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柳井"871"貢インタビュー
【第13回】若者文化の賞味期限①

柳井“871”貢(やないみつぎ)。株式会社ヒップランドミュージックコーポレーションの執行役員及びMASH A&Rの副社長として、「THE ORAL CIGARETTES」など全6組のマネジメントを担当する傍ら、近年は独自に「#871ンスタライブ」「#871さんに質問」など、SNS/noteを中心に主に音楽業界を志望する若者に向けて継続的に発信を続けている。

そんな彼が、自身の仕事やひいては生きる上でのキーワードに掲げる”No Border”とは?境界にこだわらず働き、壁を作らず人と関わり、越境して生きていく、そんな871流「NoBorder的思考」を紐解いていく。

――今回のテーマは「若者文化の賞味期限」ということで、このテーマを出されたきっかけは何だったんですか?
 
871:やっぱり自分も歳を取ったのかな?ということをひしひしと感じるようになったということが、今回のテーマを考える何よりのきっかけですね。若い頃に自分よりもかなり年上の先輩方が小さなライブハウスでライブをやり続ける姿を見ていて思ったのは、2つのことだったんですよ。ひとつは、ブレずに自分たちの音楽をやり続ける姿勢ってカッコいいよなっていうこと。そしてもうひとつが、いつまでもこれを続けてどうなるんだろう?っていう疑問というか不安ですね。そう思いながらフロアを見渡してみれば、ステージ上のバンドとほぼ同年代のお客さんばかりで僕と同じ歳の若者はほぼいない。そうか、カッコいいと思えるカッコ良さって移ろうものだし、世代によって価値基準が違うものなんだなって思ったんです。だから今、TikTokとかYouTubeとかをメインに活動して若いファンをターゲットにしている人たちも、その流れからは逃れられないと思うんですよね。でも、そうであるからこそ若者文化だと言えるのだと一方では思います。要するに、一瞬の爆発力というか、今で言うところの「バズる」という状態や現象を宿命的に孕んでいるカルチャーが若者文化ですよね。
 
――「バズる」という現象もそうなんですけど、そうした現象を表す言葉が発明されて流布していくことも若者文化の一側面としてありますよね。例えば「アムラー」とか「渋谷系」とか、巷で盛り上がっている現象をキャッチーな言葉で一括りすることによって、それがブームにまでなるという構造はあるのではないかと。
 
871:たしかにそうですね。そう考えると、大手アイドルグループの事務所などは、そうした若者文化の短命なサイクルの中で、新しいグループをつくることによって下の世代のファンを開拓しながら継承していくという、すごいシステムだなと思います。ただ、その事務所にしても、果たしてこのまま永遠かと言われたら、今まさに重要な過渡期なのかもしれないなという気がしています。それはさっき言った、TikTokやYouTubeというものが若者の主要メディアとなっているので。
 
――逆に言えば、システムとして若者文化を構築している事務所も、各グループを個別で見ていったら、やっぱりそのファンの多くはグループと一緒に年齢を重ねていくことは避けられないということですよね。だから、若者文化というのは儚いが故に輝くのだという。
 
871:そこで大きく作用するのは、初期衝動なんでしょうね。僕らの世代で言ったら、Hi-STANDARDを見て「うわ、カッコいい!」って思った感覚って忘れ難いじゃないですか。そこからメロコアに一気にハマっていくわけですけど、初期衝動って永遠じゃないんですよね。どこかで薄れてしまう。だから、冒頭の話に戻ると、ずっと自分たちの音楽を信じてやり続けているバンドはすごいなと思うし、カッコいいなと思う。でも反面で、そのカッコよさは今の最先端に位置するものではないという事実はあるわけです。そしてまた、初期衝動というのは年齢を重ねるとなかなか経験しにくくなっていくものなのではないでしょうか。例えば40歳を越えて若い頃のような初期衝動を得ようと思ったら、海外に生活の拠点を移すとか、相当思い切った環境の変化でもあれば可能かもしれませんけどね。
 
――初期衝動、原体験をあたかもすべてのように思い込んでしまうのもどうかと思いますよね。元暴走族の人が40歳になっても改造した古いバイクで街中を爆走していたら……。
 
871:ははは(笑)。そのマインドのカッコよさはありますけどねっていう部分を堂々巡りしてしまうんですけど、でも言わんとしていることはすごくわかるし、かなり本質的な部分に近づいていると思います。ここで僕の仕事柄、非常に言いにくいことをあえて言いますけど(笑)。
 
