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柳井"871"貢インタビュー
【第11回】フェスについて考える(後編)

柳井“871”貢(やないみつぎ)。株式会社ヒップランドミュージックコーポレーションの執行役員及びMASH A&Rの副社長として、「THE ORAL CIGARETTES」など全6組のマネジメントを担当する傍ら、近年は独自に「#871ンスタライブ」「#871さんに質問」など、SNS/noteを中心に主に音楽業界を志望する若者に向けて継続的に発信を続けている。

そんな彼が、自身の仕事やひいては生きる上でのキーワードに掲げる”No Border”とは?境界にこだわらず働き、壁を作らず人と関わり、越境して生きていく、そんな871流「NoBorder的思考」を紐解いていく。

871:最近ちょっと思っているのは、ウィズコロナでフェスをやっていくならもっとレジャーであっていいと僕は思うんですよね。一番重要なのは、いかに音楽を中心として人と人とが交流する場を作るかということですから。
 
――フェスを永続的なものにしていこうと思ったら、理念が必要になってくるじゃないですか。例えばそれは、地域の活性化でもいいし、ある特定の音楽ジャンルに寄せた考え方でもいいし、環境についてのアプローチでもいい。ただ、871さんがおっしゃるのは、あまりにも理念が先に立ちすぎると、フェスが本来持つ楽しさからかけ離れていくのではないか?ということですよね。
 
871:結局人々が「このフェスに行きたい!」って思うのは、ラインナップだったり、会場の雰囲気だったり、もしくは全体のアートワークだったり、すごくシンプルで感覚的なところだと思うんです。理念やテーマはもちろん大事ですけど、少し先にあるものだと思うんですよね。まずはどれだけこのフェスが楽しいかをアピールできるか、そうして集まった人たちに理念やテーマを理解してもらう。ゆくゆくは、その理念に賛同した人たちの輪が広がって毎年ラインナップを発表する前にチケットが売り切れになってしまう、というプロセスが理想だと思うんですよね。フジロックなんかは紆余曲折を経ながら、まさにそうした領域にまで踏み込んでいるフェスなのではないでしょうか。
 
――今お話を伺っていて、まずは理念で語りたがるのはメディアなのかもしれないなと思いました。やっぱりフェス特集などで各フェスを紹介するときなんかにそれぞれの特色を伝えるために最もわかりやすいのは理念に触れることですからね。
 
871:音楽のジャンル分けに近い感覚ですよね。都市型フェスとか郊外型フェスとか。でも、アクセスの便利な都市型フェスだから行こう!とか、行き帰りの楽しさを含めてフェスだから郊外型に行こう!っていうだけでそのフェスにいく動機にはなりづらいですよね?  やっぱりそれは観たいアーティストがこれだけ出ているから行こうって思う方が大きい。で、特にドメスティックなフェスの場合は、アーティストの取り合いというか、どうしても人気のある人たちに多く声がかかりますから、なかなかラインナップだけではフェスの独自色を示せなくなってきたと思うんですよね。特にここ10年くらいのフェスが隆盛なシーンを見ていると。そこで、理念やテーマで他のフェスとの差異を作り出す必要がある、という部分も少なからずあるのかなと思いますけどね。
 
――たしかに。フェスの飽和状態というのはよく聞きますもんね。他にフェスに関して気になること、突っ込みたいことなどはありますか?
 
871:この流れどんどん危ない話の方向に行くように仕向けられている気がしてますけど(笑)。
 
――そんなことないです(笑)。
 
871:最近思うのは、公平さの中身というか、公平さっていうのはどういうことなのだろう?っていうのはよく考えますね。例えば、わかりやすい例で言えば、飛行機には大きく分けて3種類の座席区分があるじゃないですか。
 
――ファーストクラス、ビジネスクラス、エコノミーですね。もちろん私はエコノミーしか乗ったことありませんが(笑)。
 
871:誤解を恐れずものすごく大雑把に言うと、ファーストクラスやビジネスクラスがあるおかげでエコノミーの料金設定で飛行機を利用することができるんだなって思うんです。なんか金持ちばっかり優遇しやがって、みたいな感じでどうしても捉えてしまいがちなんですけど、ちょっと違うかな、と(笑)。累進課税の考え方に近いんですけど、公平性をどうやって作り出すかを考えたときに、お金に余裕のある人はそれなりのサービスが受けられる、でもめっちゃ高い料金が必要ですよ、で、そこで浮いたお金で極力リーズナブルな席を作って多くの人たちに利用してもらう、この仕組みってすごく公平なんじゃないかと思うんです。富の再分配がなされているようで。
 
