?
 
そうですね…、今までは自分で作詞作曲をして自分の視野だけで捉えているなっていう感覚があったんですけど、本当にEveさんの楽曲を歌わせていただいたことで歌に対しての意識がすごく変化したなと思っています。これまでも民謡を歌ってきてギターもやって曲も作っていろんなことをまんべんなく自分でやってきたんですけど、プロデュースをしていただいて私は歌で表現するっていうことが自分の全てに変わったんですね。なので、これは曲をどう表現しようっていうのを声だけでやるっていうことを、この1年間を通してひとつひとつ丁寧に行えた気がしていて、こういうことは今までなかった出来事だったなと思います。Myukだからこそですよね。
 
――ちなみにEveさんとはどんな出会いだったんですか?
 
『約束のネバーランド』のエンディングテーマをEveさんが制作されるということで歌い手を探されている中で私にお話がありました。Eveさんってめちゃくちゃ気さくな方で、レコーディングも立ち会っていただいてアドバイスをもらいながら進めていきました。すごく和やかで、本当に魅力のある方です。
 
――Eveさんから楽曲をもらった時、どんなことを表現したいとか最初に考えたことってありましたか。
 
最初に「魔法」を聞いた時は私も大好きなアニメだったこともあって、キャラクターたちのことを思って制作されたんだなっていうことがすごく伝わってきました。だからこそ私もキャラクターのことを考えながら、自分にもあてはめながら、さらにそこにはEveさんの世界観があるうえにそれを崩さずそこに自分を立たせるのはすごく難しいなと感じて、これをどうしようかと思いました。でもいろいろ考えたうえで最後に辿り着いた答えは、自然に自分の今まで歌ってきたものを出していけばいいんじゃないかなっていうことでした。
 

 
――今までは自分で曲を作って自分で歌っていたわけですけど、デビュー曲の「魔法」や新曲の「シオン」を手がけたEveさんの曲でいうと、自分ならこうは作らないなとかこういうことは思いつかないなという部分があればお聞きしたいです。
 
Eveさんの楽曲は歌詞が内面に訴えてくるし、やさしく語りかけてくる曲も多いなと思っています。例えば歌詞でいうと「魔法」の2番の「憂凪を想えば 綾なす蒼の空」っていういように美しい日本語を使われているところが本当に私では思いつかないなって思います。すごく『約束のネバーランド』の主人公たちの姿も浮かぶし、まわりの景色とか情景が鮮明に浮かび上がってくるところもEveさんの楽曲の素敵なところだなと思います。
 
――提供された楽曲を歌うことの難しさもあるんじゃないでしょうか。
 
はい、たくさんありますね。私には思いつかないメロディーラインとか、自分の曲では声を出すのが楽なメロディーを作っちゃったりもするんですけど、Eveさんならではのメロディーに声を乗せていくうえでどういう歌い回しなからこの部分が生かされるかを何度も練習するのが難しかったですね。「魔法」や「シオン」を歌っていて、エレキギターと壮大なストリングスの中に自分の声が入るっていうのが熊川みゆとしての活動の中ではなかったことなんですけど、そういう環境で歌ってみてこれまでにない気持ちよさを知りました。
 
――熊川みゆの楽曲は、どちらかというとアコースティックでシンプルでしたもんね。
 
はい。「魔法」では私の声のコーラスを何重にも重ねて使っているんですけど、それもEveさんの提案で、自分の声をストリングス代わりにアレンジしていくっていうの「こういう方法があるんだ!」って、学ばせていただきました。あと、「シオン」に収録している3曲はそれぞれ楽曲を作ってくださった方が違うので、曲の感じが全然違う中でも私が歌うことで一貫性を持たせたいと思ったんですけど、そこを成立させるのが難しくて…答えは出ないですけど、私の声や歌い回しで全曲を通して「こういうことを伝えたかったんだな」ってわかってもらえるようになったらうれしいなと思います。
 
――「こういうことを伝えたかったんだな」ということをわかってもらうために、歌う際にイメージしていることとかありますか?
 
