柳井"871"貢インタビュー
【第14回】若者文化の賞味期限②
柳井“871”貢(やないみつぎ)。株式会社ヒップランドミュージックコーポレーションの執行役員及びMASH A&Rの副社長として、「THE ORAL CIGARETTES」など全6組のマネジメントを担当する傍ら、近年は独自に「#871ンスタライブ」「#871さんに質問」など、SNS/noteを中心に主に音楽業界を志望する若者に向けて継続的に発信を続けている。
そんな彼が、自身の仕事やひいては生きる上でのキーワードに掲げる”No Border”とは?境界にこだわらず働き、壁を作らず人と関わり、越境して生きていく、そんな871流「NoBorder的思考」を紐解いていく。
――先ほどのマーケティング的なことで言うと、バンドのマーチャンダイジングの場合、世代的なことってどう考えてるのかなと思っていたんです。ある程度幅のある世代に支持されているアーティストなりバンドがグッズを作る時に、そこの最適解は何なのだろうかと。でも、そうですよね、そのバンドが好きな人が集まっているわけだから、自ずと共通項はあるわけですよね。
871:そうですね。そこは、アーティストやバンドのセンスを信じてもらうというか。そうやってバンドの方から価値観を提示していくやり方ですね。
――グッズというところで、今ふと思ったのは、矢沢永吉さんの「E.YAZAWA」というあのロゴ。あれはすごいですね。何だかタオルにあのロゴがバーンとあれば、すべての説明がいらないというか(笑)。
871:E.YAZAWAタオルと、例えばGUCCIのバッグの違いって紙一重ですよね(笑)。要するに、いかにブランディングするかというところだと思うんですよね。それで言うと、宗教のビジネスモデルに結構近いものがあるのかなとか思ったりして。カッコいいとかカワイイを超えて、GUCCIやもん、みたいなことでハンドバッグに20万円出すわけですよね。仮に同じ素材、同じ作り方、同じ形のバッグがあったとしても、そこに「GUCCI」というあのブランドロゴが入っていなければ、20万円は出さないはず。同じように、「E.YAZAWA」という、言ってしまえば他人の名前が書かれたタオルを欲しい!と思うのも、それがきちんとブランディングされているからですよね。で、ブランディングというのは信頼なので、言葉は違うけど信仰に似たものがあるなと。
――ブランディングに成功すれば、賞味期限を超えて生き残っていけますからね。
871:そうですね。原宿でも南堀江でもいいんですけど、ローリング・ストーンズのベロ・マークのついたTシャツをインして着ている若い女の子に、「ねえねえ、このロゴのバンド名知ってる?」って聞いたら、割と知らない子も多いんじゃないでしょうか。知ってるって答えた子に、「じゃあストーンズの中で好きな曲は?」って重ねて聞いたら、曲までは知らないって子もそれなりにいるでしょうね。でもそれが、世代や時代を一周まわっても生き残るっていうことのひとつの形だと思うんです。
――そうですね。「E.YAZAWA」は永遠に存続するような感じがしますもんね、プリンスのあのマークのように。それで思い出したのが、ここ2、3年で「シティポップ・ブーム」があったじゃないですか。若い世代が80年代の日本の音楽を掘り起こすという。あれなんかは、一度賞味期限を終えた若者文化がずっと下の世代の若者によって認知されるという循環が起きていますよね。
871:たしかにそうですね。リバイバルというのはわかりやすいですよね。かつての若者と現在の若者が同じものに価値を見出すというのは、そこに若者文化のコアのようなものが含まれているんでしょうね。
――だからやっぱり、若者文化の正しいあり方としては、短命であることなんでしょうね。やっぱり若い世代でしか感じ得ないもの、共有できないものがあるからこそ次の世代の扉を開けることができるのではないかと。そういう意味では、今ブームになるものって単品のような気がするんですよね。『鬼滅の刃』とか、BTSとか。でも先ほども例に出ていた「渋谷系」とか「アムラー」っていうのは、シーンの盛り上がりだったと思うんですよ。その違いはあるのかなと。
871:けれどそれは先ほど触れたように、共通の話題がなかなか持ちにくくなっている世の中にシフトしたことと密接な関係があるのではないでしょうか。武道館のスケジュールを、例えば20年前と現在を見比べた場合、明らかな違いがあるんですけど、それは影響力と動員の関係性の変化なんですよ。20年前のスケジュールを見たら、誰でも知っている人たちの名前が並んでいると思います。でも今のスケジュールを見たら、そんなに世間的には有名ではない人やグループの名前が結構あったりする。要は、その界隈ではすごく人気のある人が増えているんですよね。だから、世間的な知名度はそれほどなくても、武道館の1万人キャパだったら埋められるという人。
――数万人単位の村がたくさんできているということですよね。
871:その経済規模で回っていけるだけのシステムを構築してしまえば、経済的にはそれで十分というわけですよね。
――でも、やっぱり村から出ていくのが若者だと思うから、もっと大きな夢を見てほしいですね(笑)。例えそれがブームとなって短命に終わろうとも。
871:ところで、今もネクタイも締めずにラフな格好で、やれライブがどうしたとか、新譜のアートワークがどうしたとか言って仕事をしている僕たちは、ある種とっくに賞味期限の終わったものにまだしがみついている、とも言えてしまうのかもしれないですね…。
――怖いから考えるのをやめましょう……。
Text by 谷岡正浩
(2021年10月29日更新)
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