――なるほど。
 
871:そこで、フェスにグイッと話を戻すと(笑)、フェスの料金って大抵一律ですよね。でも飛行機と同じ考え方で、例えば前方の一部エリアだけとか、PA付近に座席エリアを設けるとか、VIP待遇的な特別エリアを設けて、結構なお高い値段設定で販売する。そうすると一般料金はもっと下げられるんじゃないか。学生の人たちであってももっと気軽に来られるものにならないだろうか? というのが、僕が今、ぼんやり考えているフェスの公平さについてです。何年か前からサマーソニックが「プラチナチケット」を導入しましたけど、単に主催者の儲けではなく公平性に根差す取り組みであれば僕は大賛成です。
 
――海外の大物アーティストは自分たちのツアーで積極的にVIPチケットを導入していますよね。
 
871:だから国内のアーティストでも、初日はリハっぽい感じも含めて特別なライブをブルーノート東京とかで超お高い金額設定でやったらいいと思うんですよ。で、ツアーのチケット料金を少しでも安く提供する。公平だと思うんですけどね。
 
――海外アーティストってチャリティやボランティアにすごく積極的ですよね。もしかしたら宗教観が背景にはあるかもしれないんですけど、たくさんお金を稼がせてもらったから還元しますねっていう発想が根本にあるような気がするんです。だからVIP席的なこともそれほど軋轢が起こらないのかなと。でも日本って、わりと稼いだからエライみたいな感じってありません? そこで分断が起きているような。
 
871:例えば「豪邸訪問」的な番組って昔ありましたけど、まさにそういう日本的な考え方の表象かもしれませんね。お金持ちになった象徴である豪邸を見せてもらうって。たしかにおっしゃる通り、特に欧米と日本とでは考え方が根本的に違うんでしょうね。それにしても、「エライ」って言葉は何なんだろうな(笑)。アメリカ人が大統領のことをどう表現するかと言えば、きっと「我々の代表者」、とかの感じだと思うんですよね。でも日本人ってどこか大統領とか総理大臣ってそれだけでエライ人って思っちゃうじゃないですか。
 
――いやいや全然そんなことないねんでって総理大臣が言ってくれたら面白いけど、政治の世界でトップに君臨しているような人たちは、きっと自分たちのことをエライと思ってますよね。
 
871:そしてここが問題かもなんですけど、国民の方も双方に「お上意識」みたいなものが染み付いているような気がする。お金持ちはエライ、校長先生はエライ、とか。
 
――いい感じで踏み込んできましたね(笑)
 
871:おっと(笑)。フェスの話からずいぶん深いところまで来てましたね。でも、「No Border」的にはいい深まり方、広がり方だと思います。
 
――では、次回、また何かを越えて行きましょう(笑)
 
871:よろしくお願いします(笑)。

Text by 谷岡正浩



(2021年10月 1日更新)


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Profile

871 - 柳井貢(やないみつぎ)

1981年生まれ 大阪・堺市出身。
HIP LAND MUSIC CORPORATIONの執行役員及びMASH A&Rの副社長として、bonobos(蔡忠浩ソロ含む)、DENIMS、THE ORAL CIGARETTES、LAMP IN TERREN、Saucy Dog、ユレニワなどのマネジメントを主に担当。

これまで「Love sofa」、「下北沢 SOUND CRUISING」など数多くのイベント制作に携わる傍、音楽を起点に市民の移住定住促進を図るプロジェクト「MUSICIAN IN RESIDENCE 豊岡」への参加や、リアルタイムでのライブ配信の枠組み「#オンラインライブハウス_仮」の立ち上げに加え、貴重な演奏と楽曲をアーカイブし未来に贈るチャンネル&レーベル「LIFE OF MUSIC」としての取り組みなども行っている。

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連載「No Border的思考のススメ
~ミュージシャンマネジメント871の場合~」