例えば「シオン」だと、シオンっていうお花があって、それがアニメ『NIGHT HEAD 2041』のエンディングだったんです。登場するキャラクターたちのストーリーを考えたり、花が揺れているようなイメージで声を少し揺らしたイメージで歌ってみたり。一番「心地よい」っていうのが大事かなって思っているんです。
 
――それは歌っていて心地よいなのか、聞いているにとって心地よいなのか、どちらのイメージでしょう。
 
聞いていて心地よいっていうのが一番大事かなと思っています。でも心地よいってそれぞれ感覚が違うと思うんです。私の思う基準があって、聞いてくれて同じ思いになってくださっている方はそこが同じなんですよね。私は自分の思う心地よいを声で表現できたらなと。そこを共有できたら素敵ですね。
 
――心地よいかどうかって、自分で作った曲を自分で歌っている時にも思っていたことですか。
 
以前は歌っていて心地よいっていう方が強かったです。いかに自分が心地よいかというか。だからこそ今まで以上に自分で歌った曲を何度も聴くようになりました。あと、これからは振り幅が大きい音楽というか、涙が出たり鳥肌が立つ音楽を届けていきたいと思っているんです。涙も鳥肌も自然現象でそれって人の心に届いているっていうことで、一番いい音楽なのかなと思って。心の奥に入っていけるものを作れたらいいなと思います。
 
――今後の展望をお伺いできたところでこちらも今後のお話ですが、11月に大阪でライブが予定されていますね。
 
Myukとしては初めてのライブになるので、本当にまずは筋肉をつけようかなって(笑)。もう今からドキドキしています。初めて私の姿を見てくださる方も多いと思うので、本当に来てよかったなと思ってもらえるライブにしたいですね。
 
――ちなみに、今Myukとしてどんなライブになるんだろう? ってイメージがまだ湧いていない状態ではあるんですが、当日はどんなステージになりますか。
 
以前YouTubeで公開したのと同じピアノとチェロとバイオリンの編成で、私もギターを弾く予定にしています。YouTubeで公開したライブは、モニターの返しもせずに生の音を聴きながら自分の声も生で聴いて歌ったのですが、それはとても自然な状態で歌えていい経験になりました。その時と同じ編成でのライブを大阪でも披露できたらいいなと思っています。なんばHatchは初めて立つ会場なので、ドキドキです。みなさんにお会いできるのを心待ちにしています!

Text by 桃井麻依子



(2021年10月13日更新)


Check

Release

2nd Single『シオン』
発売中
Sony Music Associated Records

【初回生産限定版】(CD+DVD)
2400円(税抜)
AICL-4105~6

【通常盤】(CD)
1500円(税抜)
AICL-4107

《CD収録曲》
01. シオン
02. あふれる
03. Set me free
04. 魔法 (Acoustic version)

《DVD内容》
Myuk First Studio Cover Live
・絢香「みんな空の下」
・尾崎豊「Forget-me-not」


【期間生産限定盤】※2021年10月末まで
(CD+DVD)
2000円\(税抜)
AICL-4108~9

《CD収録曲》
01. シオン
02. 魔法 (Acoustic version) 
03. シオン (Ngyn Remix) – Sakura Chill Beats
04. シオン (Anime Size)

《DVD内容》
TVアニメ『NIGHT HEAD 2041』ノンクレジットエンディングムービー
※アニメ描き下ろしイラストデジパック仕様

Profile

ミューク…シンガーソングライターとしてインディーズシーンで活動をしていた熊川みゆによる音楽プロジェクト。小学校6年生でアコースティックギターを用いた楽曲制作をスタート。地元である熊本で行われたイベントで歌声を見出され、15歳でサーキットイベント『HAPPY JACK』に出演。その後オリジナル曲の配信リリースをスタートし、Spotify、J-WAVEでのフックアップ、18歳で『FUJI ROCK FESTIVAL』などにも出演を果たす。そういったさまざまな活動を通して表現の幅を広げ、ソロプロジェクトとしてのMyukの活動をスタート。2021年1月クールアニメ『約束のネバーランド』Season 2のエンディングテーマとなるシングル「魔法」でメジャーデビューを飾る。

Myuk オフィシャルサイト
https://myuk.jp/


Live

『STYLE PARK』
チケット発売中 Pコード:203-756
▼11月6日(土) 17:00
なんばHatch
全席指定-600円(ドリンク代込)
[出演]Anonymouz/HONEBONE/Myuk/Sean Oshima(オープニングアクト)
※3歳以上チケット必要。
※主催者が判断した場合を除き、お客様ご自身の事情などによる払い戻しは一切行いません。
[問]ソーゴー大阪■06-6344-3326

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