――アクセルをふかしますか(笑)。
 
871:コロナ禍によってライブハウスが苦境に立たされましたよね。その時に、多くの音楽ファンや普段はあまりライブハウスに行かないようなライトな層も巻き込んで注目されました。そのこと自体はとても良いことですし、ライブハウスが多くのミュージシャンやバンドを育てる場所として、またファンと身近に接する場所として重要な文化的インフラになっているというのは揺るがない事実だと思います。一方で、ロックバンドはライブハウスからその歩みを始めなければならないとか、ライブハウスのステージを経験してこそなんぼ、みたいな固執した価値観には違和感を抱くんです。それこそTikTokやYouTubeで曲を発表して、それが多くの人の目に留まりデビューするきっかけになったというアーティストはめちゃくちゃ増えてきていますよね。だから、ライブハウスがすべてではない、というのもまた事実です。その人にあった活動のスタイルが優先されるべきで、ライブハウスがいいと思ったらそうすればいいし、そうじゃなくてYouTubeこそが主戦場なんだっていう人もいるでしょう。何が言いたいかというと、自分の初期衝動、原体験はあくまで個人のものであって、カルチャー全体のベーシックにはなり得ないのではないかなと思います。モッシュ&ダイヴっていうものも、僕自身はそういうムーブメントの真っ只中でライブハウス通いをした人間なので大好きなんですけど、でもそれはそうしなければいけないものでは決してない。ジュリアナ東京でワンレン&ボディコンのお姉さんがお立ち台に上ってふわふわした羽のついたセンスをひらひらしながらユーロビートで踊る、なんてことはもう今ではないわけじゃないですか。ディスコやクラブでセンスひらひらをしなければいけないことなんて絶対にない(笑)。だからもし30年後のキッズが過去の映像としてモッシュ&ダイヴの光景を見て、「何それ、ダッサ~」みたいなことが起こっても全然おかしくないというか。
 
――マーケティングの世界では、世代をかなり細かく分類して、どの層にどういうアプローチをしたらいいのかという手法がずいぶん前から一般化していますが、正直僕は、そんなのにどれほどの意味があるんだろう?と懐疑的に思っていたんです。というのも、世代が違っても「カッコいい」とか「いいね」と思う感覚ってそれほどブレていないのでは?と感じていたから。でも、「若者文化の賞味期限」を考えてみて、やはりある程度世代による感覚の違いというのは意識してしかるべきものなんだなというのが今更ながらわかりました。
 
871:普遍的なものっていうのはもちろんあるんですよ。ものすごくベーシックなことで言ったら、「近しい人が死んだら悲しい」とか、もっと単純に「美味しい」とか「痛い」とか。だから究極のヒットっていうのは、いかに普遍的なものに近づくか、だと思うんですよね。今、別件でちょうどMONGOL800の2枚目のアルバム『MESSAGE』(2001年)について、あれこれ分析してみるということをやっているんですけど、あの作品は280万枚売れたもので、実は今でも若いリスナーを獲得している稀な作品なんですよね。世代を越えているという意味でもそうですし、メロディックパンクとしての文脈でも歌謡曲としての文脈でも語れるという点でジャンルも大きく越えている、まさに普遍性を獲得しているんですよね。
 
――そこまで行くと、賞味期限がなくなって受け継がれて行くんですね。でも、なかなかそういうヒットというのは出にくくなっているんじゃないですか? やはり今は「共通の話題」って持ちにくい世の中ですよね。インターネットとともに個人の趣向がよりばらついているし、選択肢自体が無数にありますから。だって大昔は「巨人・大鵬・卵焼き」で良かったんですもんね(笑)。今そんなふうに、国民の好きなもの3つって括れないですよね。
 
871:ただ、たしかに趣向の細分化はあるんですけど、ある趣向を持った人同士がつながりやすいという側面はあるんですよね。以前この連載で「スマホは世界につながっていない」(第6回)というテーマを扱ったんですけど、要するに自分と同じ趣向、考え方が似ている人たちとのつながりが強固になっていくので、自ずとものすごく狭い世界の中だけを全世界だと認識してしまう、と。だから俯瞰で見たら共通の話題は存在しないんですけど、でも個人個人はその限られた世界の中での共通の話題しか持っていないという状態になっているのではないでしょうか。

Text by 谷岡正浩



(2021年10月22日更新)


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Profile

871 - 柳井貢(やないみつぎ)

1981年生まれ 大阪・堺市出身。
HIP LAND MUSIC CORPORATIONの執行役員及びMASH A&Rの副社長として、bonobos(蔡忠浩ソロ含む)、DENIMS、THE ORAL CIGARETTES、LAMP IN TERREN、Saucy Dog、ユレニワなどのマネジメントを主に担当。

これまで「Love sofa」、「下北沢 SOUND CRUISING」など数多くのイベント制作に携わる傍、音楽を起点に市民の移住定住促進を図るプロジェクト「MUSICIAN IN RESIDENCE 豊岡」への参加や、リアルタイムでのライブ配信の枠組み「#オンラインライブハウス_仮」の立ち上げに加え、貴重な演奏と楽曲をアーカイブし未来に贈るチャンネル&レーベル「LIFE OF MUSIC」としての取り組みなども行っている。

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連載「No Border的思考のススメ
~ミュージシャンマネジメント871の場合~」